陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者 作:C6N2
ご期待に応えられるよう、鋭意努力します。
「さて。果たしてどうなるかな…」
戦艦「長門」の甲板にて、香谷は呟いた。
クワ・トイネによってパーパルディア皇国の情報が明らかになると、下に見られないためには完全なる砲艦外交が得策ということになった。
本気で砲艦外交をするとなると戦艦が不可欠、しかし大和型を出してはさすがに戦力過大の感が否めないしアメリカに情報が渡る可能性も高い。
そこで持ち出されたのが、長門型戦艦の
●旗艦:長門 (連合艦隊直属、第一戦隊より)
●第二艦隊より、第七戦隊:
重巡洋艦熊野・鈴谷・最上・三隈
●第一艦隊より、第三水雷戦隊:
軽巡洋艦川内(旗艦)
・第十一駆逐隊:吹雪・白雪・初雪
・第十二駆逐隊:叢雲・東雲・白雲
●第一航空艦隊より、第四航空戦隊:
航空母艦龍驤
(情報によれば)たかが中世国家である叭皇国に対して、戦力過大にも程があるという意見も多かったが・・・
何しろ相手は「周辺の弱小国を次々と併呑し恐怖政治を敷く覇権国家」である。そしてクワ・トイネによれば「そのプライドはエージェイ山*1よりも高い」とのこと。
なればこそ、舐められぬためにもこちらの力を盛大に見せつける必要があるとの判断がなされたのである。
「これは外交官様、どうしてこんな所に?」
1人の水兵から話しかけられる。前の交渉の成果もあってか少しは尊敬してくれる者もいるようだ。
「艦隊を見たくなっただけです・・・いくらなんでも多すぎやしないでしょうかね」
「我が海軍の力を誇示するためにはこれくらいは必要でしょう。アメリカに負けず劣らず日本も強い国であるということを知らしめなければなりません。」
「まあ、そうですが・・・いや、そうですね。要らぬ紛争を避けるためには致し方ありません。」
香谷がこんな思い切った発言をしたのには理由があった。
「領事裁判権を認めさせ関税自主権を無くす・・・ですか。いくら相手が近世国家だとはいえ、これではまるで・・・ペルリ提督の要求です」
「だから言っているじゃないか。クワ・トイネからの情報をもとに上が判断した結果だ」
「その情報というのは・・・」
「さすがにそこまでは知らん。だが近世国家でプライドが高いと来たら、ろくなもんじゃないことだけは確かだ。とにかく命じられたからには、やらなきゃ意味ないよ」
「・・・承知しました。」
(・・・さて、これでパーパルヂア皇国とやらが想定より理性的だったら…どうすればいいのだろうか)
命令に従うのは重要だが、外交官においてはたとえ命令を無視してでも判断を下す柔軟性も必要なのではないか────だが、命令違反となると後々面倒だ。杞憂に終わってほしいが、相手が理性の欠片も持たないなんてことは流石に勘弁だ。
矛盾したことを考えながら、艦内へと戻った。
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パーパルディア皇国という国家は、列強であるという特性上外交業務も多岐にわたる。そこでこの国では、外務局を三つに分けて業務を分担していた。
一つ目は第1外務局、これは自国と同じかそれ以上の列強国、例えばムーやミシリアルといった国家との外交を担当する。責任重大であるが故、必然としてエリートの集団である。
二つ目は第2外務局、自国より下だが、それなりの国力をもついわゆる"文明国"との外交を担当する。
三つめは第3外務局、これは文明圏外国と言われる自国よりはるかに国力の低い国家との外交を担当する。ただこの局はその特性上あまり優秀な人材は多くない。
ちなみにそれぞれの位置は、第1外務局がもっとも皇宮に近く第3外務局は最も皇宮から遠いが海に近い。
そしてその第3外務局の局長たるカイオスは、その局長室の窓に海を一望できるような窓を設けていた。
彼はもともと第1外務局の課長職に就いており、次期局長として確実視されていたものの皇帝の采配によってその職にはエルトが就くことになりカイオスは第三外務局に配属されたのだ。
エルトとは旧来よりの友人であるとともにライバルでもあり、その外交手腕が自分より勝ることはカイオスが何よりも理解している。そのため皇帝の人事は至って適切なものであったが───当然、未練がましい。
そういった不満を少しでも紛らわすために大きな窓を設け局長の気分に浸れるようにしたのだが・・・・・・
「いったい何だ、あの艦隊は!?」
今日ほどその窓から見える景色が
列強ムーの艦隊もかくやと言わんばかりの鋼鉄の大艦隊、しかしそれに翻るのは今までに見たことの無い旗。
まさか古の魔法帝国の艦隊か・・・少なくともろくなものでないのは確かである。
だが、未だ皇都に攻撃を加えてこないことからして・・・まさか外交使節か?
「…俺は絶対にあんな奴らの相手はしないぞ・・・
エルトよ、せいぜい頑張るんだな!1外に就いたことを後悔するがいい!」
如何に皇国の腐敗を嘆く憂国の士とて、あんな化け物に等しい艦隊を持つ謎の国家のことを維新のために利用できると考えることは無かった。
列強国並と予想される謎国家の相手は確実に第1外務局がやることになるだろう。その事実をもって溜飲を下げることにした。
だが───
しばらくして入ってきた魔信の内容は、信じたくないものだった。
『来寇せる謎の艦隊は我が皇国への外交使節の模様、これの対応にはまず第3外務局長カイオスがあたられたし、───』
ドンッ
「な・・・・・・何だと!!?列強国並みの艦隊を持つ国家への対応を、謎の国家だとはいえ、1外が職務放棄して3外に押し付けるだと!!!エルト!!怖気付いたな!!!皇国外交官の花たる1外の局長が、未知のものに対して怯えるとはっ!!」
どっかの外務局監査室所属の皇族が言いそうなセリフを言い放ちつつも、しかし上からの命令は絶対である。カイオスは死んだ目で使節への対応の準備をするのだった。
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「なかなかの大都市ですね・・・」
「確かに、近世の国家としては大きい。クワ・トイネからの情報の通りだな」
「ええ、それにしても・・・サスペンションがないのがこれほど苦痛だとは」
「同感だ。この揺れはあまり体に宜しくないな」
「馬車があったこと自体を僥倖と捉えれば 、あるいはまだ耐えれますが。」
帝国外務省に新設された異世界対応局の局長となった香谷と、対叭国担当課の課長たる
人員不足もあり異例の出世となった彼らは、そんな会話をしながら第3外務局の建物へとパーパルディア製の馬車を利用して向かった。(無論その周りには護衛の兵士が多数いるが)
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「どうぞこちらへ」
言われるがまま、局長室と書かれている(のであろう)札の下げられた部屋に入る。
「初めまして。私はパーパルディア皇国第3外務局の局長を務めております、カイオスと申します。」
「私は同じく第3外務局の東部担当部長のタールと申します」
「私は東部島国担当課長のバルコと申します」
「東部島国担当係長のニコルスと申します。」
「群島担当主任のメンソルと申します」
外務局の有力者が五人も出てきた。ひとまず砲艦外交は成功とみていいだろうか。
「丁重なお出迎えありがとうございます。私は大日本帝国外務省の香谷と申します。」
「私は部下の水村です。大日本帝国は日本と略して頂いて結構です」
ファーストコンタクトはまずまずといったところだろうか。ここからが本番だ。
「こちらこそ、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ええ。たとえそれが、悍ましい鋼鉄の艦隊であったとしても、我々は歓迎しますとも。」
・・・どうやら相手の外交官はなかなか皮肉が上手なようだ。イギリスのブラックジョークを思い出す。
「おや、これは失礼。貴国はこの世界では"列強"だと聞きました。であればこそ、生半可な艦で向かうのは無礼だと思ったのであります」
「・・・それにしては随分と、船が多いようですが?しかも見た限りすべてが軍船・・」
「あまり
「我々がそのような国であると?」
「お噂は
「差し支えなければ情報元を伺いたい」
「クワ・トイネです。わざわざ軍を駐留させているのですから嘘はつかないでしょう」
「・・・・・・・・・」
カイオスは顔を
それも当然。1歩間違えればあの大艦隊の数え切れないほどの魔導砲が火を噴く。
しかもクワ・トイネを配下に入れていると来た。そして皇国の悪い噂を知ってこんな艦隊を差し向けてきたのだとしたら・・・
「本題に入りましょう。いかんせん情報が少ない。貴国はいったい、何者ですかな?」
「これについては、全く以て荒唐無稽な話でありますから信じないなら信じないで構いません・・・
去る11月26日、我々はこの星とは別の星から転移してきたのです」
「・・・・・・・・・は?」
思わず呆けた声が打出でる。
「・・・つかぬ事をお聞きしますが・・何処に?」
「此処エストシラントより東方2000km以上、ロデニウス大陸からはおよそ北東1500kmです。
その後航空機による偵察でもってロデニウス大陸を発見し国交を締結しました。」
「コウクウキ、とは?」
「飛行機械と言った方がわかりやすいでしょうか」
「なるほど・・・」
飛行機械を持つ、つまり自分の見立て通り大日本帝国とやらはムーにも匹敵する力を持つのだろう。
そんな国家が新興国家として現れる筈もない、だいいちロデニウス大陸北東といえば群島が集まり海流の影響で探索もままならないような場所だ。
転移国家というのはじつに信憑性がある。まあメートル法を使っていたところは気になったが・・・
そしてそれほどの力を持ちながらクワ・トイネと「国交を結んだ」ということは、おそらくは──皇国とは違って──理性的な国家なのだろう。
「つまり我が国との国交の締結のためにいらしたと?」
「話が早いですね。その通りです」
「ならばここ第三外務局ではなく、第一外務局に向かっていただくことになります」
「割り込んで失礼します。貴国の外務局は三つに分かれているものと推察されますが、それはなぜですか?」
今まで会話から置いてけぼりにされてきた水村が発言する。まったく、うちの部下も見習ってほしいものだ。相手が列強並みになった途端に消極的になってしまっている・・・
「国家の格によって対応する外務局を分けているのです。此処第3外務局は通常、文明圏外国家との外交を担当します。貴国のような列強国並の国家との外交は、本来なら第1外務局の担当なのです」
「では我々は第1外務局に向かえば良いのですか?」
「それでもかまいませんが、どのみちまだ我々はお互い同士をよく知っているとは言えませんから、いきなり今1外に行ったところであまりうまいこと国交開設交渉がすすむとは思えません。もう少しここで話してからにしましょう。」
「私も丁度それを思っていたところです。
それにしても壮麗な都市ですな。いったい貴国はどれほどの植民地をお持ちで?」
・・・どういうことだ。クワ・トイネから情報を受けているのではないのか。わざわざ訊く意図は一体・・・・・・
「植民地、とはなかなか的を射た言い方ですね。ちなみに貴国は?」
「我が国は・・・2ヶ国、ですかね。」
おや、と思った。一体あれほどの艦隊を持ちながら、どうして属国が2ヶ国だけなのか?
「随分と少ないようですが・・・」
「仕方が無いでしょう。我が国は植民地の獲得競争に大幅に出遅れましたからね。元いた世界では、最も大きい国だと世界の大陸全てに植民地を持ち、日の沈まない帝国とさえ言われました。
まあ数だけでいえば貴国よりは少ないですがね。」
大陸全てに属国を持つなど、まさしく世界帝国ではないか。
一体どんな世界から来たのだ、この国は?
「やはり情報を持っているではないですか・・・・・・混乱させないでいただきたい。」
「73ヶ国というのは間違いないのですか?」
「その通りですが・・・」
「なら問題ない。裏を取るというのも、なかなか大事なことでしてね。」
「なるほど・・・そういえば、貴国はどういった国土を持っていますか?」
「本土のみだと面積は約380000㎢で、主に4つの島からなります。特筆すべきことといえば、水資源が豊富で火山と地震が多いことですかな。」
「・・・・・・そうなると、あの大量の艦は輸入品ですか?」
「いえ、あの艦隊に含まれている艦は全て自国産です。もっとも本土に居る艦隊もほぼ全て国産ですが」
島国だから海軍国家になるのは当然の話だが、いくらなんでもその国土面積で全て自国産となると・・・・・・よほど高い国力を持つのだろうか。
「・・・・・・不都合ならば構いませんが、その数はいくらでありますか?」
「・・・・・・私は海軍の人間ではないので、正確な艦数はわかりませんが…
200隻はいるのではないでしょうか」
「は?」
またしても間抜けな声を出してしまった。
だがこれはさすがに仕方あるまい・・・・・・はっきりいって恐ろしい。あのような鋼鉄船を、200隻も生産する能力を持つ国家とは、一体どんなものなのだろうか?
「・・・・・・貴国はいったい、どんな世界からやってきたのですか?」
「そうですね・・・・・・ひとことだけ申し上げておけば十分かと思います。
我が国は、全世界に7つほどあった列強国のうちでも、末席中の末席でした。」
「・・・」
もはや想像を絶する世界だ。考えるのすら恐ろしい。
「ところで、先程国交締結のため来訪したと言いましたが、別に今すぐ国交を結ぶという訳ではありません。双方から使節団を出す、などしてお互いをある程度理解してからでなければ、国交を結ぶのは難しい。
どうです?我が国は貴国の使節団の来訪を歓迎しますよ」
ほんとうに、終始相手のペースだ。これではこのまま情報交換を続けては一方的に情報を渡しただけだったということになりかねない。しかも向こうは、クワ・トイネ経由で情報を得ることだってできるのだ。
使節団を派遣するというのは、最善の選択肢に思えた。
「わかりました。この場で話しただけではわからないことだらけでしょうし、私は使節団派遣には大いに賛成です。ただしこの件は政府に掛け合う必要がありますから、正式な決定までには最短でも明日まではかかるでしょうが・・・」
「構いません。私共は、それまで市中見学でもして待ちましょう。」
とりあえずひと段落、といったところだろうか。
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嵐が去った後のような感覚になるが、どちらかと言うとこれからが本番だ。
あの大艦隊の手前とはいえ、プライドが天より高い皇国政府がすぐさま使節団派遣を容認するとは思えない。ひとつ間違えれば、最悪の場合交渉の白紙化ということもありうる。
重圧に押しつぶされそうになるのを耐えて、皇城へと向かう。
季節は既に春、心地よい風が皇都を吹き抜ける。すでに日本への対応についての帝前会議は始まっていた。
「第3外務局長カイオス、ただいま参りました。」
「うむ、かけたまえ。」
短く来訪を告げ、ルディアス皇帝陛下もそれに短く答える。
「さて、カイオスよ。早速だが日本についての情報を説明してくれたまえ」
「は。大日本帝国は我が国より2000kmほど離れており、国土面積は本土のみでは380000㎢です。その本土は四つの火山島からなり、水資源が豊富とのこと。」
「ほう、アルタラス王国の1.5倍ほどの大きさか。文明圏外の島国ということからするとそこまで強くはなさそうだが・・・」
「ちょっと待ってください。その地域には群島が点在するのみだったはずですよ?」
「順にお答えしましょう。まずアルデ司令、残念ながらその予測は極めて的外れというほかありません。
いまこの皇都の沖合に停泊している鋼鉄船を、かの国は200隻以上保有しています。
島国であるため海軍国家であることを差し引いても、この数は非常に多いものです。」
「ほう・・・」
アルデ司令官は微妙な反応だ。まあ数の上では我が海軍に負けているから、陸戦が専門の司令からするとそこまで脅威には思えないのだろう。
「そしてエルト第一外務局長の疑問についてですが、これに関してはなかなか信じがたい内容です。
かの国は、この世界とは他の世界から転移してきた、と主張しております。」
「なんだと?」
ザイラス宰相が眉を
「カイオス君は、そんな御伽噺を信じようというのかね」
「ですから信じがたいと言っております。」
「でも確かに、そう考えるのが一番合理的ではありますね。群島が集まって新興国家を形成したとして、いきなりあんな船を持ち出してこれるはずがありません。」
「だが、さすがにその仮定は無理があるだろう。いったいどうして国家ごと転移など起こり得ようか?
ムーの支援を受けた国家が、見栄を張るために輸入した艦隊をすべて差し向けてきたと考えるほうがまだ現実性がある。」
「その通りだ。だいいち第3文明圏に、我が国に勝る国など存在し得ない。」
アルデ司令が同調するが・・・はっきりいってその発言は理屈になっていない。
「皇国最強論」はやはり根強いようだ。
「ならば、それを確かめる為にも使節団を派遣すべきです。少なくとも私は、命を受ければ即座に準備し向かう用意があります」
「私もカイオスの意見に賛成です」
エルト局長の同意が得られた。だが──はたして皇帝の同意が得られるのか。
「何を言っているのですか!」
「リバン2外局長、随分興奮しておられるようですが、どういった異議が?」
「失礼、つい取り乱しました。
文明国との外交を担当する者の立場から言わせていただきますと、日本が強いか弱いかにかかわらず、文明圏外国にこのパーパルディア皇国が使節団を派遣するというのは、非常に重大な影響をもたらします。これをみて調子に乗り強気に出る文明国が増える可能性もありますし、とにかく国際的な我が国の立場が落ちるものと思われます。」
「ですが、だからといってあのような得体の知れない国家について詳細な情報を得られる重大な機会を逃すのは・・・」
「リバン局長の言うとおりだ。」
総員の顔が強張る。ついに皇帝が、直接的な判断を下そうとしているのだ。
「時にカイオスよ。我が国の支配にとって最も重要なものは何か?」
「は・・・
・・・恐怖、にございますか?」
「よろしい。ではその恐怖というのはどこから生まれる?」
「皇国の圧倒的たる力、そこから生まれる国威によって、であります。」
「その通りだ。では、その強弱如何に関わらず、我が国が文明圏外国家と対等に外交をする・・・するとどうなるか。そなたがわからぬはずはないな」
「は・・・。」
「使節団派遣は行わない。その旨を通達せよ」
「・・・承知いたしました・・・」
カイオスは重い気分で、命令に応じた。
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(・・・あやつらには、いま自分たちへ向けて砲口が向けられているという自覚がないのではないか)
はっきり言って狂った判断だ。所詮は文明圏外国、わがパーパルディアに対し砲を撃つ事などありえない──そう考えているのだろう。
一度首を縦に振りはしたものの、どうにかしてこのことを理解させなければならない。そうでないともし使節団を派遣しないにしろ、どうやって敵の攻撃を防ぐのかという策がないままに首都を蹂躙される危険性がある。そしてもし運がよく皇国が生き残っても、責任を取らされるのは外交担当者の自分だろう。
いまならまだ、間に合うはずだ。
「アルデ司令」
最高指揮官に声をかける。
「いったい何だ、カイオス」
「使節団を派遣しないというのはよろしいですが、その場合敵を知る機会を失います。
もしこののち日本が強硬な要求を出してきて、皇国がそれを拒絶した場合。皇都があの船によって砲撃される危険があります。
その場合、未知の敵に攻撃され何の策もないとなると我々に多大な損害が出ることは間違いありません。
司令はその点について、どのようにお考えですか。」
たとえはぐらかされても、納得のいく回答が得られるまで問い詰めるつもりだった。
しかし────
「貴様の考えはまず前提から間違っている。
文明圏外国家がムーの艦船を輸入したのだとして、いま沖合に浮かんでいるほどたくさんの船を輸入できるとは思えん。第一ムーにそこまでの余裕はないはずだ」
「ならば」
「つまり、あの沖合に浮かんでいる船のほとんどは張りぼてだ。実際にまともに戦える船は半分以下だろう。その程度なら、わが艦隊でどうとでもなるはずだ」
「なっ・・・」
皇国に蔓延る楽観的風潮を甘く見ていた。たしかにそう考えれば、大したことはない。
だが、仮にそうだったとしても、そのことを確認するための調査をしないままというのは、あまりに危険すぎる。
「では私はこれで失礼するぞ」
後に一人残され、カイオスは暫くただ茫然としていた。
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「随分早かったですね」
もっとも、相手の顔色からなぜこんなに早かったかは察している。
「ええ・・・
結論から申し上げます。我が国は貴国への使節団の派遣を、行わないことに決定いたしました」
「やはりですか・・・願わくば貴官がほかの外交担当役と交代しないことを願います。」
「どうでしょうか、それはわかりません・・・」
「さて、では第一回の交渉はこれで終了ということになりますね。」
「甚だ不本意ながらその通りです。」
そう。使節団が派遣されないということは、相手はこちらと交渉する意思がないということ。
ふつうは引き下がるほかはないのだが、今回はわざわざ艦隊を持ち込んでいるのである。力づくでも何らかの成果を上げねばならない。
「では、最後に少しだけ。
この付近に、大砲の着弾実験場として適当な場所はありますか?」
「・・・・・・」
カイオスはいよいよ危惧していた事態が迫りつつあると思った。
まさかあの皇国最強論者たちが、文明圏外国に兵器性能実験場をわざわざ提供するとも思えない。
だが、提供できなければ最悪国が亡ぶ。
「我が方の船の実力を示せば、強硬派も納得するのではないでしょうか?
もっとも、提供が得られなかった場合、こちらの方で
(なんだと・・・)
自分の双肩に、この街、この国の存亡がかかっている。
今すぐにでも意識を手放したくなったが、それは許されない。
「・・・わかりました。善処します」
「賢明な判断を期待します。」
重い足取りで、席を離れた。
だが──
「戦争が始まった?冗談じゃないぞ」
皇国の運命は、結果的には首の皮一枚でつながった。
『叭国派遣艦隊はただちにマイ・ハーク港へ急行せよ』
戦乱多きこの世界の
第一の関門。どうやって砲艦外交をしたうえでパーパルディアと戦争ができるようにするか。
A.上層部をとことん阿呆にすればいい
原作再現したかったとはいえ、今にして思えばチョット無理があった気もする。
一話にまとめたらあわや一万字。だいぶ難産でした。
そしてやっと次回から戦争だぁ・・・長い。
次回:第一章開幕
『開戦』
──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。