Fate / Way of Last Faith 作:兵藤影虎
街で発生した事件の犯人とは
第十話「黒死—神の名を冠するもの」
魔力の風が吹き荒れ、そして、エーテルで組まれた霊体が現界する。
それは、圧倒的な存在感を放つ人ならざる者。英霊<サーヴァント>。
「お…おぉ!この威圧!この魔力!間違いない!この戦い、我々の勝利だ!」
黒いローブ姿の男が喜びの声と上げると同時に、周囲からも歓声が上がる。血と臓物に塗れた彼らの中には、泣き崩れるものすらいた。
「我らが神よ、今こそ神託を!」
男らは喜悦に満ちた顔で叫ぶ。暗闇の中に満ちる熱狂は最高潮に達しようとしていた。
「……良いだろう」
そう呟かれた言葉と同時、サーヴァントから黒い風が吹いた。その風を浴びた男達は途端にもがき、苦しみ始める。寸秒と経たぬ内に、血にまみれた祭祀場の中を動くものは誰一人としていなくなった。
「さて、お主の言う通り、証明して見せたぞ。」
サーヴァントがそう言うと同時に、祭祀場の奥の暗闇から歩いてくる人影。
「神を試すとは、良い度胸よな。」
「別段、試したつもりはなかったのですが…」
現れたのは一人の長身痩躯の男だった。
「まぁ、良い。我は今すこぶる機嫌が良い。貴様の無礼も、多少なら許してやろう。」
「それはどうも。有難いことです。」
そう言いながら、マスターはサーヴァントへと首を垂れる。まるでそれが当然の事であるかのように。
「サーヴァント・アサシン。ここに顕現した。まぁ精々、楽しませて貰うとしよう。」
「マスター、ジェーン・ドゥ。つまらないものを見せる気は毛頭ありませんよ。それなりに楽しませて魅せましょう」
嘗ては人と呼ばれていたものが散乱する闇の中、人ならざる二人は静かに嗤い合った。
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「んー…一休みしてたら…なんかこう、みんな目が怖いように見えるのは気のせい?」
前回の集会から1日と経たず、再び顔を合わせる聖杯戦争の参加者たち。だが、その中にクリーとランサーの姿はなかった。事前に強制ではないと通達されていたので欠席したのだろう。クリーはともかく、ランサー…アイフェはおそらく、他人と歩調を合わせることに意義を見出せないタイプの人種だ。彼女は他の参加者とはまた違う視点を持って聖杯戦争に参加しているのだろう。
「俺はいつもこんなんだけどな」
「…そっかぁ。いやー、怖かったよー。一瞬、皆に嫌われたのかなーって思って」
「さぁな。お前のことを良く思っている奴がいるかどうかは知らないが。」
「一部どっか行ったのが気になるけど、昨日の続きをする、って認識でいい?」
しかし、今はそんなことはどうでもいい。シンヴァと蓮のやり取りをしり目に、クリスがこの場に集った全員に向けて切り出す。時間をおいて思考が整理されたのだろうか、その目は鋭く一点を見つめていた。
「それじゃ単刀直入に聞こうかしら。」
そして、彼女は昨日一切の情報を落とさなかった男、ジェーン・ドゥを睨んで問う。
「そこの黒ずくめ。貴方のサーヴァントは何処?」
「ここじゃが?」
クリスの言葉に応じるように褐色肌の少女…アサシンのサーヴァントが焼き鳥を片手にジェーン・ドゥの頭上に出現する。
「貴女、昨日は頑なに出てこなかったけど、どこに行ってたのかしら?」
「昨日か?昨日の…いつじゃ?」
「私たち7陣営が集まっていた時間帯よ。今は一組どっか行ったけど。」
「まぁ、あれは昨日、一応の潔白を証明したからな。別に、今ここにいる必要もない。」
「アレですよ。夜中の0時以降っすね。」
「えっそんな面白い…おっと。重要なイベントがあったとは。」
まるで知らなかったという風に装うアサシン。いや、本当に知らなかったのかもしれないが、それを証明するものは何もない。
「深夜0時らへんじゃろ?それだったら確か、げぇむせんたぁ?とやらで下々と付き合ってやっていた筈じゃが。で、問いかけは終わりか?」
丸一日遊戯に浸れるとは、良い時代になったのう、などと宣うアサシン。確かに24時間営業のゲームセンターはこの街にも存在するが、本気で言っているのだろうか。
「監督役、あのサーヴァントについて、どう思いますか?」
「…その前にシンヴァさん。お願い出来ますか」
「ん、はーい。それじゃ、行っとこうか。『貴方に才能を、私に恋を』…ベルちゃん、これで一心同体だよ…ありがと。私を受け入れてくれて。」
クリスからの問いかけに応える前に、ベルナデッタはシンヴァに能力の使用を要求した。それは以前春にも使用した、対象に「祝福」を与え能力を向上させるという異能。
それは、明らかな「戦闘準備」と言えた。
「それで、こっちからの質問は俺もこれで十分だと思ってるんだが。どうなんだ?」
「そうじゃそうじゃ~。質問は終わりなのか~?」
蓮の言葉に便乗するように、焼き鳥の串を玩びながら再び問い直すアサシン。そんな彼女を目の前にし、ベルナデッタ…鋼鉄の乙女が問いかける。
「アサシン。貴女の嫌疑が、今最も濃厚です。其れについて弁明は?」
「うん?何のことじゃ?」
「貴女が此の街で繰り返される事件の犯人ではないか、という事です。ジェーンさんからそれについて話は聞かされなかったのですか?」
「何故我がこれ以上アレの話を聞かねばならぬ。で、事件じゃったか?成程なァ…」
そう言ってアサシンはニヤリと嗤い、そして答える。
「まぁ、『我はこの街の人間共に手を下してなどいない』とだけ言っておくが、どうしてそれを聞く?」
「私は聖杯戦争の調停の為、聖堂教会より派遣された監督役です。そのルールに則り、秩序を乱す輩を処断する。」
「…つまらんのォ、お主。ここにいるのは全員殺し合いをしに来た連中ぞ?お主がルール云々を振りかざすのならば、全員を殺してしまえば良いだけの事。それなのに、何を確認しておるのじゃ?正義の名か?正々と暴力を振れる理由か?遺恨なく相手を殺すための心構えか?」
役割に徹するベルナデッタに対し、失望したと言わんばかりの表情を浮かべるアサシン。殺し合いに正道などない。殺すという意思があり、殺したという結果がある。ただそれだけの行為に、理屈を、理由を求めるなぞナンセンスであると彼女は言う。
「それとも、何かあるのか?お主の『願い』が。相手を殺すに足る理由が。他者の血を啜り、臓物をぶちまけ、それでも尚、戦う理由が。」
答えよ、とベルナデッタにアサシンが詰め寄る。
その様はまるで、『人が思い描く神』のようでもあった。
「貴女の論理は破綻している。貴女、ルールの存在を知っていたでしょう?」
だが、そんなアサシンに対し、ベルナデッタは真っ向から立ち向かう。
「貴女はルールを知って尚、事件を引き起こした。しかも、自分がルールに違反している事を理解し、それを隠し通そうとした。殺し合いにルール無用? 貴女がそれを言いますか?ルールに最も左右された貴女が!」
まるでアサシンが何者であるかを知るように、ベルナデッタは確信をもって指摘する。
「貴女の時代が如何であったのかは知りません。けれど、此処は『現代』です!現代の戦争にはルールがあり、ルールを破る者には裁きが下る!此の時代に迷い込んだ『異物』なら、此の時代のルールに従いなさい!」
力強く、ベルナデッタは宣言した。その言葉にアサシンは再び嗤い、そして己のマスターに語りかける。
「良くぞ吠えた小娘…で、これで良いんじゃろうな?」
「…えぇ、まぁ。十分でしょう。有り難うございます。」
「そうか。では、お主は下がっておれ。こ奴らは未だ話があるのじゃろうて。」
アサシンは一歩前に進み、この場に集う面々の視線を集める。マスターのジェーンはアサシンの指示に従い、その後方で待機していた。
「で、どうする小娘。もし我がお主の言うルールを破っていたとして、お主は何を以ってその正しさを証明する?」
再度、ベルナデッタに問いかけるアサシン。
「貴女が犯人なのは既に明確です。故に…こうします。」
この場に集った参加者全員に向けて、ベルナデッタは宣言する。
「褒章はありません。けれど、貴方達の築いた人理が、未来が、あの影法師により乱され、侵されようとしている。」
故に、と
「我が名、ベルナデッタ・エクレシアを以て!監督役として、アサシン『カーリー』の討伐令を下します!抑止の輪より来たれり、人理の防人よ!」
その言葉に対する反応は多種多様だった。
「という訳だ。オレはマスターの命令通りアイツを殺す。手伝いたい奴だけ残れ。」
純白のセイバー、トールが鉄槌を召喚し、構える。
「まぁ、何が正解だろうと、此処で1陣営を確実に落とせるなら何でもいいかなって私は思うんだけど。貴方はどう?ヒーラギ。」
「当然、あのクソ野郎に分相応ってのを教えてやるに決まってるだろ。」
「ずいぶん熱血入っちゃって。やっぱり聖女様を召喚するだけはあるわよね、貴方。」
「アホか、戦闘準備しろ。」
『戦闘準備?とっくに出来ているとも。』
「困っている方がいるのなら、やるしかありませんよね!」
弓騎同盟の面々も、準備はできていると、それぞれの獲物を構える。
「ついていくよ、ベルちゃん。私は祝福を与えた者…その人が輝く様を見たい。そんな輝きを、見逃したくないからね」
「ヤッチマエー」
「妖精さん…行こっか。怪我したら帰ってもいいからね。ちょっとだけ、手伝って」
シンヴァも己の魔術回路を起動し、臨戦態勢をとる。彼女の周囲を飛び回る妖精たちも、やる気満々と言った表情だ。
「…俺は静観する。ジェーンさんにも、他の全員にも加担しない。これは、ジェーンさんを信じ切れなかった俺の責任だ。」
そう言って春は浮かない表情のまま腕を組んで後ろに控える。謎が多く、胡散臭いと常々思っていたが、それでも同盟関係を結んだ相手がこうなってしまったことを残念に思っていた。
「…呼び起せ、星の息吹…空より下る、裁きの雷霆を…」
静かで、されどもよく通るセイバーの声が河川敷に広がる。それに応えるかのように、天が唸り声をあげ、黒い雷雲が立ち込める。それは2日目の戦闘でも発生した、セイバーの宝具が持つ権能、その予兆だった。
「ククッ」
そんな風に、臨戦態勢をとる参加者たちを前にして尚、アサシンは嗤った。
「いつの世も、どんな土地でも、人の想うことなど変わらんな。」
何処か遠くを見るように、アサシンは目を細める。
「…私、やっぱりここに来て良かったな。だって…こんなにも、みんなが輝いてる。」
そして、シンヴァの言葉を機に、戦の幕は切って落とされた。
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雷光が奔り、風が吹き荒れ、焔が舞う。
標的は黒い魔力を纏い、縦横無尽に戦場を駆け巡るアサシン。彼女は両手に持つ鋼の爪をもってそれらを躱し、逸らし、切り裂く。
2日前のような真正面からのぶつかり合いであればともかく、この戦争においてトップクラスの敏捷を持ち、回避に専念する彼女を捉えきるのは最強のセイバー・トールの力でも難しい。
彼女を捉えるために必要なもの…それは彼女を上回る『速さ』。
『いい加減待つのも飽きただろう?あの魂なら食べていい。行ってこい。』
クリスのサーヴァントが竪琴を奏でる。
直後、アサシンの頭上に召喚陣が出現し、そこから「三つ首の獣」が現れた。
「冥府の番犬か!」
直上に現れた魔獣の牙をギリギリで躱し、アサシンが反応する。
アサシン…カーリーは殺戮と破壊を象徴とする、インド神話の神である。その性質上、「死」の概念と密接に関わっている彼女は、聖杯から与えられた知識補正もあって、それに類するモノであれば他の神話体系であっても直感的に察することができる。故に、遠く離れた異郷の地、ギリシャ神話における「死の世界」の門番である魔獣・ケルベロスについても、彼女は一瞬で見抜いた。
『逃がさないよ。』
魔獣ケルベロスを操る楽士、ライダーの猛攻が続く。彼の敏捷はBランクであるが、この戦闘が始まるより前に彼は施しの聖女、アーチャー・ブリギットの宝具『歩く修道院(ウォーク・モナステリー)』の「施し」を受けていた。
その効果は対象の全能力値の1ランク向上。つまりライダーの敏捷は現在Aランクに匹敵し、アサシンの速度を上回っている。
「この世の摂理に挑んだ楽士とは、中々面白いものを呼んだものじゃな!」
ライダーの音楽魔術による攻撃がアサシンを襲い、視認できないはずの「音の刃」をアサシンは空気のわずかな揺らぎから識別して躱す。
直撃したところで、これ単体であればアサシンにとって大した脅威ではない。多少の裂傷は受けるが、それも魔力を通せば直ぐに治る程度のものだ。だが、要所で挟まれる魔獣召喚。これが厄介であった。
曰く、魂を喰らいし番犬の前ではあらゆる物理的守護が意味を成さず、それを止めるには魂を守る概念的な守護が必要となる。本来の霊基であればともかく、アサシンというクラスに押し込められた「今のカーリー」では、魔獣の牙を止めるだけの魔力を用意することは困難であった。
今はまだ躱せてはいるが、ライダーの音楽魔術を受けて体勢を崩したところにあの魔獣を召喚されればひとたまりもない。この場に限って言えば、アサシンにとって己よりも早く動き、己に対して有効打を与えられるライダーとの相性は最悪と言えた。
故に、この男が動く。
「我が主に令呪を以って奉る!」
ジェーンの右手に宿る令呪が輝きを増し、アサシンに力を与える。
使用された令呪は…「三画」
「さっさとラーメン屋行きましょう、ラーメン屋!」
「はっはっは!任せるが良い!」
信者の祈りを受けて、戦神の名を冠する少女が、その権能を解放した。
「枯れよ、枯れよ、枯れ落ちよ。意志も願いも想いも超えて…ヒトよ、我に証明して見せよっ!──『蓮華よ、枯れ落ちろ(パドマ・フィー・パンフディーヤ)』!!」
それは宝具の解放。黒い魔力が呪詛となって迸り、戦場となった河川敷を塗りつぶす。
立ち込めるのは強烈なまでの死臭。河川敷に生えていた草木が、河に住み着いた小魚の群れが、その命を「枯らし」、絶命する。
当然、その場にいた聖杯戦争の参加者も例外ではない。
「これは…!?」
「ぐぅ…!」
「シヌゥー…グハァ」
アサシンの宝具、それは範囲内にいる対象に「死の病」を付与し、衰弱させ、己の力へと転じさせるというもの。耐性の無いものが受ければ即座に死亡し、耐性を有している者であっても時がたつにつれてその寿命を縮めていく。その上、令呪3画を用いて発動されたそれは英霊ですらレジストするのは容易ではなく、あのセイバーすらも宝具の直撃を受けてその表情を歪ませていた。
「いい具合に決まったようじゃな。」
「えぇ、では。」
己の宝具が十全に効果を発揮したことを確認したアサシンとジェーンは…
「では、さらばだ!雷の武神と冥府の楽士よ!次は精々泡でも用意してくるが良い!」
「ほら、いくぞ雇い主!」
そう言って呪いに苦しんでいた春を肩に担ぎ上げ、脱兎のごとく逃走する。
「っな…うわっ!」
「マスター!?…くっ、待ちなさい!」
アサシンの宝具の影響で碌に動けなかった春に成すすべはなく、そんな春を救うためにバーサーカーは病にむしばまれた体を意志の力で無理やり動かして追跡する。
『逃がすか!』
ライダーも追撃をするために音楽魔術を発動させようとするが、うまく魔力が通らない。アサシンの宝具を最も近くで受けた結果、彼の魔術回路が変調を起こしているのだ。いかに神性を宿し、冥府という「死」に満ちた世界を生き抜いた男であっても、令呪3画によってブーストされた呪詛を完璧にレジストするのは困難だったのであろう。時間をかければ解除できるかもしれないが、即座に追撃に移るのは不可能だった。
「…逃がした…かぁ…けほっ…」
シンヴァが苦しそうに呟く。風の魔術で遠くから援護していた彼女であったが、アサシンの宝具の影響か、顔色が青い。彼女が従えていた妖精も、彼女の肩の上でぐったりとしている。
「如何するよ? 戦と争いの神がまさか尻尾撒いて全力疾走とは思わなかったんだが。」
「…如何しましょう…」
アサシンの逃走は想定外だったのか、困惑の色を隠せないセイバーとベルナデッタ。彼女らも宝具の影響を受けたはずだが、本人の実力もあり、この場に残った他の参加者と比べて影響は少ないように見えた。
「面倒な事になったな…チッ、この程度…」
『ああまでやられて、逃がすのは気に入らないね。』
「ええい!体が重い!」
「大丈夫ですか?」
この場において最も症状が重そうなのはクリスである。もちろん、他の3人も相応に影響を受けているが、クリスと比べればまだ余裕があるように見えた。
「…あーあ…嫌だなぁ…みんなの輝きもっと見たいのに…」
シンヴァのぼやきが聞こえる。彼女の願い、その言葉の意味を理解するのは難しいが、少なくとも彼女は今回の結末を心から残念に思っているように見えた。
『…どうやらマスターに宝具による呪いは厳しそうだ』
「そりゃまぁ、ウチのみたいに特別鍛えてる奴じゃなきゃな…いや、鍛えても病に動じてないのはおかしくないか?」
「信仰があれば此の程度。苦痛には慣れています。」
「クリスさんは私が癒しましょう!」
『あぁ、任せるよ。まったく、アクスレピオスがいればこの程度どうってことはなかったんだろうけど、いない者を強請っても仕方ないね…』
「大丈夫ですよ、私がいますからね!」
これ以上の戦闘続行は難しい。この場にいる誰もが、同じ認識だった。
「お前らは如何する? 彼奴らを放置してもオレとしちゃ問題ないが。マスターは許さないだろうし、このままじゃ纏めてお陀仏だ。」
「あん?逃がすわけがないでしょあんなの。徹底的に追跡するわよ。」
青い顔をしながらもクリスがセイバーの言葉に答える
「追いかけれるの?」
「こっちもね、アサシンが怪しいのはわかってた。だから、さっき連中に連れていかれたバーサーカーのマスターと密かに使い魔で接触してたのよ。これまでのバーサーカー陣営の動きを見て、アサシンが怪しければこっちにつくだろうと考えてね。」
シンヴァの質問に対し、クリスは前日の仕込みについて説明する。元々はアサシンが犯人であるかを調べるために図った接触だったが、このような状況になったのであれば、また別の使い道もあるというもの。
「バーサーカー陣営に渡した使い魔から連中の位置を割り出して強襲する。連中はすでに令呪を3画切った。もう逃がさない。」
「当然だな。」
今にも死にそうな顔をしながらも、闘志だけは折れてないと言わんばかりに気炎を燃やすクリス。そんなクリスに肩を貸しつつ、蓮も同意する。
「まー、追えるなら追うか。漸く、戦も控えてるしな。オレはそれでいいぜ?」
「…そうだねー、できるのであれば、そうした方が良いかな…」
「連中の居場所を把握できたら連絡するわ…げほっ」
「じゃオレは帰るぞ。次の戦いに向けて英気を養っておかないとな」
「…私も。気分は悪いけど…私がここで立ち止まったら、私の在り方を私自身で否定しちゃいそうだから」
そんなクリスの言葉を聞いて、セイバーとシンヴァも協力を承認する。ただ、セイバーはともかく、シンヴァの言葉には何やら不穏な気配が混ざっているように感じた。
「…互いに生きてたら、また会おうね」
「死なないわよ。夢をかなえるまでは、死んでたまるものですか。」
自身の死を予期しているかのような発言をするシンヴァ。クリスはそんなシンヴァの発言を「アサシンの宝具によるもの」と捉え、答える。
「シンヴァさん。貴女は今、私と同盟を結んでいるのです。私は死にません、貴方も死なせません。そういう意味でなら…安心して下さい。」
「…うん、そうだね、ちょっと心配症だったかも。」
だが、シンヴァとベルナデッタの言葉から察するに、アサシンの宝具はあまり関係が無いようにも見えた。
「…あのアサシンをぶちのめすまで、くたばるんじゃないわよ?」
去り行くシンヴァとベルナデッタの背中に向けてそう言い放つと、クリスは崩れ落ちるように河川敷の地面で大の字になって倒れた。
「あー、これだいぶやばいかも」
「本当にやばそうなら、聖女様に頼むが?」
「そうねぇ…ぐふっ」
蓮の言葉に力なく応えながら、喀血するクリス。そんなクリスに向けてアーチャーが治癒の奇跡を施す。
「ありがとう…しばらくは礼装で先延ばしできるけど、早くどうにかしないとね。これ」
「無理するなよ。聖女様に見ててもらえ。」
「そっちこそ、無理して倒れるんじゃないわよ?頼りにしてるんだから。」
「これくらい…大丈夫だ…ぐっ」
そう言いながらも、蓮も自分の胸を抑える。クリスほどではないとはいえ、彼も相応のダメージを受けているのだ。大丈夫なわけがない。
そんな強がるマスター二人を治療しながら移動を始めるサーヴァント二人。普段であれば無駄口をたたきつつにぎやかな様子で拠点に戻るところだが、流石に今日ばかりは終始無言で歩いていた。