「ひ、ひどい目にあった……」
「だ、大丈夫、アンナ……?」
頭部に生えていた矢がなくなり手枷から解放されたアンナ嬢が荒げた息と共にそんな言葉を洩らした。
何と。まさか俺たちが来る前に連中にヒドイ事をされていたとは……それには気付かなかった。女性に対する配慮が足りなかったようだ。
「違うわよ! 私が言ってるのはアンタの所業よ!」
……? 何を言っているのかよくわからない。俺はそんなヒドイ事をしたのだろうか?
「ちなみに今回鏃は貫通してたけど貫通してなかったらどうするつもりだったんだ? その状態だと矢を抜こうにも鏃とか頭に残るだろ?」
もちろん『峰打ち』を使って頭を開いて摘出するつもりだった。治癒魔法の使い手もいた事だし、峰打ちならば死なないから問題はない。
「 」
「 」
「うーん、この…………」
おや? 何かおかしなことを言っただろうか? 至極当然のことを言っただけなのだが。
「…………ひどい目にあったのは確かだけど、アナタ方のおかげで助かったのも事実です。本当にありがとうございました」
「いいよ。君が無事で本当によかった」
俺も構わない。俺個人だけならおそらく見捨てていただろうし。
というか、ただでさえ鎖に繋がれて体力を消耗していた上に、峰打ちとはいえさっきまで頭に矢が刺さっていたのだ。もう少し休んだ方がいい。
「矢を打ち込んだアンタが言うの、それ……?」
それは関係ないだろう。実際に傍から見ていて立っているのもきつそうに見える。
「何か調子狂うわね……」
そう言いながらもやはり疲労が溜まっているのかふら付いているアンナ嬢を一先ずその場で座らせた所で、続いて黒幕の男にも話を聞く事にしよう。
「え? 黒幕ってあの男よね。胸に矢が刺さってたけど死んでないの?」
死んでいない。あれも峰撃ちだから生きている。一体どういう目的があってお姫様を狙ったのか調べない事にはまた同じような事が起きる可能性もある。あとどうやって魔物を操っていたのかも気になるしな……っと?
「どうした?」
いつのまにか黒幕の男が目覚めていたようで、這って逃げようとしている。
「ちょっ!?」
胸に刺さっていたからまだしばらく痛みとショックで目を覚まさないと思っていたのだが、もしや悲鳴のせいで目覚めてしまったのだろうか?
「私のせいみたいに言うな!!」
「それより追わないと!」
その通りだ。このまま逃がすわけにもいくまい。
とりあえず弓を引き搾り、男の往く手を塞ぐように矢を放った。
「────ひぃっ!?」
飛んでいった矢がちょうど這っていた男の目の前に刺さり、驚きのあまり男の身体は飛び跳ねるように起き上がりそのままの勢いで尻餅をついた。その際に男の頭部を隠していたフードがはらりと外れ、その顔が曝け出された。
その顔を見て、お姫様が驚愕の声を上げた。
「────クチーダ卿!?」
「クチーダ……? その名前、どっかで聞いたような……?」
何度か話に出てきていたここの領主の名前だ。それくらい覚えておけ。
しかし……経緯はわからないが、どうやらその領主様が今回の一件の黒幕のようだ。
「くそっ……どうしてこうも上手くいかない……! 途中までは完璧だったのに……! アイツラがちゃんと姫を連れてきていれば……!!」
「クチーダ卿、どうして……!?」
風評を聞く限り、保身に長け、臭い物に蓋をする、事なかれ主義の領主が、誘拐目的なのかはわからないが王女を害そうとするなどという大それたことを計画するとは予想外だった。てっきり敵前逃亡して彷徨っているものとばかり思っていた。
しかしまあ動機はどうあれ、主君の血筋を害する行為が露見した以上これで領主はほぼ確実に打ち首。その財も地位も命さえも全て奪われる事になるだろう。まあ自業自得だ。こうなる可能性も考えなかったわけじゃないだろう。
とりあえず大人しく捕まるか、峰打ちで身動き取れない状態になるか選ばせてやろう。どっちがいい?
「峰打ちで動けない状態にするって……うわぁ」
「考えたくねぇな……」
「あ、あの……あまり残虐な事は……」
……何故味方側である三人がそんなに引いているのか、これがわからない。
「い、いやだ……捕まりたくない……捕まって死ぬくらいなら……!!」
精神的に追い詰められたのか顔を青くして震えていたクチーダだったが、起死回生の方策でも思いついたのか、何かを懐から取り出した。
それは、禍々しい色をした宝石がついたペンダントだった。
「そうだ……! 貴様らがここで全員死んでしまえば問題ないのだ!!」
ペンダントの石が光ったかと思えば、どこからか毒々しい瘴気が湧き立ちこの場を占めていく。
「これは、【穢れの瘴気】!? 一体どこから!?」
「皆さん、私の側に! ──光よ、穢れを祓い給え──」
幸い、お姫様が展開した【浄化】の結界によって俺たちの周りの瘴気は消えていくが、浄化してもしても瘴気は一向に減る気配を見せない。むしろどんどん増加していく一方だ。
同じ空間にいるあの領主もただでは済まないはずなのだが……
「おい、何でこの煙、アイツの方に向かわないんだよ!?」
領主の周囲に瘴気が発生する様子はない。それどころか発生した瘴気が風も吹いていないにも関わらずこちらを取り囲むように渦を巻いて集まってきている。
「ふはははははっ! さすがは『浄化の姫巫女』と称される事だけある! 素晴らしい力ですな! だがいつまで持つかなぁ!!」
あのペンダントによってクチーダが瘴気を操っているように見える。さっきまでガクブルしていたのが嘘みたいに勝ち誇ってる辺り間違いないのだろう。
であればもう一度矢をその身体に撃ち込んでやろう。どうやら峰打ちで徹底的に動けなくなった状態で捕まるのがご希望なようだしな。
という事で弓で矢を撃ち出したのだが……
ピキッ、という小さな音が不思議と空間に響いた。
「…………は?」
音の発生源は、領主が掲げていたペンダントからだった。
俺が放った矢がヤツの身体ではなくペンダントに当たったのだが、その結果、矢は弾かれたもののペンダントの宝石に亀裂が走っていた。
その軽快な音とともにペンダントから光が消え、俺たちの周囲を渦巻いていた瘴気はまるで清浄な結界を嫌うように離れていき、まるで引き寄せられるようにクチーダの方へと殺到した。
「ひっ、やめっ、助けァアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
それを防ぐ手段を持ち合わせていなかったのか、クチーダの身体は大量の【穢れの瘴気】に呑まれ、ヤツの絶叫と身体が無理やり組み変えられるかのような異音がその場に響き渡る。
そしてヤツを包んでいた瘴気が薄れていくと共に、その変わり果てた全貌が明らかとなった。
肌が毒々しい紫に変色し、体の部位自体はまだ判別がつくものの、まるで内側から肉が膨張したようにも見える。その肉体は先程までと比べても倍以上に膨れ上がっておりその膨張は今も進んでいるように見えた。
顔があったはずの頭部も肉で膨れ上がり、内側から肉に押し出されて今にも飛び出さんとしている眼球と声にならない騒音を洩らし続けている口がなければ、そこがもともと人の顔であったという事すらも判別がつかなかっただろう。
まだ人の姿であったゾンビ兵士とは違い、今のクチーダには先程までの面影……いや人としての残滓すらも歪められ残されていなかった。
「なんだよ、これ……!?」
これが【穢れの瘴気】によって引き起こされる生物としての変質だ。とはいえさすがにこれは行き過ぎだと思うが…………というか質量保存の法則はどこにいった……いや、今さらの話だった。
これを相手にするのは、正直勘弁してほしいのだが……さて、どうしたものか。
「だったら……クリス! 奴に【浄化】の天恵をかけてやれ!!」
「はい!」
あっ、その手があったか。
【穢れの瘴気】でこうなったのなら、それを浄化して失くしてしまえば元に戻るだろう。いや元に戻っても既に死体になっているかもしれないが、今は置いておこう。
少々ズルイ気はするが、これも戦法の一つだ。勝ったなガハハ、風呂にでも入るか。
お姫様が【浄化】を発動させ、さきほどまで俺たちを覆っていた結界をヤツに展開したのだが……。
「■■■■■■■■■■■■■!」
「そんな!? 浄化できない!?」
浄化に包まれたヤツの叫び声とともに一瞬、肌の毒々しい色が少し薄くなったように見えたが、それがすぐさままた染まり直したように見えた。叫び声を上げた辺り、全く効いていないわけではなさそうだが……つまり浄化するための出力が足りていないのか……?
ともあれ裏技で倒す事が出来ない以上、正攻法で倒すしか方法がないわけだ。……正直逃げた方がいい気はするのだが……。
「こんなの放っておけないだろ! もし街にでも来たら大惨事だぞ!!」
アルならそう言うと思った。
それに体力的に消耗しきっているアンナ嬢を連れて逃げ切れるかという問題もある。
であれば、お姫様には【浄化】や補助魔法でサポートしながらアンナ嬢と一緒にいてもらって、俺たちでヤツを引き付けて倒すしかない。
ヤツの肥大化した身体から放たれる攻撃は当たれば一撃で圧し潰されそうだが、その動きは緩慢で動きの予測も容易い。相手の攻撃を躱しつつ、引き抜いた鉈で斬りつける。
「■■■■■■■■■■■■■!?」
紫色の肌を切り裂き、内側から毒々しい血液が噴き出し、その内側から肉が盛り上がってきて傷が塞がった…………は?
「うおっ!? 斬ってもすぐに治りやがる!?」
その奇怪な現象は、アルの方でも同じだったらしい。
何というか、治った、というよりは内側から肉が盛り上がって塞いだという方が適切な気がする。傷は塞がっているので結果として変わらないが。
「だったらこれならどうだ……! ──雷よ、ヤツを貫け──!!」
「■■■■■■■■■■■■■!?」
剣が効果的でないならと、アルから放たれた雷撃が敵に直撃する。肉が焼ける音と異臭が漂うが、しかしヤツの動きは止まらない。
「効いてない!?」
いや、効いている。効いてはいるが、それ以上に回復、というより増殖(?)能力の方が高いのだ。
「結局意味がないことには変わらないだろ!」
いや、攻撃を無効にしているのならともかく、増殖量がダメージ量を超えているだけなら、増殖量を上回るダメージを与えてしまえばいいのだ。
つまり、アレを倒すために必要なのは増殖する間もなくすべての細胞を一撃で壊し尽くす程の大火力である。
当然俺にはそんなもの出せないし、お姫様にも無理だろう。であればアルの【雷光】の最大火力をぶち込むくらいしか可能性はない。
「わかった……けど、威力最大で撃とうと思ったらそれだけに集中しないと無理だぞ。この状況でできないだろ……!」
今も俺とアルの二人で接近戦を仕掛けているからこそヤツの攻勢を抑え込めている状況だ。今のこのやりとりも攻撃を捌きながら交わしている。
二人掛かりで何とか拮抗している状態だが、アルが抜けるとなると俺一人でヤツを抑える必要がある。
「さすがにそれは無茶が過ぎるだろ……! できるのか……!?」
さて。だがまあ、それしか方法を思い浮かばないならやるしかないだろう。できるだけ早く最大火力で打ち込んでくれ。それまでは何とかやってやるさ。
「……わかった。ちょっとの間だけ頼む」
そう言って後方に下がってアルが意識を集中させるとともに俺は一人で前に出る。
傷が塞がるとはいえどうやら痛覚はあるように見える。なので注意をこちらに向けるためにひたすらに鉈で斬りつけていく。
相手の大振りの攻撃を躱したついでに切り付け、接近して切り付け、距離を取って相手の動きを見て……というのを繰り返していく。
一発でもまともに食らえば挽き肉になりかねない攻撃だが、動きが鈍重なためか今のところは何とか躱しきれている。とはいえ何か一つミスをすれば崩れてしまいそうなバランスの下でだが……と、そんな事を考えた矢先の事だった。
鉈が、肉に食い込み抜けなくなった。
引き抜こうとするが、その前に傷口を塞ぐように新たな肉が盛り上がり、鉈が肉の中に埋まっていく。
「■■■■■■■■■■■■■!」
それに気付いてか気付かずにか、足を止めた俺目掛けて凄まじい質量だろう腕が降ってきた。
さすがに命には代えられないため、すぐさま鉈から手を放してその場から離れる。手放した鉈はそのまま取っ手ごと肉の中に取り込まれてしまった。
あの鉈、気に入ってたんだが……仕方ない。それよりも今は得物をどうするかの方が重要だ。
さすがに素手で戦うのは無理だし、弓矢も敵を引き付けるという目的には適さないだろう。というより近距離で相手の攻撃を躱しながら矢を番えて弦を引いて狙いを定めて放つ、という一連の行為をできる自信がない。
仕方ない。あまり得意じゃないんだが……
「■■■■■■■■■■■■■!!」
攻撃を飛び避けるとともに、床に散乱していた元兵士の剣を拝借して切り付けた。
「■■■■■■■■■■■■■!?」
うん、切れ味は悪くはない。
とはいえ使い慣れない、しかも得手としてない得物である以上さっきみたいに切り裂くのは難しい。
使い慣れている鉈でさえ肉の壁に捕らえられてしまったのだ。剣でも結局同じようになるだろう。
なので、そうする前提で使うことにした。
剣で突き刺し、切り込み、そのまま肉の中に置き去りにして新しい剣を拾い上げる。幸いというべきか、代わりの剣はそこら中に転がっている。
しかしサイズ感は全く違うが剣を突き刺していくこの感覚は、何というか海賊危機一発を思い出す────
「────危ない!」
お姫様の声で自らに振るわれる肉塊の存在に気付いた。
回避────は、間に合わない。咄嗟に傍に落ちていた物を掴み上げ、迫る肉塊と自身の間に滑り込ませた。
瞬間、全身を凄まじい衝撃が襲い掛かり、吹き飛ばされた。
回る視界とともに地面をバウンドしていき…………勢いを殺して何とか体勢を整えた。
盾にしたのが硬いヤドカリの死骸だったおかげか、命拾いした。側にあったのがゾンビ兵だったら、今頃ゾンビ兵の残骸との区別がつかなくなっていただろう。
まあヤドカリを掴んでいた左腕から痛み以外の感覚が消えたが、足は動くし右手も無事だし意識もはっきりしている。問題ないな。
まだまだ、戦闘継続可能だ。剣を拾い上げ、再びヤツへと駆け寄っていき────
「────三秒!」
────その声が聞こえたとともに手に持った剣を投げつけて後退する。
投擲した剣が突き刺さり、叫び声と血と肉をまき散らしながらヤツはこちらへと向かってくる。
だがもう遅い。三秒経った。
「────雷光の剣よ、敵を撃ち滅ぼせ────!!」
宣告違わず、雷光の柱がヤツを呑み込んだ。
目も開けていられないような閃光と、ヤツの断末魔すらも掻き消すような轟音がこの場を支配する。
それらが納まった頃にその場に残っていたのは、焼け焦げたクレーターのような跡と、ヤツの肉片だっただろう小さな消し炭だけだった。
あー、終わった……何とかなったか……。
死と隣り合わせだった緊張感からようやく解放され、思わず地面にへたり込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
大丈夫だ。左腕の感覚が痛みしかないくらいだから問題ない。なぁに、死ななきゃ安い。
「それは大丈夫とも安いとも言いません! すぐに治癒魔法をかけますから、じっとしててくださいね!」
お姫様が俺の左腕に治癒魔法をかけるためにこちらに駆け寄ってきてくれるのを横目に、先の一撃の跡地を目にやる。
アルはこれだけの一撃を放ったわけだが、反動とかはないのだろうか?
「ああ、問題ない。強いて言えば【雷光】の出力に耐えきれなかったのか剣も消し飛んだくらいだ」
鉄製の剣が消し飛ぶって相当だと思うんだが……まあそれだけで済んだのならよかった。
そういえばヤツに突き刺していた剣の類も跡形もなく蒸発してしまっている。当然俺の愛剣ならぬ愛鉈もだ。肉塊に呑み込まれた時点で諦めてはいたが、実際に跡形もなくなると虚しい気分になる。
あれだけの巨体があんな消し炭しか残らないほどの威力を人一人が出せるとか、冷静に考えると恐ろしい話だな……と改めてその残骸に目を向ける。
────その消し炭の内側から、新たな肉塊が溢れ出てきていた。
「なっ!? コイツ、まだ……!?」
────撤退だ! 考える間もなく俺はそう叫んでいた。
復活した肉塊はさっきまでとは比べ物にならないほどにその膨張速度が速まっていた。瞬く間にさっきと同じくらいの大きさにまで迫り、さらにそれを越えて膨れ上がろうとしている。
今すぐさっきのアルの一撃を超える大火力を今すぐにぶち込まないとどうしようもなくなるのは想像に難くなかった。
そしてそれは現状の手札では不可能な事だった。もはやこの場から逃げ出すしか俺たちに取れる手はない。
……とはいえ、疲弊しきっているアンナ嬢を連れてこの肉の波から逃げ切れるかどうか……!
「だけど……!」
正義感の強いアルならこの選択に難色を示すのはわかっていたが、今は問答している時間すら惜しい。
「────さっき以上の大火力があればいいのね?」
そんな中でそう口にしたのは、アンナ嬢であった。
一体何を……そう思い彼女の方に目を向けると、小さな杖を両手で握り、額に汗を浮かべ、幾重もの魔方陣を周囲に複数浮かべているアンナ嬢の姿がそこにあった。
「────開かれたるは地獄の門────召き喚びたるは地獄の業火────かの罪人の魂を薪とし────その罪架すらも灼き尽くせ────」
彼女が詠唱を口にする毎に複雑な紋様の魔方陣が膨張し続ける肉塊の周辺に浮かび上がり、そして────
「──── イ ン フ ェ ル ノ ────」
その宣告と共に、黒き地獄の業火が顕現し、ヤツの身体を呑み込んだ。
「■■■■■■■■■■■■■!?」
黒い業火はその圧倒的な熱量によってヤツの肉体の爆発的な膨張スピードすらも超えて灼き尽くしていく。
しかしその熱がこちらに届く事はなくそれほどまでにあの業火が精緻に制御されていることが窺えた。
そうして黒炎に呑まれた肉塊は、先程までの膨張速度が嘘だったかのようにその体積をみるみる内に減らしていき、先程と同程度のサイズを通り越し、わずかな消し炭すら残すことなく燃やし尽くされ、役目を終えた黒炎はそれと同時に鎮火した。
今度こそ、領主クチーダだったモノはこの世から完全に消え去ったのだった。
復活した肉塊とそれを瞬く間に焼き尽くす圧倒的な黒炎を目の当たりにした俺たちは、火の粉一つなくなった頃にようやく、大きく息を吐く事ができた。
「何だ、今の炎……【
違う。今のは、魔法だ。
天恵という生れついての才能ではなく、人が歴史とともに研鑽し積み重ねてきた技術の粋。
その極みとも言える一つが、あの炎の正体である。
つまりアンナ嬢は、凄まじい腕前を持つ魔法使いだ。