陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者 作:C6N2
クワ・トイネ公国第6飛竜隊所属の竜騎士マールパティマは、いつもどおり公国北東方面の哨戒任務に就いていた。
彼が乗っているのは一種のドラゴン───ワイバーンであった。
最高速度235km/h、上昇限界高度4000m。導力火炎弾を発射して地上の敵を焼き尽くす、ロデニウス大陸最強の生物である。
ちなみに北東方面に国はない。なぜわざわざ哨戒しているのかというと、昨今のロウリア王国の不穏な動向のためである。
ロウリア王国はかねてより掲げていた亜人殲滅に向けて、大幅な軍拡を行っていた。いつどこに侵攻してくるかもわからないので、こうして多方面で哨戒を行っていたのだ。
「今日も特段何もないな。」
マールパティマが代り映えのしない景色を見て呟いた、その直後。
前方の空に、芥子粒のような何かを見つけた。
こんなところからロウリアのワイバーンが飛んでくるとは思えない。第三文明圏にはワイバーンを船に乗せ飛ばすことができる飛竜母艦なるものがあるらしいが、そんなものをロウリアが所有しているという情報はなかった。
「まさかパーパルディアか!?」
彼は戦慄した。第三文明圏で周囲の国を武力で併合し恐怖政治を行い、そのプライドはエージェイ山よりも高いといわれるパーパルディア公国。竜母を持っているかの国が侵攻してきたのだとしたら・・・
しかし、現実はその想像の斜め上を行っていた。
「な・・・な・・・なんだあれは!!!」
ワイバーンではない。羽ばたいていないのだ。羽ばたかない飛行物体というものは第三文明圏には存在しなかった。
すぐさま通信用魔法具を使って司令部に連絡する。
「我、未確認騎を発見。敵騎はワイバーンに非ず。これより
敵は高度3500メートル付近を飛行しており、高度差はあまりない。一度すれ違ってから追跡しようと考えた。
「なんだこれは・・鉄でできているのか!?」
見ると、鋼鉄でできているようにも見えるが・・・どうやったら鉄が宙に浮くのだろうか。
数秒の後敵騎とすれちがったが、
「速い!!」
ワイバーンを見つけたために速度をあげた敵騎に対し、反転しても追いつける気配がしなかったのである。
「!!どんどん引き離されているぞ!」
しかも敵騎は我が国有数の経済都市マイハーク方向へ進行している。慌てて魔導通信で司令部に連絡した。そのさい、すれ違ったときに一瞬だけ見えた驚愕の光景もいっしょに伝えた。
「緊急!我、敵機を確認するも、彼我の速度差が大きく追跡不可能!引き離されている!また敵は内部に人間を搭載、ムーの飛行機械の可能性あり!
敵機はマイハーク方面へ進行した。繰り返す、敵機はマイハーク方面へ進行した!!!」
内部に人間がいて、鋼鉄製。彼はいつしか聞いたムーの飛行機械のことを思い出したのだ。思い至った可能性をそのまま司令部へ伝えた。
報告を受けた司令部は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。
ムーの飛行機械と言うが、領空侵犯してくるのは問題でしかない。第6飛竜隊のワイバーン12騎全機を出撃させ、警告を行うこととした。
「まさかドラゴンに遭遇するとは・・・」
長宮は心底驚いていた。水平線が遠くなったように見えた時から怪しいと思っていたが、どう考えてもここは地球ではない。
もちろん接敵の直後に司令部にそのことは通信済みである。
この報告を受けた司令部は混乱したが、それが収まるとこれは領空侵犯ではないかという意見が出てきた。
地球ではないが、国家が存在する可能性は充分にある。
司令部はその旨を長宮機へ送信したが、少しだけ遅かった。
「下方より飛竜12
「フルスロットルだ。高度を5000まで上げろ」
機銃手兼航法員の西田二飛曹がいち早く気づいた。こちらの接近に気づいた──にしては早すぎる気がするが──飛竜が迎撃に上がってきたのである。
エンジンが唸りを上げ、機体が上昇する。眼下には中世的ながらも都市のようなものがあることからして、国家が存在している可能性が高い・・・しかも飛竜がいるということは、たとえ中世レベルの国家であっても領空の概念が存在する可能性がある。
そう考えるとこの12騎の飛竜は、先程遭遇した飛竜の報告を受けて出動したのかもしれない。接近が確認されてから出撃したにしては、妙に高度が高かった。となるとこの国は、あの竜に搭載できるだけの通信機を持っているということだろうか?
「飛竜は高度4000付近で停滞中、敵の上昇限界を超えた模様」
「了解した。前方の敵都市を偵察するぞ」
思考を打ち切って二飛曹の報告に応える。兎にも角にも、与えられた任務は果たさなければならない。そのうちわかってくることもあるだろう。
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政府では、満州からの報告───非常に宜しくないことに、ソ連だけでなく満州国を除いた支那全域も消滅しているらしかった───と台南航空隊からの「我飛竜見ユ」との情報から、まことに信じ難くはあったものの、日本が地球ではない別の惑星に移ったとの判断が下された。
一縷の希望を見出すべく、各国大使館などに対して通信を試みた。
ほとんどは案の定なしの礫だったが、ある国の大使館からだけ返信があった。
駐米大使館である。
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日本政府では、報告を受けてから数時間後に緊急御前会議が開かれた。
この速さは日本政府としてはかなり異例のものである。それだけこの事態が異常なものであるということだ。
天皇が開会を宣言し、会議が始まった。
「・・・このように、この世界には国家も存在し、また飛竜という未知なる生物も存在していることから、現行の戦時体制を容易に解くべきではない考える。」
既に自国が地球では無いところにいることは上層部の間で共有されていた。
海軍大臣が発言する。
「我が国が島国であることは依然変わりはなく、また水平線が遠くなったとの報告からこの惑星の表面積は地球よりも大きい可能性があります」
これに関しては不可思議であった。地球と違う惑星だが大気の状態などは今のところ変化なし、重力は特に地球と変わっておらず、なのに水平線は遠くなっているすなわち半径は地球よりも大きいのである。
理解の範疇を超えていた。一部の人間は神の仕業だと主張したが、否定が出来ないのが怖いところだ。
閑話休題。
「よってこの世界での海軍の重要性は地球よりも高いと判断し、これまでの建艦計画をさらに拡大する必要があると思われます」
正論ではあったが、陸軍大臣を兼任する東條が同意するはずもなかった。
天皇陛下の御前であることから穏やかな言い方ではあったが、それでも露骨に反発した。
「すでに海軍は対米戦のため十二分に拡張されている。支那方面軍の喪失を補うために陸軍にこそ軍拡が必要だ」「そもそもさらなる建艦をする程の資源獲得の目処がない」等。
対アメリカについても議論は紛糾した。
「対米戦争の中止は致し方ないが、アメリカの石油禁輸措置をどうにかしないことには資源問題の解決は見込めない」
「なにか対価にできるものはないのか?」
「支那事変は大陸の消失によって解決したものとみなせる。満州の権益独占をやめればいいではないか」
「いや、しかしあの地は今の日本にとって生命線とも言うべき場所だ。そう簡単に譲り渡すわけにはいかない」
陛下の前であるため言葉を選んではいるが、侃侃諤諤の議論が続いた。と、ここで
「少し発言してもよろしいか」
天皇陛下が発言の許可を求めた。
「!?・・・なんなりと。」
唐突なことに少し動揺しながら、東條は応じた。
「朕は、今日本は過去類を見ない非常事態にあると考えている。斯様な国難に対して、議論に時間をかけ迅速な政策決定が出来ないのは宜しくない」
先程まで議論をしていたものたちの背筋が一斉に凍りつく。天皇の不興を買ったのだから当然である。
しかし天皇は予想外のことを話し出した。
「おそらく、我が国とともにこの世界に来たのはアメリカだけだろう。我々は、アメリカと敵対したままこの国難を乗り切るのはむつかしい。よって、アメリカとは友誼を図るべく、不可侵条約の締結を目指してもらいたい。もとより満州は、手に入れようと思って手に入れた地では無い。権益譲渡や撤兵、最悪なら領土引き渡しも覚悟して交渉に臨んでもらいたい。」
まさかの天皇の口から不可侵条約の締結である。外務大臣の東郷は驚くとともに少々の胃の痛みを感じた。
さらに、
「斯様な国難に際して陸海軍相争うのは愚行である。両軍の協力、せめて技術の共有は行って欲しい。
これは勅命である」
陸海軍の対立を辞めさせる。しかも勅命という驚くべき事態に、陸海軍両大臣は顔面蒼白となり、会議場はなんとも言えない空気に包まれた。
「・・天皇陛下の要望は当然採り入れることとする。
次に、先日台南航空隊所属機が領空侵犯を行った可能性についてだが・・・」
かくして会議は続いていった。
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この天皇の要望は急いで明文化され、翌日の朝に要望通り勅令として発表され新聞にも掲載された。
「アメリカと友誼を図り」等の文言もそのまま入れられており、さらに陸海軍のくだりには
「斯様ナ非常時ニ於テ陸海軍相争ヒタルハ誠ニ愚ナ事ニシテ言語道断ナリ」と書いてあり、陸海軍上層部は全員が肝を冷やすこととなった。
どうやら天皇陛下は、前々から陸海軍の対立について忸怩たる思いがあったらしい。
また、これによって転移前に対米開戦を主張していた派閥は急速に影響力を失っていくことになる。
「天皇陛下の御意向」の前には、どんな反論もあまりに無力であった。
余談
後に、この決断は日本の運命を変えたとして賞賛されることとなった。
ちなみに昭和天皇自身は立憲君主を目指していたので、非常時とはいえ政治に介入したことについて「あの時は頭に血が上っていた。特に陸海軍のことについては半分は私情だった」と回顧している。昭和天皇が政治に介入したのは二・二六事件に続いて二度目であった。
火曜より土曜の方がええやろと考えたのでこれからは土曜投稿です
後半めっちゃくちゃですね。だけど日本を救うにはこれぐらいしか思いつかなかった…
昭和天皇が立憲君主志向だったのは事実です。史実でも政治介入したのは二・二六事件の時と降伏決定時の「聖断」のときだけです。
中国大陸が転移したとは言いましたが海南島は位置を変えて生き残ってます。これはちょっと、設定上仕方ない。
次回:『異世界進出開始』
──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。