陽の昇りたる異界、星落とされたる覇者   作:C6N2

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次回から戦争とは言ったが次回から戦闘とは言っていない()

本シリーズにおける日本陸軍の初登場。



第一章 盧宇利亜事変
第七話 開戦


時間は遡り、1639年3月29日。

ロウリア王国の王都ジン・ハーク、その中心に位置するハーク城にて、御前会議が開かれていた。

 

 

「ロウリア陛下、手筈は整いました。」

 

「将軍パタジンよ。二国を同時に敵に回して、勝てるか?」

 

「は。確かに二国ではありますが、一国は農民が集まっただけの貧弱国家、もう一国に至ってはただの不毛な大地です。負けるはずがございません。」

 

自信たっぷりに答えるパタジン防衛騎士団将軍。

 

「となるともっとも気になるのは、去年に接触してきた日本とアメリカとやらいう国だな。

アクロー宰相、何か情報はないのか?」

 

日本とアメリカは、接触こそ行ったものの、クワ・トイネと国交を結んでいることから潜在的敵性国家と見做され門前払いを受けていた。

 

「日本はクワ・トイネから北東約1500kmほどの場所にある新興国家です。商人たちの話によれば少々高い技術力を有するようですが、新興国家であることと距離が遠いことからしても大勢に影響はないでしょう。

アメリカに至ってはもはや位置すら判然としません。一説によれば10,000km離れているとのことですが・・・それならばますます影響があるとは思えません。

しかも彼らは、我々のワイバーンを見て初めて見たと言っていました。竜騎士の存在しない蛮族の国である可能性が高いです。

すなわち、この2国の存在はとくに気に留めるべきものではないといえます。」

 

ワイバーンの航空支援が受けられない軍隊は、総じて貧弱である。

対空バリスタでさえ命中率は2%に満たないのだ。陸上からのみではワイバーンの跳梁を止められず、なすすべなく崩壊する。

 

「そうか・・・。

我が計画を邪魔するものは誰もいない。ついにロウリアの悲願が叶うと思うと、私は本当に嬉しいぞ」

 

ロウリア王国は、もともとこの地の支配者だったエルフ族やドワーフ族などの亜人を排斥し、人間が中心の国家を作り上げたという歴史がある。そのため亜人の国たる隣国クワ・トイネ、クイラの併合は、先祖代々からの悲願だった。

しかもハーク・ロウリア34世の親たるハーク・ロウリア33世は、クワ・トイネとの戦争で命を落としたのだ。その仇討ちという意味もあった。

 

「大王様。統一が成った暁には、あの約束もお忘れなきよう・・・クックック・・」

 

真っ黒なローブを身にまとった男が、気味の悪い声で大王に囁く。

 

「わかっておるわ!!!」

 

思わず怒気をはらんだ声で言い返す。

 

(文明圏外の蛮地だと馬鹿にしおって・・・!クワの連中を下したら、次はフィルアデス大陸に攻め込んでやるぞ・・)

 

「将軍、作戦の概要を説明せよ」

 

「は。今作戦に用いる兵力は総勢50万、うち侵攻に用いるのは40万で、残りは防衛用となります。

まず、クワ・トイネとの国境からほど近いギムを強襲、これを占領します。なお兵站についてですが、かの国は家畜ですらうまい飯が食えるほど畑ばかりですので、数十万の大軍であっても現地調達で賄うことは十分可能でしょう。

ギム制圧後は、首都クワ・トイネとの間を阻む城塞都市エジェイを10万の兵を以て包囲します。奴らの駐屯兵力は3万、包囲を打破する術なく、飢餓地獄か降伏かの2択を迫られることでしょう。

あとの兵は首都クワ・トイネまで一気に侵攻し、物量を以て制圧します。少ない総兵力5万のうち3万をエジェイに配備していることからわかるように、彼らはエジェイの防備に固執するあまり首都のほうが脆弱になっています。我が国の(パ皇から輸入した)優れた攻城兵器をもってすればひとたまりもありません。

航空兵力については我が国の竜騎士で数的にも対応可能です。

 

陸からの侵攻と並行して、海からは4000隻の大艦隊でマイハークへ上陸しこれを制圧、経済都市も抑えればもはや奴らに抵抗する術はありません。

 

クイラ王国については、クワ・トイネを落とせば一瞬で干上がるので問題外です。

 

クワ・トイネの戦力は、先程も言いましたが5万人。即応兵力は1万にも満たないでしょう。小賢しい作戦も、この圧倒的兵力を以てすれば無意味と化します。」

 

「戦いは数、とはよく言ったものだな。しかし、本当によく練り込まれた作戦だ。こんなことを言ってはなんだが、クワ・トイネがどうすればこれを食い止められるのか、全く思いつかない。」

 

「有り難きお言葉にございます。しかしこれも、王が6年間もの間苦心して整えた兵力のお蔭です。ついにその努力が実を結ぶのです。」

 

そう。今回ここまでの兵力を用意出来たのは、王が国民に協力を乞い、重い税を課し、挙句パ皇からの屈辱的要求を呑んでまでして協力を得るという、正しく国家を賭けた準備の賜物なのだ。

それがついに、ついに実を結ぶ。

 

「そうか・・・フフフ・・・ははははは・・・・!!」

 

側近達は一瞬驚くが、なんのことは無い。ついに悲願が叶うことを、心の底から喜んでいるのだ。

 

「今宵は我が人生で最高のひとときだ!

余は、クワ・トイネ、クイラとの戦争を許可する!

開戦は2週間後だ!各員一層奮励努力せよ!」

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ─────!!!

 

王城は喧噪に包まれた。

 

 

 

──────────────────────

 

「───と、言うわけで、現在我が国はロウリア王国の侵攻を受ける可能性が高い状態となっています」

 

「・・・・・・なんと・・・・・・」

 

知らせを受けたクワ・トイネ対応部署の伽内は絶句した。

今や日本経済にとって、クワ・トイネとクイラ両国の存在はなくてはならないものとなっている。米国に旨みを大幅に取られてもなお、支那事変始まって以来不安定だった景気を回復させたこの国の存在は、あまりにも大きかった。

言ってしまえば、中国のようなものだ。まあ流石に4億の巨大市場には及ばないが、反発運動などは一切なくそれどころか技術格差がありすぎて(少なくとも製品については)有り難がられる始末。

政治体制がしっかりしているから治安も悪くない。さらにクイラ王国には恐ろしいほどの資源が眠っていた。

 

今こうして衝突寸前だった日米関係が正常に戻りつつあるのも、言ってしまえばロデニウスというパイの分割によるものである。当然そのパイをさらに大きくするべくロウリア王国の取り込みも画策されたが、門前払いを受けた上に治安もあまりよろしくないとの情報を受けたため日米どちらも躊躇していた。

 

そんな時に降って湧いたこの事態。ロウリア王国を合法的(?)に植民地化するには絶好の機会と言える。

しかし如何せん───唐突すぎた。

 

「取り敢えずこの件は急いで本国に伝達し、迅速な対応を求めることとしますが・・・・・・

開戦の時期はいつになりますか?最後通牒の内容は、どう言ったものでしょうか」

 

言ってから、しまったと思った。

 

「最後通牒・・・?」

 

中世の国家間のやり取りに、条約などというものは存在しない。失念していた。

 

「なんでもございません。侵攻の時期は予測がついているのですか?」

 

「今はまだ侵攻される状態にはない、と言えます。敵は現在、兵士を集結させようとしている段階だからです。

ですがおそらくそれは1週間と経たず終わるでしょう。その後は、いつ侵攻されてもおかしくありません。」

 

「なるほど・・・」

 

これは、よほど急かさないと初動に間に合わない可能性がある。外務省独自の避難令の発令も視野にいれるべきか・・・

ついに来る、日米にとって異世界初の戦争に向けて、伽内は思考を回転させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

南国の生ぬるい風が荷台を吹き抜ける。

それだけでも、この微妙な熱気が漂う中の行軍にとってはありがたい。

 

「やっと見えてきた・・・」

 

声がした。振り向くと、地平線上にうっすら市街の影がある。たちまち兵たちから安堵のため息が漏れた。

遙河大尉もそれに倣ったが、内心ではあまり良い気分では無い。こんな状態でギムにたどり着いても、まともな戦闘ができるのだろうか。

 

 

今回の事態においては、ロデニウスに駐留する第二十五軍隷下の第十八師団麾下、歩兵第三十五旅団(第一二四連隊、第一一四連隊)を川口支隊として派遣することになった。

 

だがどうにも、軍にしては動きが早いような気がしていた。

 

外務省から直接伝達がなされたのが四日前のことだ。師団長の牟田口中将は大本営命令があったといっていたが、東京がそんなに早く決断するとは思えない。クワ・トイネとの間で防衛協定が結ばれているとはいえ、相手は中世国家。普通なら戦力の出し惜しみをしそうなものだ。

第五師団の辻中佐が関わっているという噂を聞いたこともあるが・・・真偽は定かでない。

 

ともかく、急に決まったものだから完全に準備不足なのだ。陣地構築のための機材も十分とは言い難い。

 

「移動するまではいいかもしれんが、そのあとが大変だ。後続の本隊が間に合わなかったら先遣隊たる我々だけで戦闘しなければいけなくなるかもしれんのだぞ」

 

「銃を持っていない中世の軍隊など鎧袖一触ですよ。といっても弾数は限られていますから、弓兵を優先的に狙って、弾がなくなったら銃剣で戦うしかありませんが、槍兵に気を付ければ十分戦えるでしょう。どうしても敵の数が多いなら遅滞戦術で本隊の到着を待つしかないでしょうが・・・」

 

「まあ、そこは神頼みだな。敵さんの侵攻開始が遅いことを祈ろう。」

 

だがこの会話で、前々からの作戦に気を遣う雰囲気づくりがある程度うまくいっていることを確認する。今度こそ、少しだけだが安堵できた。

 

 

 

 

──────────────────────

 

「明日だ。明日、ギムを落とすぞ」

 

東方征伐軍先遣隊3万の指揮を執るパンドール将軍はそう言葉を発した。

 

先遣隊3万の内訳は、歩兵2万、重装歩兵5000、騎兵2000、特化兵(攻城兵器等、特殊任務に特化した兵)が1500、遊撃兵1000、魔獣使い250、魔導師100、そして竜騎士150である。

 

恐ろしいまでの()()()()であった。情報によれば高々3500程度のギム駐留軍に対して驚くまでに圧倒している、というだけではない。

ロウリア王国の国力から考えたら、先遣隊にここまでの戦力を割くことは不可能なはずなのだ。パーパルディアの支援があったという噂もあるがさておき、何らかのからくりがあるのは間違いないだろう。

何れにしてもパンドールは、この圧倒的戦力に満足していた。自国の圧倒的優位のもとで行われる戦争ほど素晴らしいものはない。

 

「ギムでの戦利品は如何致しましょうか?」

 

副将のアデムに話しかけられる。

 

───質問の形をとってはいるが、これは実質的な要求だった。彼は王国一の残虐さを持つとも言われており、占領地での横暴は敵どころか味方も震え上がらせるほどだという。

今回も、占領したギムで残虐の限りをつくすのだろう。しかも彼は魔獣使いであるから、彼の行動を制限するようなことを言えば命が危ない。

 

「副将アデム、君に任せよう。」

 

「かしこまりました」

 

すると彼は振り返り、部下に命じた。

 

「全軍に知らせよ。ギムでは、略奪を咎めない、好きにしていい。ただし、女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。一人も生きて町を出すな。」

 

「・・・はっ!」

 

残虐とはいえ、兵にとってはなかなか面白い通達だ。亜人に慈悲などいらない。そう考えればこの命令は、そこまで非道なものとも思えなかった。

 

だが。

 

アデムの次の言葉で、部下の考えは吹っ飛ばされた。

 

「いや・・・・・・待て。

嬲ってもいいが、100人ばかり生かして解き放て。恐怖を伝染させるのだ。それと・・敵騎士団の家族がギムにいた場合は、なるべく残虐に処分すること」

 

「は・・・はっ!」

 

恐ろしい命令だ。この副将、少なくともその心は人間のものではない。

そう思いながら天幕を飛び出し、命令を忠実に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、4月12日。

 

ロウリア王国東方征伐軍3万が(とき)の声を上げ、堰を切ったようにギムへ雪崩れ込む。

 

ちょうどそのとき、川口支隊はその機材を移転し終わり、ようやく陣地構築に取り掛かろうとしていた。

 

異世界での日本軍の初陣は、少々不利な状況で幕を開けることになる。




後半の師団連隊云々は超☆付け焼き刃なのでたぶんガバガバ。ちなみに戦闘シーンはもっとガバガバだと思う。指摘等よろしくお願いします。


この男、矢張り我意強く、小才に長じ、所謂こすき男にして、国家の大をなすに足らざる小人なり。使用上注意すべき男也

-第二十五軍司令官・山下奉文中将の日記より-



次回:異世界初の戦闘
『ギム攻防戦』



──この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。
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