異世界転生したけどチートなかった   作:名枕(ナマクラ)

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第五十二話

「やる事は決まった。なら行こう!」

「いやいや、飛空船が使えないのにどうやって行くんだい?」

「あっ……」

 

 そうだった。飛空船が今壊れていて動かせないんだった。まさかの可能性に早く確認しなければと、つい気が逸ってしまった。とはいえ一度抱いてしまった疑惑に、早く親父に確認したいという思いは膨らむばかりだ。

 

「……仕方あるまい。とりあえずライン商会の船で魔導都市まで送ってやろう。シドニアが私を呼んだのはそのためだろうからな」

 

 確かに魔導を利用したゴッフさんの船であれば通常の船より格段に速く魔導都市に戻る事ができる……んだが……

 

「まあこちらも帰るついでだ。そこまで気にする必要はないぞ。だが感謝はするといい。ふははは! では早速船員たちに伝えてこよう。準備も必要だしこういうのは早い方がいいだろうしな」

 

 船の心配する俺の内心も知る由もなく、善意に溢れたゴッフさんは外へ出ていった。

 そんなゴッフさんを見送った後、恐る恐るクリスが口を開いた。

 

「……あの、大丈夫でしょうか……?」

「ん? 何がじゃ?」

「だってゴッフさんの船って今ニアさんが弄っているわけじゃないですか。まだ原型残っているんでしょうか……?」

「はぁ? どないな心配しとんるんじゃ? あのガキの腕でも疑っとるんか?」

「いや~、残ってないんじゃないかナ?」

「もうバラバラにされててもおかしくないわね」

「さすがにまだ半壊くらいではないか?」

「最低でも航行はできないと思うな」

「お前らのあのガキへの認識どうなっとるんじゃ」

 

 カジキの困惑もわからなくないが、あのニアなのだから仕方ない。というか俺以外も同じ認識だったようだ。

 

「と、ともかく心配だからゴッフさんを追いかけよう」

 

 具体的にはともかくニアが何かやらかしているのは察していた俺達は後を追いかける。

 そして案の定、すぐにゴッフさんの悲鳴、というか驚く声が聞こえてきた。

 

「な、な……何をしとるんだお前はっ!?」

 

 驚きながらも非難するように声を上げるゴッフさんに対して、何でもないようにニアが答える。

 

「何って……改修?」

 

 なんとニアは、ゴッフさんの船の周りに足場を組んで固定して、船の分解を始めていたのだ。なお俺達は船がまだ原型を保っている事に驚いていた。

 

「か、改修だと……!?」

「本当は船から必要なパーツだけ取っ払って飛空船の補修に回そうと思ってたんだけど」

「!?」

「それより飛空船のパーツでゴッフの船を飛空船にした方が手っ取り早いと思い直してね。なに、簡易的に補修した飛空船の動力部を外付けすればパワーも足りるはずさ」

「補修する必要のある外付け動力部の時点ですでに不穏なのだが!? というか私の許可はぁ!?」

「取ったじゃないか。船のメンテナンスをするって」

「どう見てもメンテナンスの範囲を超えているだろうが!?」

 

 ゴッフさんの主張も尤もなのだが、俺達としては船と飛空船だと圧倒的に飛空船の方がありがたいんだよな……。

 

「おお、お前たちも来たのか! お前からもあの小娘に言ってやれぇ!」

「ニア! その改修作業ってどれくらいかかる!?」

「えっ、この流れで止めないの!?」

「そうだね……船旅よりかは早いけど、それでも数日はかかるね」

 

 数日……船で魔導都市まで戻るのと比べたらだいぶ早いけど、さすがのニアでもそれくらいはかかるか。

 

「なんだい? 今すぐにでも行動したいって顔をしてるけど、何かやるべきことでもあったのかい?」

「どんな顔だよそれ」

 

 とはいえ事実ではあるので、ニアにさっきの話を簡単に説明する。

 

「なるほど……ならスカルフォーザを使えばいいじゃないか」

「あっ……」

 

 そうだ、スカルフォーザは動かせるんだった。俺は操縦はできないけど、そこはアンナに任せればなんとかなる。

 

「でも飛空船のための動力は俺の【雷光】なんだから、俺がここから離れるのはダメなんじゃないのか?」

「そこは心配しなくてもいい。事前に飛空船用の動力炉に充電していってくれたらアルがいなくても問題はない。スカルフォーザもアルがいれば充電できるし運用にも大丈夫だろうさ」

「だったら私の船を弄る必要ないのではないかね!?」

「スカルフォーザは数人しか乗れないからね。仕方ないね」

 

 飛空船の船員も含めるとどうやっても乗り切れないし、かといって乗れない人を置いていくなんてこともするわけにはいかないし、仕方ないのはそうなのだが、ニアとしてはそれが一番の理由ではない気がする……

 

「こっちも船が完成次第魔導都市に戻るからそこで合流すればいいわけだし、やる事があるのならこんな何もない島国にいるよりいいんじゃないかい?」

「何じゃと!? 何が何もないじゃこのガキが!? 人の生まれ故郷馬鹿にしよって!!」

「いやだって、船とか色々とアレじゃないか」

「求めてるものがおかしいわよ」

「そりゃ魔導都市と比べたらどこでもそうなるサ」

 

 というわけでスカルフォーザに乗って生まれ故郷に帰る事になったわけだが、どちらかと言えば俺個人の事情が絡む上に、一緒に乗れる人数は限られている。

 どのメンバーで向かうべきだろう……?

 

 

 ◆

 

 

 スカルフォーザに乗って空を行く。飛空船と比べると小さいが、スピードは引けを取らない。

 動力も俺が定期的に充電すれば長距離だって問題なく持つ。

 

「船の改修をしないといけないニアが残る以上仕方ないんだけど、他にアタシしか操縦できないってどういう事なのよ……」

「仕方なかろう。スカルフォーザで移動する時はいつもあやつが操縦してたのだから」

「確かにこれを動かす時は嬉々としてお師匠が操縦していましたしね」

 

 初めての操縦に、最初は緊張と不安でか会話もおぼつかなかったアンナも、今ではだいぶリラックスした状態で会話に参加しながら操縦もこなせるようになっていた。

 逆に言うと、操縦方法を習得したアンナも操縦する機会がなかったくらいにアイツが操縦席を占領していたと言えるかもしれない。

 なんだったら操縦できるニアも実際に操縦したことはないのかもしれない。

 とにかくアイツ自身操縦を楽しんでいたのは間違いないだろう。たまに文句は言っていたが。

 ……そういえばアイツは俺にも操縦できるようになれって言ってたな。アイツがいるなら別にいいだろって思って話半分に聞いてたけど……俺がその気になっても操縦する機会なかったんじゃないのか?

 

「それにしてもクリスはカジキの傷とか診るのに残らなくてもよかったのか?」

「カジキさんの傷ならもう私にできることはないですから大丈夫ですよ」

 

 クリスが言うには、魔法で治せる傷はもう治したらしい。あとは安静にして時間をかけて体力を回復させるしかないとのことだ。

 

「ただあのカジキが大人しくしているだろうかという疑問はあるが……」

「確かにカジキさんも一緒に来ようとしてましたもんね」

「妹さんに止められてたけどな、物理で」

「まあそれでも安静にしないのならそれは自業自得としか言えんだろう」

「俺としてはケガが問題ないなら来てくれてもよかったんだけど」

「アンタの家庭事情に踏み込むことになるわけだし、あんまり大人数で行くのもアレでしょ」

 

 ちなみにカジキ以外の他の面子はというと、船の改修で動けないニアは当然として、テルは薬の調合をするとかで残り、爺さんは悩んでいたが移動時の腰への負担が……とかで辞退していた。なので村へは俺とアンナ、クリスにミラの四人で向かうこととなった。

 なおミラも抗呪帯法や呪いの経過観察やらをするとか何とかでテルに止められていたが、特に問題なさそうだったり、もしもの場合の戦力がいるとかの理由でごり押ししていた。

 

「このペースならササンカまでそうかからないと思うけど……アンタたちの村の近くに着陸できそうな場所ってあるの?」

「うーん……山の中だからなぁ……村にもあんまり広いスペースってないんだよな」

「馬車とかを停める場所はないんですか?」

「そもそも馬車が来ないからな」

「えぇ……それ、商人とかはどうやって物資の運搬してるの……? まさか全部徒歩?」

「いや、そもそも村に商人なんていないぞ」

「ふぇ?」

「だって俺、村を出るまで実際に金を使った事なかったし」

 

 基本的に食べ物や道具なんかは村の中である程度公平に分け合っていたからなぁ。知識としてはお金について習ったりはしたが、触る機会はとんとなかった。アイツは親と一緒に村で不要な毛皮とかをたまに街へ卸に行って買い物とかしていたらしいが、村で金を使うのはそれくらいだ。

 

「経済が村の中で完結してる……というか経済に貨幣を必要としていない……!?」

「それっておかしい事なのか?」

「おかしいでしょ!?」

「そうか? 我らエルフたちも森の中では金銭は使う機会はないぞ」

「……つまりエルフと同じくらい俗世と関わりがないってわけね」

 

 何か驚かれているが、俺にとってそれが当たり前だったから何に驚いているのかいまいち理解できない。確かに金銭を使って買い物するという事は便利だと思うけど、それがなくたって生活はできるだろうに……

 

「アンナ、気持ちはわかるけど話が逸れてますよ」

「あ、そうだったわね……なら山の麓で一度降りてそこからは歩いていく?」

「だがスカルフォーザをその辺りに放置して行っても大丈夫か? 盗られたり破壊されたりしないか?」

「確かに……ならササンカの街で馬宿にでも預けますか?」

「これ、馬宿に預けられるの……?」

「うーん……どうみても馬じゃないしな、コレ」

 

 目的地の近場に着陸できるなら気にしなくてもいいんだけど、さすがに山の麓から村までは離れすぎているからなぁ……とはいえ村があるのは山の中だからスカルフォーザが着陸できるスペースなんて……

 

「……あ」

 

 そう考えて、一つ思い浮かぶ場所があった。

 

「あるかもしれない。少しだけ村から外れるけど、麓からよりは格段に近くてスカルフォーザなら停められるくらいの広さがある場所」

「ホント?」

 

 正直、あまり行きたくない場所だけど……仕方ないか。

 

 

 ◆

 

 

 ササンカの街を上空から確認した後、俺の案内で村のある山へと進路を向ける。

 地上からだとどの辺りにあるのかわからなかった村も上空から見ればはっきりとその場所が目視できた。そして俺が思いついた着陸できそうな場所もちゃんと見えた。

 山の中にある故郷の村、そこからそう離れていないある地点へと誘導して、スカルフォーザは無事着陸した。

 

「着陸……できたのはいいけど、何でここだけ樹木が生えていないの……?」

「地面に所々焼け焦げたような跡が残っていますね……」

「周辺も生えているのは若木ばかりだな……かつて山火事でもあったか? いや、それにしては範囲が狭い……」

 

 スカルフォーザを停めたその場所は、地面が焼け焦げ木々が生えておらず、空から見るとその箇所だけぽっかりと穴が開いたように見えたのでわかりやすかった。

 これでもだいぶ元に戻ったとは思うが、まだ着陸できるスペースは空いていてよかった。

 

「ここから村まではそう遠くない。子どもの足でも簡単に行けるくらいだ。さっさと行こうぜ」

 

 三人の疑問に答える事なく、俺は先を急ごうと足を進めるが……光の壁が俺達を囲った事で止められた。

 

「なっ……!?」

「結界か!?」

「これは、神聖魔法!?」

「そこか……ッ!?」

 

 突如の敵襲に対して周囲に意識を向けると、足音が聞こえた。結界を張り俺達を閉じ込めた術者がいるだろうその場所に視線を移すと、信じたくなかった光景がそこにあった。

 

「────動かないでください」

「親父……!」

 

 そこにいたのは、親父だった。

 

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