陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者   作:C6N2

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独断によって戦闘が開始されたのですぐに次の戦いというわけにもいかんのです。
というわけでどちらかというと内政パート的な回になります。

あとちなみに言っておくとロウリアもこの敗戦から何も学ばないほど馬鹿ではありません。そういうのはパ皇で間に合ってますからね。



第九話  ロデニウス沖大海戦 前哨

成功裏に終わったギムでの戦いだが、当然の如くそこには複数の問題があった。

 

その最たるものは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、誰がどうみても既視感しかない事実であった。

 

 

 

確かに、今回の事態について日米双方の政府内で重視するものは少なく、それ故に議論が遅延し、ようやく両国が武力介入の正式決定をしたのは戦闘が始まる数時間前となってしまった。

 

事態をそれなりに重視していたものであっても、よもやロウリア王国があれほどの大戦力を以て攻めてくるなどと考えているはずもなく、またワイバーンという航空戦力の強力さを軽視していた。

なるほど結果的に、辻中佐の行動がなければギムは陥落し、かなりよろしくないことになっていたのは事実。

 

 

 

だが、()()()であるこれに、アメリカが少々不安を抱くのは致し方のないことだった。

 

アメリカ合衆国はギム攻防戦終了から少しして会見を開き、ハル国務長官は「ギムにおける日本軍の活躍に敬意を表する」と前置きしつつ、「しかし我が国は、今回の日本軍の10年前を彷彿とさせる行動に少しばかりの懸念を抱かざるをえない」と発言する。

 

同じようなことが起こった10年前には、いくら外国にせっつかれても日本政府に軍の暴走を止める力など存在しておらず*1、幣原外交と日本の国際的信用を犠牲にして関東軍は満州を占領するに至った。

 

 

しかし。今は1931年ではないし、ここは地球ではない。流石に今回は、何もしないというわけにはいかなかった。

天命である以上、アメリカとの関係を不用意に悪化させるのは不味い。

 

困ったのは帝国陸軍である。もともと陸軍では、結果が伴えば独断専行は許される──言い換えると、責任を後回しにして勝手な行動をとってもいいという風潮があった。

その最たる例が、今回ハル長官が引き合いに出した満州事変である。つまりアメリカの要望を馬鹿正直に受け止めれば、陸軍の体質を根本から改めろということになりかねない。流石にそんなことを唐突に行うのは不可能だった。

実際のところ、今回の行動では「ギム防衛」という大きな戦果がある。しかも満州のような侵略行動ではなく、明らかな自衛行動。

どうしたものかと、参謀本部で議論が交わされた。

 

そこに、第25軍の山下奉文司令から名案が齎された。

曰く、今回のギム攻防戦において、川口支隊は相当の損害を蒙っている。よって損耗の補充が必要だが、アメリカの発言もあるからおいそれと内地に帰還させるのは難しい。

ならば、左遷という名目でもって満州に再配置し、そこで部隊の補充等を行うというようにすればどうか、と。

 

運がいいことに、昨年の日米不可侵条約の締結交渉においてアメリカ側がある程度の譲歩をしてくれたために、天皇が「覚悟して臨んでほしい」といっていた満州の割譲及び撤兵は避けられていた。

実際のところ満州への再配置は左遷でしかないのだが、いずれ主力に戻ってくるという点で司令官更迭などとは大きな差がある。

陸軍中央はこの案を迅速に実行に移すこととなった。

(なおその際、独断専行を行った辻政信中佐も満州の地へ送られることとなったが、これが山下中将の個人的な思惑かどうかについては定かでない。)

 

こうしてひとまず、ギム攻防戦の後処理は終了した。

 

 

 

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だが当然、後処理だけでは済まされない。既に戦争は始まっているのだ。

 

 

ギム攻防戦の翌日、日米はクワ・トイネとの外交官級での協議を行い、今のところクワ・トイネ軍が把握している情報を入手。その中にはロウリア王国の地理や軍の詳細情報も含まれており、それを基にして航空機を用いた攻撃計画を策定しにかかる。ただ両軍共に現有の航空戦力では難があったため、増派のため日米間での交渉が行われることになる。ロデニウス大陸駐留兵力2:1という約定はいまだ健在であったからだ。

 

さらにもうひとつ、重要な情報があった。

敵の防空網を紙一重で掻い潜った竜騎士からの報告により、ロウリア軍が総勢四千隻もの大艦隊を出港させたことが判明したのだ。

 

()()()である。ガレー船程度の木造帆船とはいえ、あまりにも数が多すぎる。また敵は航空戦力を伴ってくる可能性も高いと考えられた。

 

そこでまず日本軍は叭皇国派遣艦隊へマイハーク方面への回航を命令。またマイハークに駐留していた三駆・十九駆と重巡鳥海にクワ・トイネ公国海軍の観戦武官を載せて派遣艦隊と合同させることにする。

そして敵艦隊が確認されたとされる海域の周辺に重点的に航空哨戒線を張り、これを捕捉せんとしていた。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

「いったいどうしろというんだ・・・」

 

王国防衛騎士団将軍のパタジンは途方に暮れていた。

 

 

今回の戦争において我が方に有利をもたらすのは、その圧倒的物量である。ギムにおいては3万対3000、エジェイにおいては10万対3万と常に数的優位の上で戦う作戦内容となっていた。

 

だが、昨日の戦闘によって事前の作戦計画は粉々に打ち砕かれた。

先遣隊3万の喪失というのは、あまりにも異例の事態である。

幸いだったのは、先遣隊司令部が優秀であったために戦況報告が随時届けられていたことか。「我らこれより敵に最後の突撃を実施せん」を最後に通信を途絶し、だからこそ起こったこと自体はほぼ正確に把握できていた。

 

()()()()()()()()()

 

先遣隊からの魔法通信の内容は、到底信じ難いものだった。

 

『敵魔導士の攻撃熾烈なり。我が軍の損害既に2000を越す』

『黒い杖から連続して強力な魔導を発射してくる。当たった者は良くても大怪我、悪ければ即死』

『敵魔導士の攻撃はワイバーンにも効果あり。また敵は竜騎兵にも杖を持たせて攻撃を行っている。』

 

これだけでも十分信じられない。クワ・トイネがそれほど高い魔導技術を持っているとは思えないからだ。

だが、その後に入ってきた魔信は司令部を震撼させるには十分すぎた。

 

『敵、飛行機械を使役せる模様。我が方奮戦するも敵を落とす手段を持ち得ず。被害甚大なり。

なお敵はムーにあらず、翼に赤丸が描かれている』

 

・・・王国上層部に、赤い丸に心当たりがないものはいなかった。どう考えても、数ヶ月前に接触してきたあの新興国家・・・日本である。

高い技術力があるとは聞いていたが、まさかムーに匹敵する力とは誰も思うまい。思っていたらこんな戦争は始めていなかった・・・

 

「新たな敵といったって、何も分からないんじゃ対策のたてようもない・・・」

 

本当に、いったいどうしろというのだ。敵を攻めようにも、ギムはおそらく防御を固められてしまっている。

賭けるとしたらマイハーク侵攻部隊にクワ・トイネまで一気に攻めあげてもらうぐらいだろうが、ひとつしか策がないのでは潰された時にどうしようもなくなる。

 

しかし陸上での侵攻ルートとなると、ギムを突破する以外の方法はなかった。ギムより北側は川に沿って切り立った崖が続いていて、唯一通ることが出来るロダン川河口も川を渡った先は無人の砂丘地帯となっており補給に難がある。一方南側は未開の山岳地帯となっておりこちらも突破は難しい。

 

「考えられる作戦としては・・・」

 

パタジンは脳を必死に働かせ、策を練る。

先程の作戦の失敗は何によるものか。その原因は取り除くことが可能なのか。ひとつひとつ考えていく。

 

 

何とかして作戦を考えついたその矢先、邸宅に人がやってきた。

 

「御前会議の臨時召集を伝えに参りました」

 

「わかった。すぐに向かう」

 

ちょうどいい時に召集がかかった。この作戦を王に伝えるいい機会だ・・・そう思い、急いで身支度を整え王城に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

ハーク・ロウリア34世は、重苦しい気分に苛まれながら御前会議の席につく。

 

「これより御前会議を開催する。」

 

簡潔に会議の始まりを宣言する。

 

「堅苦しい前口上は不要だ。状況報告を行ってくれ」

 

「はっ・・・

ギム先遣隊が壊滅したため、本隊には作戦の停止を通達してあります。新たな攻勢計画につきましては後ほど説明します。」

 

パタジン将軍が答える。ギム先遣隊の全滅は、あまりにも大きすぎるダメージだ。

 

「海軍卿代理のホエイル海将からは何かあるか」

 

「はっ。現在マイハーク侵攻部隊は、ワイバーン合計150騎による哨戒体制もあって敵に一切の攻撃を許していません。

ですが───敵ワイバーン1騎に運悪く哨戒騎交代の隙を突かれ接近を許しました。よって我が部隊は既に位置を暴露されている可能性が高いです」

 

「そうか・・・。

事前の予想通りならそれでも良かった。クワ・トイネに4000隻の侵攻を止める力はない。

だが状況が変わった。日本とやらの飛行機械がやってくる可能性がある。」

 

「陛下の言う通りだ。

だいたい外務局は何をやっていたのだ?ムー並みの技術を持った国家の存在をしっかり把握しようとせず、クワ・トイネと国交を結んでいるからと言って未知の国家を門前払いし、その結果がギムの大敗だ。

そもそもこの戦争自体、日本の存在を正しく理解していれば始めようとは思わなかった筈。こうなった責任は外務局の怠慢にあるのではないか?」

 

アクロー宰相が言葉厳しくクラーフ外務卿の責任を追及する。外務卿のほうを見ると・・・怒りで真っ赤になっていた。

 

「よくもそこまで堂々と言えたものだな。

確かに、我々が日本の外交官を門前払いし、それによって日本の情報が不足してしまったのは事実・・・。

だが、少し考えればわかるはずだ。既に長い戦争準備による国民の負担も相まって亜人討つべしの風潮が高まっていたあの頃に、クワ・トイネと国交を結び、クワ・トイネからやってきたような国と国交を結ぶことは、まったくもって困難がすぎる。

だいいち彼らは、クワ・トイネの馬車に乗ってやってきたのだ。少なくともあの時は、日本があのような技術を有する国家だと判断できる要素は非常に少なかった。

 

ここで私が問いたいのは諜報部の責任だ。日本の軍がクワ・トイネに駐留していることぐらい、いくら我が国の諜報網が貧弱だとはいえ把握出来たはずだ。なぜ兆候すらも把握できていないのだ?」

 

顔面が紅潮するほどの怒り具合にしては、なかなか冷静だ。だが普段温厚な彼が上官へ敬語を使わないというのは、余程怒っているということなのであろう。

 

「わが諜報部のクワ・トイネでの活動は、去年の12月頃から徐々に制約され始めていたのです。今となっては日本の介入が原因と考えられますが、当時は我が国の軍備の強化に危機感を抱いたクワ・トイネがやっと行動を起こした程度の認識で、現場でもさして問題とはされていなかったようです・・・」

 

「商人から情報を得ることすらもできなかったというのかね?そこまで我が諜報部は貧弱ではなかったと思うが」

 

アクロー宰相から追い打ちがかかる。さすがに諜報部長が可哀想になってくるが・・・

 

「・・・商人の伝聞というのは得てして誇大表現になりがちです。ですからその、与太話と思われるものは各自の判断で切り捨てたものかと・・・」

 

「ただでさえ入ってくる情報が少ないというのにそれをあえて少なくしてどうする!君たちはいったいどこまで無能なんだ!?」

 

 

「いい加減にせい貴様ら!!!!」

 

 

思わず一喝する。それによってそれまでまくし立てていたものたちはハッとなって押し黙り、会場は一瞬、静寂に包まれた。

 

「だいたい勝てるかどうかすら怪しい状況で責任の押しつけあいなどするでない!

過去のことより未来のことだ!今回の御前会議は状況報告と今後の戦争計画の検討が主であって、責任追及をする目的など一切ないのだぞ!」

 

「はっ!

・・・・・・申し訳ございませんでした!」

 

「分かったならばよい。そしてパタジン将軍、先程新たな攻勢計画があると言っていたが、その説明を頼めるか?」

 

「承知致しました、説明致します。

まず我が国が陸のみでクワ・トイネへ攻勢を仕掛ける場合、そのルートはギム経由に限定されます。そのためギムへどのようにして攻撃を仕掛けるかが重要になりますが、先の作戦では物量において圧倒的に優位だったがために兵に要らぬ負担をかけないよう正面から突破を試みたわけであります。

しかし我が軍の優位が揺らいでいる今、多少兵たちに負担を強いようとも、小細工が必要になります。

まずギムの正面へと部隊を張り付け、敵の注意を引き付けます。その間に、もう1つ部隊を動かし、敵に気づかれないよう山岳へ配置します。

そして正面の部隊がギムへ侵攻します。当然ここで突破しても構いませんがおそらく日本の兵もいることから難しいでしょう。

正面部隊は形勢が不利になり次第後退を開始します。前回のように行軍が遅れ包囲されるということはないようにしなければなりません。

敵が追撃を開始した時を好機と見て、山岳の部隊で側面を衝くのです。敵は混乱し戦力が低下するでしょうから、そこを一気に叩いて潰します。あとはギムに侵入するだけです」

 

「なるほど、奇襲戦法か。確かに日本がいる以上それが得策かもしれんな。

よし、ミミネル将軍の部隊に作戦を担当させ───」

 

その時、慌ただしく会議室のドアが開けられた。

 

「会議中誠に失礼します!!シャークン提督より魔信が入りました!」

 

「なっ!」

 

嫌な汗が流れるのを感じた。

 

『敵飛行機械と遭遇せり!連射攻撃を行ってくる。我が方竜騎兵と対空バリスタで応戦するも効果低し』

 

事態は風雲急を告げるようだ────

 

 

 

 

*1
本来的には、大元帥たる天皇の許可なしに越境行動するのは軍法会議にかけられ死刑にされても文句の言えないことだったのだが、国民の支持を得てしまった上に天皇の政治不干渉方針により特に問題とされなかった。




少々短いですが、これ以上書くと戦闘に入るので今回はここまで。


次回:『ロデニウス海演習作戦』


──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。




※2021/6/23 小規模改稿実施
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