Fate / Way of Last Faith   作:兵藤影虎

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戦争三日目昼、調査回


3日目
第七話「嵐の前—祝福のち考察、所により嫉妬」


『続いてのニュースです。昨日未明、○○市○○町のとある路地にて異臭が発生しているとの通報があり、同市の職員が調べたところ人間の臓器と思わしき物体が放棄されていたのが確認されました。』

『DNA鑑定の結果、身元は同市在住の□□さん××歳で、数日前に会社を退勤した後、自宅に戻っていないと警察に通報が入り、行方不明者として調査がされていました。』

『状況的に他殺の線が濃厚とみて、現在警察では殺人事件として調査を進めているとのことです。』

『こちらの事件に関しまして、続報が入りましたら改めてお伝えいたします。それでは次の項目に移ります————』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 未だ人通りの多い夕暮れ時の街中。そんな街の細い路地を、念入りに探索する複数の男女の姿があった。

 

「結局、抑止力さんも同行することになったんだ。」

 

 非常階段に腰かけ、足をぶらぶらと揺らすシンヴァ。

 

「うん。というより、俺達がベルナデッタさんに同行することになった感じだな。」

「実質、捕虜だ捕虜。」

 

 腕を組みながら地面に目を向ける春と、その後ろで肉まんをほおばっているジェーン。

 

「その、抑止力さんというのは私のことでしょうか?あと、捕虜ではありません!」

 

 そして、相変わらず黒い修道服を身に纏い、周囲を観察するベルナデッタ。

 それは昨夜、河川敷で大立ち回りを行った面々であった。

 

「それで、えっと…ここって確か、昨日事件があったらしいところだっけ?」

「らしいね。事件の痕跡を調査しに、今はこのブロックを歩き回ってるって感じ。」

「私は聖杯戦争で無用な被害を避ける事を念頭に置いて行動しています。なので、その調査に協力している形なのですが…」

 

 今朝ニュースになっていた事件。一般には猟奇殺人の類だと報告されているが、ベルナデッタが得た情報によると、どうもサーヴァントによる犯行の可能性が高いらしい。

 故に彼女は監督役として朝一から調査に乗り出し、他三人もそれに付き合っているわけなのだが、未だに有力な手がかりは手に入れていない。

 

「まぁ、痕跡残したところに長居する人はいないでしょ。よほど戦好きじゃない限り」

「痕跡を発見できれば、それを手掛かりに犯人を絞り込めるかもと思ったのですが、中々難しいですね。」

「単刀直入に聞くけどー、ベルナデッタさん…長い!ベルちゃんはさ、これは異常な事件だと思ってるの?」

「ベルちゃ…?!…こほん…ええ。私はそう考えていますよ」

「んー、そっか。そういうことなら私も解決には協力するよー。教えてもらった恩もあるしね。」

「ああ、はい。そうですね…教えて貰った恩…うん。」

「ウフフ…まあ、彼らにも私の真名、バレちゃいましたけどね。」

 

 ベルナデッタはシンヴァの言葉に微妙な顔をした。シンヴァは立ち去ったから知る由もないが、昨夜の交渉の後にセイバーとバーサーカー、そしてアサシンの三騎は交戦しており、その際にセイバーは宝具を解放している。

 故に、この場においてセイバーの真名はほぼ公開情報と化していた。

 

「んん?じゃあもう私名前で呼んでいいの?凄く呼びたいのを我慢してたんだけど。」

「駄目ですよ。だってこの会話も、誰かに盗み聞きされてるかもしれませんし…ね?」

 

 そう言ってセイバーはシンヴァに笑顔を向ける。セイバー曰く、北欧の美の女神フレイヤを模した肉体である。その美しさはまさに「神々しい」の一言であった。

 

「はー、やっぱり綺麗なんだよねぇ」

「ええ、だって『女』神ですから」

 

 そんなセイバーの発言に、シンヴァ以外の面々は微妙な表情を浮かべた。中身を知ってる者たちの前で、それを言うのか?と。

 

「で、話を戻そっか。今の調子じゃ調査してもあまり情報はつかめそうにないけど。」

「そうですね。何か掴めるかと思ったのですが。」

「うん。だからそこで私から提案。」

 

 シンヴァの提案に、全員が耳を傾ける。

 

「霊地で待ち伏せしない?誰かが消耗したとしたら、回復のために霊地に来るはずだし、そこで数の優位を活かしながら問いかければいいんじゃないかな?相手が人外でも、このメンバーなら対処できるし。」

「…如何思いますか?」

 

 ベルナデッタは一応、春とジェーンの二人に目線を向け、確認をする。

 

「俺は賛成。下手に歩き回って消耗するよりいい。だけど、霊地の場所を知る人間は限られてる。長期戦になるかもしれないな。」

「ん、まぁ後者に限って言えば、それはそうだろうなぁ。」

「でも、無駄に歩き回るよりいいと思わない?それに…」

 

 そう言ってシンヴァはベルナデッタに目を向ける。

 

「私、ベルちゃんの事…全力で祝福したいなーって」

「私に…ですか?」

「あ、これは完全な善意だよ?ちょっと複雑に捉えちゃうかもだけど。」

 

 ベルナデッタはシンヴァがどういった存在であるかを知っている。それゆえに彼女の言う『祝福』に対し、強い警戒心を抱いた。

 

「私、貴女の存在が危険だと、あの時にそう言い切りましたよね?」

「うん。そうだね」

「…私の傍に居ると、黒鍵で襲われたりするかもしれないですよ?」

「あはは!それはそれでいいかなって思って!」

 

 そう言ってシンヴァは笑う。無邪気に、愉快そうに。

 

「私はね、人が輝く瞬間を見たいの。」

 

 瞳の奥に宿るのは妖しい光。ベルナデッタは知っている。その光はデミ・サーヴァントであるシンヴァの『中にいる存在』が発する、人を魅了する光であると。

 

「貴女はまたそうやって…私には貴女が何を考えているのか分かりません」

「全部本心なんだけどなー。なんてね。」

 

 ベルナデッタの警戒心を解くのはまだ難しいか。そう判断したシンヴァは一旦話題を切り替える。

 

「それで、結局霊地で待ち構える感じでいいのかなー?」

「…懸念があるとすれば、私達があのエリアで激しく戦ったことを、恐らく他の参加者も把握しているという点です。そんな場所に来るのでしょうか?」

「…じゃ、ちょっと整理しよっか」

 

 そう言って、シンヴァは手持ちのタブレット端末を操作し、七つのブロックに分割されたこの街の地図を表示する。

 

「私は、そこの二人と一昨日、ここで出会った。」

 

 そう言って、彼女は地図上では7番と書かれたエリアに印をつける。

 

「そして、他の所でも何か動きがあったのを何となく理解してるつもり。多分二か所くらい?」

「その内の一つは私ですね。この地図だと4番ですね。クリーさん…参加者の内の一人と出会っています。」

「それじゃこっちの3番は、まだあってない人達かな。」

 

 ベルナデッタの意見も踏まえつつ、4番のエリアと3番のエリアにも印をつけた。

 

「そして昨日、私たち以外は誰もあそこにいなかった。」

 

 そしてまた4番エリアに、今度は二重丸をつける。

 

「この辺を踏まえると、近いうちにリスクを承知で全ての場所にアクセスできる4番エリアを陣取ろうとする子がいてもおかしくないんじゃないかな?」

「それは…確かにそうかもしれませんね。」

「という考えで、それもあって霊地で待ち伏せはどうかなーって提案でした、まる!」

 

 そう言ってシンヴァはタブレット端末をしまう。

 

「ベルナデッタさんがクリーさんと会ったのは4番…そこから入れ違いで7番に入ることは可能か…」

 

 そこまで考えて、春はジェーンの方に体を向けた。

 

「ジェーンさん、ちょっと確認したいことがあるんですけど。」

「おう。なんだなんだ」

「サーヴァントは近くにいますか?いるなら呼び出して、お二人ともにお話を聞いていただけると嬉しいんですが。」

「あ?多分呼べば来ると思うが……い~ま~ど~こ~に~い~ま~す~か~!」

 

 まるで幼い子供を呼び出す保育園の先生のような、そんな声音でジェーンは己のサーヴァント…アサシンを呼び出す。そして、しばしの間をおいて、褐色肌の少女が物陰から現れた。

 

「おう来たぞ。」

 

両手に焼き鳥を持ちながら。

 

「で、何の用じゃ。飯か?」

「…状況を整理しておこうと思いまして。」

 

 何処で仕入れたものなのか、それを問いたい気持ちはあるが、それを聞けば長引くと考えた春は、自前のタブレット端末を取り出し、先ほどシンヴァが提示したものと同じ地図を表示させる。

 

「1日目、陣営同士の邂逅があったらしいのが第3,第4,第7ブロック。その内、第4ブロックはベルナデッタさん…やっぱ長いな。俺もベルさんって呼ぼう…ベルさんとクリー・グローシー女史の陣営。第7ブロックが俺とジェーンさんの同盟とシンヴァさんだ。第3ブロックは不明。ここまではさっきのと同じだな。」

 

 地図にそれぞれのエリアにいた人物の名前を記入し、3番エリアには「?」マークを書き込む。

 

「そして2日目が第4ブロックのみ。前日に第7ブロックにいた3陣営…俺たちとベルさんの邂逅。」

 

 昨晩の戦闘を思い出す…いや、戦闘ですらない蹂躙だったような気もするが、そこは一旦置いておいて、考察を続ける。

 

「この時点で、第3ブロックにいたと思しき未遭遇の2陣営は、第7ブロックにて現地で事件を起こすことはできないだろう。距離が離れ過ぎている。」

 

 さきほど「?」マークをつけたところにバツ印を加える。3番エリアと7番エリアを行き来するには4番エリアを横断しなければならない。だが、昨日4番エリアにいた全員の目を盗んで横断するというのは非常に困難だ。何か「特殊な手段」を用いない限り、この7番エリアで「?」マークの陣営が事件を起こすのは不可能である。

 

「だから、俺達と入れ違いに第7ブロックに行った可能性があるクリー女史か、現状の最有力になるわけなんだけど…」

 

 春の推察は現状、そこまで大きな穴があるわけではない。普通の理屈で考えれば確かにクリー・グローシーの陣営が容疑者筆頭だろう。

 だが、その意見に待ったをかけたのはベルナデッタだった。

 

「彼女は…違うと思います。そう信じたい。」

「でも事実として、現状だとそれしか可能性はないよ?私たちのアリバイは互いが証明してるし、3番エリアの人たちじゃ距離が離れ過ぎてるもん。」

 

 ベルナデッタの脳裏に浮かぶのは1日目に出会ったクリー・グローシーとそのサーヴァント「ヴィオレッタ」とのやり取り。

 一宿一飯の関係ではあったが、彼女たちの人柄は決して悪いものではなかった。むしろベルナデッタとしては好ましいとさえ考えている。

 だが、未だクリーと面識のない面々がそんなクリーのことを知るわけもない。

 

「ここからがジェーンさんにも聞いてもらっている理由だ。実は2日目の夜、河川敷を離れた俺たちは一旦第7ブロックに移動して流川のセーフハウスに向かったんだ。俺はともかく、ジェーンさんはセイバーの宝具の余波で服もボロボロだったからね。で、その後ファミレスで再集合するまで別行動をしてたんだけど、一足先に第7ブロックに足を踏み入れた俺たちのどちらかなら…事件を起こすことは不可能じゃない。」

 

 事件はなにも死徒だけが起こすものではない。何者かが死徒の仕業のように見せかけて事件を起こす。そんな可能性も、春達は考慮しなければならないのだ。

 

「成程のォ…なら、アレじゃ。我は違う。何なら証明も出来る」

 

 そんな春の意見に応えたのはジェーンのサーヴァント、アサシンだった。

 

「聞かせてくれ。」

「無論じゃ無論。何せ…」

「はいストップ。それは駄目。」

 

 だが、そんなアサシンの言葉を、マスターであるジェーンが遮る。

 

「そういうのは坊ちゃんと嬢ちゃんが怒るからダーメ。」

「何のことですか…?」

 

 ジェーンの様子を不審に思ったベルナデッタが問いただす。それに対し、面倒くさそうに頭をかいたジェーンは、少し迷って、このように答えた。

 

「このロリはな、『自分が目の前で人を殺せば、違いが理解る』って言ってんだよ。でもダメだろ?そういうの。」

「…なるほど。」

 

 若干顔を引き攣らせながら、納得の意を示す春。可能性として提示し、その結果身内を疑うようなことを言ってしまったが、春としては同盟相手のことを信じたいのが本音だ。

 

「うーん、ジェーンさんは違うと思うなぁ。で、春くんも違うでしょ?…ここは全員無罪だと思うんだよねぇ。」

 

 と、気軽そうに言うのはシンヴァである。彼女としても、気に入った相手が人道に背くようなことをしてほしくはない。

 

「まぁそうなると、また話が戻ってクリーって人が一番怪しくなってくるんだけど…」

「そうだね。まずは霊地に戻り、クリー女史の行方に注視しつつ、動いてみよう。」

 

 ひとまずの方針が一致する春とシンヴァ。だが、どうしてもそれに納得がいっていないのがベルナデッタである。

 

「彼女は確かに『グレー』の人物です。私もそう考えている。だけど、それは私の信奉する教義に則った『グレー』であって、彼女はそんな事はしません。同じ食卓を囲んだ私なら、それ位は分かります。」

 

 ベルナデッタは頑なに、クリーは違うと言い続ける。

 

「必要なら彼女の情報もお譲りします…それに彼女のサーヴァントのことも、私は知っている。その上で照らし合わせても、彼女が犯人である可能性は限りなく薄いです。」

 

 己の有するカードを切ってでも、クリーが白であることを譲らないベルナデッタに対しシンヴァは問い詰める。

 

「そこまで白だというなら、私はベルちゃんを信じるよ?でも…そうしたら犯人が分からなくなる、というのも分かるかな?」

「それは…理解しています。」

「だったら俺達が警戒する。そのためにも、彼女の情報を教えてくれるかな?他の面々に知られないようにでも構わない。」

「分かりました。彼女の潔白を証明する為なら……」

 

 そう言ってベルナデッタは手持ちのメモ帳に情報を書き込み、丁寧に紙を折った後、春に手渡す。その際、シンヴァにも必要か確認を取ったが、彼女は不要だと言って断った。

 

「ベルちゃんを信じるって言ったし。特別欲しいわけじゃないからいいよー。それよりも私は帰りたいかな。この子たちもちょっと疲れたみたいだし。」

 

 シンヴァの目線を追うと、昨夜の河川敷で元気に飛び回っていた妖精たちが、ややぐったりした様子でシンヴァの肩に乗っていた。河川敷よりも人工物の多い街中だと、どうやら疲労がたまりやすいようだ。

 

「はい。私もそれで構いません。元はと言えば、これ以上被害が広がるのを防ぐ為、留まって手を拱いていられなかっただけですし。すみませんでした。」

「なら、異論がなければ霊地に戻ろう。」

「ええ、ついでにご飯なら材料を買い足せば、私が作りますが…」

「お、手料理か。まぁ俺は構わんぞ。好きにするが良い。」

 

 昨日とは打って変わり、穏やかな雰囲気で一日を終えれそうなことに一安心しつつある一行。だが、最後の最後で爆弾が投下された。

 

「それならミナ、ベルさんの料理手伝ってやってくれ。」

「……。」

 

 春が自身のサーヴァントであるバーサーカーに提案する。だが、提案された方は明らかに不機嫌ですと言わんばかりにジト目でベルナデッタと春を睨んでいた。

 

「えーっと…そう!私はあくまでサポートということで、その、和食を、教えて頂けると幸いです。和食はあまり経験がないので。」

「それは構いませんけど…。随分とベルナデッタさんに良くなさるんですね、マスター?」

 

 理由は今一わからないが、とりあえず機嫌を損ねたらまずいと本能で感じ取ったベルナデッタは、バーサーカーをたてるように言葉を並べる。

 そして、バーサーカーの言葉を聞いた春は、ここにきて己の失策を悟り、頭を抱えた。

 

「…俺が悪かった。」

「ま、まぁ、ここは一時、皆友達ってことで。それでいいんじゃないかな?」

 

 自分の非を認め、謝罪する春。そんな春をフォローするシンヴァ。だが、そのフォローは逆効果だったようで。

 

「シンヴァさん!マスターは貴方がお傍にいるのを認めていらっしゃるようですが、私は認めていませんからね!」

 

 まるで手負いの猫のように威嚇するバーサーカー。実際、昨夜の戦闘の傷もまだ癒えていないので、あながち間違とも言い切れない。

 

「だ、大丈夫だって!奪ったりしないから!」

「そういって男が去っていくことだってあるのです!マスターもご節制なさいますよう!」

「わかった!わかったから!俺が悪かった!」

「まったく、マスターは私の伴侶なのですから…」

 

 バーサーカーの言葉を聞いて、慌てて否定するシンヴァと、全面降伏を宣言する春。傍から見ればただの痴話喧嘩だが、もしもバーサーカーが機嫌を損ねたらあたり一帯が更地になるリスクもある。事情を知るものからしたら笑い事じゃ済ませられない、そんな一幕であった。

 

「…戻りましょうか。」

「ああ、そうだな。食材は道すがら買えばいいだろう。」

「うん…私も早く戻った方が良いと思う」

 

 最後の最後で無駄に気力と体力を消費した一行は、近場のスーパーで買い物をし、一旦ベルナデッタの拠点へと集合する。

 そこでバーサーカーによる料理講座が行われたり、過剰に調味料を足そうとするベルナデッタが怒られたりするのだが、それはまた別の機会。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 一方そのころ、使い魔を用いて4組の動向をうかがっていた弓騎同盟はというと。

 

「…これ、放置するのはまずいわよね?」

「4組が一緒に行動するとか、正気かこいつら。」

『なんでもいいけど、袋叩きにあうのは勘弁願いたいね。』

 

と、昨日とはまた違う方向で頭を抱えていたという。

 

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