Fate / Way of Last Faith 作:兵藤影虎
第十六話「決戦—Fatal Battle」
「…あ」
漆黒の獣、その顎が迫る。
それを見て、ここが終着点なのだと理解した。
万全であったなら、別の要因があったなら。そんな「もしも」を考える。
だが、獣の牙は止まらない。狙った獲物を逃すことなく、確実に喰い殺すだろう。
「…ここまで…」
彼女は死を受け入れた。ただ一言、遺したかった思いを言い切る前に。
獣に噛み砕かれたその肉体は、原型を留めることなく鮮血をばら撒き、飲み込まれる。
(…私を大事に想ってくれて、ありがとう)
意識が途絶えるその刹那、そんな独白を心で呟き、彼女はその存在を消失させた。
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「…来て下さった様ですね。」
「逃げる理由がないもの。」
そう言葉を交わすのは、ベルナデッタ・エクレシアとクリスティーナ・エヴァンス。
二人がいるのは以前、新月の夜にランサー・アサシン陣営を除くすべての参加者が集まり、会談した橋の上。
彼女ら以外の面々も、ここに再び集結していた。
「私が目指すのは勝利よ。戦いを前に、逃げることなんてしないわ。」
「ま、そういう事だな。」
『そうだね。たとえ何が立ちふさがろうとも、この戦いに勝利する。』
「はい、頑張りましょう!」
此方の準備は万端だと宣言するは弓騎同盟の四人。
アサシンが消滅したことで病が解除され、調子を取り戻したクリスが口火を切り、そこに蓮とライダー、アーチャーも続く。
「っは! その割には、キルカウント取ったのは俺らばかりだがなあ?」
「それでこっちが消耗したのも事実だけどね。それも戦略、って言われたらそこまでだけど…私たちも、負けたくないから。」
戦意十分な対戦相手に対し気分が高揚している様子のセイバーと、相槌を打ちつつ戦況分析を行うシンヴァ。
反応の程度に差はあれど、勝利を目指すという目的は共通している。その目には弓騎同盟の面々にも引けを取らないほどの闘志が宿っていた。
「相変わらず、あっちの雷神様はあらぶってるな。別に俺達も戦いたくなかったわけじゃないんだが。」
『まぁ、せいぜい油断すると良いさ。その隙に彼らの喉元を食い破るとしよう。』
呆れたように言葉を紡ぐ蓮と、セイバーをピンポイントで挑発するような気配を見せるライダー。
やはり神という存在に対し特別な思いがあるのだろう。そんなライダーの感情が見え隠れしていた。
『今日、この場で、この戦争を終わらせる。』
「それはこっちのセリフだよ。そのつもりでここに来たんだから。」
「その通りです。今はまだ隠蔽に成功していますが、長引けば長引くだけ露呈の可能性は高まるでしょう…今は亡き彼らが起こした事件のお陰で、余計に。」
今回の聖杯戦争、派手な戦闘もそれなりにあったが、神秘の漏洩という意味ではやはりアサシン陣営の所業があまりにも致命的だった。少なくない数の一般人が行方不明になったことで、関係各所に影響が出始めている。神秘の秘匿を行いながら、これ以上戦争を行うことは、ベルナデッタが言うように困難であった。
故にこそ、彼女は参加者全員に声を掛けて、決戦の舞台を整えた。
今日、この場で、すべてを終わらせるために。
『…そう言えば、マスター。拠点を構えた日の夜、その時に交わした約束を覚えているかい?』
ふと、ライダーがクリスの方に振り向き問いかけた。それはアーチャー陣営と同盟を結んだ夜のこと。寝る前に自分たちの持つ装備を点検しながら交わした誓い。
「…貴方に聖杯を」
『そして、君に勝利を。』
短く、思い出すように、ライダーはあの時を同じ言葉を口にする。
『あの時交わした約束を、此処で果たそう…たとえ、何人が立ちふさがろうともね』
そう言って、ライダーは不敵な笑みを浮かべた。
必ず勝利し、マスターの未来を切り開かんと覚悟を決め、目の前の敵を見据える。
「…決めてくれるね、本当に。だけど、その約束もなかったことにしてあげる。私の全部を賭けて、ね。」
「来るなら来るで、叩き潰すだけだ。今からそれを証明してやるよ」
ライダー陣営のやり取りを見て、そんな感想を述べるシンヴァ。だが、その誓いは叶わないと、己の持つ全てを賭けて阻止すると、彼女は力強く宣言する。
好戦的なセリフをシンヴァに向ける蓮も、決戦という舞台の空気に中てられたのか、やや気分が高揚しているように見える。
「叩き潰すなんて、私そんな事出来ないですけど…あら?」
マスターの物騒な発言に対しコメントしようとしていたアーチャーが声を漏らす。その視線の先には、この場に集まった全員の視線を集めるように、一歩前にでる春の姿。
「…誓いを立てて奮い立つ前に、この五陣営で取り決めをしておきたい。」
深く呼吸を行い、落ち着いたところで、春は言い放つ。
「基本的に、マスター殺しはなし。サーヴァントが脱落したら、速やかに降参を宣言すること…」
それは理解できる。戦う意思のない人間をいたぶって、悦に浸る者はこの場には居ない。
「そして、できればそのルールを、シンヴァさんにも適用させたいと考えている。」
だが、そこから続いた春の言葉は、到底受け入れられるものではなかった。「それは通らないだろ」という声がそこかしこから上がってくる。
何より、名指しされた当事者自身が、その言葉に反対した。
「…ダメだよ春くん。それを適応すると、私は死ねなくなる…あの人たちが聖杯を手に入れるには私を殺さなくちゃいけないのに。」
「だとしても、だ。命を失えば、取り戻したいもの、手に入れたいものに対する埋め合わせすらできなくなる。」
シンヴァの言葉に対しても、春は真っ向から反論するが、シンヴァの意思は固い。
「でも、クリーさんみたいに、自身の力も使って聖杯を取りに行こうとする人が居たとしたら。その取り決めはその人の枷になってしまう。…そこまでして叶えたい願いがあるとすれば、ね。」
聖杯戦争という舞台に集う者たちは皆、大なり小なり願いを抱いている。それこそ、他人を犠牲にしてでも、叶えたいという者もいるだろう。そう言った者たちにとって、春の提案は足枷にしかならないと、シンヴァは言う。
『バーサーカーのマスター、君の理想は尊いものだ。それには一定の理解を示そう。だが、此処にいる者たちはすでに命のやり取りを覚悟している。それ以上の言及は無粋だとは思わないかい?』
「私もあまり、現世の方が黄金の杯のために亡くなるのは見たくないのですが…」
「そいつが決めた事なら仕方ないだろ。」
この場に集った以上、サーヴァントもマスターもその覚悟を済ませているとライダーは語る。アーチャーはそんなライダーの言葉に渋い顔をするが、そのマスターである蓮は個々人の意思を尊重すると言って、ライダーの言葉に理解を示した。
「…わかった…だけど、これだけはどうか約束してほしい。命を求めるものを追うな。せめて、生きようとしている者の命は奪わないでくれ。」
土台無理な提案だったと、彼自身思っていたのだろう。こうなることは予想できていた。
だが、それでも言わずにはいられなかった。もう人が死ぬのを見たくはないのだ。
『…やはり、此処にいる者たちは、魔術師に向いていないね。根が真っ当すぎる。』
苦渋の表情を浮かべる春に対し、そう評するライダー。
使い魔越しに春たちの動向を観察していたが、彼らはあまりにも「キレイ」過ぎる。
それは決して悪いことではない。理想を抱き、時に迷い、悩み、苦しみ、それでも前に進む。そんな「青さ」が彼らにはある。それそのものは好ましく思うし、真っ当な人生を歩むうえでは大きな武器となったであろうとも思う。
だが、この聖杯戦争という舞台に限って言えば、その「青さ」は重石にしかならないと、ライダーは考えていた。
「根っからの魔術師はもっと暗い場所で戦うものさ。」
『ご尤も。』
「と言っても、根がどうとかは関係ねぇ。自分が選びたい道を選んで、その結果がここに立っているということだ。」
そんなライダーの言葉を蓮が捕捉する。
行動には常に責任が付きまとう。選んだ道の先がこの戦いに続いているのなら、その責任は選んだ者自身が負うべきだと。
「…せめて、互いにとって得るもののある戦いになることを祈っている。」
もはや言葉は尽くしたと、春はそう言って元の位置に戻り、胸に手を当て、再び前を向いた。
「セイバー…いえ、雷神トール。私は既にマスターではありませんが…貴方の勝利を願います。私の願いの為に、どうか。」
「お前の願いぃ? …あぁ、アレな。いいぜ、オレ一人残ったら自害でも何でもしてやるよ。戦いにこそ意味があり、それによって生み出される戦果には興味がない。嵐の様に現れた雷霆は、人の身に神威の恐ろしさを刻み、やがていつの間にか還っていくのさ。」
ベルナデッタは己が呼び出したサーヴァント…否、北欧の雷神トールに希う。
セイバー…トールはそれに応じ、ミョルニルを構えて開戦の合図を待つ。
「そうだね。押し通させてもらうよ…!」
シンヴァは誓う。己の魂に、そこに宿るリャナンシーに。己の願いが叶う未来をこの手に掴むと、力強く。
『始めるとしよう。この戦争の、最終楽章を。』
「えぇ、存分に暴れなさい。」
ライダーが竪琴を奏で、魔獣を己のそばに控えさせる。
クリスも自身の作った礼装を構え、魔術回路を起動させた。
「しくじるなよ、聖女様。」
「はい!しっかりと楽士様を手助けさせていただきます!」
そう言って蓮も自身の「目」に魔力を込める。制御が難しい自身の異能。それが見せる光景を一瞬たりとも見逃さぬように。
アーチャーも、その手に持った十字架を胸の前に構え、まるで祈るようにして時を待つ。
「では…征ってまいります。」
そして、バーサーカー…ミナが、己のマスターに微笑をかけ、繋いでいた手をそっと放し、一歩前へ踏み出した。
ここに、決戦の幕が上がる。
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『番犬よ…猛り狂え。』
戦闘は、そんなライダーの声から始まった。竪琴から力強い旋律が奏でられ、その隣で佇んでいた魔獣に変化が現れる。元から大型のトラックほどのサイズだった魔獣の肉体がさらに隆起し、その身に赤黒い魔力が纏われる。その魔力がライダーにも伝播し、彼から放たれるプレッシャーが増した。これが、彼がライダーとして召喚され発現した宝具『番犬よ、猛り狂え』<セルべロス・ティモメーノス>の効果である。
それは契約した魔獣の魔力を賦活させ、パスを通じて契約者の魔力も増大させるというシンプルなもの。だが、シンプルであるがゆえにその効果は大きい。アーチャーによる支援宝具の恩恵もあってEXランク相当の魔力を有していた彼は今や、神殿を形成して魔力をため込んだキャスタークラスの英霊であっても比肩するのは難しい。
『さぁ、まずはこれから行こうか!』
ライダーが再び竪琴を奏でると、魔力を纏った音の波が刃となってセイバーたちに襲い掛かる。それは以前、対アサシン戦の時にも見せた音楽魔術の一つであるが、その出力は桁外れに上がっていた。セイバーは雷撃で、シンヴァは風魔術で、バーサーカーは呪術をもって相殺しようと試みるが、悪寒を感じて急遽その場から回避する。直後、大きな音を立て、彼らが立っていた箇所に巨大な斬撃痕が発生した。もしもその場にとどまっていたら、相殺しきれずにダメージを受けていたことだろう。
「成程、唯の一撃が既に宝具級、ということですか…」
戦況を分析するバーサーカー。だが、その声に焦りの色は無い。5日目の時点で彼女たちはライダーの真名を把握していた。ケルベロスに縁のある楽士など、人類史において一人しかいないだろう。故に、この場に集まるよりも前、春たちはベルナデッタとセイバー、そしてシンヴァを呼んでライダー・オルフェウスの対策会議を行っていた。
確かに彼の攻撃力は高い。ケルベロスの爪牙も強力だ。だが、所詮彼自身は唯の楽士である。彼の弱点、それは至近距離(クロスレンジ)による近接格闘だと、彼女たちは予想した。
であれば、とるべき手段は一つ。
『セイバーとバーサーカーはともかく、キャスターまで距離を詰めるのか…!!』
猛然と距離を詰める英霊三騎に対し、近寄らせまいと音の刃を放つライダー。その後ろでアーチャーも炎を投擲してライダーを援護する。
「させない!」
「コウナリャヤケダ!」
それらを迎撃するのはシンヴァと妖精たちだ。彼女の魔力も、今のライダーにこそ届かないが、相当な出力を誇っている。攻撃を逸らすことに専念すれば、やってやれないことは無い。
そして、シンヴァが作った道を、セイバーとバーサーカーが駆け抜ける。
「いつぞやの夜の続きと行こうじゃねぇか…なァ!」
「御覚悟を!」
『まだだ!』
ライダーが魔獣ケルベロスに二人を迎撃するよう指示を飛し、その牙がセイバーとバーサーカーへと向かう。だが、
「甘ぇんだよ、ケダモノ風情が!」
「遅い!」
セイバーは鎚を振るって、獣の顎をかち上げた。バーサーカーも、アサシン戦の時には発揮できなかった身軽さを活かしてケルベロスの攻撃をかいくぐる。
そして、セイバーがケルベロスを抑えているその間に、ついにバーサーカーがライダーに肉薄した。
『女性に手を上げるのは苦手なんだがねッ!』
「女子に優しいのは好印象ですが、勝負のためです!」
バーサーカーの連撃がライダーを襲う。それをライダーは躱そうとするが、その動きは素人のそれだった。身軽故に足の速いライダーであったが、相手を追いかけ、攻め立てるのであればともかく、フェイントを織り交ぜての殴り合いは不得手に見える。
『ぐぅッ…!』
「楽士様!?」
ついにバーサーカーの拳がライダーを捉えた。当りとしては決して深くはないが、見た目以上にダメージを受けているように見える。
脇腹に鋭く走る痛みに、その顔を歪めるライダーを見て、アーチャーが声を上げた。
(やはり、この人の弱点は格闘戦…!)
勝機は見えた。このまま間合いを詰め続け、相手に攻撃させずに、一方的に殴り倒す。バーサーカーはライダーから離れることなく、その剛腕を振るい続けた。
当然、ライダーも死なないために、その回避に集中する。だが、ライダーがバーサーカーにかかりきりになるということは即ち、シンヴァが自由になるということでもあった。
「愛の鉄拳パンチ…なんてねっ!」
『勘弁してくれないかなぁ!』
アーチャーの焔を風魔術でいなし、ライダーへと距離を詰めるシンヴァ。彼女のクラスはキャスターだが、リャナンシーの第二宝具の効果で筋力ステータスがB相当にまで上昇している。ライダーもアーチャーの宝具『歩く修道院(ウォーク・モナステリー)』によってステータスが底上げされているが、彼の元々の筋力ステータスはEランク。バーサーカーほどの差はないにしても、下手すれば致命傷になりかねない。
(これは…まずい!)
左右両サイドからバーサーカーとキャスターの拳が迫る。タイミング的に、ライダーの独力で躱すのは不可能だった。
だが、これは聖杯戦争。サーヴァントとマスターの二人組で行われる「チーム戦」である。
「『躱せ!ライダー!』」
クリスの手に宿る令呪が光り、ライダーを上空へと転移させた。それは、逃げ場のなかったライダーを生存させるために打たれた妙手。
『ナイスだマスター!』
「最高のバックアップ…私も約束、守らないとね!」
会心のタイミングでの援護。あの場においてはこれ以上ない一手を打ったクリスにライダーは感謝を告げ、クリス自身も小さくガッツポーズをする。
「そうだよなぁ…『そうするしかねぇ』よなぁ!!!」
しかし、彼らは読んでいた。
ライダーが飛んだ上空。そこには既に、ケルベロスを殴り飛ばして己の宝具に魔力を充填させていたセイバーが待ち構えていた。
「消し飛びなァ!『悉く打ち砕く雷神の槌<ミョルニル>』!」
極大の雷光が、ライダーに直撃する。
神話において数多の強敵を屠り、この聖杯戦争においても強敵を薙ぎ払ってきた雷神の一撃。直撃すれば致命傷は逃れられないセイバーの宝具。
『…あぁ、見事な一撃だ。なるほど神(理不尽)の名にふさわしい一撃だったとも。』
しかし、直撃を受けたはずのライダーは「無傷」であった。
『だが忘れていないかな?この身はかつて、冥府への侵入と脱出を成し遂げた存在であるということを!』
「冥府からの生還」。それは彼が生前、死者の世界から生きて脱出したという逸話から発現されたオルフェウスのスキル。
その効果は「死の拒絶」。一度きりのダメージの無効化。
彼にとっては、かつて果たせなかった使命の残滓にして後悔の象徴。だが、それを使ってでも成し遂げたい願いがあった。
『今度こそ、彼女を取り戻すまで…私は止まるわけには行かないんだ!』
「面倒くせぇ…が、残念だったな。」
戦局をひっくり返しかねない破格の能力。だが、そんなライダーのスキルに対してもセイバーは狼狽えない。
「それも『読んでいた』。」
「やぁあああああ!」
未だ空中にいて身動きの取れないライダーに対し、間髪を入れずバーサーカーが突撃する。ライダーの奥の手すらも、彼らは読み切っていたのだ。
ライダーの真名がオルフェウスであると当りを付けたバーサーカーたちは、ライダーが蘇生スキルか、あるいはそれに準じるモノを持っていると予想していた。なにせ、宝具に冥府の番犬を持ち込むような男である。此度の戦争で現界した彼が冥府に関連する逸話をベースに呼び出された存在であることは容易に想像できた。
オルフェウスという英霊は、一度殺すだけでは倒れない。最低でも二度、致命傷を与えない限り此方に勝利は無い。故に、セイバーの一撃でダメージ無効化のスキルを消費させ、バーサーカーで止めを刺す。これが、彼らが考えた対ライダー用の秘策であった。
「これで、詰みです!!」
アーチャーからの援護は間に合わない。
必殺の間合い。絶妙な頃合い。全てが噛み合い、バーサーカーからライダーに向けて、とどめの一撃が放たれる。
その時だった
パリンッ
甲高く、何かがわれるような音が、戦場に鳴り響く。
「…障…壁…?」
バーサーカーの思考に、一瞬の空白が生まれる。
一体誰が?目の前の楽士ではない。この魔力の感触は、もっと、別の。
―――此れは才のあるものが時間をかけてようやく作り上げられるもの―――
そこまで考えて、バーサーカーは思い出した。それは戦争が始まって4日目、参加者全員が集結し、街で発生した事件の犯人を捜していた日のこと。北欧の戦神であるセイバーが直接手に取り、その出来栄えを認めたクリス謹製の魔術礼装の存在を。
「(ライダーに…持たせていた!?)」
ライダー自身、己が格闘戦が苦手であることを重々承知していた。それに、三騎のサーヴァントから連続で攻撃を受けて、耐えられるだけの耐久力もない。故に、彼は事前にクリスから魔術礼装を借り受けていた。彼が望む最適なタイミングで、致命の一撃を防ぐために。
『君たちが、私の真名を調べ上げるだろうことは予想できた。そして、私に対する策を練り上げるであろうことも。』
弓騎同盟が結成された日の夜、ライダーは確かにこう言った。敵の目はこちらがひきつけよう、と。実際、バーサーカーたちはライダーの対策に力を注ぎ、必殺の布陣を用意して現れた。
だからこそ、この男はそこに罠を仕込む。全ては今、この一撃のために。
『君たちのことは嫌いじゃないよ。むしろ、好ましいとさえ思っていた。』
バーサーカーの直上に現れる召喚陣。それはアサシンとの戦いでライダーが使っていた、魔獣を呼び出す宝具。
『だが言ったはずだ…邪魔をするなら容赦はしないと。』
必殺のつもりで踏み込んだ間合い。この態勢で回避するのは不可能だと、バーサーカーは本能で悟る。
遠くから、春の声が聞こえた。だが、何を言っているのかよく聞き取れない。それでも愛する人の下に帰るため、この一撃を耐えようとバーサーカーは身構え…
「…え?」
トン、と横から突き飛ばされた。
目を向けると、そこには桜色の髪をなびかせたシンヴァの姿。
両手を伸ばした状態で、先ほどまでバーサーカーがいた場所に、彼女はいた。
「―――――」
直後、真上からケルベロスがその顎を開いて、シンヴァを飲み込む。
水気を含んだ咀嚼音と共に、その牙の隙間から真紅の血が流れ出た。
それを見てバーサーカーは察する。彼女は…シンヴァは、自分をかばって、魔獣に飲み込まれたのだと。
「シンヴァ、さ…………ん…………」
茫然と、ベルナデッタがシンヴァの名を呟いた。まるで親を求める赤子のように、両手を宙へと伸ばす。
しかし、その手が掴む物は何もない。
キャスターのデミ・サーヴァント、「No.3-シンヴァ」は魔獣に喰われ、死亡した。
キャスター陣営 脱落