Fate / Way of Last Faith 作:兵藤影虎
戦争開始から3日目の夜。弓騎同盟の面々は昨夜と同じホテルにて作戦会議を行っていた。議題は昼間に使い魔で観測した『変則4陣営同盟の扱いについて』だ。
「いやさ、どうしよう」
議論しょっぱなから頭を抱えるのは、使い魔の提供主であるクリスである。
「まぁ、正面から当たるのは避けたいところだな」
「なんで4陣営も固まってるのよ!あれだけの人数がいたら奇襲もできないじゃない!」
「さぁ?賑やかなのが好きなんだろ。俺は御免だが。」
対するは使い魔で記録した映像、音声をタブレット端末の中にダウンロードし、情報を整理している蓮。コーヒーを飲みつつ作業する様は絵になっているが、その眉間には歳不相応の皺が刻まれていた。
「しかもなんだか4陣営総がかりで他を潰そうとかいう作戦を練ってるくさいし…これが聖杯戦争に住まう魔物なの?」
「馬鹿馬鹿しい。大体4陣営とかいうが、いつまで続けるつもりなんだか…」
『本当、聖杯戦争の概念が崩れそうだね。』
と要所でコメントを挟むのはクリスのサーヴァントであるライダー・オルフェウス。彼は蓮のように何か情報を纏めているというわけではないが、未成年のマスターしかいない弓騎同盟においては貴重な「大人枠」のオブザーバーとして議論に参加していた。
「戦いの勝敗は数で決まるって言うが、これは聖杯戦争だぞ?勝者は一人しかいない。」
『その通りだ。その辺りを理解しているのはキャスターかな?彼女の力は最終的に同盟を破棄することを前提にしている。実現性はともかく、勝つという意思はありそうだね。』
「キャスターのデミ・サーヴァントか…ああいうのもいるとはな。」
それは完全に偶然だった。
蓮が普段からライフワークとして行っていたハッキング。その新たなネタの仕入れ先に、たまたまシンヴァの情報が記載されていたのだ。
彼女がいたのは国内の実験施設で、世界各地で頻発している聖杯戦争にデミ・サーヴァントを派遣し、聖杯と言うリソースを獲得することを目的としていた場所だったらしい。
「らしい」というのは、もうすでにその施設は閉鎖されているからであり、また当時の職員も全員死亡か、あるいは行方不明になっていて情報の追跡が困難だったからである。そんな得体のしれない場所のデータベースに『No.3-シンヴァ』の情報が残っていた。
彼女の保有する霊基は『リャナンシー』。人間を魅了し、己の下僕とする力を有する精霊種である。
そんな彼女の能力は、要約すれば『他人に力を与え、最終的にそれを奪い、自らの力とする』というものであった。その発動条件を満たすには少なくない日数が必要であり、ライダーが「実現性はともかく」と言ったのはこれが起因している。また、その能力自体シンヴァの意思に関係なく強制的に発動してしまう「制約」があるようで、とてもじゃないが使い勝手がいいとは言えなかった。だが、その「制約」に見合った効果はり、発動してしまえば、彼女はこの聖杯戦争でも無類の力を手に入れることになる。それこそ、あの反則級の力を持つセイバーにすら、勝利しかねないほどの力を。
『対して、セイバーとバーサーカーのマスターは受動的すぎるね。話を聞く限りその行動理念は一般人の守護につながっているし、基本的に善性ではあるんだろうが、正直な印象として、聖杯戦争をしている自覚が薄いように感じる。』
「まるであいつらは夏休みが終わると分かってるのに、いつまでも宿題をやらずにおいている小学生みたいだな。」
そんなシンヴァと比較して、ライダーと蓮による春とベルナデッタへの評価はやや辛辣だ。両者ともに強力なサーヴァントを従えており、正面衝突すればこちらが負ける可能性が高い相手ではあるのだが、いかんせん聖杯戦争に対するスタンスが甘すぎる。
「アサシンのマスターはどうなのかしら。サーヴァントもそうだけど、使い魔からの情報じゃ今一こう、行動理念がわからないのよね…」
「アサシンについては俺もよく分からん…調べてはいるんだが。」
「見た感じバーサーカーのマスターに雇われてるっぽけど…なんか不穏よねぇ。」
「ただの傭兵なら絶対的なバーサーカー陣営の仲間、って事で片付くが…そうでもなさそうなのがな。」
クリスと蓮が言うように、アサシンのマスターであるジェーンは一見依頼主に対し従順なように見えるが、どうも腹に一物抱えている気がしてならない、というのが弓騎同盟内での共通見解だった。
『…勘違いだといいんだが、アサシンについて一つ気になることはある』
ふと、ライダーがジェーンのサーヴァントであるアサシンについて切り出す。
『使い魔越しから聞き取れる彼女の話し方。圧倒的上位の立場から物を言うその在り方。自分自身という存在に対して、絶対的な自信を持っているのがにじみ出るその振る舞い…察するに、彼女はどこかの神か、あるいはそれに連なるものなんじゃないかな?』
それは嘗て、オリュンポスの神々と直接対話したことがある者としての勘なのか。その正否はこの場ではわからないが、それなりの説得力はあるように感じた。
「神か、あるいはただの痛い奴か、どっちかだな。できれば後者であってほしいが。」
「仮に神霊だとしたら今回の聖杯戦争、神霊のバーゲンセールじゃない…」
「神だったら神だったで、もう一人いるんだから勝手に神同士で争って欲しいもんだ。」
「…神話大戦とかシャレにならないけど、ちょっと気にはなるわね」
『やめておきなさい。間違っても煽ったりしないように。』
わかってるわよ、とライダーの言葉に応えるクリス。流石に彼女もそこまで愚かではない。なにせ前日にセイバー…雷神トールという規格外の存在を目の当たりにしたのだ。天候すら支配し、2体のサーヴァント相手に互角以上の立ち回りを見せる強さ。そんな力の持ち主が複数体いたら、それはもう終末戦争<ラグナロク>である。
これ以上神様系サーヴァントについて話していても気が滅入るだけ、と考えたクリスは、今度は春のバーサーカーについての話題に切り替える。
「そういえば、ヒーラギはよくバーサーカーの真名がわかったわね?直接的な情報はアサシン同様、碌になかったと思うんだけど。」
「まぁ、日本じゃ探すのにもそこまで苦労しない伝承だ。外国出身のお前には馴染みがないかもしれないが。」
「ウジのハシヒメ…Bridge Princessだったかしら?変な名前よね」
「そうか?まぁ、そうかもな。」
これも蓮がバーサーカーのマスターである春の実家、流川家からハッキングして盗み出した情報をもとに見つけたものである。
バーサーカーはスキルとして「女性特攻」を有しており、またその外見から「鬼種」であることは容易に想像できた。そこから「流川」の属性である「水」に着目し、縁のある存在を抽出。そして流川家が召喚に用いた触媒の存在を見つけ出し、たどり着いた真名が「宇治の橋姫」だった。
「伝承じゃ、『嫉妬の鬼』とされており、水神としての信仰も残されてるが…あれはどっちかっていうと前者だろ。にしても、平家物語の嫉妬の鬼が、現世で伴侶を見つけるって…ちょっと出来過ぎじゃねぇか?」
たどり着いた真名が正解であるという確信はあるが、出来過ぎてて逆に不安になるのは人間の性である。
「でも、向こうと接触しなくて助かったわ。下手したら私、死んでたかもしれないし。」
「確かに、最初に会ったのが狂った奴らじゃなくて良かったな。」
『そういえば、アサシンに対して、彼女のスキルは発揮されているのかな?キャスターのマスターに対してはそれらしい言動を見せていたが。』
そんな疑問をライダーが口にする。それに対し、クリスも蓮も色んな意見を交わし合うが、彼らは知らない。実は彼らが観測していない日に、春がバーサーカーに対して令呪を使用し、アサシンとジェーンへの反応を制限していることに。
まっとうな思考をしていたら、思いつかないであろう令呪の使用。それを春が実行したのは、偏にバーサーカーに対する愛情故か。いずれにしても、そんな事情を知らない弓騎同盟が正解にたどり着くことは無く、結局無駄な時間が過ぎるだけとなった。
『状況の整理はこれくらいにして、次は我々がとるべき行動だ。何か案はないかな?マスター諸君。』
埒が明かない、そう感じたライダーは一旦議論を打ち切り、次の議題を提示する。
「まず気になるのはクリー・グローシーって魔術師の動きよね。現状、一切情報をつかめていない陣営だし、私たち目線、何かやらかしてるのは間違いないし。」
そう、弓騎同盟は未だ「クリー・グローシー」という存在を、名前以外把握していないのである。逆に言えば、彼女以外の陣営の動きはほぼ完璧に追跡できているため、弓騎同盟視点では昼間に4陣営同盟が調べていた内容の犯人はクリー以外ありえなかった。
「尻尾をつかめれば、追跡ないし撃破したいところではあるんだけど…」
「勝手に撃破したらそれはそれで、禍根が残りそうだな。」
「セイバーのマスターはやたらクリーって女に肩入れしてるっぽいしね。」
神秘の漏洩。それは魔術に携わる者であれば防がなければならないのは常識だ。たとえ監督役でなくても、止めなければならない案件である。
だが、それを実行するには越えなければならない障害があまりにも大きすぎた。
「多分、7番エリアでのやらかしの容疑者に私たちも含まれてるわよね?」
「ありがたいことにな。」
「ありがたくなーいー。4陣営から袋叩きとか、悲惨どころの話じゃないわよ!」
それは今回のメイン議題でもある「変則4陣営同盟」の存在である。下手に動いて目の敵にされようものなら、此方の敗北は必定だった。
「あと3日か4日でキャスターが勝手に離反してくれるから、それまでは何とか直接戦闘を回避しないと、碌な抵抗もできずに負けちゃうじゃない。」
「そんなに待ってたら、裏で事を起こしてる連中が何かしでかすんじゃないのか?問題が増えるだけだ。」
「うーん…『クリーって魔術師が問題を起こしてる』って情報が向こうに流れてくれれば、こっちは狙われずに済むかなぁ?」
「セイバーのマスターはそのクリーって女を信用してたろ?他の奴らも、実際に話したらどう思うかは分からない。」
あーでもないこーでもない、と議論を続け、クリスがたどり着いた結論は次の通りだ。
「まず4陣営に対して私たちがすべきことは身の潔白の証明よね。私たちは一般人に手を出してないって明確な証拠があれば、少なくともセイバー陣営やバーサーカー陣営からのヘイトは下げられると思うわ。」
クリスはこの3日間、ホテルに籠って作成してきた特製の魔術礼装を見る。それはクリスが自身の才をいかんなく発揮して作り上げた物である。
『即席工房』それは魔術師が長い準備期間をかけて作り出す『工房』を、わずか数時間で組み立て、術者が使用する魔術の効果を引き上げるという、クリスが初代となる術式。これと、礼装作成の魔術を組み合わせることで、通常よりも強力な礼装をクリスは作り出していた。ライダー曰く、サーヴァントにも十分に通用するレベルとのことである。
この術式の欠点は、一度展開すると術者の移動に著しい制限が発生するという点なのだが、その欠点こそが今の状況に最適だった。
「これをわかる奴に見せられれば、私がこれらの礼装を用意するのに3日以上の時間が必要で、その間碌に動けないということを証明できる。」
礼装を作っていたらクリス達は動けない。そんな状態でもしも7番エリアにいれば、今日の調査で彼らのサーヴァントに知覚されるはず。しかし、現実としてクリス達がいるのは3番エリアで、彼らと遭遇することは物理的に不可能である。
つまり、『即席工房』による移動制限という欠点を自分たちの「アリバイ」とするのがクリスのアイデアだった。
「逆に、一番やっちゃいけないのは4陣営との正面衝突ね。ライダーの宝具で手傷を負わせることはできるかもしれないけど、しょせんはそこまで。こっちも向こうも消耗して、得をするのは姿を見せないクリー・グローシーと言う魔術師だけ。それだけは避けなきゃいけないわ。」
そして、一番の注意点でもある4陣営に対するアクションについてもクリスは考えていた。と言っても特段難しいことではない。先に仕掛けず、相手の出方を伺い、勝機が無ければ戦わずに撤退する。一見消極的にしか見えない方針ではあるが、生き残ることを最優先とするならば、これ以外の選択肢はない。
そんな風にクリスが真面目に考えていると、蓮からこんな言葉が飛び出してきた。
「…なんだ、意外に考えてるな。」
「張り倒すわよ?」
失礼な男である。
「大体、そっちはどうなのよ?そっちの聖女様、全然会話に混ざらないし。作戦会議ってのは複数の意見を聞いていかないと。」
「聖女様ぁ?」
反撃とばかりにクリスから蓮に質問が飛ぶ。内容はこうした場に全然顔を出さない聖女…蓮のサーヴァントであるアーチャーについてだった。
クリスの言うことは、普通に考えたら正しいし、従わない理由はない。だが、蓮はそんなクリスの言葉に対し、非常に面倒くさそうな顔をした。
「え、何よその顔。間違ったこと言ってないでしょ?」
「いやまぁ、そうなんだけど…聞くって言うなら…おい、どうなんだよ。」
しぶしぶ、と言った様子でアーチャーに声をかける蓮。返事はすぐに返ってきた。
「私はそろそろ、皆さんを助けるべきだと思います!」
霊体化を解除し実体化するアーチャー。だが、開口一番に飛び出してきたのは、あまりにも状況にそぐわないものであった。
「誰をだよ!」
「4陣営、8人もの方が一緒にいらっしゃるのですよね?という事は、皆さま困っていらっしゃるのではないでしょうか!」
「いや、むしろその面々に一番困ってるのは私たちなんだけど。」
「え?私は困ってませんよ?あ、クリス様たちにはこれを差し上げますね!」
と言って、アーチャーはおもむろに、自身の服に着いていた煌びやかな装飾の十字架を外して、クリスに渡す。
「これで元気を出してくださいね!」
「え?あ、ありがとう?」
「はぁ…まぁ、それはライダーに渡しとけ。役には立つだろうからな」
『施しの聖女ブリギットから贈り物をもらうとはね。恐悦至極、とでも言っておこうかな?』
施しの聖女、キルデアのブリギット。それがアーチャーの真名であった。
慈悲を求めてやってくる貧者に対し、彼女は絶えず施しを与え続け、実家を勘当された後も尼僧として生き、アイルランド各地の修道院建設に尽力。その功績を認められ、彼女は聖女の称号を獲得した。
ちなみに、なぜアーチャーなのかと聞いたら…施しを「投げる」から、らしい。
「これが私の使命ですから!」
「…貴方が彼女を会話に混ぜたがらないのが理解できたわ」
「だろ?」
下手をすれば、春が従えるバーサーカーよりもバーサーカーかもしれない聖女様を会議に入れなかったのはまさに英断だったのだろう。今更ながら、蓮の判断は正しかったとクリスは蓮に謝罪する。
それと同時に、クリスはこんな疑問を抱いた。
「しかし、いくら触媒があったとはいえ、よく彼女を召喚しようと思ったわね。こうなることは貴方なら予想できそうなものだけど。」
「まぁ…そうだな」
この3日間共に行動してクリスが思ったこと。それは蓮という少年は賢く、聡いということだ。老成していると言ってもいい。そんな彼が、聖杯戦争における勝利を目指すためにブリギットという英霊を召喚するという図式に、どうしても違和感があった。
「ただ…腐らせておくのも勿体ないかと思ってな。」
「勿体ない、って。貴方、聖杯戦争のサーヴァントをそれで決めちゃうの?」
「確かにこの聖女様は、聖杯戦争のサーヴァントとしちゃあ残念極まりないが…こういう奴が、何かしてくれるんじゃないかと思っちまった。」
蓮が召喚した聖女ブリギットの願い。それは「世界平和」の4文字。ただそれだけだった。それだけのために、彼女はその命を燃やしているのだ。英霊となった今でも、人々の心に、愛という名の「焔」を灯すために。
「ねぇヒーラギ。世界平和を望む、貴方の根底は何?」
「さぁな…そんな目で睨むなよ。」
はぐらかすことは許さない。そんなクリスの意思にたじろいだのか、蓮は諦めて本音を語ることにした。
「ただこいつなら、ほんの少しでも、俺の許せる世界に変えてくれるんじゃないかって…そう思ったんだ。」
それは2日目の午前中に、クリスに対して見せた表情と同じものだった。
「俺は気付くことが出来た。このままだと、何も選べないまま生きていく事になるって。
でも、気付けない奴は…選ばせてもらえない奴は、気付いたら何も選べなくなっている。そいつらは、自分が何を捨てたのかも分からない…ずっと。だから、俺は許せない。」
あまりにも抽象的すぎる言葉だった。ただ漠然と、蓮は常人とは見ている世界が違うのだろうと、クリスはそう感じた。
「お前は、未来が見えるって言ったら信じるか?」
蓮の質問に、クリスは答える。
「…高位の千里眼をもつ者なら、未来視は可能だと調べたことがあるわ。人類史において、未来を見ることができる英雄は存在している…でも、神秘が薄れた現代において、未来視ができる人間がいるとは思えない。」
一般解として、それは正しい。だが
「…貴方は『視』えるのね。」
クリスは蓮の言葉を信じた。
「これから言うのは、俺の単なる妄想の話だ」
一言断りを入れて、蓮は語りだす。それは彼が情報屋になる前のお話。
「まだ家にいた頃。魔術師として育てられていた俺は、夢を視た…魔術師となった、俺の夢を。」
曰く、魔術師になった蓮は何もいいところはなかったらしい。ただ穏やかに、静かで、大成もしない、当然目標にもたどり着けない。そんな魔術師だったと言う。
「だけど、未練だけは一丁前にあって、それを次代に託そうとするんだ。」
そこからが、彼にとっての地獄だった。
「託された者は、何も選べずに魔術師になり、その結果が、次の魔術師を生み出す。」
地獄を見た。地獄を見た。いつか辿る「生き地獄」を、彼は「視」てしまった。
「ずっと続くこの負の連鎖を、俺は、笑って、笑って…それで大嫌いになった。」
届かずと悟り、叶わぬと理解して、それでも尚、積み上げた負債を後世に丸投げし、この世を生きる。そんな「魔術師」と言う在り方を、彼は呪った。
「だから、家も出てやった。せいせいするってもんだ。」
そう言って、彼は嗤う。光の無い、濁りきった眼で、魔術師という存在を嗤う。
何も知らず、ただ憧れと好奇心のままに魔術師を目指すクリスの話を、蓮はどう思ったのだろうか。蓮と同じものを見ることの叶わないクリスでは、きっと理解できるものじゃないのだろう。
だが、蓮が大切にしようとしているモノが何なのかは、なんとなく伝わった。
「貴方は、人の意思と選択を尊重する人間なのね。」
「まぁ…そうなるのかもな」
生きるということは、選択と決断の連続だ。そう考えているからこそ、蓮はそれを奪い取り、道を強制する現実を、世界を許せない。
「魔術師のこと、そんな風に考えてる人がいるなんて、思ってもみなかった。私にとっては、なって当然のものだったから。」
だから自分を魔術師にさせない実家が許せなくて、家出を敢行したとクリスは言う。
魔術師になりたかった少女と、魔術師に絶望した少年。
「そう考えてみると、正反対だな。俺たち。」
「そうね。そんな二人がこうして同盟を組んでるんだから、聖杯戦争って不思議よね。」
「元から世界ってのは不思議なもんなんだろうが、そうだな。ここは、特に不思議かもしれないな。」
これが奇縁か、それとも運命と呼ぶべきなのか。
全くあり方の異なる二人が出会い、共に戦う。そんな奇跡に、二人は笑う。
「ねぇ。貴方の未来視って、他人の未来は見えたりするの?」
「する。」
「じゃあさ…」
私は、と言いかけて、クリスは止まる。そして、首を横に振り、改めて蓮を見る。
「やっぱりいいや。どうせ、立派な魔術師になってる私しか見えないんだもの。」
「はっ…それでいい。お前の未来は、お前で決めろ。」
自信満々に言うクリスに呆れながらも、それでも蓮はその言葉を、願いを肯定した。 それがお前の選択なら、それでいいのだと。
「あーでも、あの4陣営の未来は知りたいわね。おもに崩壊してる方面で。」
「余韻ぶち壊しじゃねぇか。」
と、せっかく良い感じに〆られるかと思ったのに、この様である。
「いやだって、勝つために必要なことなんだし、できるならやらなきゃ損じゃない?使えるもんは全部使わないと!」
「あのなぁ…確かに、俺も見たいのはやまやまだが」
「だが…?」
そこで若干言いよどむ蓮。そして、ややバツが悪そうな顔で言葉を続ける。
「俺もこれを使いこなせてるわけじゃない。精度は高いが、見たくないものを見せられたり、自分に全く関係の無いものを見せられたりする。」
「つまり?」
「視えない以上はどうしようもない。」
「はー、つっかえ」
「待て、お前そんな言葉何処で学んだ?」
「え?アンタがネットについて詳しいみたいだから試しに読んだ『ネットスラング大辞典』ってやつにあったんだけど。」
「さっさと捨てちまえ。バカ娘。」
「バカって何よ!自信満々に『未来が見える!キリッ』って言ったアンタも大概でしょ!」
「そんなアホみたいな言い方してねぇ!そもそも完璧に使いこなせるならこんなチンケな情報屋稼業なんぞするわけねぇだろ!」
そこからは実に低レベルな争いが続いた。小学生レベルの馬事雑言が双方向から飛び出し、それが争いを過熱させる。
『うーん、この雨降って地固まる感じ、いい詩が書けそうだ。』
「ふふふ、どうやらマスター達はお困りではないようですね~」
そんな二人の様子を満足顔で見つめるライダーとアーチャー。その目は何処までも暖かく、今を生きる若者たちを、人生の先達として見守っている。
「これから例え、お前が道端の小石に躓く未来を視ても絶対に教えてやらないからな!」
「はん!仕返しがしょぼいのよこのおこちゃまめ」
「そりゃ性格の悪い女と比べりゃそうだろうなぁ!今から転ばしてやろうか!」
「私より身長低いのにぃ?できるのかしらぁ?オーホッホッホッホ!!」
争いは続くが、両者の表情に悲壮感はなく、どこまでも楽しそうにじゃれ合っているように見えた。それを理解していたサーヴァント二人は止めることなく、部屋を後にする。しばらくすれば、体力も尽きて大人しくなるだろうと。
『できる男、オルフェウスはクールに去るとしよう。馬に蹴られたくはないのでね』
「では次の困っている人を探しに行きましょう!」※筋力B
『え?私も連れて…グエ!?』※襟をつかまれて首が締まる。尚筋力E
その後、しばらく戯れていた蓮とクリスは、ライダーからの念話でアーチャーが変なところに行っていると気づき、顔を青くして大急ぎで追いかけるのであった。
弓騎同盟の夜は、まだまだ続く。