陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者   作:C6N2

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閑話 遣日使節団

1638年、11月28日──

 

クワ・トイネ公国外務局にて、日本への使節団の派遣準備が行われていた。

 

「やあ、ヤゴウ!聞いたぞ、昨日来た日本の船に乗って日本に向かうらしいじゃないか。羨ましいよ!」

 

「それは嫌味か?」

 

声をかけてきた同僚に少々うんざり気味に答える。

 

この世界において、新興国家の誕生はそれほど珍しいことでもない。

単に新しく国家ができることもあれば、革命で国体が変化したり、大国が分裂して中小国となることもある。

 

そういった国に対する使節団派遣は、それなりの頻度であったのだが・・・どうにもそういった任務は嫌われていた。

ここロデニウス大陸は、立地などから「蛮地」と呼ばれこそするが、その生活レベルは文明圏外国としてはかなり高い。特にクワ・トイネの食文化は、はっきりいって文明圏内国に匹敵するレベルという認識がなされていた。

それに比べると、そういった新興国家は治安も衛生環境も悪く、食文化などもあまり洗練されていない。使節団が襲撃などに遭ったことも数度あるし、ましてや疫病に感染した事例など両手では数えきれない。

 

そういったことから、彼は同僚の言葉を嫌味と受け取ったのであるが───

 

「そんなわけないだろう。日本についての情報を知らないのか?なんでもムーより高い技術を有し、船の大きさは200メートルもあるそうじゃないか。それに、これは単なる噂だが、その船は鉄でできているという話だぞ。そんな船に乗せてもらえるなんて羨ましいにきまっているだろう。」

 

「その情報はもちろん知っているが・・・俺はどこかで間違いがあったとしか思えんな。鉄の船なんて、パーパルディアのように木造船に鉄の板を貼ったものでなければありえんぞ。鉄が水に浮かないことなど誰でも知っている。もし本当だったとしても、ムーの兵器を借りているだけじゃないか?」

 

「いやいや、聞くところによると日本の兵器は上層部が把握してるムーの兵器よりも高性能だそうだ。あの日和見主義で有名な第2列強が、我々が知らないような新兵器を弱々しい新興国家に貸し与えると思うか?」

 

「確かにそれはそうだが・・・俺は情報自体の信憑性を疑っているんだ。だいたいどうやったら、新興国家がムー以上の技術を持つことができるんだ?」

 

「む、そうではあるが・・・複数の証言があるのに間違いがあるとは、あまり思えないな。まあ、そういったことは行ってみて確かめればいいんじゃないか?」

 

「まあ、それもそうか。」

 

彼は日本についての情報は信用ならないと思っていたが、この会話によって、信用ならないなら信用ならないなりに確かめようという気にはなった。

 

 

 

 

──────────────────────

 

そしていま、彼は派遣に向けての会議に参加していたのだが──

 

「・・・なんだと?それは本当なのか?」

 

あまりに突拍子もない話。思わず聞き返してしまう。

 

「・・・ああ、まあ私もその話はあまり信用ならないとは思ってはいるが・・・少なくとも向こうの外交官はそう主張している。

ただ、この話に信憑性が存在するのは、もし仮に一昨日転移してきたのだとしたら、北東で確認された島、ムーのものよりも早い飛行機械、200メートルの鋼鉄船、この全てに説明がつくからだ。」

 

確かにそうである。昔、何かの格言として「単純な仮説ほど正しい可能性が高い」というのを聞いたことがあるが、これはまさしくその典型と言えた。転移ということはムーの神話に書かれている程度であるから全く理解し難い現象であるが、それに目を瞑ればこの仮説ひとつですべてに説明がつく。

 

(もしこれが正しいとすれば・・・日本という国、なかなか面白そうだ)

 

その話を聞くと、今回の派遣に際し俄然やる気が出てきた。

 

(ムーよりも高い技術力か・・・

お手並み拝見、と行こうじゃないか)

 

 

 

 

──────────────────────

 

翌日、使節団はマイハーク港に来ていた。

雲ひとつない青空のもと、日本の外交官が話し始める。

 

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。私は外交官の香谷と申します。

急なことなので客船ではなく軍艦での航行となってしまいますが、使節団の方々には最大限の配慮を致しますのでどうか御容赦ください。」

 

(軍艦だと・・・?いや、これは逆に日本の軍事技術を探るチャンスだ!)

 

意気揚々気味のヤゴウだが、それと対照的に憂鬱な顔をした使節団員が1名。

 

「今から船旅か・・・しかも軍艦とはな・・」

 

「ハンキ将軍、顔色が優れませんが、どうされましたか?」

 

「ヤゴウ殿、私は今は外務局出向者であるから将軍呼びはやめてくれたまえ。」

 

「承知しました。して、どうされたのですか?」

 

「いやなに、今から船旅と思うと、気が重くてな。船旅がいいものでは無いのは貴殿にもわかるだろう。船はいつ転覆するかも分からないし、船内は暗く湿気っている。食料は日に日に劣化していくし、病気にかかる者も多い。

今回日本の本土までは2日程度しかかからないらしいが、さすがにそれは間違いだろう。いくらなんでも早すぎる。本当ならどれほど嬉しいことか・・・」

 

「確かに2日は早すぎる気はしますが、いかんせん200メートルの鋼鉄船にムーのものより早い飛行機械を飛ばしてきた日本です。転移国家とすら噂されていますし、我々の常識ではかってはいけないのかもしれませんよ。」

 

そんなことを話しながら移動しているうちに、船が見えてきたのだが・・・

 

 

「まるで小島ではないか!」

 

「200メートルの船は、間近で見るとこんなにも大きいものなのか・・・」

 

 

 

 

高雄型重巡洋艦四番艦「鳥海」

公試排水量 12,986トン

全長 200.76メートル

最大幅 18.999メートル

 

 

 

ヤゴウはパーパルディアの魔導船は見たことがあるが 、あれは表面に鉄板を貼っただけなので帆が付いていた。それだけでもこの世界で戦うには十分すぎる防御力だ。

しかし目の前の船はどうだろう。超巨大な船体のためさぞかし動かすのが大変だろうが、帆がついていないのだ。すなわちこの船は第1文明圏の魔導船または第2文明圏の機械船に匹敵する。もっともそちらの方は見たことがないため、どちらが凄いのかは分からないが…

 

しかも、これと同じような鉄船が4隻ほど、さらに小さめの鉄船が十数隻ほどいた。そのどれもが、海岸から離れたところに停泊している。

 

「今回、使節団の皆様には、沖合に停泊しているあの船──艦名は鳥海といいます──にご乗艦いただきます。港の水深が浅いために接岸が出来ないので、小型ボートを使って移動していただきます」

 

その後、チョウカイと呼ばれた船からボートが2隻出てきた。

なんとそのどちらも、船員がオールを漕ぐことなく、ずんずんこちらに進んでくる。もちろん、帆はない。

 

「香谷殿、香谷殿」

 

ハンキ将軍が日本の外交官に呼びかける。

 

「どうされましたか?」

 

「私の目がおかしくなければ、あの船も小舟も帆やオールがないように見える。

一体どうやって動いているのだ?・・・まさか、第1文明圏の魔導船のようなものか!?」

 

「あれ?確か一昨日の会談でお伝えしたはずですが・・・

我が国はさる11月26日に、この世界に転移してきました。そのためこちらの世界の情報がまだありませんゆえ、第1文明圏の魔導船というのがどういったものなのか知りません。」

 

そういうと外交官は近くの軍人らしきものと小声で話し始めた。船の動力源を明かすかどうか話し合っているのだろうか。

それにしても、我が国の軍人と違ってだいぶ質素な服装だ。これも後で質問しておこう。

 

「では、第1文明圏の魔導船というのがどういうものか──動力源も含めて──教えてもらう代わりに、われわれはこの船の動力源を明かす、ということでどうですか?」

 

「・・・承知した。第1文明圏というのは、この世界に3つある"文明圏"のうちもっとも栄えている文明圏で、そこで使われている帆のない船が魔導船といわれている・・・といってもわしも実物は見たことがないのでわからんが。動力源は何らかの魔導機関、つまり魔力を用いた機械であることは確かだが、実際にそれがどういうものかはわからん。」

 

「ありがとうございます。

この船は、"蒸気タービン"というものを用いています。簡単にいえば、石油、そちらで言うところの"燃える水"を燃やして水を蒸気にし、その蒸気の力で風車を回して動力に変えるという機械です。」

 

「なるほど・・・とりあえず、とにかくすごいということはわかった。」

 

ハンキ将軍はあまりよく理解できなかったようだ。まあ急に未知のものについて教えられてもよく分からないのは普通だろう。

 

「なるほど、クイラ王国に行っていたというのはそういうことでしたか。

・・・それにしても、何度みてもやはりすごい船だ・・・」

 

事前にこの船がクイラ王国に行っていたと聞いていたヤゴウは、この話を聞いてすぐに合点がいった。どうやら彼らにとっては我々よりもクイラ王国の方が重要らしい、となると自国の売りどころを必死に探さねば・・・

それにしても、我が国の周りにはこんな技術を持った国は存在しない。やはり転移国家というのが本当のところなのだろうか。

 

 

 

 

その後、使節団員は小舟(ナイカテイ、というらしい)に乗って船内に入った。

 

「この船、本当に鉄でできておる・・・一体どうやって浮いているのだ…」

 

内部までしっかりと鉄でできている。

そのうえ、内部にもしっかり明かりが灯っていた。これに関してはどうやって明かりをつけているのか見当もつかない。光の妖精でも飼っているのだろうか?

 

未知のものばかり目に入り混乱する。それらについて質問などをしているうちに、船が動き出した。

 

 

 

 

──────────────────────

 

2日後───

 

「本当に、2日で着いたぞ・・・」

 

事前の説明通り2日で目的地に着いたことに、改めて驚く。

 

 

航海中は驚愕の連続だった。ものすごい速度で進む船、美味しい食事、そして何よりあの巨大な砲。

口径は20cmほどのように見えた。あの砲があれば、全てのものをを吹き飛ばせるのではないかとさえ思う。

しかもあちらの言うことによれば、この艦は()()()()()()()らしい。これよりも強い船があるということだ。しかも、海外から輸入しているものはほとんどないらしい・・やはり転移国家であることは確実なようだ。少なくとも海軍において、我が国───どころかロデニウス大陸の総戦力でさえも、日本に逆らうことは出来ない。彼らが覇を唱えぬことを祈るばかりだ。

 

そう考えると、今回の自分の任務が、ひどく重要なものに思えてきた。

 

「ここは長崎港です。我が国の本土はは4つの大きな島を主としているというのはお伝えしましたが、長崎港はそのうちの一つ「九州」の中でも有数の港となっています。」

 

「ナガサキと言うのか。首都のトウキョウは別の島にあるのか?」

 

「ええ。こちらの地図をご覧下さい。」

 

そう言って外交官は懐から地図を取り出した。我々の世界では国家機密と化している国も多い地図がここまで一般的、しかもそれがかなり精巧となると、どうやらこの国は測量技術も非常に優れているようだ。

 

「この地図のこの部分、本土の中でもっとも南西に位置するのが九州です。首都はこの最も大きな「本州」の真ん中のここにあります。ちなみに長崎はこの場所です。

あなたがたの国がある大陸はこの「台湾」のすぐ近くのようですから、だいたい長崎-東京間の距離と同じくらいですね。」

 

地図を見れば、長崎と東京はだいぶ離れているようだった。1000kmという距離を改めて実感し、同時にこれほどの距離を2日で移動したこの船の凄さも実感した。

 

港に目を向ければ、様々な建造物がひしめき合っていた。あれらは一体、どんな建物なのだろうか?

 

 

 

──────────────────────

 

船から降りる。我々はおそらく、「この世界」の人々の中で、初めて日本の土を踏んだ者だろう。そう考えるとなんとも言えない高揚感が湧き上がってきた。

 

「それでは、自動車に乗ってひとまず移動していただきます。移動先で、我が国での過ごし方について少々の説明を行います。」

 

ジドウシャとは一体なんだろうか?移動手段とのことだが、馬車のようなものなのだろうか。

 

 

少し移動して、出てきたものは確かに馬車のようなものだった。だが、それは馬によって曳かれているわけではない。人が乗っており、正しく「自動」で走る。我々の理解の範疇を超えた乗り物だった。

 

「この機械も、先程の「蒸気タービン」とやらを使って動いているのか・・・?」

 

「いえ、これはまた違う機構で動いているのですが・・・いちいち話しているとキリがないのでやめておきましょう。」

 

 

自動車に乗って移動した先では、日本についての基礎知識を教えられる。信号システムについてや、刑法について。また、軍事施設の見学は可能だが、その場合は必ず同行する者の指示に従って欲しい、とのこと。

信号システムは、我が国で車が普及した暁には是非とも導入したいものだ。

 

「香谷殿、では早速明日に軍事施設を見学することはできるか?」

 

「わかりました・・・可能かどうか問い合わせてみますね。取り敢えず今日はゆっくりお休みください。」

 

ハンキ将軍の問いに外交官はそう答える。たしかに、入ってくる情報が多すぎて疲れた。お言葉に甘えて休むこととしよう。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

翌日───

 

外交官のはからいにより海軍の航空基地を見学できることとなった。どうやらこの国では空軍は存在せず、陸軍と海軍が航空隊を独自に持っているようだ。

 

「それにしても・・・我が国よりも少々、空が暗いように感じるが・・・」

 

基地に向かう途中の車の中で呟く。

 

「それは工場から出た煙が空を覆っているからです。あそこを見てください。煙突から煙が出ているのが分かりますか?

こういった自動車などを生産する際にも、ああいった煙は発生します。魔法とやらを使って除去できないものですかね?」

 

そう。驚くべきことだが、この国には魔法というもの自体が存在しない。ならば日本の技術と魔法技術を交換供与することはできないものか・・・と思ったが、よく考えたら魔法技術で我が国に優る国などたくさんある。せいぜいそれらの国と日本が国交を結ぶまでの繋ぎにしかならないだろう。

 

「できないことはないと思いますが、魔法を使ってできるのは、少なくとも我が国の技術では発生した煙を閉じ込めるくらいでしょう。その煙をどこに置いておくかという問題はついてまわります」

 

「うーん、まあ、このことは貴国との間に国交が結ばれてからまたおいおい、ということにしましょう。」

 

 

そしていよいよ基地に到着した。飛行場は・・・石に似ているが、石とは言い難いもので平らに固められている。その脇にはいくつもの飛行機械が並んでいた。

 

「これは我が国の最新鋭戦闘機、九六式艦上戦闘機です。」

 

戦闘機と言われたその飛行機械を眺める。

見たところこれも金属でできているようだった。明るめの灰色に塗られた胴体から一対の翼が生えており、胴体の先端には風車のようなものもついている。これを使って飛ぶのだろうか?

 

「何か、訓練や演習などを見せてもらうことは出来るのか?」

 

「そうですね、模擬空戦程度ならやってもらうことも可能かもしれません。一寸訊きに行ってきますので、しばしお待ちを。お望みならそちらの椅子にかけるか建物の中などで休んでいただいても構いません。」

 

ハンキ将軍の問いに外交官はそう答えると建物の方に駆けていった。これは、我々はなかなかすごいものを見ることができるのではないか。

ひとまず近くにあった椅子に座った。

 

しばらくして、外交官が戻ってきた。許可が得られたのだろうか?

 

「模擬空戦を行ってもらえるとの事です。どうぞ、席にかけたままで構いませんのでご覧下さい。」

 

そうして、模擬空戦が始まった。

 

段々と大きくなる爆音、そして飛行機械の風車が回り出した。なるほど、ああやって空を飛ぶのか!

少しずつ進み出し、やがてそれは矢のような速度で滑走路を走ったかと思うと地面から離れた。

 

「すごい、本当に飛んだぞ!!」

 

ハンキ将軍は非常に驚いているようだ。かくいう私も衝撃がないわけではないが。

 

 

そして2つ目が飛び立ち───やがて、それらは上空で目まぐるしく動き始めた。

 

目にも止まらぬ早さで動く飛行機械が、目が回るような激しさで動き回っている。

どういった訓練なのかは分からないが、素人目に見てもその動きは非常に洗練されているように見えた。

 

───驚愕と衝撃が、全身を支配した。

 

 

 

 

 

 

---その日のハンキ将軍の手記より---

 

今日目にしたものを、私は一生忘れないだろう。

オオムラ飛行場と呼ばれる場所に行き、機械飛龍の訓練を見学することになった。"模擬空戦"と言われたその訓練は・・・正しく()()。人が操作する機械が、ワイバーンたちが戦うかのごとく、いやひょっとするとそれ以上に激しく、本当に生きているかのように戦っていた。

この国には魔法そのものが存在しないらしく、こういった技術は科学によって成り立っているらしい。科学という単語じたいはムー関連の話で聞いたことはあったが───今日のあれを見ると、(少なくとも)我々や第3文明圏の魔法文明とこういった科学文明の間には、越えられない壁があるのではないかとさえ思えてきてしまう。

本当に、心の底から、彼らが侵略主義でないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

さらに翌日。

首都に移動するため、我々はまたこの飛行場にやってきていた。

 

「本日は軍の輸送機に乗って東京まで移動していただきます。目まぐるしい日程となり申し訳ありませんが・・・」

 

なんと、我々も飛行機械に乗ることができるらしい。これはなんとも楽しみだ。

 

「・・・しかし、事故が起きる可能性についてはどれほどあるのかね?」

 

「それについてはなんとも言えません。車とどちらが高いかと言われると微妙です。熟練の操縦士に操縦してもらう予定ですので大丈夫だとは思いますが。

なにぶん、飛行機の方が圧倒的に早いのです。」

 

「なるほど。」

 

ハンキ将軍が不安を呈するも納得したようだ。さて、いったいどんな旅になるのだろうか。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

窓を覗く。眼下に広がるトウキョウの街並み。繁栄しているように見えた長崎が、ただの一地方都市であるかのように思わせる都市。

遂に日本の首都にたどり着いたのだ。

 

「ようやくここまで来たか・・・。確かに面白いが、あまり進んで乗ろうとは思わんな。

ただ単に、酔いが辛かった・・・」

 

ハンキ将軍は酔ったらしい。どうやら飛行機械に乗っても船酔いの症状が出る場合があるようだ。

 

「まもなく羽田飛行場に着陸します。」

 

機長からの放送が聴こえた。酷い爆音のため、機内にいる者同士で会話する時は鉄の管を使用している。伝声管というらしい。まさに名は体を表すといった感じだ。

 

 

 

やがて、我々は飛行場へと着陸した。着陸の際の衝撃はあまりいいものでは無いが・・・それ以上に、飛行機械を使うことによって1000kmもの距離を半日とかからず突破することが出来る、このことへの驚きが勝った。

 

今日はひと通り東京を視察し、明日の外交交渉に臨む。

 

 

「香谷殿、日本には風呂に入るという文化はあるかね?」

 

「!そちらの国にもおありなのですか。ええ、ありますよ。ご希望なら温泉まで案内致します。」

 

「温泉?」

 

「火山の傍から湧き出てくる、暖かい湧き水を風呂水として使うのです。健康向上の効果もあります」

 

ハンキ将軍と外交官の会話を横で聞いていたヤゴウは内心で歓喜した。使節団として向かった先で風呂に入れるなど滅多にない。

しかも"温泉"という新しいもの。天然のお湯を使った銭湯だと思えばいいのだろうか?

 

 

---その日のハンキ将軍の手記より---

 

なんと、外交使節として向かった先で風呂に入れるとは予想だにしなかった。

今度は移動手段として"鉄道"というものを使った。ただこれは、走らせるために線路というものが必要なそうなので我が国への導入には時間がかかりそうだ。

そして着いた"温泉"は、ヤゴウの言っていた通り銭湯のようなものだった。ただ、天然のお湯を使っているというのは本当のようだ。普通の水と色が違ったり、ぬめりがあったりした。肌がすべすべになったように思えるが、もしかしたらそれも温泉の効果なのかもしれない。

少なくとも明日の交渉に向けて、英気を養うことはできた。

 

 

 

 

──────────────────────

 

いよいよ本格的な外交交渉だ。

どんな外交官が出てくるのだろうかと思っていたが、どうやら日本の外務局は忙しいらしく案内役の外交官──やっと名前を覚えた。コウヤで間違いないはずだ──がそのまま交渉に当たることとなった。

 

先程まで普通に会話していた外交官であっても、交渉となると腹の探り合いだ。心してかからねばなるまい。

 

「端的に申し上げますと、我々にはこの異世界についての情報が足りません。この世界についての情報の提供をお願いしたいのです。さらにその情報に虚偽が存在することのないように、人質のような形となり申し訳ないですが貴国への我が軍の駐留を認めて頂きたい。」

 

いきなり少々物騒な話だ。軍隊の駐留となると我が国の沽券に関わる。ロウリアなどに「野蛮な新興国家に屈した」として見くびられる可能性もあるが・・・代価によっては応じるのもやぶさかではないだろう。

 

「対価はなんでしょうか?」

 

「交通網の整備の援助、港湾の整備、上下水道の整備などを9ヶ月間は無料で行います。無論そちらへの技術図書の規制などは行いませんが、本格的な技術供与となるとさすがにもう少し対価が欲しいところです。」

 

「なっ?!」

 

情報を提供し、軍隊の駐留を認めるだけでこれほどの対価が得られる。もう少し対価を払い、技術を供与してもらっても全く問題ではないだろう。

この国は、"科学"によって成り立っている。ムーに関する話などで聞いたことがあったので少し認識はしていたが、魔法に似たようなものという程度にしか考えていなかった。

確かに、似てはいた。だが、根本的に異なっていたのは───科学は、魔法技術よりも速いスピードで進歩するということ、そして魔力を持っていなくても、魔道具のようなものを簡単に使えるということだ。

その技術を教えてもらえれば、国力の底上げが可能だ。魔法では簡単に出来るが科学だと難しい、というものがあることもわかっているのだから、魔法技術と交換するのがちょうどいいだろう。

とは思ったが───

 

「少し、考える時間をください。」

 

魔法技術については、ミリシアル帝国が堂々の1位である。日本がその存在にいつまでも気づかないとは、あまり考えられない。つまり我々は、ただの繋ぎにしかなり得ない。

だが、ここでミリシアル帝国の存在を伝えるというのはやりすぎな気がした。かといって何食わぬ顔で交渉を成立させても後が怖い。

そこまで考えたところで、ひとつの考えが頭を過ぎった。

──────なぜ、日本は我々にこれほどまでの好条件を出してきているのか?

 

日本からすれば、我々はただのただの弱小国家でしかない。そんな国に、交通網の整備を持ちかけるとはどういう意味があるのか?

答えは単純。我が国を成長させることで、我が国にモノを沢山売って利益を得たいのだろう。

ならば、代価を差し出すことが重要なのであって、その内容はあまり関係はないだろう。

そしてよく考えると、ミリシアル帝国が(彼らから見れば)いち新興国家である日本に、易々と技術を明け渡すわけがない。ならば、たとえ繋ぎでしかないとしても、十分なのではないか。

 

「では、技術供与と、それに加えて軍事支援を行っていただくことは可能ですか?対価として我々は、我々の持っている魔法技術を全て貴国に提供します。

我々より高い魔法技術を有する国も多いですがそういった国は軒並みプライドが高いので、我々の技術はそうした国から技術が得られるまでの繋ぎとしても十分機能すると思われます。」

 

「・・・わかりました。では仮交渉はひとまずこの内容でまとめましょう。」

 

肩の荷が降りるのを感じた。まだ仮交渉だし、正式に妥結するには本国が認める必要があるが、そこは本国に帰ってから粘り強く説得していけばいいだろう。

ひとまず、自分の仕事は果たした。

 

 

 

 

──────────────────────

 

その後の本国での話し合いも、実際に日本の実力を目にしたヤゴウら使節団員の必死な説得の甲斐あって概ね上手く行き、無事交渉は成立した。

 

 

 

なおヤゴウはこの数週間後アメリカに向かい、日本以上の発展ぶりに度肝を抜かすこととなるがそれはまた別の話。

 

 

 

 




ヤゴウ「日本であれだけ驚かされたんだ。もう何が来ても驚かないぞ」

エンパイア・ステート・ビル\ドドン/
ウィリス・タワー\デデン/
ホワイトハウス\デデドン/

ヤゴウ「もうやだおうち帰る」


(アメリカ編は)ないです。

1話にまとめたら1万文字に到達しかけた。びっくり。



次回:『不可侵条約』



──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。
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