陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者   作:C6N2

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ふと思いついたので自作フォント機能を使ってみる
なおほんとに思いつきなので今のところまともに活用できる場面は思いついてない()

そういえばすんごい今更ですが読み上げ機能が解禁されてますね。この作品あんまり感情的な表現が少ないので案外すらすら聞けるかも?
長話をついつい読み飛ばしてしまう方はぜひご利用ください。


第一一話 ジン・ハーク空襲

中央歴1639年4月15日。

クワ・トイネ公国アメリカ大使館で、とある作戦の説明が行われていた。

 

 

「───墜落(Crash)作戦、ですか」

 

「ええ。ロウリア王国の戦意を墜落させる、という意味合いです」

 

外務卿リンスイと航空軍務局副長ハンキは、机に置かれた紙を手に取る。

 

「なかなか翻訳するのが大変でしたよ。そちらではまだ存在しなかった概念などは無理矢理訳していますので注釈はよく読んでいただきたいです」

 

「たしかにそうですね、我々にとっては、どれも新しい概念ばかりです」

 

そう言いながら、作戦の概要に目を通す。

 

「ジン・ハーク及びその他の都市に対する航空戦力を用いた攻撃・・・ですか。」

 

「実際のところ、この作戦はまだ立案段階なのです。もう少し読み進めばその理由がわかると思います」

 

言われるがまま読んでいくと、作戦目的、攻撃目標、作戦詳細、という節の下に"about using some wyvern*1 of qua toine"という節が目に留まる。

 

「・・・・・・ふむ、ワイバーンですか」

 

仰る通り(Exactly)。だからこそハンキ殿を呼ばせて頂いたのです。この作戦を実行するために貴国の航空戦力を使用することに問題は無いか、ということですね」

 

改めて本文に目を通していくと・・・

 

「市街地の破壊ですか・・・」

 

隣でリンスイが複雑な表情をしている。その気持ちは自分にも理解出来た。

 

すでに公国政府内では、日米が味方する限り我が方の勝利は確定的という意見が多数を占めていた。

当然である。モイジ3将*2やブルーアイ2佐*3からの情報によって、日本軍の活躍は驚愕とともに上層部へ伝わったのだ。アメリカに関していえば未だ実力行使は行っていないが、その兵器や兵士が日本軍と同じレベルにあるというのはすでにこれまでの基地見学などで明らかになっている。この力ある限り、勝つことこそあれ負けることは無いという考えになるのは至極普通であった。

 

だからこそ、2人は戦後の軋轢を気にしたのだ。市街地を焼き払う、なんてことをしてしまうと、ロウリア王国全体としての我々に対する敵対感情はそれこそ大変なことになるだろう。

はっきりいって日米に対して恐ろしいまでの輸入超過である現状、唯一あてにできるのがロウリア王国への食糧輸出だった。今でこそロウリアとの貿易は途絶しているが、開戦以前には国家単位ではともかくとしても商人単位での交易は行われていた。

それをこの戦争に勝利した暁には国家規模に拡大し、日米に頼らずに経済力をつけねばならない。クワ・トイネ政府はそう考えていたのだ。

攻撃目標の項に"The city of Jin Haak, the capital of the Kingdom of Lauria, and its accompanied military facilities"*4と書かれていたのを見て、2人が渋面を作るのも無理のないことだった。

 

「こんな作戦を実行して、戦後処理に影響を及ぼさないのでしょうか?」

 

ハンキはアメリカの外交官に問うた。

 

 

「早まらないでください。作戦詳細の項を読めばその疑問は解決するはずです」

 

「それは申し訳ない」

 

言われた通りに作戦詳細の項を読み進めていくと・・・2人の顔にはだんだんと驚愕の表情が浮かんできた。

 

「高度5000mから侵入!?そんなことが可能なんですか?・・・いや、可能なんでしょうが、やはり貴国の技術には驚かされてばかりです」

 

軍事技術に疎いリンスイは高度5000ということに驚いているようだが、ハンキが感じていた驚愕はそれに対するものではない。

 

「ビラを散布しつつ爆撃・・・敵が迎え撃つことができないからこそ出来る策ですが、いやはや・・・」

 

書かれていた作戦計画はこのようなものだ。まずアメリカ軍の爆撃機がジン・ハーク上空へ侵入し、多少の爆弾とともに一日後に行われる大空襲を予告するビラを散布。これで敵が降伏してくればそれでよし。なおも降伏しない場合は、一日後、予告通りアメリカ軍の戦闘機と爆撃機多数が低空から侵入し迎撃に上がってきた敵ワイバーンを排除、ワイバーンが上がってこなかった場合は爆撃と機銃射撃で飛行場や竜舎を破壊する。そのうえで余った爆弾(搭載量が5000kg超という記述を見て何度も自分の目を疑った)で市街地を爆撃、仕上げにクワ・トイネの竜騎兵がやってきて火を放つ。ものの見事な三段攻撃である。

ビラで一応は虐殺ではないという体裁を保ち、我が国のワイバーンを参加させることでもはや謎の飛行機械だけでなく普通の飛竜にすら攻撃され得るということを知らしめ、厭戦気分を蔓延させる。

これほどの作戦を立て、そしておそらくはそれを実行し得るアメリカ軍に、ハンキは驚愕したのだ。

 

「なるほど。ビラを撒けば、避難しなかった方が悪いと言うことができる、という算段ですか・・・」

 

リンスイは、続く言葉を口に出しかけて飲み込んだ。「つくづく、貴国が味方で良かったものです」・・・なにもかの国がずっと味方である保証はないのだ。

 

「私としては異存はありません。急いで軍務局にかけあって、可及的速やかに承認を得たいと思います」

 

「ありがたいかぎりです。」

 

 

 

この計画はハンキによって速やかに軍務局へと送られ、その日のうちに決定がなされた。

 

三日後、4月18日。

10機のB-17Eが、うち6機は100ポンド(50kg)爆弾を、残りの4機は避難勧告ビラを満載し、ジン・ハークへ向けて旅立った。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

竜騎士ムーラは、王都郊外の上空を、不安な心持ちで東へ向けて飛んでいた。

 

 

ちょうど10分ほど前に、王都東側を哨戒していた竜騎兵から魔信で連絡が入った。巨大な鉄龍10騎が、高度5000m付近を王都へ向けて飛行中だという。

 

王都防衛竜騎士団の司令部はいよいよ来たかというような、覚悟を決めた雰囲気に包まれた。

 

ロデニウス沖大海戦、その第1段階としての4月13日の航空戦で、何とか敵一機を撃墜できたものの、その際に多くの敵機に高空へ逃げられ、あるいは上昇限界付近での不利な戦いを強いられたのだ。

 

この報告と、例の爆弾投下型飛行機械が王都ジン・ハークへと向かってくる可能性を考え、司令部では迎撃計画が練られた。

すなわち、ワイバーンの上昇限界よりも高い高度からやってくる敵飛竜の爆弾攻撃を防ぐため、パーパルディア皇国から輸入した「十字弓」なる、持ち運べるサイズの簡便な(いしゆみ)を竜騎士に持たせ、対空バリスタの矢を改造したものを放たせるのだ。

 

そのため防衛竜騎士団は交代で弓術の訓練に励み、そのときに備えた。また、その間各地で飛龍による散発的な攻撃があったものの、ピーズルへの攻撃すら散発的であったことからやはり敵の本命は王都だと判断。東方征伐軍などから残存騎の引き抜きを行った。

 

その結果、もともとは東方征伐軍所属のムーラが敵の迎撃を行う羽目になったのだ。

 

「はたして、うまくいくのだろうか・・・」

 

そう思いながら地平線の彼方へ目を凝らす。

この矢の射程は、対空バリスタが元になっているとはいえ簡便化したものだから上方射程は1500mしかない。まあ、風魔法も何もないただの矢とは比べ物にならない性能ではあるが、我が方より1000m以上上を飛んでくる敵騎に命中させるのは至難の業だ。

 

『我会敵せり。弓撃隊よりの距離約40km、方位は東北東。敵騎はジン・ハーク方面に直進中』

 

「『了解。迎撃準備に入る』」

 

彼含め10騎の弓撃隊は、全員が日本軍との航空戦闘を経験している。今回の敵は日本軍とは違うマークだったとの報告が入っているが、どのみち鉄竜なのだから日本軍と大差ない。

そして、即応できるものだけが急いで出撃してきたため、隊の中で最も階級が上なのはムーラだ。予想される侵攻ルートを思い浮かべ、部隊全体に指示を出す。

 

ちょうど部隊の展開が終わったころ、東の空にはっきりと敵の影が現れた。

 

「相棒、ちょっと火を貸してくれないか」

 

ワイバーンの火炎放射に矢をかざし、火矢にする。これは事前の作戦会議で提案されたものだ。ほかの竜騎士もそれに倣う。

そしてあっという間に敵影は接近し・・・

 

「『総員用意・・・・・・撃てぇ!!』」

 

号令一下、10本の矢が上空の敵へ向けて放たれる。

 

風魔法の力で、その矢はぐんぐん敵騎へと向かっていき、ほとんど奇跡的ではあるが2発が命中した。

 

 

命中は、したのだ。

 

「・・・撃墜どころか、傷一つすらつけられていないのではないか・・・?」

 

2発とも悉く弾き返されてしまった。

 

とにかく、早く第2撃を撃たなければならない。急がないとあっという間に逃げられる。

 

そう思った矢先、一筋の光条が彼の方へ向かっていき、短い悲鳴が聞こえた。

 

 

 

驚いて見てみると、相棒の翼から血が出ている。どうやら敵は下方にも連射攻撃が可能なようだ。ただ彼の他にやられた騎がないことからするとまぐれ当たりだろう。

この状態では、今の高度3800mを保つのは非常に困難だ。一旦戦線を離脱するより他ない。

何しろ彼のワイバーンは、王国内で───いやおそらくは世界でも唯一といえる、()()()()()()()()()()()()()()なのだ。いまここでその貴重な生命を失うわけにはいかない。

 

───だが、どうにも嫌な予感がする。王国の危機を、何も出来ないまま見過ごすことになりはしないだろうか───

 

歯噛みしたくなる思いで、ムーラは戦線を離脱した。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

パーパルディア皇国国家戦略局、ロデニウス大陸派遣武官のヴァルハルは、頭上を飛ぶ怪鳥の存在を未だに認め難く思っていた。

 

(なんだあの化け物は・・・ロウリア王国が戦っていた相手は貧弱な亜人国家ではなかったのか?)

 

一目見ただけで、それが非常に高い高度を飛んでいることは理解できる。ワイバーンが迎撃できていないことからして、万が一4000mを超えているとなったら皇国にとっても十分恐ろしい。

しかもそのうえで、今地上からそのシルエットの形をはっきり視認できる。つまり恐ろしいほど巨大ということだ。羽ばたいていないということはムーの飛行機械、あるいはミシリアルの天の浮舟と同種のものだろう。

 

幸いなことに低空へと降下してくる様子はない。偵察用なようだが、あんな怪物を空に飛ばす時点で並大抵の国ではできない。

 

 

思考を巡らせるも、それはすぐに中断された。

 

「・・・なんだ・・・?」

 

怪鳥から、バラバラとなにか黒い粒のようなものが落とされたのだ。

それらはやがて、風切り音とともにヴァルハルのもとへ接近する。

 

(まずい。あれは・・・ただものじゃないぞ!)

 

本能がうるさいまでに警鐘を鳴らし、弾かれるようにしてヴァルハルは走り出した。

しかし、その足も直ぐに硬直することとなる。

 

 

 

100mほど()で、建物が爆ぜたのだ。

 

 

 

鳥肌が立った。

直後、立て続けにその周囲でも爆発が起こった。

 

(危うく、自ら死にに行くところだった・・・)

 

わざわざクワ・トイネに攻め込む船団への同乗を拒否してまで留まった安全なはずの首都で、まさか死に直面することになるなどとは、露ほども思っていなかったのだ。

ヴァルハルは、暫しのあいだそこで呆然と立ち竦んでいた。

 

 

すると、今度は大量の紙が、ひらりひらりと地面へ落ちてくる。

 

「・・・これは・・・!」

 

そこに書かれていたのは、

 

『避難せよ』

『明日の昼、この街に猛攻撃を行う』

 

そして、炎上するロウリア市街のイラスト。

 

───これではまるで・・・古の魔法帝国ではないか・・・!

 

「急いで避難しなければ!」

 

ヴァルハルは、弾かれたように動き出し、この街から出るための準備を始めた。

 

 

──────────────────────

 

「いったいこの状況を、どうするというのだ?」

 

「・・・はっ、被害箇所は100を超えていますが、どの場所でも火災自体は小規模です。現在手空きの王都駐留魔導士を総動員して消火に当たらせており───」

 

「そんなことを訊いているのでは無い!!!」

 

この場にいる全員が、鬱然と押し黙ることしかできなかった。

 

「・・・悪かった。黙られても困る、最優先すべきは明日に予想される空襲への対応だ。意見を求めたい」

 

すかさずパタジン将軍が発言する。

 

「率直に申し上げますと、我々にはすでに敵機の跳梁を止める手段が存在しません。プライドを捨ててでも、おとなしく避難命令を出すべきではないかと」

 

「しかし、避難といってもいったいどこに避難するというのだ。周囲の農村か?

そんなことをしても到底受け入れきれるとは思えない。治安が悪化するだけだろう」

 

「だからといって市民を見殺しにする訳にもいかないでしょう。最善を尽くさなくてはなりません」

 

「その"最善"を尽くすために軍がいるのでは無いのか!」

 

「すでに最善は尽くした!パーパルディアから輸入した十字弓を以てしても破壊できないとなれば、我々にできることはなにもない!」

 

アクロー宰相とパタジン将軍、両名が激論を交わす。

 

すでにギム及びロデニウス海における敵の航空攻撃の脅威は王国上層部においても認知されており、しかも王国各地で散発的に航空攻撃を受けたという報告も上がってきている。だからこそ、このままでは何も出来ずにジン・ハークは大打撃を被る───そのことが理解できてしまった。

 

いや、すでにあんな怪鳥が上空に侵入し、しかも爆弾を落としてきた以上、理解出来たものが上層部のみである筈がない。

ご丁寧にビラには燃えるジン・ハーク市のイラストが描かれており、すでに市民はパニック状態に陥っており独自に避難を始めている者も多数いる。

 

しかし、事前計画も何もなしに避難しろと言っても、そこには無視することの出来ない問題が多数存在した。

まずどこに避難するのか。そして優に70万を越すジン・ハーク市民を養うだけの食料は準備できるのか。避難先が無法状態へ突入する危険は・・・考えれば考えるだけ、不可能にしか思えてこない。

 

「───いっそ降伏するしか・・・」

 

外務卿クラーフはそう思った。

 

思っただけのはずが、口に出してしまっていた。

 

気付いたためその先は口には出せなかったが、もう遅い。

先程まで激論を交わしていた2人の目線は明確にこちらを向き、まさに怒髪天を衝くといった顔をしている。

 

罵詈雑言を浴びせかけられることを覚悟し───

 

 

 

「────やはり、そうするよりあるまい」

 

「陛下!?」

 

両者の覚悟と怒りは、どちらも驚愕に取って代わった。

 

*1
ワイバーン(大陸共通語)

*2
3等将軍の意。日本軍でいえば少将に相当

*3
2級補佐官の意

*4
ロウリア王国の首都ジン・ハークの市街とそれに付随する軍事施設




大空襲させてもいいかと思ったけど流石にここでそれをやったらゲルニカの再来って言われかねないし、よく考えて首都の上空に敵のどでかい飛行機がやってきて爆弾落としてきて、しかもそれを止める手段がないってなったらその時点で降伏を選択するだろうなあ、と。



次回:第一章最終話
『事変終結』




──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。
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