Fate / Way of Last Faith 作:兵藤影虎
冷たい夜風が吹き抜ける。金属同士のぶつかり合いにまぎれて、生々しい打撃音が深夜の公園に鳴り響く。
クリーによる魅了が解けて動けるようになった春は、全速力で彼女に駆け寄り、渾身の右ストレートを放つ。しかし、クリーは正真正銘英雄の血を受け継ぐ戦闘のプロフェッショナルである。治癒魔術をかじったとはいえ、素人が放つパンチなど受け流すのはたやすい。
「その程度?」
「…俺は、それでも、この在り方をあきらめない。」
渾身の拳を捌かれながら、なおもクリー相手につかみかかろうとする春。
だが、マスターへの攻撃を見逃すサーヴァントがいるはずもない。
「穿て、魔槍よ。」
影から再び槍が出現する。今度は春の足の甲を貫き、地面に釘付けにするかのように。この槍がある限り、春はその場から動けない。
そんな彼に対し、追撃の槍が放たれた。
「マスター!!」
春へと向かう槍を阻止すべく、ミナが射線に割り込む。だが、万全の状態であれば鬼種の剛腕をもってへし折ることもできたのだろうが、先のセイバーから受けたダメージのせいか、うまく腕を振るうことができない。
春に向かう槍を阻止することは出来たが、代償として彼女はさらなるダメージを負うこととなった。
「貴方も、対象。」
同じようにしてランサーの槍がセイバーにも放たれる。セイバーはそれを持ち前の対魔力と雷撃で打ち払うが、腐っても宝具による攻撃だ。完璧に止めることは叶わない。
「させない…『第七聖典(セプテム・エクレシア・サクラメント)』起動ッ!」
そんなセイバーの撃ち漏らしを、ベルナデッタが迎撃する。しかし、彼女の力では純粋に火力が足りない。
幸いにして今回はセイバーもベルナデッタも共に軽傷で済んだが、そう何回も防げるものじゃないと二人は悟る。
『…わかんない』
そんな戦闘を続ける彼らを見て…『彼女』は疑問を抱く。
『わかんない、わかんない、わかんない!なんで!出会って一週間もたってない人のためにそんなに頑張れるの!貴方は!』
もはや『彼女』にとって、春は理解できない存在となっていた。
なぜ、『私』のような存在に、こうまで命を懸けられるのかと。
「言ったって無駄だよ、俺だってこんなにボロクソ言われても止められないんだから!」
そんな『彼女』の言葉を、春はボロボロになりながら、クリーに対し我武者羅に殴り掛かりながら、それでも叫ぶように返す。
「ぐぉ!?…ああくそ!自分のバカさ加減に嫌気がさしてきたところだ!」
当然、クリーからの反撃を喰らって吹っ飛ばされる。むしろ彼がクリーに対して与えたものよりはるかに大きいダメージを、春はその身に何度も受けている。
「でもな!それでも!これが間違っているとは思わない!自分が死んでも、誰かのために身を粉にすることを、俺は悪だと思わない!」
土にまみれ、血反吐を吐きながら、それでも立ち上がり、青年は理想を追い求める。
「『友達の幸せを願う』!それが間違いだなんて…言わせるな!」
全霊を込めた、春の魂からの咆哮。
それが、最後の鍵となった。
『…この身に宿る2画の令呪を持って命じる!』
これまで聞いた事のないような強く、大きな声で『彼女』は吼える。
『自分の手でしか望みを手に入れられないのなら!』
魔力が吹き荒れる。それはまるで嵐のように。
『シンヴァの…あの子の『友達』を!守るだけの力を寄越せぇ!』
その言葉と同時に、すさまじい量の魔力の奔流が、「ランサー」に対し放たれた。
「…ツ、やる!」
術式など関係ない、純粋な魔力の放出。
洗練さの欠片もない、原始的な力技。それ故に小細工は通用せず、ランサーは対魔力とルーン魔術によって真正面から受け止めるしかなかった。
だが、2画の令呪によってブーストされたその一撃は、ランサーの防御を全て粉砕し、彼女にダメージを与える。
リャナンシーの宝具、その制約は「自身が祝福した対象を殺すこと」。
しかし、その対象である春を彼女は令呪を駆使して無理やり変更し、ランサーを攻撃した。
それは即ち、『彼女』が自身の殻を破ったということに他ならなかった。
『妖精さん、あの人に援護を!』
「やっと決まったのか。現代の女って奴はてんで面倒な。ま、殴られたら殴り返すさ!」
「ハル × シンヴァ コレコソワタシノノゾンダパライソ」
「いいから合わせろ!雑魚妖精共!」
リャナンシーは妖精に対して再びセイバーを援護するよう指示を飛ばす。
それを聞いたセイバーは、ランサーに対してミョルニルを振るった。
それは先ほどミナを吹き飛ばしたものと同レベルか、あるいはそれ以上の破壊力を秘めた一撃。
故に、クリーは迷わず令呪を使う。
「令呪をもって命ずる。あの一撃に耐えなさい!」
ランサーがミョルニルの前に無数の槍を召喚し、楯のように並べ、その一撃を受け止める。
令呪の恩恵もあって、大量の魔力が込められた槍は最終的に全て砕かれたが、ミョルニルの一撃を完全に防ぎ切った。
「はは、令呪か! 良いぜ、在庫全部使い切る迄やるだけだ!」
セイバーが獰猛に笑う。
闘争を、血が沸き立つような闘争をもっと寄越せと。そう言わんばかりに。
そんな一連のやり取りを眺めて、クリーはベルナデッタに問いかけた。
「ねぇ、答えて。教えて…これが、聖杯戦争なの?」
「…っ!…此れが、聖杯戦争です。覚悟ある者のみが残った戦場で、例え……『誰もが貴女を狙おうと』其処に…間違いは在りません。」
「…そう。」
これが聖杯戦争なのかと、しばし瞑目し、自問する。
数瞬の後、クリーは吹っ切れたように、ベルナデッタに向けて言い放った。
「ありがとう」
その言葉に、どんな意味が込められていたのか。その真意は解らない。
だが、迷いは晴れたと言わんばかりの表情で、クリーは再び臨戦態勢を取り、ランサーに指示を出す。
「ランサー、決めたわ!ここはフェアに…セイバーだけでも痛み分けに貶める!その後のことは知らない!私は聖杯戦争のこと、詳しくないから!だから!」
――全部、注ぎ込む!――
クリーの手に宿る2画の令呪が極大の光を放ち、そして消えた。
直後、ランサーの手に、これまでとは一線を隔すレベルの魔力が込められた槍が握られる。
「貴方の心臓…もらい受ける…ッ!」
ランサーは天高く跳躍し、魔槍を投擲した。
それは大英雄クー・フーリンが得意とした槍の投擲、その模倣。
遥か上空より放たれた槍はさながら真紅の流星のごとく、一直線にセイバーの心臓へと突き進む。
「面白え…マスター!」
「私だって、負けません!令呪を以て命じます、セイバー!『防ぎ切りなさい』!」
ベルナデッタの手の甲に宿る令呪が光を放ち、セイバーに魔力が送られた。
そして、セイバーの持つミョルニルから極大の雷が迸り、流星に激突する。
瞬間、世界から音が消え、視界がホワイトアウトした。凄まじい衝撃波を伴って、真紅の流星と、純白の雷光が真正面からぶつかり合う。
両者の威力は拮抗しており、聴覚と視覚が蘇った後も尚、火花を散らす。
永劫にも思えた激突。流星と雷光、軍配が上がったのは…
「仕留めきれなかった…」
「は、ははは!成程面白い、親父がケルトにルーンを渡した理由が分かるな!」
流星は心臓に到達することは無く、雷光はその流星の猛威から主を守り切った。
セイバーの一撃が、ランサーの一撃を打ち払ったのである。
「まだ!終わってない!」
「効かねえな!」
クリーは残った魔力をかき集め、指先からガンドを放つ。
だが、対魔力を有するセイバーに、シングルアクションの魔術が通るはずもない。
「意思の力じゃどうにもならない差ってモンを見せてやるさ。『人は、神には勝てない』!」
「マスターの私じゃ無謀かもしれない…けど、それは諦める理由にはならない!」
それが世界の摂理だとセイバーは言う。
だが「それでも」とクリーは叫ぶ。
まだ、まだ自分たちは負けてはいないと。
「令呪をもって命ずる…一度は諦めた俺達の夢に…もう一度手を伸ばしてくれ、ミナ!」
「はいっ!」
クリーの耳に、春達の声が届く。既に大量の魔力を消費したランサーに対し、令呪によるブーストがかかった鬼の一撃が放たれる。
それをランサーは手に持った槍で受け止めようとするが、槍の上から加えられた衝撃を受け止めきれず、勢いよく後方に吹き飛ばされ、地面を二転、三転と転がる羽目になる。
「…さすがに、キツイ。」
「恨まないでくださいまし。一度でも伴侶の信念を手折り、涙を流させたこと。本来なら幾度取り殺しても足りないのですから。」
「別に恨みなどない。これが聖杯戦争なのだから。」
そんなやり取りが行われる中、春はなけなしの魔力を絞り出し、己の拳に込めてランサーに殴り掛かる。だが、いくらダメージを負っていようと、ボロボロの素人が繰り出すこぶしを受けるほど、ランサーも甘くはない。
「くっそ!やっぱりもっと魔術の勉強をしとくべきだったな!」
「そうね。だから、こんな目に合う。」
再び、影から槍が出現し、射程内にいる者たち全員に襲い掛かる。だが…
『友達をこれ以上傷つけさせてなるもんか…!』
リャナンシーが飛ばした妖精が身代わりとなり、対象となった者たちへのダメージをカットした。
「シンヴァさん…!」
『…』
春がリャナンシーに感謝の目線を送るが、彼女は黙ってそっぽを向く。
まだ、春の顔を真正面から見るのは難しいらしい。
「宝具、開帳」
その時、空に雷雲が立ち込める。暗澹とした其の色は、吹き荒ぶ戦火を象徴するかの様に、セイバーの携える鎚から、天に向かって一筋の雷光が放たれる。
それはいつかの河川敷で見た光景、その再演。
「オレからの手向けだ。受け取りなぁ!『悉く打ち砕く雷神の槌(ミョルニル)』ッ!」
大地を揺るがす轟音と、眩い光。膨大な魔力を以て天に上った雷撃は、その規模を何倍にも膨れ上がらせ、敵対者に向かって降り注ぐ。
その雷光が向かう先は…ランサー。
「…今回は聖杯を得ることはできなかったか…しかし、私の願いは…」
もはや躱すこともできないのか。直上から降り注ぐ雷光を見て、己の敗北を悟った彼女は、悲鳴一つ上げることなく、そのまま飲み込まれた。
雷が落ちた地点から煙が立ち上る。
それが晴れるころには、既に彼女の肉体は『抹消』されていた。
「消えた、か」
雷光の主であるセイバーが、確信をもってそう告げる。
ランサーは、ここに敗北した。
「さて、お前は如何する? 傷付かなかったとはいえ、お前はオレを攻撃した。退かないなら戦意アリと見做し、オレがお前を殺す。」
光に飲まれ、消えていった戦友の残滓を眺め、クリーは心の中で感謝を述べた。
だがそれでも、まだ戦いは終わっていない。
「言ったでしょ。私は『身体(わたし)』を抹消しなければ先に行けない、と。」
再び、己の抱いた願いを口にする。
「最後まで抗うわ。不可能とわかっていても…誰も救ってくれないのなら、自分が救うしかないでしょ?」
そう言って儚げに笑う彼女は、魅了だとか、女王の血統だとか、そんなものは関係ないくらいとても…とても綺麗だった。
「…せめて死なないでほしかったが、それすら願いのために望まないんだろうな。」
『…全力で応えるよ』
クリーが望む最後の願いに応えようと、春とリャナンシーは構える。そんな二人の様子に満足した表情を浮かべ、クリーはこれまで積み上げてきたものを余すことなく使い切り、猛然と最後の突撃を敢行する。
狙うは流川春…「そのサーヴァント」
「えっ」
それが、誰の声だったのか、わからない。だが、クリーは迷うことなく残された魔力のありったけを、先ほど春がランサーに向けて行ったように…否、それよりもはるかに練度の高い一撃を、ミナに向けて放つ。
「…クリー・グローシー。貴女…」
「……はぁ、はぁ……はぁ」
そんなクリーの攻撃を受け止めながら、面食らったような顔で、ミナが問いかける。
いかに優れた魔術師であっても、英霊に対しダメージを与えるのは至難の業である。それを理解していないはずがないのに、何故クリーは、サーヴァントである己に殴り掛かったのか。
だが、息も絶え絶えで、下を向く彼女は、ミナの質問に答える気配はない。
「…せめて苦しまぬように…」
思うところはある。叶うのなら、このようなことをしたくはなかったと。
だが、ここで止まるのは彼女に対し失礼である。故にミナはボロボロのクリーを一度突き飛ばし、間合いをとり、そして渾身の一撃を彼女の心臓に向けてはなった。
それでも
「…ま……だ……」
「……執念…同じ女として、感服いたします。」
心臓に穴が開いている。
もはや致命傷なのは一目瞭然。
だが、残された魔術刻印か、あるいは女王の血が為す技なのか。
彼女は、倒れなかった。
「ひどば…じぶんのだめにじが…うごげない」
肺に血が溜まったせいか、もはやまともに話すことすらできない。
「ぞれば…どんな”だでまべでも…じぶんのじあわぜでじが…ない」
口の端から血を吐きながら、刻一刻と生気を失いながら、それでも彼女は折れない。
そんな彼女の様子を見て、誰かがつぶやいた。
頑固者め、と。
「ならば、疾くと消え失せるがいい。望み通りに。」
そんな「人間」に、引導を渡すのは「神」の役目であろうと、セイバーが前に出る。
「……っ待って下さい、セイバー!」
「断る。其れが彼奴の望みだ。」
そんなセイバーの声が聞こえたのか、クリーは…声もなく笑う。
「お前の在り方が勇士として認められたなら、またヴァルハラで会おう。」
虚空より落ちてきた一筋の雷により、クリーは全身を射抜かれた。
かつては求めてすらなかった魔性の美を振りまいていたであろう少女は、今や個人の識別すら困難な燃えカスとなる。
クリー・グローシー。女王の血に歪められた女は、戦いの果てに、死亡した。
「…クリー…さん…」
しばし、静寂が公園を支配する。もう「敵」はいない。
「……皆ありがと。私の…と言うより、『彼女』の在り方に付き合ってもらって。」
沈黙を破り、「シンヴァが」春とベルナデッタの二人に礼を述べる。
「…はい」
「気にしないでくれ。俺の我儘でもあったんだ…そういう意味ではミナに苦労を掛けてしまったな。」
「…そうだね、ミナさんもありがとう」
「褒められて悪い気はしませんが、こんな惨状はもう見たくはありません…。」
「そう…だよね…」
そう言って、シンヴァは顔を伏せる。
「ね、ベルちゃん。次私がこうなりそうだったら…なる前に私を止めてくれないかな…もう、みんなと…友達を、失いたくないんだ。」
「…それが、シンヴァさんからの頼みなら」
「ん…ありがと。」
祝福を与えるというのは即ち、今日のようなことがこれからも起こりえるということ。
そのたびに「友達」が傷つくことを、今のシンヴァは許容できなかった。
だから、もしも次が起きたときは止めてほしい…「終わらせてほしい」と。シンヴァはベルナデッタに依頼した。それが、最善だと考えて。
「えへへ、なんか、安心したらお腹すいてきちゃった。」
「…あなたも、お疲れ様でしたね。」
「私、絶対今日のこと忘れない。みんなは、本当の友達だって信じてるから。」
「だそうですよ、マスター。」。
「ああ…いよいよ生き残らなきゃいけなくなったな…。」
「…はい、そうですね。」
直に夜が明ける。今回も派手に暴れ過ぎた。後始末をしたいのはやまやまだが、これ以上この場にとどまっては流石に不味い。人が集まりだすより前に解散する他無いだろう。
「ね、もしよかったら、明日もまた会おう?いっぱい祝福してあげるから…だからその、絶対生きて…」
「そうだなぁ…死にたくねえなぁ。」。
春の脳裏に浮かぶのは、弓騎同盟とアサシンを率いるジェーン・ドゥの姿。特にジェーンは必ず倒さないといけない相手だ。弓騎同盟についても、アサシン討伐のために結んだ停戦協定が終われば、手ごわい相手となるだろう。
あのケルベロスによる攻撃は脅威だ。真っ向勝負になったら、セイバーの宝具であっても勝てるかどうか怪しい。
「今回の一件で随分と消耗してるし、できるだけ回復しておいてくれ。さすがにこっちのリソースまで消費してやれないが、かといって今、君たちを失うのも困る。」
「ッハ!施しなんざ貰うかよ、貢物なら貰ってやらんことも無いが!」
「…私には割とギリギリ、満身創痍に見えるんですけど…」
「はは…アサシンの首でも持っていってくれ。ジェーンさんはともかく、彼女はもはや擁護できない。」
「私も、あの人は許せないかな。友達をここまで苦しめてるんだし、ね。」
「あぁ、彼奴は悪くない。戦神の首、持って帰ればまた一つオレの最強が証明される。」
そんな穏やかなやり取りをしばし続け、そして解散となった。春達は自宅へ。ベルナデッタとシンヴァは拠点としている教会へ。
そんな帰り道の途中、シンヴァがベルナデッタに切り出した。
「…ベルちゃん、その…」
「? 何でしょう」
「…その、さっきはああいったけど…もし、リャナンシーがまたあの衝動に呑まれたら…私が全力で抑え込む。でもそうなったら、ベルちゃんとは一度お別れ…になるかな。一度ベルちゃんの前から姿を消さないと、その衝動は抑えきれなくなる」
「……」
「だから、任せるよ。飲まれる前に私を殴り飛ばすか…飲まれた私が逃げるのを見るか、そういうところは」
「…はい」
「…ありがと。それじゃ…私たちもちょっとやすもっか。流石に…疲れちゃった」
「ええ、そうですね…もし良ければ、教会式の回復食でも作りますよ。私が任務終わりに、毎回食べてるものです」
「あ、食べたい!…えへへ、楽しみだなぁ…」
そう言ってベルナデッタに振り向いたシンヴァは、満面の笑みを浮かべていた。
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私は最後まで殺意を向け続け、足掻いたうえで殺されようと思った。
それは、死滅という手段で現実(ぜつぼう)を抜け出す私の最後の悪意。
それは、現実を知らぬ理想主義(ゆめみがち)な男へ向けた八つ当たり。
雷神が私に力を向けているのに気づき、やっと終えることができると私は確信した。
無責任に生かしてもらえずに済んだことに安堵する
――ただ、やっぱり普通の女の子になってみたかったわ――
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それが此度のマスターの末路。彼女は私の刹那(きおく)に刻まれる。いつか忘却するその刻まで、彼女との現世の日々を、影を用いて再現するのも悪くないだろう。
「マスター、あそこにあるのはなにかしら」
「――」
「タピオカミルクティー?知らないわね」
誰もいない夢幻の狭間で、今日も私は微睡みに浸る。いつか「至る」その日まで。
ランサー陣営 脱落