陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者 作:C6N2
フィリピンはロデニウス大陸を挟んで台湾島の反対側に転移していますが台湾とは違い至近距離では無いので航空哨戒で判明する形となります。
ちなみに作者はweb版のみ既読なので、一部小説版とweb版の設定がごちゃ混ぜになってるところがありますがご了承ください。
クワ・トイネ公国政治部会では、昨日の謎の飛龍の領空侵犯について議論がなされていた。
「・・・・最初の報告ではムーの飛行機械の可能性ありということだったが、その後迎撃に上がった部隊からは機体に赤い丸が描かれておりムー国ではないという報告を受けた、と・・・。いったいどういうことだろうか?」
カナタ首相が疑問を発する。これに対し情報分析部の担当者が答える。
「第1発見者からの報告では、時速400キロ以上という情報もあります。ムーの飛行機械は時速400キロ未満です。また、そもそもムーは我が国と2万キロ以上離れています。おそらく発見者の見間違えかと思われます」
外務卿のリンスイがそれに応じる。
「なるほど・・・しかしだとしたらどこなのだ?赤丸を国旗とする国家など外務局の我も知らないぞ」
「少し気になることはあります。ムー大陸の西にある新興国家が、自らを第八帝国と名乗り第2文明圏の大陸国家群に対し宣戦を布告したとの情報が入っています。こちらについては未知数です。」
会場に僅かな笑いが巻き起こる。第2文明圏の大陸国家全てを相手取るなど、無謀にも程があるからだ。
「だが、それとて第2文明圏の国家に宣戦布告するということは、ムーにほど近いのだろう?ムーは我が国から西方2万キロも離れている。ここに来る可能性は低いのではないか」
「結局、分からないということですね・・・・・・」
振り出しに戻り途方に暮れていたその時、
「はあ・・・・はあ・・・・ほ、報告します!」
本来は入室を許されていない外務局の若手幹部が、息を切らして会場に入ってきた。
「政治部会中に入室してくるとはいったい何事だ!」
リンスイが声を張り上げるが、カナタがそれを諌める。
「落ち着け。よほどの緊急案件、ということなのだろう。早急に用件を伝えよ」
「はっ。お伝えします。
昨日謎の飛竜が来週した方角から、全長200mを超える大型船を含む数隻の船団がやって来ました!
海軍により臨検を行ったところ、彼らは日本という国に所属しており我が国に外交使節を派遣しようとしていたとの事です。」
全長200mという数字に驚きの声が上がるが、まだ理解可能な範疇にある。通告なしの外交使節の派遣も、この辺りでは珍しくない。
しかし、
「また、続けて捜査を行ったところ、日本という国は昨日この世界に転移してしまい、その後の混乱の中で我が国の領空を侵犯してしまったことを謝罪したい、また我が国と会談を行いたい、と彼らが望んでいることが判明しました。」
「・・・・は?」
あまりに突拍子もない話に腑抜けた声を出す一同。
「転移国家だと?冗談にもほどがある・・・・」
参加者の一人が呟く。実はこの世界にはすでに転移国家が合わせて
「領空侵犯して力を見せつけてきたうえで謝罪だと?どうせ謝罪にかこつけて屈辱的要求をするつもりだろう!!」
リンスイが声を荒げるが、軍務局長がそれを制止する。
「ちょっと待ってください。我々はロウリア王国と近いうちに戦うことになるのは確定的です。さらにもう一国を敵に回して戦う余裕はない」
カナタが続く。
「向こうが友好的だった場合は、こちらの味方につければ対ロウリア戦で大幅に優位に立てるぞ。相手国はあんな機械をとばしてきている。しかも全長200mの船となれば、強さは少なくともムーと同等だ」
「もっともですね・・・・失礼しました。」
「よし、ここはひとつ、首相自ら会談に行ってみたいと思う。何しろムーと同等とあっては列強国並だ。私が応対するのがいいだろう」
こうしてクワ・トイネ側の対応が決定した。
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「相手は軍船からして中世レベルの文明・・・国交を結んだら軍事支援をして勢力圏にするのもありだな。それにしても言語が通じたのが本当に不思議だ。」
大日本帝国海軍、(元)
この部隊は元々、12月8日に開始される馬來作戦に参加する海軍部隊として組織されたものである。しかし南方作戦実施の見込みがなくなったことで宙に浮いた状態となり、ちょうど偵察機が報告していた都市の場所が海南島とほど近かったために同地に集結していたこの部隊が派遣されることとなった。
「政府もだいぶ焦ってますね。その場にいた外交官を載せて馬來部隊を使って派遣するなど、即席にも程がある。というより、砲艦外交とも取られかねませんよ」
艦長の渡辺大佐がそう返す。彼らも会談に出席することにはなっていたが、外交官に技量があることを祈るしかなかった。
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かくして会談は始まった。
言葉は通じるのに文字は通じないことを不思議に思ったり、転移国家だということに関して一悶着あったりもしたがそこは割愛する。
砲艦外交については案外この世界では当たり前のことらしく、(艦が大きいことを除けば)そこまで問題視はされなかった。
「ところで、この大陸にはこの国以外の国家はあるのですか?幾分、周りの状況が全く把握出来ていないので」
日本外交官の質問にカナタが答える。
「我が国の西にはロウリア王国という国家があり、人口が4000万人ほどとかなり多いです。そして、近年その国は亜人廃絶を掲げ、我が国を併呑しようと軍拡を行っています。」
「なるほど・・失礼ですが、亜人とは?」
「私のようなエルフや、獣人、ドワーフなどのいわゆる"人ならざるもの"です。一般的に普通の人間よりも少し高い能力を持ちます」
「耳の形が妙だと思っていましたがそういうことだったのですね。失礼しました。」
外交官はそう言いながら、現在のドイツでのユダヤ人迫害とこのことを重ね合わせていた。
(普通の人間よりも優れているからこそ、迫害の対象にされる・・ドイツのことといいあまり許されることではないが・・)
彼は三国同盟には反対だった。というより、彼は元々いろいろなことにおいて先進的な考えを持っており、そのせいで上から疎まれて台湾に左遷されたという経緯があった。
ともあれ彼は人権問題についても他より積極的だったが、さすがに軍事支援というのは無理がありすぎる。もとより彼らが絶対に信用できるわけではないし、様子をみる必要があった。
「人種差別による迫害は許されるべきことではありませんが・・・もし軍事支援、ということについてならば、今この場で判断することはできません。本国に持ち帰ったうえで、そのロウリア王国とやらにも使節を派遣するなどして検討する必要がございます。」
「むろん今すぐになどとは思っておりません。ただ時間が経ちすぎると手遅れになるやもしれませぬので、ご留意を。」
「承知いたしました。して、ほかに国家は存在するのですか?」
「ええ。我が国の南にはクイラ王国という国家があります・・・もっとも我が国と違い作物がほとんど取れないので、言い方は悪いですが貧しい国家です。獣人の山岳兵なるものは精強と聞きますがね。
なんでも使い道のない鉱石が出てくる鉱山があったり、土地を掘れば
外交官はさほど重要ではないかのように告げられたことに面食らいつつも、問う。
「・・・・・失礼致しますが、その燃える水について詳しく伺ってもよろしいですか?」
「は、はい。
その水はどす黒い色をしており、粘り気がかなり強いとのことです…申し訳ありませんがこの程度のことしか存じておらず」
いきなり食いつかれたことに面食らいつつもカナタは答える。
「いえ、十分です。」
返答しながら外交官は内心で歓喜していた。
(土地を掘れば石油が出てくるだと!?なんと素晴らしい国だ!!これは会談が終わったら直行だな)
「・・・うーん、今更ですが、我が国はこの世界の情勢などについて何も知っていません。この世界の情報について他にも教えていただきたく」
「そうですか・・・しかしわれわれは国交すら結んでいません。見たところ貴国の技術力はかなり高い。国交締結の前段階として、貴国への使節団の派遣を行いたいのですが、可能ですか?」
「一応は可能でありますが、我々はこの後クイラ王国なる国家へ向かいそちらとも会談を行いたいと思っています。そのため、クイラ王国への案内をつけていただき、ここクワ・トイネへ戻ったのちに貴国の使節団を乗載するという条件でよろしいでしょうか?」
「構いません。我々もある程度準備が必要ですしね。」
かくして、日本は異世界進出の第1歩を果たしたのであった。
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「会談お疲れさまでした。ムー以上の国力とは仰っておられましたが、外交官の対応も紳士的なものでしたね。」
側近から声をかけられカナタはそれに応じる。
「ああ。ロウリアやパーパルディアのような外交姿勢でなくてよかった。むしろ亜人迫害についても否定的だったしな。クイラ王国に興味を持っていたのが気になったが・・・」
「会談では向こうは機械文明といっていましたし、我々には必要ないものでも彼らには必要なのかもしれません。」
「まあ、そうだな。さて、使節団派遣の準備をしなければ。」
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「これは大収穫だな、香谷君」
司令官の言葉に、香谷と呼ばれた外交官は答える。
「ええ。油田の存在をつかめたことは大きいです。クイラ王国に一刻も早く向かわねばなりません。早く油田を抑えなくては。もっとも相手方はそこまで重視していないようなので簡単に譲ってくれるとは思いますが、どうにも嫌な予感がします」
「ふむ。先程の会談といい、君はなかなか優秀な外交官だ。台湾に置いておくのが惜しいくらいには」
「司令官直々にお褒めに与り光栄の至りであります。」
「外交官が一艦隊の司令官にそこまでへりくだる必要も無いと思うのだが・・・・・・」
などと他愛ない会話をしつつ彼らはクイラ王国に向かった。*1
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「はい? ・・・失礼、取り乱しました。我が国が領空侵犯したのはクワ・トイネ公国のみと言われておりますが・・・・・・」
香谷の疑問に外交官メツサルは応じる。
「しかし確認されているのは事実です。・・・ 失礼致しますが、貴国の飛行機械に描かれているマークを教えていただきたい」
「赤い丸が描かれております。」
「・・・・・・はて?確か報告によると
香谷は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「これは・・・・・・えらいことになったぞ・・・・・・」
「失礼、どうされました?」
「このことは、我が国が転移国家であるということを信じてもらった上での話なのですが・・・
─────実は我が国が元々あった世界にある他の国家のうちの一つが、我が国同様この世界に転移してきているのです。」
「・・・・・・俄には信じ難いが・・・・・・つまり今回の件の飛行機械はその国家のものであると?」
「ええ。そういうことです。おそらく近日中にその国家も使節としてやってくるでしょう・・・・・・」
「大丈夫ですか?少し顔色が優れないようですが」
「いえ、なんでもございません。」
(逆に考えるんだ・・・日米交渉の材料になると・・・)
本来なら本土から調査団を派遣して本格的な調査を行いたかったが、こうなれば仕方がない。アメリカがいるとなればなりふり構ってはいられないのだ。彼らは急いで調査(機材も何もないので現地視察とほとんど変わりないが)を行うこととした。
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ここで、時間は少し遡る。
日米交渉。
1931年にはじまる日本の中国進出、乃至侵略について、日米の間に取り持たれた会談の場。
満州を侵略した日本、満州に進出したかったアメリカ。
もちろん意見が一致するはずもなく、交渉は平行線を辿っていた。
否、可能なかぎり開戦を引き延ばそうとしたアメリカに対し、日本が幾度も強硬案を提示したのが大きな問題であった。
国力に劣る日本は、もとよりアメリカに対し譲歩を求める立場などではなかったのである。
時間が経つにつれて両国の意見の乖離はより深刻となっていき、11月26日の夕刻(日本時間では11月27日の早朝)、アメリカ側は日本の最終打開案(乙案)の拒否を通達、そして「ハル・ノート」の手交に至った。
もはや開戦は不可避。そう思われていた。
(一体何が起きたんだ?)
アメリカ合衆国のコーデル・ハル国務長官は、脳内に生起した疑問に答えられなかった。
ハル・ノートに対しての日本側の譲歩要求。
当然ながら激しい非難の応酬になると彼は考えていた。
その通り、会談が始まった当初はまるで会談になっていなかった。
しかしつい先程、日本側が緊急の要件があるといって席を外したあと、戻ってきた日本側は驚くほどに態度を軟化させていた。
「今次国難への対応についての詔勅」
この内容がアメリカにいた日本大使に届いたのは、会談が始まってから30分後*2であった。
御前会議での天皇の発言などをもとにまとめられたこの詔勅の内容は、もっともこの詔勅の重要性が大きいとみられた日米交渉の場に最優先で送信された。
ハル・ノートの内容に憤慨し、もはやほぼ日米開戦は決定したとみて悲壮な思いで交渉に臨んでいた野村・来栖両大使は驚き、偽電の可能性を疑いすらしたが、最終的にはそれに従って交渉を進めることとした。
「日米不可侵条約の締結」
これの実現を可及的速やかに図ること、またそのためには満州からの撤兵も辞さないこと。
もはやハル・ノートを受諾しても良いようにすら思えたが、さすがにある程度譲歩してもらう必要はある。
彼らは、「ある程度の譲歩」を引き出すため、交渉を続けていた。
「我々が今望むことは、満州からの我が軍の撤兵、それと引き換えにした日米相互不可侵条約の締結であります」
そのように告げられ、ハルは冒頭のように困惑していたのだ。
「満州からの撤兵だけでは代価たりえません。先程通達した通り、三国同盟の破棄、仏印からの撤兵、及び支那全域からの撤兵も合わせて必要です。」
当然のことだ。なんのためのハル・ノートなのかということである。
しかしこれに対する野村大使の言葉は驚くべきものだった。
「支那全域と仏印からの撤兵、および三国同盟の破棄に関しては、
絶句。
「・・・・・・失礼、よく意味が理解できなかった。詳しく説明をして頂きたい」
その言葉を受け、野村は先程詔勅と共に送られてきた内容をもとに話し出す。
アメリカ以外との接触が絶たれている。
仏印とも連絡がつかない。
中国とソ連が消滅している。
天文台から、星の位置が変化しているとの報告を受けている。
(なお大陸発見については機密事項としてアメリカ側には伝えないこととなっていた)
これらのことから、我が国の政府は日本とアメリカがともに地球ではない場所に移ってしまったと考えている。
「すなわち、仏印もドイツもイタリアも消滅しているから、仏印からの撤兵と三国同盟の破棄は事実上完了している・・・ということですか?」
「その通りであります。」
ハルは頭を抱えたくなった。
無論アメリカ政府でもその可能性に気づいている者はいたのだが、非現実的だと見なされハルもそれほど気にしてはいなかった。
もっとも日本政府も、大陸の存在に気づかなければ信じなかったであろう。
「では、第2項第2条の内容に基づいて、日米のみでの不可侵条約の締結を目指す・・・ということになりますか」
「それについては別個に交渉を・・・と、いうよりも今ここで話し合うには無理があります。不可侵条約の締結など一朝一夕のうちにできるようなものでもありませんから、時間をかけて交渉していきたい」
「なるほど・・・確かに我々は、おそらく貴国もですが、異世界に関する情報が圧倒的に不足しています。ではひとまず、明後日に大統領との会談を行っていただき、そこで詳しいことはお話するということでどうでしょうか」
「承知しました。」
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「まさかこれほどまでとは・・・」
外交官香谷は、眼前に広がる光景にただただ驚きを隠せずにいた。
道端に溜まり場を作っている石油。ところどころ、絶え間なく湧き出している場所もある。道中では黒っぽい山をみてまさかと思ったが、あれもすべて石炭だとしてももはや驚かない。
「恐ろしい国だ・・・アメリカは全力で取りに来るだろう。奴らからしたら、資源貧乏の日本がこんな場所を手に入れては堪ったものではない。
交渉で一割でも手に入ればいいが・・・・・・頼むぞ」
「私に言われたところで困ります・・・
・・・・・・まあ、この分だとクワ・トイネとクイラへの軍の駐留は絶対です。アメリカがやらないはずがありませんから」
「陸軍がなにかやらかさなければいいが・・・海軍についてはこの馬来部隊をそのまま駐屯させれば良いだろう」
「ただ国自体がこんな状態ですからある程度の統治は必要でしょう。それについてはアメリカに任せた方が・・・・・・いや、わざわざ言わなくても向こうは勝手に希望してくれるかな?」
「お上がそれを認めるかが問題だな」
「わざわざ統治なんて面倒をやらない方がいいってことは朝鮮で理解出来ているはず・・・・・・いや、どうでしょうか」
「理解していたとしてもあの利益の前には目が眩むだろう。もっともアメリカが統治してもそこまで変わらないかもしれんがな・・・どっちみち植民地化は必至だろう」
「住民の反発を招くのが目に見えている・・・・・・油田があると知った時は浮かれていましたが全く喜ばしい状況ではないですね。アメリカに支配者の汚名を被ってもらえば少しはどうにかなるでしょうが・・・・・・これから何が起きるのか、全く予測できません」
「まあ、なるようになる。どのみち我々ができることはほとんどない」
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大油田発見との情報は、すぐさま両国に伝わった。
日本は使節船団旗艦の鳥海からの報告電により、アメリカは偵察機からの "地面に石油が溢れている!" との報告により、それぞれ事態を把握。
──止まっていた歴史の針が、再び動き出そうとしていた。
なんかすごくまとまらない話になってしまいました。
まあ、架空戦記だし(ぉ
次回:『クイラ大油田』
──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。