Fate / Way of Last Faith 作:兵藤影虎
最終話「いつかたどり着く笑顔—Meet in the Future」
気が付くと、私は見知らぬ河を前に立ち尽くしていた。
夜空を吸い込んだ墨色の水面。見上げれば見慣れぬ鉄橋。他にも、私の生きていた時代にはなかったものがそこかしこに散見される。そこまで考えて、私は自分が何者なのかに思い至った。
私はサーヴァント。聖杯戦争という催しの中で召喚される、人類史に名を刻んだ者たちの現身だとか。
では、私を呼んだマスターはどこだ?
聖杯戦争においてサーヴァントを召喚し、契約した者はマスターと呼ばれるものになるらしい。つまり、サーヴァントとマスターは切っても切れない関係性、いわば伴侶のような存在なのだ。だが、私のそばにそんな人物の姿はない。
ふいに過去の光景が脳裏をよぎる。伴侶に見限られ、嫉妬と憎悪に駆られ、心の叫ぶままそれを吐き続けた、そんな私の姿が。
私に今更伴侶など、望むべくもないと嗤われているのだろうか。神様も酷なことをなさるものだと私は笑い、それがいつの間にか涙声に変わる。そこからしばらく、すすり泣いた。
そして涙が枯れたころ、目の前に広がる大河を見上げて思ったのだ。
ああ、これは、もう一度沈めということか。
マスターもない野良のサーヴァントが、いったい何の役に立つのか。居なくても支障はないだろう。ここで私が自ら命を落としたところで、聖杯は新たなサーヴァントを見繕うだけのはずだ。かつて鬼に変じた時は、なんだってやるという気概で臨んだものだが、今ではもうどうでもいい。
そうだ、私が悪かったのだ。
軽薄な男を捕まえた私が悪い。伴侶を誑かし、奪ったあの泥棒猫に腹いせなんぞを考えた私が悪い。何より、伴侶を支えるなどという淡い夢に、我が身をやつしたのが悪かったのだ。
私はもう、泣き疲れた。私は墨色の水底に、一歩一歩と身を沈めて
しかし、その歩みを止めさせた人がいた。
線の細い、私より幾分か背の高い少年が、私の肩をつかむ。
少年は、私を振り向かせて、きっと動転しているのだろう、支離滅裂な言葉をかけてきた。
「だめだ、死んじゃいけない!死んだら全部終わりだ!」
なんて必死なのだろうと思った。
決して浅くも緩くもない河。たかだか死にゆくこんな女一人に、自らも流されて溺れ死ぬかもしれない危険を冒してまで。
ふと、かつての自分の純朴さに思い至る。あの頃は、伴侶を支えて幸せにして、それが自分の幸せにでもなっていくものだと思っていた。きっとこの少年も、いつかはそうして痛い目を見て、自分の甘さに思い至り、後悔するのだろうな。そう呆れ返っているとき、彼が発した一言が、私を大きく揺さぶった。
「今は何かに絶望していても、君の価値観を大きく変える出来事が必ず待ってる!」
どのように変わるかはわからない。それでも、それを待たずに死んでしまったら、前を向くことだってできなくなる、と彼は言った。
私は顔を上げ、彼と目を合わせる。細身で、ひ弱そうな顔をしていたが、まっすぐな瞳をしていた。同時に、私と彼をつないだ暖かい感覚で気づく。彼の右手の甲に、薔薇を模した赤い刻印が刻まれていた。これは令呪だ。聖杯戦争における、マスターの証。
生前、そのように在ろうと願ったように、彼の在り方は、とても眩く目に映ってしまった。彼の言った『価値観を大きく変える出来事』。きっとそれは、今だったのだと、そんなことを思った。
私は自分の肩に添えられた手をいとおしそうに頬に寄せる。
「ああ、貴方が、私の人なのですね。」
この人こそが、私の伴侶(うんめい)だと思えた。このあまりにまっすぐな献身を見て、そのひたむきさを、もう一度だけ、大切にしたいと思えたのだ。
「サーヴァント、バーサーカー。貴方様の求めに応じ参上しました。末永く、よろしくお願いしますね、マスター。」
私はこの日のことを忘れないと、この時心に誓った。
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「悪いな、クリスさん。あんなことがあった後なのに呼びつけて。」
昼下がり、大手チェーンが経営するファミレス。その一席に春は座っていた。
対面には赤髪の少女。元・ライダーのマスター、クリスがいる。
「ん?あぁ、気にしなくていいわ。仕事の依頼ってことなら、こっちも助かるし。」
春にそう答えると、クリスは注文したハンバーグプレートを猛然とした勢いでかっくらう。
「…腹、減ってたのか?」
「…ちょっと旅に出るための予算確保が上手くいかなくてね…」
「結局そんなオチかよ。感謝しろよ、俺が仲介してやったんだからな。」
そんなクリスにあきれた様子を見せるのは、アーチャーのマスターであった少年、蓮である。
彼はクリスの横に座り、ドリンクバーでとってきた炭酸飲料をちまちまと飲んでいた。
「手頃な場所を選べば多少は…。こっちとしては頑張ってくれの一言しか言えないが。」
「ぐぅ…」
正論を叩きつけられて言葉に詰まるクリス。しかし、旅費が集まらないのは完全に彼女の自業自得なので、誰もフォローすることは無い。蓮から言わせれば、これもクリスの選択した結果なのである。
「まぁ、それは置いておいて、と。」
旗色が悪いことを察したクリスは、ナフキンで口を拭きつつ、話題を変えるためにこう切り出した。
「優勝おめでとう。ルカワ・ハル。そしてバーサーカー。アーチャーと戦うのかと思ったけど、そうじゃなかったみたいね。」
「その節は本当にありがとうございました。」
クリスの言葉に反応したのは、春の分の飲み物をドリンクバーからとってきたバーサーカー…否、「流川水奈(るかわ みな)」だった。
彼女はテーブルにお手拭きと飲み物を置き、春の隣に座る。
「…なんか、バーサーカーがその恰好でいると違和感がすごいわね。」
「いつまでも和服ってのも、な。和服そのものは似合ってたし悪くはないんだが、せっかく受肉して普通の人間と同じ生活してるんだ。周囲から浮くのもあれかと思って、こんな感じの服を着てもらってる。」
「いいじゃない?似合ってると思うわよ。」
「部屋着としちゃあ和服も違和感はないが、流石にそれで出歩くのは確かにな。」
決戦の後、聖杯を手にした春が願ったのは「バーサーカーの受肉」であった。戦争が終わった後も共に生き、歩いていく。そのための「器」を、二人は求めたのである。
「…そろそろ、本題に移っていいか?」
しばし、バーサーカーもとい水奈の私服について談義していた後、真剣な目で春がクリスに話しかける。
「えぇ。といっても、聖杯の所有者であるあなたがわざわざ私に接触して要求する仕事ってなに?聖杯のリソースがあれば、だいたい何でもできると思うんだけど。」
万能の願望機である聖杯。その保有する魔力量は膨大だ。それこそ、サーヴァント一騎の受肉「程度」の願いでは使い切れないほどに。
「たしかに、水奈の受肉を終えた今、聖杯のリソースにはまだ大分余裕がある。普通の少女としての最低限のリソースしか割り振ってないからな。」
「まぁ、サーヴァントとしての能力なんて、一般生活する上じゃ邪魔にしかならないものね。」
春はバーサーカーの受肉の際、彼女が有する鬼の力のほとんどをオミットして、唯の少女としての肉体になるように調整した。その理由はクリスが言った通りである。バーサーカーの怪力など、日常生活に支障を来す要素にしかならない。
その副次効果として、宇治の橋姫の逸話に由来する女性特攻のスキルも失われた。女性であるクリスに対し水奈がこうして穏やかに会話できるのもその恩恵である。最も、戦争中に水奈が見せた暴れっぷりを知るクリスの方が水奈に対して苦手意識を持っているのだが、その辺りは割愛する。
「それで、聖杯の余剰リソースが残っているうちに…シンヴァさんの蘇生について検討したいんだ。」
そして春は、とんでもない爆弾を投下した。
「…それ、正気?」
「元バーサーカーとそのマスターだ。多少狂ってても、な?」
死者の蘇生。それは既存の魔術では不可能な、それこそ魔法の領域の話である。
人の技術では到達しえない奇跡。それが魔法だ。聖杯は優れた願望機ではあるが、その基本原則は等価交換、即ち魔術の範疇でしかない。莫大なリソースから「魔法に近しい」事象を起こせるが、決してそれは「魔法(キセキ)」ではないのだ。
「真面目な話をすれば、魔術に関して素人の俺でもやばさはわかってるつもりだ。」
それを承知したうえで春はクリスに協力を要請する。
「この願いは、挑戦は、俺だけじゃなく、水奈にも、ベルさんにも…きっとクリスさん、アンタにとっても意義のあるものだと思う。」
「…」
クリスは目を閉じ、思考する。もしもこの挑戦に自分が関われるのであれば、確かに意義はあるかもしれない。今は先延ばしにしているが、クリスの目指していた時計塔への推薦入学という目的を果たすのにも、きっと大きな武器になるだろう。
だが…
「…彼女にとどめを刺したサーヴァントのマスターである私に、それを言う?」
あの聖杯戦争において、クリスはライダーのマスターとして参戦していた。そしてライダーの宝具により、キャスターのデミ・サーヴァント「No.3-シンヴァ」は死亡している。
シンヴァの死。その責任の一端はクリスにあると言っても過言ではない。
そんな自分が殺した少女の蘇生を、自分の手で行うという矛盾。それがクリスを迷わせた。
「アンタは、それに心を痛めたはずだ。」
それでもと、春はクリスに語り掛ける。
「日本には『罪を憎んで人を憎まず』という言葉がある。思うところは確かにあるけど、クリスさんがそういった行動を、悪意をもってする人間とは思っていない。」
「…」
しばし、沈黙が続く。
クリスは目を閉じて腕を組み、己が為すべきことは何かを自問する。そんなクリスを春はまっすぐ見つめ、他二人と一緒にクリスが口を開くのを待った。
「…私に、何をさせるつもりなのかしら。」
「彼女を引き戻すのに『器』が欲しい。可能な限り人型の、いわゆる人形と呼ばれるものが好ましいな。道具作成のスキルはクリスさんが秀でていると思って、今回声をかけさせてもらった。」
「過分な評価、痛み入るわ。」
クリスの才能は、あのセイバー…雷神トールも認めるほどだ。事実、最終決戦の際にはアーチャーからの援護があったとはいえ、ほぼ三対一と言えた状況をライダーはクリスの礼装を駆使して凌いでいた。結果としてライダーは敗北したが、彼女の礼装の存在が大きな要素として作用していたことは間違ではない。
「まぁ、他の事が褒められないからな、釣り合いは取れているだろう。」
「う、うるさいわね!」
「上げて落としていくスタイル…という奴ですね。」
礼装作りに優れているとはいえ、それ以外がポンコツなのには変わりないと指摘する蓮。それに羞恥で顔を赤らめながら声を荒げるクリスを見て、水奈は愉快そうに笑う。
「…話を戻して、実は他にもいくつか思うところがあるんだ。」
そんな三人の様子を、水奈が持ってきたウーロン茶を飲みながら眺めていた春は、クリスにとって無視できない一言を告げる。
「一つは、ライダーが為せなかった願いへの意趣返し。」
「!!」
それはライダー…オルフェウスの逸話。彼は単独で冥府に下り、妻であるエウリュディケーを死者の世界から連れ出そうとした。伝承においては失敗に終わったことであるが、だからこそ彼は今回の聖杯戦争に参戦した。妻との再会を聖杯に願うために。
「たった一人で、その願いを進めようとしたあいつにはダメだった。だが、3人、4人、あるいはもっとたくさんの人が集まって力を合わせれば…そんな絵空事を思ってしまったわけだ。」
シンヴァのことを筆頭に、ライダーの行いは生き残った参加者たちに決して癒えない傷跡を刻み込んだと言ってもいい。
だからこその「意趣返し」である。お前が叶えられないことを、俺たちは叶えて見せたぞと、いつかそう言い返すためだと春は言った。
「…アイツね、前にぼやいてたの」
その言葉を聞いて、クリスは嘗てライダーと交わしたやり取りを思い出す。
「『もしも、聖杯を自分が獲得できなかったらその時は…あのバーサーカー陣営の二人がいいな』…って」
「ライダーが、そんなことを?」
春の問いをクリスは肯定する。
「きっと貴方たち二人が、嘗ての自分たちに重なって見えたんでしょうね。」
最愛の妻と過ごした穏やかで温かい日々。苦労もあった、辛いことも。だが、それでも愛する人と共に過ごした時間は何よりも大切で、だからこそオルフェウスは取り戻したかったのだ。たとえそれが、他の誰かを傷つけることになったとしても。
そんな嘗ての自分たちの姿と、春と水奈が共にいる姿があまりにもそっくりで、だから彼はクリスに漏らしたのだろう。きっと、無意識のうちに。
「…まったく、どいつもこいつも素直じゃなくて意図を読めなくて困る。」
春はガリガリと頭をかきながら独り言ちる。何故聖杯戦争に参加する連中は、こうも素直ではないのかと。
「でも、貴方たちが聖杯を手にして良かった。あいつがが勝ち残ってたら、きっと私たちがこうして話し合うこともなかったでしょうから。」
「…ああ、ライダーの奴がそう言ってくれたなら、きっとこの願いにも意味はある。」
そう言ってクリスは春と水奈に寂しそうな表情を浮かべながら微笑みかけた。これでよかったのだと、自分に言い聞かせながら。
「この仕事、受けるわ。」
「本当か!」
「上手くいくかはわからない。でも、きっと、この仕事で得る経験は私の糧になる。」
クリスは自分の胸に手を当てて目をつむり、そして宣誓するかのように前を向いて春に告げる。
「いつか、自分の心に胸を張れる自分になれるように。いつか、アイツに胸を張れるような自分になれるように。私は頑張りたい。」
戦場で散った相棒に、自分はこんなに立派になったぞと自慢するために、前に進むと自分自身の心に誓う。
「はい。皆で力を合わせて、成し遂げましょう。」
「お前がそう決めたなら、止める奴はいないさ。」
水奈と蓮はクリスの誓いに賛同する。共に頑張ろうと、そう言って。
「でも、その前に確認したいことがあるわ。」
その時、クリスが真剣な表情で春に話しかけた。
深刻な表情を浮かべるクリスに春も息をのみ、次の言葉を待つ。
「…必要な設備と素材費、そっちで負担してくれない?」
だが、その内容はあまりにも拍子抜けであった。
「…そっちにその余裕がないことはわかってる。用意するよ。」
「予算については…ちょっと見通しがつかないから、とりあえず…一杯用意してくれるとたすかるかも?」
「幸い、時計塔に呼び出されまくってる分ふんだくるつもりだからな。流川の資産も可能な限り捻出するさ。」
「予算無制限…自由に使える工房…これだけあれば…」
クリスが必要なものは可能な範囲で用意すると春は答えた。流石は土地管理者にして優勝者。懐の深さが違う。
その言葉を聞いてクリスはブツブツと独り言のように必要な資材を頭の中にリストアップしていく。
「そうだ。柊にもいろいろ手伝ってもらえると嬉しい。」
「仕事としてな。まぁ、俺に集められない情報は無い。前代未聞の事は流石に無理だが、必要な物が手に入るところを探してくるくらいの事はしてやるよ」
「ありがとう。もちろん報酬は払う。」
「じゃ、成立だな」
一方、蓮と春のやり取りは実にシンプルかつスピーディであった。この辺りは経験値の差だろう。現在進行形で世間の荒波にもまれている元箱入り娘と既にベテラン情報屋として活動している蓮との差が如実に表れている。
「やっぱり、皆さんは手を取り合っている方が生き生きとしていらっしゃいますね。」
「こいつはさっさと自分の世界に入っちまうけどな。」
「熱心でいいことさ。」
「素体は人形…なら青崎の…でも封印指定だし…そもそも魔術の秘儀を…」
そんなマスターたちのやり取りを、水奈は笑顔で見守っていた。かつて敵対していた者たちが、こうして手を取り合って、一つの目標に向かって進み続ける。そんな優しい世界が、目の前にあった。
「じゃあ、前金がてらここは俺が払おう。好きなものを注文してくれ。」
「礼装に人格を投影…そもそも魂を……え食べ放題?じゃあ私この『ウルトラスーパーデラックスジャンボパフェ・エベレスト盛』食べたい!なんか『この店のオススメ!』ってあるし!」
「…食べ過ぎて動けなくなるなよ?」
「お前…」
「浪費するタイプですね…」
嘗てラーメン屋で起きた悲劇を覚えていないのだろうか。そんなクリスに呆れたような眼を向ける三人だったが、決してクリスを止めようとはしなかった。これも授業費だ、甘んじて受け入れろと言わんばかりに。
——そんなんだから目が離せないんだよ、君は——
ふと、そんな言葉が耳に届いた。だが、周囲を見渡しても声の主は見当たらない。
「ん、どうかしたか?」
「…いえ、きっと空耳ね。」
「きっとライダーが茶々でも入れたんでしょう。あの人は皮肉屋なところがありましたから、きっと今も文句を垂れているんです。」
「は、確かにありそうな話だ。まぁしかし、何度やったら治るのか、見物だな…俺は普通に、いちごパフェを頼む」
「……丸一日断食した私に食べれないものなんかない!」
「すきっ腹に急に入れると逆にまずいような気も…まあいいか、水奈も何か食べるか?」
「えっ、私は……いえ、ではこちらのアイスクリームを…。」
「じゃあ俺も同じものにしよう。…多分あのサイズは食べられないだろうしな。」
春の予言は的中した。想像の倍以上の大きさのパフェが到着したことに絶望の表情を浮かべるクリスをしり目に、蓮は一人のんびりと注文したいちごパフェを食べる。
他所のテーブルにいた学生と思わしき女子たちも「だよねー」「わかるー」「写メとったぜ」「マジやばなんですけど」と言って、クリスをまるで珍獣のように眺めていた。
「く、クリスさん、私と一緒に食べましょう。そうすれば多少は…」
「ミナさん、ありがとう…うらー!エベレストがなんぼのもんじゃい!私は食べるぞー!」
そう言った十分後、全体の1/3ほどを食べて真っ白に燃え尽きたクリスは、結局残りを他の面々と分けて食べることになったとさ。
——これに懲りたら、もっと身の丈にあったものを注文することだね——
そんなおせっかい焼きの声を、誰も耳にすることなく。
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これは、とある少女が残したと思われる日記である。一部破損しているものの、そこには興味深い内容が記されていた。教会に持っていく前に内容を精査してみるとしよう。
― 初日 ―
今日は素敵な出会いがあった日。緑色と…どこかから感じる念が非常に強かった春っていう…●が強いけど表に出せてない子。
そして、ナンパしてきたジェーンさん。こっちは…うん、我が強いのは読み取れるかな。結構いい●かも。
でも、私は春くんの事がちょっと気になって。念を食らいながらも私は彼に祝●を渡した。
聖●戦●とは思えないほどのどかな初日…でも、これで五日後には私は彼の魔●師らしき力を●い取ってまた一つ成長できる…って、こんな考えに毒されてるから彼女と決●できないんだろうな。
私はただ、お友達が欲しいだけなのに…結局こうして●福か呪●かわからないものを渡している。
とはいえ、彼はいつか輝くかもしれない。●いた瞬間を見るのがとても楽しみだなーって。
― 二日目 ―
お友達を呼んで楽しんでいたら…怒られちゃった。ベルナデッタっていう人…結構、決意は●そうだったな。
私の事を知ってるみたいだからちょっと煽ってみたりしたけど。思ったより…純●な決意で…やっぱり、つまんないなって思う。
でも、サーヴァントの方…えっと、雷神●●●…あの人はそれなりに聖●●争について理解できてそうだった。
そのうえで思うのが…簡単に●う事を諦めないだろうし自●する神にも見えなかった。
皆なんか戦う気だったし…つまんないから私は巻き込まれない位置でこれを書いてる。
そもそも、雷神なんかと真正面から●りあって生き残る自信はないし、この戦いを生き残るためだもん。
輝いたあの子から●を●い取るまで、なるべくなら戦闘は避けたいなぁ…ちょっと妖精さん邪魔しないでもー!
― 三日目 ―
何があったのか知らないけどベルナデッタ…長いからベルちゃんって呼び始めたけど。も一緒に来ることになった。何があったんだろう…
で、なんか事件の●●に来たけど全くの空振り。分かったのはなんかの事件が起きたってことだけ。
でもあの子、なんか応援したくなるんだよねぇ…●●してあげたい…あの子の●はとても強そうだったから、それも欲しいなって。
ただ力が足りてないから…●●を利用することを提案。そこで休みながら事件の犯人を待ち伏せてみるのはどうかなって言ったらみんな同意してくれた…のと、えっと。春くんの●●さんに●られちゃった。確かに一方的な祝●の押し付けだったし、仕方ないよね。
あとその、ちょっと怖かった…流石に怖いよあの人…逆らうのはやめておこう…
あと三日、その間にあの子が●くと良いんだけど。
― 四日目 ―
一番つまんない。全員集まってちょっとドキドキはしたけど、犯人探しが先?…そんな平和な●●だなんて。
他の人たちとも会ったけど、クリーさんは●な人だけど話は分かる人だった。クリスさんは…●●師として正統派?
柊さんは…ううん、一番読めないけどこの戦●にとってとてもまっすぐだったと思う。…と言うかみんな好き勝手しすぎてまとまんない!
●●はうまくできたし、休んで●力も回復した。Xデーまでもうすぐっていうところまでも来た…ベルちゃんも春くんも頑張ってる。けど、その頑張りが●くかはわからない。もう少し様子見かな…
でも、なんだろうこの気持ち…なんか、一緒に行動するうちにちょっと愛着っていうか…利用だけじゃなくて…
…ああ、●●●●●●。貴女は…何時も好きになり始めた人からかかわりを奪っていく。泡沫の夢を見せてくれて嬉しいけどね…
ありがとう、そして…●●●●●●、貴女は…何時まで私を見守っていてくれるの…?
― 五日目 ―
輝いた。鈍った。してやられた。どの表現が正しいか未だに頭の中をぐるぐる単語が駆けずり回ってる。あまりにも、あまりにも私は何も考えていなかった。この体が病に蝕まれてから、ずっと自分を●めている。
ああ、本来あの子が書くべき日記を私が書くくらいには、もう私も自身の存在を抑えきることが難しくなってきた。
明日は●●を与えてから五日目。私が、私で居れなくなる日、あの子が、あの子で居られなくなる日。この体が病で動かなくなる前に。あの子が命を失ってしまう前に。私があの子を見守れるうちに。
せめて…輝きを。あの子を、感動させるだけの輝きを。あの子に、生きていてよかったと思わせる輝きを。あの子に対して、私が残してあげられるものは何だろう。血を吐きそうになりながら、それをずっと、私は考え続けている……
― 六日目 ―
怖かった。友情が、友達と過ごしたあの日々が。無くなってしまうんじゃないかって、怖かった。でも、そうはならなかった。二つの輝きが。私を…そして、私たちを守ってくれた。
今、私は泣きながらこの日記を書いている。今までの私たちの苦労をすべて、たった三人…四人に壊されてしまった。壊されて…凄く、すがすがしい。あの二人になら、私の…これからも託してもいいのかもしれない。そう思えるほどの友達だった。
目の前で死んでしまった彼女は…彼女がいることで、私たちの結束を強めてくれた。
感謝とはまた違うかもしれないけれど、強い怪我を負ったりもしたけど…それでも、シンギュラリティになってくれた。
さっきから胸の高まりと涙が収まらない。おかしいな、こんなに感情を揺さぶられたのっていつぶりだっけ…
●●●●としても、私の中の彼女としても。この残りの日数はおそらく…殺伐としていて、平和で、思い出に残って。死んだら誰かの傷に残る。そんな、思い出のある少ない日数になるだろうなって、私は思うのでした。
― 七日目 ―
私は、わがままだ。人の輝きを見たいと言いながら、不和の輝きを見るのを嫌った。それは、あの二人にとっては…あまり好ましい事態じゃなかったかもしれない。でも、それでもいい。たとえ次の日、雷神さんに私が殺されたとしても。
それはきっと、今日友達全員を失ったかもしれないリスクと天秤にかけたら、とてもちっぽけなものだ。
それと同時に…私はどこか、死を予感している。だって、次の日のリスクも十分今は考えられてしまう。それも、一緒に戦った友達の仲間に殺されるかもしれないというリスク…一部、この記録は消しておくとしよう。私が死んで、誰かの手にこれが渡った時…それは、友達を危険にさらしてしまう事になってしまうから。
でも、何処かでは信じてる。仮に死んだら…きっと、優しい誰かが。生きていたら、友達が。これを、拾ってくれると信じてる。
そうしたら…私が居たって証拠を、深く胸に刻んでほしい。これは、私の遺言になるのかもしれないのだから。
― 八日目 ―
後味が悪い。ジェーンさんの死。けれど、一つ区切りがついた。友達がこれで病気で死ぬことはなくなった…でも、私も結構余裕がない。それに、見ていた彼女たち…これは、あくまでも戦いだ。人数差があっても、消耗している私たちが勝てるかはわからない。
でも、ここまできたらという欲望が強くなってしまった。私は、友達と生きたい。生きて、何処まで生きれるかはわからないけれど、終わるその時まで。私は生きたい。
生きたい、生きたいんだ。友達三人、全員で。
ああ、怖くなってきた。もし明日、彼らが襲ってきたら。もし明日、私が死んだら。もし明日…友達が死んだら…
いや、考えちゃだめだ、私。その時の状況に合わせて…柔軟に動く。其れしか、私にはできる事がないんだから。でも、だからこそ私は…
(以降、白紙のページが続く)
この先の日記は、涙で掠れていて読めない。だが、この少女がそれほど思いつめ、悩み、書いた日記は、確かに今この手にある。これを持ち帰って…
「ごめんね、それは、私の日記なの。返してくれると、嬉しいな」
読むのに夢中で気づかなかった。いつの間にか背後を取られていたらしい。それも、複数の気配と共に。
「私の大事な…中身を知らない、忘れちゃいけない、誰にも見せちゃいけない、記憶なんだ。」
意識が暗転する。沈みゆく意識の中見たのは、魔力もほぼ感じない、桜色の髪をした少女であった。
「…ただいま」
「おかえり」