Fate / Way of Last Faith   作:兵藤影虎

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4日目夜、まさかの全員集合&犯人捜し

※注意※
今回の議論は実際のやり取りをベースとして編集していますので、通常の小説と比べて非常に読みにくいと思います。
また、作中で情報が不十分だったりしますが、実際のログにも記載がない細かいやり取りによる推察で全員が議論しているので、それによる情報量の差異が顕著な回となっています。
可能な限り補完はしましたが、筆者自身が把握できていないやり取りもありますので、これが限界でした。
非常に読みにくいとは思いますが、何卒ご容赦ください。

では、どうぞ


4日目
第九話「全員集合—汝は人狼也や?」


 雲一つない、静かな夜。街の中心を流れる大きな河、その河川敷。2日前の夜にセイバーとバーサーカー、アサシンが戦闘を行ったその場所で今、誰かが招集したわけでもなく、大勢の人間が集まっていた。

 

「…妙な胸騒ぎがするわ」

「それはタピオカの過剰摂取が原因ではないらしい」 

 

 そう呟くのは、シンヴァのものよりも赤味がかった薄紅色の髪をなびかせる女性と紫の戦装束を身に纏った女性。クリー・グローシーとそのサーヴァントである。

 

「驚いたな、まさか全員集合とは。読みが外れたといえば外れたし、当たったといえば大当たりだ。」

「んーっ…!賑やかな気配がするねー」

「…セイバー」

「あらあら、まあまあ。まさか全員揃うとは。此れは面白い事態になって参りましたね?ウフフ……」

「もぐもぐ」

 

 クリー達からやや離れた位置で感想を述べるのは流川春。その傍にはベンチで背伸びするシンヴァ、周囲を警戒するベルナデッタ・エクレシアとそのサーヴァント・セイバー、そして無言でフライドチキンを食べるジェーン・ドゥの姿もある。

 

「ふん…俺も賑やかなのは好きじゃないんだがな。」

「なんでこうなってるし…」

「予定よりも一陣営多いだけだろ。しっかりしろ、クリス。」

 

 そんな若干のんびりとした他の面々と比べて、深刻そうな顔で眉間を抑えるのはクリスティーナ・エヴァンスと、そんなクリスを慰める柊蓮。

 今ここに、此度の聖杯戦争に参加しているマスターの全員がそろった。

 

「で、ここに全員が集まったということは、つまり戦うつもりなのかしら? この儀式の完遂のために。」

「そういう君はクリー・グローシー女史だな?」

「ええ、そうよ 私がクリー。なぜ名前を知ってるのかしら?貴方も聖堂教会の人?」

「いろいろ調査をした関係でベルさんから少し聞きかじってね。俺は流川春、この土地の管理者だ。」

 

 そう言って春が一歩前に踏み出し、全員の視線を集める。

 

「確かに俺たちは全員、聖杯戦争の参加者ではある。だが現状、聖杯戦争を二の次にして取り掛かりたい事件がある。心当たりは…」

「待って下さい。先ずは名乗りませんか? その後で改めて、皆様に伝えたい事とお聞きしたい事があります。」

 

 場を取り仕切ろうとして動いた春に待ったをかけるベルナデッタ。未だ互いの名を知らない参加者同士がいるのであれば、一度にまとめて共有したほうが今後のためになるであろうと考えての提案である。

 

「っと、そうだな。ありがとう。まずはマスター、各自名前を名乗ってくれ。」

「俺は柊蓮。後の事はクリスに聞け。」

「クリスティーナ・エヴァンスよ。クリスでいいわ。」

「はーい、シンヴァです。以上。」

「聖堂教会、第八秘蹟会より参りました。ベルナデッタ・エクレシア。この聖杯戦争の監督役を務めさせて頂く者です。」

「私はクリー・グローシー、聖杯戦争の参加者、つまりマスターの一人よ!」

「さっきも名乗ったが流川春だ。土地管理者兼聖杯戦争参加者。あと、そこで静観してる細身の男性が…」

「ジェーン・ドゥだ。正直この場で殺し合いにならない限り特に動く気はないから、取り敢えず空気みたいなもんだと思っててくれ」

 

 これで、互いに名前と顔を一致させることはできただろう。しかしながら、サーヴァントだけであればともかく、マスターが全員顔を合わせるというのは聖杯戦争の歴史の中でもめったに起きないであろう事態である。

「荒れる」そんな予感を、この場に集った全員が感じ取った。

 

「さて…マスターの紹介は済んだ、あとは貴方たちが出してないサーヴァントの紹介といきたいけど、どう?」

「サーヴァントの紹介は任意とする。知られたくないものもいるだろうし、な。」

「まぁ、当然よね」

「サーヴァントには自己紹介させないの?顔ぐらいみせなさいよ!卑怯じゃない!」

 

 クリーのサーヴァントの問いに対する春の答えに突っかかるクリー。だが、そんなクリーに同調する者はこの場において少数派であった。

 

「プレイべートゾーンなので~」

「別に必要性を感じないもの。」

「寝てる」

「顔を見せるのは構わないが、今は威嚇する獣みたいな顔してるから止めといたほうがいい。」

「私は霊体化する必要性を見いだせないから実体化してるけど、霊体化は普通のこと。」

 

 上からシンヴァ、クリス、ジェーン、春と順番に回答が飛んできて、とどめをクリーのサーヴァントがさした。己のサーヴァントにまで否定されて納得がいかぬと言った様子のクリーだが、そんなクリーに対し声をかける純白のサーヴァントが一人。

 

「落ち着いて下さいな。ほら、私は顔を見せています。それで良いではありませんか。」

 

 そう言って純白のサーヴァントは参加者に一礼をし、挨拶をする。

 

「わたくしは其方のベルナデッタのサーヴァント。セイバーです、宜しくお願いします。」

 

 そんなセイバーの反応を見て、クリーのサーヴァントも口を開く。

 

「私は…なんだっけ?呼び名。パープルじゃない方」

「私が付けた呼び名ですか? ヴィオレッタ、ですね。」

「そう、それ…うん、私はヴィオレッタ。以上」

「…な、なんかこう、適当だねー…」

「センスを貶されてますよ、マスター。可哀想に」

「俺は悪くないと思うけどな。せっかくだ、俺達もヴィオレッタと呼ばせてもらおう。」

「あ、ごめんねベルちゃん!適当って言ったのはそっちの覚えてない方に対してだから!名づけられた名前くらい覚えておけー!」

 

 シンヴァの言葉にほっと一息つくベルナデッタ。どうやら自分の名づけセンスについて指摘されて、若干のダメージを負ったらしい。結局それは誤解だったのだが、繊細な乙女である。

 

「それで、ミス・エクレシア。要件はなに? まさかここの全員で聖杯戦争の講座ってわけじゃないでしょ?」

「…ええ、そうです。あくまでも監督役として、今回は皆様に問わねばならない事があります。」

 

一歩前に出て、全員を見回すベルナデッタ。ようやく、本題が始まる

 

「皆さんもご存じでしょうか。つい先日、この街で発生した『事件』のことを。私の役目は聖杯戦争の裁定。即ち事件の真相を明かし、しかるべき処置を取ることです。」

 

 その言葉に対し、真っ先に反応したのはクリーとクリスの二人だった。

 

「事件? ああ、なんかそんなの言ってたきがするけど、結局なんだったのアレ?」

「事件のことは知ってるわ。そして貴女は此処に犯人がいると、そう考えているのね。」

 

 クリスの言葉にベルナデッタは肯く。そのうえでベルナデッタは、誰か犯人に心当たりはないかと問うたが、皆が首を横に振り否定した。仮に犯人がこの場にいたとしても、素直に答える者など誰もいないだろう。

 そんな膠着しつつある状況の中で、先手を取ったのはクリスだった。

 

「それに関して、こちら側から一つ報告があるわ」

「何でしょう?」

「私とヒーラギは聖杯戦争の初日に、事件が起きたエリアとは正反対のエリアで同盟を組んで、そこから動いていないわ。証明手段も用意してある。提示は必要かしら?」

 

 そんなクリスの言葉を、周囲の参加者は興味深そうに聞いていた。まぁ、一部例外はいるようだが、ここでは割愛する。

 

「頼む。今はどんな証拠でも欲しいところだ。」

「ええ。そちらが同盟を組んでいるのなら、口裏を合わせているだけである可能性も否定できません。物証があるのでしたら、是非。」

「まぁ、こちらが用意しているのはあくまで『私は動いていない』という証拠なのだけれど。」

 

 春とベルナデッタの言葉に従い、クリスは3つの礼装を提示した。並の礼装と比較して、より強力な神秘が込められた一品に、一部から感嘆の声が漏れ聞こえる。

 

「これらの礼装1つを作るとき、私は丸一日動くことができない。それが3つあるということはつまり、私は3日間拠点に籠って作っていたということ。」

「同盟相手の俺も同様だ。目を離すわけにもいかないからな。」

「そして私たちは、地図上でいうところのエリア3で同盟を組み、そこから丸3日かけてこの3つの礼装を作り上げた。さらに言うと、術式の制約の都合もあって、長期間の作り置きって手段はとれない。」

 

 事件が発生した現場から一番遠い場所に陣取り、そこから動いていない自分たちが事件を起こすのは不可能だとクリスは話す。

 もしもクリスが事件の発生した7番エリアに陣取っていたのなら、昨日の時点でベルナデッタたちと遭遇しているはずなので、その可能性はない。

 

「如何ですかセイバー。貴女ならその発言が真実か、見極められるでしょう。」

「少し近付いて見せて頂きますね。…ほうほう、成程」

 

 セイバーがクリスに近寄り、用意された三つの礼装を手に取って確認する。セイバー…北欧の雷神トールは魔術にも精通しており、またイーヴァルディを代表する鍛冶妖精とも縁があったことから、戦に纏わる物品に対する知識は豊富だった。

 

「…確かに上等な代物です。此れは才のあるものが時間をかけてようやく作り上げられるもの…真実と判断するには十分でしょう。」

 

 そう言ってセイバーは微笑みながらクリスから離れた。その言葉を聞いたクリスはほっと一息をつく。別に後ろめたいことがあるわけじゃないが、この見た目美人なセイバーの中身が雷神トールであることを使い魔越しに知っているがゆえに、対応に困っているだけである。

 

「なるほど、こうやってお互いにアリバイをショーメーしていくのね。」

「そうね、私たちは今回に関してアリバイあるのは、そこのレッドパウダーと会った時ぐらい。」

 

 そんな一連の様子を眺めていたクリーとそのサーヴァント…ヴィオレッタが口を開く。クリー本人はともかく、サーヴァントの方は自分たちのアリバイを証明するのは難しいことを察しているようだ。

 

「それで、そこの監督役さんは把握してると思うんだけど、私たちは2日目時点から使い魔を通じて貴方たち『変則4陣営同盟』のことを追跡していた。」

「俺達の2陣営に、シンヴァさんとベルさんを加えた4陣営のことか。」

「正式な同盟も組んでないのに4陣営が一緒に行動してるのを、変則と呼ばずして何と呼ぶのよ…」

「揃いも揃ってずっとぞろぞろ歩いてたしな。まぁ、文句は後にしておけ。」

 

 そう言いながら礼装を片付けるクリスは、春達に向かって愚痴を漏らす。その言葉に蓮も同意するが、文句を言っても議論は進まないので、クリスに続きを促す。

 

「そんな感じで事件発生当日、私たちが唯一観測できなかった同盟が…貴女たちよ。」

 

 ずびしっ!と擬音が聞こえそうな、そんなポーズでクリスはクリー達を指さした。お前たちが犯人じゃないのかと問い詰めるように。

 

「つまりどういうこと?」

「私たちが怪しいってことでしょ?」

「怪しいとかいうレベルか?お前らが最大の有力候補だって事だよ。」

「なんでよ!」

「状況証拠的に、貴女たち以外不可能に近いからよ。」

 

 近い、という表現にしたのは万一に対する予防線のようなものだ。実際、弓騎同盟でも未だ能力の詳細を把握していないサーヴァントやマスターはクリーたち以外にもいる。

 その筆頭はジェーンとアサシンの二人組だ。彼らが犯人である可能性も0ではない。クリス達はおろか、共に行動している面々も把握していない特殊なスキルを用いて犯行に及んでいる可能性もある。だが、彼らは2日目以降、3陣営に囲まれながら行動している。そのすべてを欺いて行動できるのかと考えると、ほぼ不可能に等しいだろう。少なくともクリスはそう考えていた。

 故に、弓騎同盟の中でクリーとヴィオレッタの二人が最も黒であると認識されていた。

 

「さて、以上が私たちからの報告になるわ」

「情報ありがとう。確かに俺達も、動向が追えないそちらの動きが気がかりだった。」

「なるほど、悪くない着眼点。推理力は結構なものね。」

 

 クリスからの情報提供は確かに有意義なものであったという春。ヴィオレッタも、クリスの考察自体はそこまで悪くないものであると評価した。

 だが、そんなクリスの言葉に納得がいっていない人物もこの場にいる。

 

「…彼女は違います。でしょう、クリーさん?」

「違うわよ!」

「まぁ、違うと言って信じる人がどれぐらいいるかだけど。」

 

 この場にいる参加者の中で唯一、ここに来るより前にクリーと接触し、共に食卓を囲んだベルナデッタだけが、クリーを擁護し、クリスを否定する。

 監督役が一つの陣営に入れ込むのはどうかという意見はあるが、それを一旦飲み込んでクリスはベルナデッタに問いかける。

 

「少なくとも、私たち2人は物理的に不可能だというのは証明できたと思うんだけど?」

「それは…そうですけど…」

「私は違う! 絶対に違う! アリバイないけど違うもん!」

 

 クリスの言葉を受け入れがたいものだと思いつつも、否定できないベルナデッタ。クリー自身も自分が不利な状況にあることを理解したのか、必死になって否定をするが、その言葉を裏付けるような証拠は提示できずにいる。

 そんなマスターを見かねたのか、サーヴァントであるヴィオレッタが援護を飛ばす。

 

「そうね、状況証拠はたしかに揃ってるかもしれないけど、それは何を基準にした推察かしら?」

「弁明する側が勿体ぶってるんじゃねぇぞ、理由があるなら早く言え。」

 

 意味深な発言をするヴィオレッタに対し、半ば苛立ちながらも続きを要求する蓮。そんな蓮のことなど眼中にないかのように、ヴィオレッタは言葉を続ける。

 

「サーヴァントには多種多様なものがいる。例えば『その場にいなくても事件を起こす』っていう前提を崩すなにかがあるとしたら? 過去にはマスターが実は人形使いで、本体はエリアの外で事件を起こしていたというパターンだってある。」

 

 ヴィオレッタの言葉はクリス達がアサシン陣営の二人に対して考えていた可能性の一つでもあった。『そういう能力』の持ち主であれば、そもそもアリバイ自体意味を成さない。

 

「まぁ、魔術の世界においてハウダニットを議論するのは割と無駄よね。」

「全員の情報を丸裸にしなきゃ納得できないってんなら、俺は付き合ってやってもいいが?」

「っ…待って下さい!皆さんが信用されるか如何かは分かりません…でも!」

 

 ヴィオレッタの言葉に一定の理解を示す弓騎同盟の二人。だが、それはそれとして徹底討論するというのであればとことん付き合うぞ、という意思が見え隠れしていた。

 徐々にヒートアップしつつある両者に対し、このままではまずいと考えたベルナデッタは待ったをかける。だが、事前に練習していたのであればいざ知らず、アドリブが達者ではない彼女は言葉に詰まる。

 そんなベルナデッタに代わって、セイバーがその先を引き継いだ。

 

「クリーさんとそのサーヴァントについては教会の情報網から、どちらの正体も把握しています。その上でマスターは『そういう事をする人物ではない』と確信している。まあ、そもそも彼女と私達が結託している可能性は否めませんけどね。」

「俺たちもベルさんから事前に情報を聞いたが、クリーさん自身には事件を起こしうる能力はなさそう、との結論に至った。」

 

 セイバーと共にベルナデッタを援護する春。3日目の段階でクリーについての情報を獲得した彼らはベルナデッタの意見に対し、完璧ではないものの理解は示していた。

 

「私のことも知ったのかしら?」

「いいや、俺たちがベルさんから教えてもらったのはクリーさんのことだけだからな。だから、俺たちはマスターではなくサーヴァント…ヴィオレッタさんが独断で事件を起こした可能性もあると考えている。」

「私の場合、ヴィオレッタさんについてはつい先日教会から追加で送られてきた資料を読んでようやく知りましたので、まだ他の陣営には公開していません。ただ、仮に資料にある真名が正しければ、ヴィオレッタさんは犯人ではないと私は考えています。」

 

 そんなベルナデッタたちのやり取りを見て、面白く思わないのは弓騎同盟の二人だ。彼ら目線からしたら明らかに黒であるはずのクリー達が、なぜこうまでも擁護されるのかが理解できない。

 

「ちょっとー、そっちで勝手に話を進めないでよ。こちらは既に持ち札を見せたのよ?」

「口だけでならなんとでも言えるんだよ。こっちは現物を見せた。今度はそっちがこちらに見せる番だろ。どうなんだよ、教師気取り。」

 

 こちらは物証を用意し、自分たちが今後不利になるリスクを背負ってまで情報を全体に公開したのに、自分たちに対して何も提示しないあちらを信じるのか?それはあまりにも公平さに欠けるのではないかと、二人は事件の捜査責任者と思わしき春とベルナデッタに問いかける。

 

「…そう思うなら、柊蓮、君のマスターとしての能力を明かしてくれ。クリスさんは白だとしても、君のことを俺達は知らない。君はまだグレーゾーンだ。」

「俺はそれでも構わないが、それを言うなら対価をよこせ。あー、別にマスターの情報は要らねぇ。自分で調べるし。俺たちからしたら、サーヴァントの情報のほうが優先度高めだな。」

 

 明かすのは構わないが、タダというわけにはいかない。これは交渉であり、既にこちらはカードを一つ提示している。その上さらに情報を要求するのであれば、相応の対価を用意しろと蓮は語る。

 

「それだと、ヴィオレッタさんの真名を明かす事に……」

「ちゃんと間違えないなら別に構わない。でも『アイツの名前』で言ったら…貴女であっても狙う。あんなのと間違われたくないから。」

 

 ただ、とヴィオレッタは続ける。

 

「フェア精神というのであれば、サーヴァントの顔出しくらいはしてほしいかしらね。」

 

そんなヴィオレッタの要求に、即応するサーヴァントが2騎

 

『顔出し程度で容疑が晴れるなら喜んで顔を出そう。』

「お呼びでしょうか?はいはい!なんでしょう?お困りごとですか!」

 

 霊体化を解き、現れるは二人の男女。男はクリスの背後に、女は蓮の背後にそれぞれ控えるように立つ。群青色の旅装束を纏う男はその背に楽器を背負っており、まさに楽士と呼ぶにふさわしい恰好をしていた。対する女の方は薄緑の修道服を身につけており、聖女のごとき清廉さを纏っている。

 

「あら、良い顔…息子には断然劣るけど」

「え…?」

「その姿…聖堂教会の人間がサーヴァントってありなの!?」

「ちがう、彼女も英霊。常識外もいい加減にしなさいマスター。」

「こうなると思ったから、この聖女様を混ぜたくないんだよ。」

「彼女が出ると話が脱線するからね…」

 

 ベルナデッタが戸惑いを覚えたのは、まさか聖女と呼ばれる教会関係者のサーヴァントがいるとは思わなかったためだろう。

 そんな二人の出現に応じて、それまでサーヴァントを出さなかった面々もヴィオレッタの要求に応じた。

 

「じゃあいっちゃおうか。私は私だよ。私の中に私がいる。だから実証できませーん。」

「あぁ、『No3-シンヴァ』、お前の事は俺が保証してやるよ。」

「…なるほど。私の事を調べたのは君だったかー」

「気づいてたんだな、ご同輩。」

「どういうこと?」

 

 蓮とシンヴァのやり取りに疑問符を浮かべるクリー。そんなクリーの疑問に答えたのは春だった。

 

「彼女はいわゆるデミ・サーヴァントって奴だ。詳しくは自分で調べてくれ。しかし、これはうちのも顔を見せないと失礼だな…ミナ!」

 

 その呼びかけに、ミナと呼ばれた少女が春の前に現れる。だが、その顔は春自身が冒頭で説明していたように、まさに威嚇する獣のような表情を浮かべていた。

 

「…そこの踊ってる男はどうした?話し合いの場に話すらしないのは、戦場において戦いを拒む者と等しいな。」

「見せて下さい、ジェーンさん。貴方も…上手く立ち回りたいでしょう?」

 

 そんなミナの様子を気にすることなく、ヴィオレッタはジェーンを指さし指摘する。それに同調するように、ベルナデッタもジェーンに指示を出した。だが

 

「いやです」

 

 と、ジェーンは二人の要求をきっぱりと断った。それどころか、これから先も我関せずといった具合でその場から離れようとしている。

 

「おい土地管理者。あの男、どうにかしなさいよ」

「なんでこんな奴雇った?」

「…はぁ。すまない、大体あんな感じではぐらかされてしまう。というか彼を雇ったのは実家の方で、俺自身誰が傭兵で来るかとか聞いてなかったしな。」

 

 クリスと蓮からによる怒涛の質問に頭を抱えながら応対する春。そんな3人を気にすることなく、ヴィオレッタは思ったままに会話に興じる。

 

「どうやらボッチみたいだぞ、マスター。私たち以外はそれぞれ相方がいるように見える。」

「ボッチじゃないよ~。そこのクリーさんはベルちゃんが信頼してる。私はそんなベルちゃんを信頼してるから、私はクリーさんを疑わない。」

「シンヴァさん…その言葉は嬉しいですが、私は監督役で、誰か一人に肩入れする訳には。」

「私が勝手に祝福して、勝手に手伝うだけ。それくらいなら良いよね?ベルちゃん。」

「それは……」

「よくわからないけど、もらえるものはもらっておきなさい!ミス・エクレシア。」

「マスター。貴女はその少女の潔白を確信しているのでしょう?取り敢えずは犯人を見付けるまで、そんな感じでなら構わないのでは?」

「…では。手助けしてくれるというのなら、その手を取りましょう。」

「おっけー!任せなさーい!」

 

 セイバーとクリーの後押しもあり、シンヴァの手を取るベルナデッタ。奇妙なタイミングでの協力体制の締結だが、これも参加者全員集合という通常ならあり得ない事態がもたらした縁なのだろうか。

 そんな感じで若干脇道に逸れた議論を、ヴィオレッタが修正する

 

「さて、そもそもサーヴァントが怪しいかどうかという話だったが…真名の名乗りあいに応じる者はいるか?あるいは同盟でないものが事件を起こさないと証明できる情報をもっているかどうかを知りたいところだが。」

「軌道修正はありがたいけど、アンタ、自分が場を仕切れる立場にあると思ってるの?」

「お前らが堂々とこっちに要求できる立場だと思ってんなら、それは大きな間違いだ。」

 

 議論再開までこぎつけてくれたことには感謝するが、それとこれとは別問題だとヴィオレッタを非難する弓騎同盟の二人。そんな二人を春は制止する。

 

「わかった、わかった。二人とも落ち着け。ヴィオレッタ、俺たち2陣営での秘匿を条件に、真名の明かし合いをしないか?」

「2陣営?どことどこ?」

「俺の陣営と、君たちの陣営だ。」

「それはフェアではないわね。貴方は同盟を組んでいる、なら同盟相手のも渡すべきじゃないかしら?」

「それは許可できない。」

「情報共有されるリスクがこちらにはある。」

「…こんなことを言いたくはないが、俺は同盟相手のジェーン・ドゥを、厳密には彼のサーヴァントを信用していない。だから、そこは心配しなくていい。理由は…今の状況を見ればよくわかるだろう?」

 

 そんな交渉をヴィオレッタに持ち掛ける春だが、ヴィオレッタの反応はあまり良くない。どこまで行っても平行線で、状況が進む気配はなかった。

 

「んー…じゃあ、ていあーん。私の真名をあげる。其れで対価にならない?その代わり、一時休戦もしておきたい。こんなグダグダしてる時間は嫌だし。」

「それ、俺達には何のメリットも無いんだが?」

「休戦はともかく、私たちは貴女の真名を知ってるのよ?」

「だーかーらー、そこの紫の人に交渉してるの。真名が欲しいって言うなら私のを上げる。」

「だとしても、私たちは何の得もしないわ。そんな交渉を見過ごせと?」

 

 そんな現状に業を煮やしたシンヴァが提案するが、その提案では何も得るモノが無いと言って却下する弓騎同盟。

 

「大体、そっちだけで話を進めんな。俺達は既にそっちの要求をいくつか飲んで、情報を差し出してるんだぞ。」

「ちょっと待ってくれ柊、冷静になって…」

「情報の差し出し、それはアリバイ照明のことか?サーヴァントの真名と、マスターの一部の能力を同等と見ているのなら、もう少し思考するべきだ。」

 

 そんなクリスと蓮たちをまるで挑発するかのように煽るヴィオレッタ。

 

「私が開示したのはただのマスター情報じゃなくて『クリスティーナ・エヴァンスは確実に動いていない』という情報よ。これは事件究明に対して大きな情報だとは思わないの?」

「だがヒーラギが動いてないという証明はない」

「ああ言ったらこう言う、だな。」

「今更そんな言い草が通るわけないでしょう!」

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに、クリスがとうとう噴火した。なんでこうもうまくいかないのか。想定通りにいかない現状にフラストレーションがたまっていたのだろう。

 そんなクリスに対し、今度はクリーが声をかけ、謝罪する。

 

「あーっと、クリスだったかしら?サーヴァントの態度が気に食わないならごめんなさい。私の情報を交換で渡す、それでどう?で、私のサーヴァントの情報は、そこのハルって男とシンヴァのサーヴァントの情報と交換。」

「態度が気に食うとか食わないとかじゃねぇ、このままじゃ釣り合いが取れない。」

「マスターの全部を教えてやるんだ、一部しか見せてないのよりは優良な条件だとは思うけど?」

「マスターの情報は重要度低いのよ。こっちは。」

「そのわりには自分の価値が高いとは思うんだな。」

「さっきも言ったように、私たちが提供したのはただのマスター情報じゃなくて、『私たちは動いていない』という証拠。そもそもこの場って『事件を起こしたのは誰か』を議論する場じゃないの?貴女のマスター情報に、それに関する有力な情報があるわけ?」

 

 そう、この場で問いただすべきは事件への関与の有無であり、誰が誰の情報を持つのか、というのはあくまで副題でしかない。

 

「そうだな…マスターが起こしたわけじゃないという情報は渡せる。それでもサーヴァントを疑うのであれば、私以外にも吹っ掛けないのはどういうことか。」

「言っとくが、お前らマスターの情報は、言ってしまえば俺にとっては少し調べれば分かる事に過ぎない。それはそこの祝福女も分かってるだろ?」

「あ、私にそう振る?じゃあ私も同じことができるって言っておくね。誰も探るつもりはないけど。」

「ふむ、そうか、そういう能力か。なら確かに需要はないだろう。だが、それはそちらの問題であり、情報量という意味では変わらないと思うが?」

 

 だが、ヴィオレッタと弓騎同盟の意見はどこまでも平行線をたどる。

 

「それに、そちらの同盟も、この会合の直前に組んだという可能性もある。まぁ、これを抜きにしても、サーヴァントの情報を見て精査するというのなら自分たちのも精査されるべきではないのかしら?」

「は、付き合ってられねぇな。」

「だから、アンタはそれを言える立場じゃないでしょうが!単独で!捕捉もできてなくて!碌なアリバイをこっちに証明できてないアンタが!」

「お前らヒートアップしすぎだぞ。」

「お三方、一度頭を冷やしてください。」

「むー、なんだか学級裁判みたいでつまんなーい。」

 

 そんな面々を見かねたのか、仲裁に入る春とミナ、そして苦言を漏らすシンヴァ。そこで一旦小休止を挟むことになったが、未だ空気は重い。弓騎同盟はすでに提出した情報に見合った価値のある情報の提示を要求し、ヴィオレッタはその要求をのらりくらりと躱し続ける。

 場が硬直しつつある中、しばらく沈黙を保っていたベルナデッタが動いた。

 

「…私は監督役として、クリスティーナが無罪を証明する証拠を提出したのなら、それに相当する無罪の証拠を提出しなければいけない。」

 

 そして、クリーの方に向き直り、確認をとる。

 

「裁定者として貴女に問います。クリー・グローシー。このまま疑われ続けるか、それとも私の権限を以て全情報を明かされるか。どちらが良いですか」

「そうね、私は証明される方を望むわ!どうせ戦いになればバレるんだし」

「ヴィオレッタさんは?」

「貴方が私の真名を知っているなら、保証人になってくれればそれで済む。」

「分かりました…では、主の代行者として我が名『ベルナデッタ・エクレシア』に誓い、彼女らの無実を証明しましょう。マスター、クリー・グローシーの全情報を開示。並びにランサー、アイフェの真名を開示します。」

 

 そう言って彼女は教会から送られてきたクリー達の資料を全体に公開する。最も、配られたのは原本から書き写した複製品だが。

 

「…この情報を見る限り、彼女に事件を起こしうるスペックはないはずだ。そして情報の発信先であるベルナデッタも、現状では動機が薄い。シンヴァさんもスペック的に除外できる。事件の話において、彼女ら3人は信用していいだろう。」

 

 春が代表するかのように、獲得した情報を評価する。その意見を否定する者はおらず、ここにクリーとヴィオレッタ…ランサーのサーヴァント、アイフェの無実は証明された、といっていいだろう

 

「議論の最初あたりに既にこっちは名前出してもいいと言った。そのうえで色々文句を言ったのはそっちだったわけだが。」

「はぁ?後から色々後出しであれこれ条件を付けてたのはそっちでしょうが!」

「しかし、これはフェアではないのではないか?まるでカツアゲ思考のようだ。」

「異議は挟ませません、アイフェ。 あちらは独力で無実を証明し、クリーさん達はそれが出来なかったからこそ、真名を明かす事になった。これで対等です。それ以上の追及は……私が許しません。」

 

 しかし、ランサーはなおも食い下がる。

 

「証明できていない。貴女はサーヴァントが実行したという可能性を考えないのか?」

「確かにマスターを置いてサーヴァントが犯行に及ぶ可能性はあるでしょう。けれど、それは私にも、貴女にも、そして他の誰にも有り得る可能性です。それを疑い始めれば、この話はまた先程の様になるでしょう。…お願いです。ここは退いて下さい。」

 

 そう言って、ベルナデッタはアイフェに深く頭を下げた。

 

「…今日はもう頭を冷やそう。これ以上は収穫にはつながらない。全員、もう一定以上の情報は得たろ?」

「それでも、最後に、これだけは言わせてもらいたい。」

 

 春の解散宣言を遮るように、ランサーは言葉を紡ぐ。

 

「私たちの陣営はマスター・サーヴァントともに情報は提示させられた。そのうえで、サーヴァントが未だ不透明な者がいる。そこに間違いはないでしょう?ベルナデッタ。」

「…その通りです。」

 

 公平な立場であるはずの監督役が、この不公平な現状をどうするのか。そう攻め立てるようにベルナデッタに問いかけるランサー。

 また、不毛な議論が始まるのかと誰もがそう思った時、動きを見せたのは蓮だった。

 

「ほー…そう言うことを宣うのか。いいだろう。俺はお前みたいな奴に借りは作りたくねぇ、だからこうしてやるよ。」

 

 そう言って蓮は彼のサーヴァントに指示する。

 

「聖女様・・いやアーチャー。名乗っていいぞ。」

「え?いいんですか!分かりました!では、名乗らせていただきます!」

 

 一呼吸を置いて、彼女は己の真名を宣言した。

 

「私は『キルデアのブリギット』!みなさん、困った時は言ってくださいね!」

 

 満面の笑みを浮かべながら、アーチャー・ブリギットは元気よく挨拶する。

 

「キルデアのブリギット。施しの、聖女…感謝します。貴女の施しに、同じ宗教へ殉ずる者として…」

「感謝は我らが天におわす神へ!私もまた、ただの代行ですから。」

「ヒーラギ、そういう対価をだしてこそフェア…」

「ぬかせ、ランサー。」

 

 弓騎同盟としては想定外の情報提供となったが、アーチャー自身が持つ場を和ませる空気が、ここに集まった者たちの張りつめた気を緩ませる。

 

「はぁ…そろそろ夜が明ける。これ以上は長居できない。神秘の秘匿がモットーの魔術師が居残りで神秘を明かしてちゃ世話ない。」

 

 時刻はすでに深夜4時を回っていた。予想以上に議論が長引いてしまったらしい。シンヴァに至っては既に眠気が限界なのか、舟をこぐように頭が揺れている。

 

「強制はしませんが、もう一度この場に集まりましょう。日時は追って知らせます。それまで各々状況を整理して来てください。」

 

 そんなベルナデッタの一言をもって、この場は解散となった。

 

『以上、BGMは私、楽士がお送りしました…なんてね。』

 

 嵐の訪れは近い

 




今回の聖杯戦争におけるターニングポイントその①。
ここから一気に状況が加速していきます。

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