CODE NAME:“RED”   作:c.m.

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02 大事な人がいる世界

「やりぃ! これで楽できちゃう!」

「男に二言はなしだよな!」

「ニドキングに金棒ニャ!」

 

 バンバン! と背中を叩きながら歓迎する三人組に苦笑しつつ、お目付け役のピカチュウを宥める。

 悪事を働くつもりはないし、少なくとも彼らは信用以上に、信頼の置ける手合いだということも付け加えて。

 

「ぴ、ピカピカ……ピ……」

「ふむふむ……あー、それは分かんないニャ。チャンピオンになる前は社長(サカキ様)直々に依頼を受けてたから、社長と秘書ぐらいしか何処で何やってたかは誰も知らない筈ニャ」

 

“この電気ネズミ……信頼できる相手と分かった途端、ニャースに前歴の聞き込みを始めたな”

 

 尤も、ニャースに訊いたところで無意味なのは、僕自身分承知していたのだが。それ以前にカスミと出会う以前の女性遍歴まで、制裁の対象にするのは如何なものか?

 

「何々? そのピカチュウ、何が知りたい訳?」

「カントーで途中まで旅してた、カスミって女の子以外に一緒に居た子が居たら知りたいらしいニャ。浮気してたら全部報告して、それでも一緒に居たいか判断して貰うって言ってるニャ。あと、ついでに電気も流すって」

 

 ぴと、と稲妻型の尻尾を僕の腕に当てた状態なので本気である。

 スキンシップだの手持ちポケモン特有のトレーナーへの嫉妬の類でなく、本気でお目付け役として電気を流してくるのだ、この電気ネズミは。

 

「『あの時』は俺達もトキワジムの外に待機してたけど、あのREDが本気で一途な恋を選ぶとはねぇ……」

 

 コジロウの口にした『あの時』というのは、僕とカスミが対決した日のことを言っているのだろう。しみじみと頷いているところ悪いけど、僕だって人の子だ。

 好きな子だって出来るし、恋だってするのも当然だと思うのだけど……まぁ、この三人組(トリオ)に限らず、昔の僕と一度でも面識があれば、思わずそう漏らされても仕方ないのかもしれない。

 何しろエージェントだった頃は、それこそ任務次第で殺しだろうが拷問だろうが平気でやる子供だったのだ。

 それが一〇歳になってトレーナーという表身分を持った途端、女の子と二人旅をして、しかもロケット団から足を洗って今やカントーのチャンピオンだというのだから、自分自身を振り返っても、人生というものは分からない。

 

「まあ、僕のことは良いじゃない。それよりバカンスなんだから、お祭りを楽しもうよ」

 

 何しろ島中総出のお祭りだ。既に日が落ちた外では、ギャラドスのお囃子(はやし)を用いた(じゃ)踊りの列が表道を進み、側道では様々な出店が並んでいる。

 催しの為にここで待つよう言われた僕と違って、三人組(トリオ)は自由に動ける筈だ。

 

「いんや、あたしらも待機しないと不味くなったわ」

 

 さっきの通達は耳に届いたでしょ? とムサシが視線と共に溜め息を零す。

 

「まさか社員番号一桁(ダブル・オーの隠語)が来るとはなぁ」

「嫌な雨が降りそうだニャぁ……」

 

 ニャースの言う嫌な雨とは、血の雨のことを言いたいのだろう。

 大げさな、とは言えないのが元ロケット団エージェントとして、過去一度だけ00(ダブル・オー)ナンバーと組んだ自分の経験則である。

 敵も味方も殺しには一切躊躇していなかったサンダー作戦で、サント・アンヌ号内を009(ダブル・オー・ナイン)と共に血染めの世界に塗り替えたのは、今でもはっきり覚えていた。

 ただ、思い出したからと言って食欲が失せる程小さい肝ではない。適当にもてなされた食事に舌鼓を打ち、南国フルーツの果汁で満たされたジュースで喉を潤しながら、中央の舞台に視線を移す。

 

「じゃあ、今ぐらいは演目の一つも楽しまないとだね」

 

 既に舞台はライトアップがなされており、ステップを踏みながらフルーラが巫女として登壇した。

 花飾りの冠に、ウェディング・ドレスを思わせる透き通ったベール。ハイビスカスの首飾りで飾り立てた少女の薄く引かれた口紅に咥えられた、オカリナに似通った気鳴楽器の独特の音色は、僕だけでなくロケット団の三人組(トリオ)さえ、感嘆の吐息を漏らす程だったが、演奏が終わっても演目自体は続いて行く。

 一礼と共に楽器を衣装に合わせたポーチにしまうや否や、洗練された動作で僕の元までやってきた。

 

「『天地怒り、世界が破滅に向かう時。海の神顕れ、優れたる操り人と共に神々の怒り鎮めん』──サトシ様、貴方が本当に優れた操り人なら、私達にその証拠を見せて下さい」

 

 演目の一環なのだろう。恭しく跪き、僕の腕を取るフルーラに、僕は静かに頷いた。

 

「『では巫女様。操り人たる私は自らの力を証明すべく、貴女様からの試練を賜りたく存じます』」

 

 島長からしきたりの流れを伝えられていたことは聞いていなかったのか、立ち上がって合わせた僕に対し、フルーラさんは目をパチパチと瞬かせたが、気を取り直して続けることにしたらしい。

 

「『なんと力強いお言葉でしょう。なれば沖にある三つの宝を、本島の祭壇にお納め下さい。全ての試練を乗り越えた後、我が笛の音を神々に捧げることで、貴方様が操り人であることを、神々に証明致します』

 ……急がなくていいからね? お祭りは明日までだし、何なら明日の朝でも良いから」

 

 最後に小声で耳打たれたが、三人組(トリオ)との仕事もある。すべきことは、手早く済ませてしまうべきだ。

 

「すぐに発つよ。依頼は完璧以上に果たすのが、僕の流儀だからね」

「随分と丸くなったもんだわねー」

「そりゃピカチュウも聞いてくる筈だニャー」

 

 そこ、うるさいよ。と半目で睨みながら帽子を目深に被り、手首を保護する為のスローイング・グローブの具合を確かめつつ席を立つ。

 オレンジ諸島の海図・航空図は持っているので、カイリューを使えばひとっ飛びで片付くが、そこで「良し! 気に入った!」と、みっちゃんが進み出た。

 

「まずは『火の島』へ! 船は出してやるわ!」

「ありがとうございます」

 

 カイリューの方が速いのだけど、という言葉は呑み込つつ礼を述べる。厚意は素直に受け取るべきだし、距離としても決して遠くはないのだ。

 

「そっちのコンツェルンのお知り合いは、どうしたい? 見学するなら一緒に連れてくけど? あ、勿論タダだから安心して。御代は島長さんから頂いてるしね」

 

 時間は待ってくれないよ? と言わんばかり、みっちゃんがトントンと指先で机を叩く。

 

「そうねぇ。待機するにしても、ここはもう閉めそうな感じだし」

「俺達としても、チャンピオンの活躍を間近で見れるしな」

「応援してやるから、色男らしくガッツを見せるニャ!」

 

 付いて来てくれるのだろう。頼もしい限りだと微笑を浮かべ、僕らはこの場を後にした。

 

 

     ◇

 

 

“そして、出張った早々に嵐か……幸先悪いな”

 

 アーシア島に到達する直前でも波は荒れたが、例年こうだという情報は寡聞にして耳にしない。むしろ、この時期の海域は穏やかな筈だが……。

 

「……これ。チャンピオンやニャー達以外じゃ、ギブアップする試練じゃないかにゃ?」

「島長は簡単な演目だって言ってたから、まず違うだろうね」

 

 こんなのを毎年何某かがやっているのかニャ……? と驚愕するニャースに頭を振って否定する中、みっちゃんは嵐の中だろうと軽快に舵を切って見せていた。

 

「……晴れて来たわね」

「でも海は荒れ放題! 何なんだこれ……って、岩礁地帯だぞ!」

 

「お二人さん! お喋りしてたら舌噛むよ!」

 

 ムサシとコジロウに振り返ることなく、正面だけを捉えて操船するみっちゃんの舵捌きは一介の船乗りとは思えない技量だったが、僕も三人組(トリオ)もそこを追及する気は全くないし、たとえ素人が乗っていても、嵐に慌てふためくばかりで、みっちゃんを見る余裕はなかっただろう。

 荒波などものともせず、津波も同然の濁流を渡り切り、辿り着いた先に待つのは果てしなく長い、万里の長城を思わせるような石段だった。

 

“……簡単、ね”

 

 ポケモンを用いることが前提なのだろう。優れた操り人とやらに相応しい試練だと思いながら、僕はギャロップを取り出した。

 

「すぐ戻る」

 

「ちょっと! あたしらも付いてくわよ!」

「ここに居たところで、見る物なんてないし」

「ニャー達が頼りになる筈ニャ!」

 

「そうだね。乗って」

 

 と、ボールから出したカイリューの背に三人組(トリオ)を乗せる。いざという時の緊急脱出用に取っておくつもりだったが、この三人組(トリオ)と行動を共にする分には良いだろう。

 

「みっちゃんはどうします?」

「付いてくよ。背中、乗せてくれる? 実はギャロップに乗るの、憧れててさ」

「構いませんよ……ギャロップ、燃やさないでね?」

 

 ギャロップの背中の火は、心の通じ合わない人間には唯の火になってしまうが、僕が敵でないことを示せば、この子は自在に火をコントロールしてくれる。

 

「しっかり捕まっていて下さいね!」

 

 心配はないと思うが、手綱はあっても(あぶみ)や鞍のない裸背(はだぜ)だ。飛ばしはするが、安全第一で突っ切っていく。

 どれだけの不整地だろうと、たとえ苦手な氷上や泥濘であったとしても、僕のギャロップは陸地であればあらゆる場所を走破出来る。

 

「思った程揺れないね」

「ここまで見事な重心移動であれば、ね。乗馬の経験があるので?」

「まさか。初体験よ」

 

 嘘ではないだろうが、玄人はだしのバランス感覚だ。僕も移動手段としてばかりでなく、『ポケモンレース』に参加したりと、それなりに必要に駆られて乗馬は練習したというのに、これでは全く立つ瀬がない。

 

「いっそ、騎手もやってみますか?」

「だぁめ。これでも男の子の後ろに乗りたい、ロマンティックな願望ってのが有んの!」

 

 先程までの巧みな重心移動は何処へやら、べったりと背中に張り付かれるものだから、僕としては……その、色々と困る。

 

「ピカぁ」

 

 ……主に、この電気ネズミが反応するせいで!

 

 

     ◇

 

 

「まずは一つ」

 

 ただ長いだけの道のりなど、特筆すべきことは全くなかったが、辿り着いた先の祠には目を引かれる物が有った。

 

“ファイアーの像に、炎の閉じ込められた宝玉か”

 

 モンスターボールほどのサイズの玉の中に揺らめく炎が見えたが、不思議なことに熱は感じない。

 

「これがお宝かぁ……確かにそれっぽいね」

「残る二つの島ですが、流石にこの分では、船での移動は困難かと」

 

 幸い、みっちゃんの船は問題なく停泊できている状態だ。船は異常気象が収まるまでここに置き、次の目的地に向かうことを提案すれば、船に戻ったみっちゃんは二つ返事で了承してから、停泊中の船が流されないよう、丁寧に固定し始めた。

 

「……ところで、もう良いんじゃない?」

 

 一体何時までみっちゃんを()()()のか。続けなくてはいけないのかと問えば、みっちゃんはこれまでと違う、僕の記憶に居た女性と同じ笑みを見せてきた。

 

「そうね……って、言いたいところだけれど。もう少し続ける羽目になりそう」

「サトシ君! 無事!?」

 

 信じ難いことだが、あの嵐を越えてここまでやってきたらしい。大慌てで駆け寄ってきたフルーラさんに対して、僕は火の島の宝玉を手の上で転がして見せた。

 

「心配ないよ。ほら、お宝」

「そんなの良いし、下らないしきたりなんか良いから、もう島に戻ろう!?」

 

 フルーラさんにしてみれば、自分が頼んだことのせいで危険な目に遭わせてしまった負い目があるのだろう。

 僕の手を掴んで引っ張ったものの、僕がびくともせず、フルーラさんではなく上空に現れた、自然現象とは()()()稲光を見やれば、フルーラさんもそちらをじっと見つめた。

 

「何……、あれ……」

「伝説の三鳥の一羽。雷の神としても祀られている、サンダーだよ」

 

 だが、本当に重要なのはそこではない。サンダーが抵抗している、空中を自在に飛行する自立機動型の拘束具と、それを操っているのだろう巨大な飛行建造物だ。

 

「飛行宮か……。存在自体は知っていたけど……」

 

 直接目にする日が来ると、やはりスケールの違いを感じる物だが、圧倒されてばかりではいられない。

 

“〈かみなり〉に〈10まんボルト〉、〈でんじは〉も使えるのか”

 

 初期(五〇)レベルの技構成でもなければ、自然習得する〈わざ〉でもない。動きのキレからしても、六〇レベル後半は堅い筈だ。

 しかし、やはり野生のポケモンでは、如何に伝説であっても人間の悪辣さには及ばない。

 

“サンダーは拘束具から逃れる為に相当粘っているようだけど、あれじゃ時間の問題だな”

 

 けど、それ以上に問題なのは、サンダーを弱らせる為に使用している砲弾が、この島にさえ降り注いでいることだ。

 周辺被害など気にも留めず、ここに人間が居るかもということさえ考えない一方的な砲撃は、それを用いる人物の人間性を浮き彫りにしている。

 

「こっちにも飛んで来たニャー!?」

「カイリュー、〈はかいこうせん〉」

 

 僕の指示を忠実に守りつつも、背にした三人組(トリオ)を落とすような真似は決してしない。

 大地を揺るがし、山をも容易く削り取る破壊の閃光は、狙い過たず砲弾を吹き飛ばし、ばかりかその延長線上に存在した、サンダー用の拘束具を破壊せしめたが……。

 

「引くよ。フルーラさんも乗って!」

「え……!?」

 

 有無を言わさず腕を引き、みっちゃんも背中に乗せた上でカイリューに島を離れて貰う。突然の邪魔立てに気付いたのだろう。複数の砲弾がこちらに迫るが、そちらは既に対策済みだ。

 

「僕のゲンガーに、飛び道具は通じない」

 

 ボールから出たゲンガーは僅かにも笑みを崩さず、〈ねんりき〉で迫る砲弾を受け止めるのでなく逸らして、一つ残さず海に落とす。どれだけ高威力であったとしても、受け止めるのでなく流すのであれば、大した労力にはならない。

 

「ここから先は?」

「流石に見過ごせないよ。伝説の三鳥は、お互いの力を拮抗させることで、自然界のバランスを安定させているポケモンだからね」

「……ロケット団だって手を出さにゃい、特別保護指定のポケモンだもんニャぁ」

 

 何しろ三鳥の内、一体でも誰かの手に渡ってしまえば、自然界のバランスが崩れて世界が崩壊しかねない特級の厄ダネだ。

 おそらくはこの異常気象も、火の神として祀られたファイアーか、氷の神であるフリーザーのいずれか。或いは両方を、あの飛行宮の主が捕らえたのだろうと推測を述べれば、フルーラさんを除く全員が頷いた。

 

「伝承通りなら、さっきの火の島に居る筈のファイアーが動かないとこを見るに、そちらさんが捕まったのは間違いないでしょーね」

「ボールでゲットされてたらどうする? 流石に一日二日じゃ懐かないにしても、捕獲されてたら色々面倒だけど……」

「そん時はボールを破壊ニャ! チャンピオンならお茶の子さいさいニャ!」

 

 フルーラさんの手前、ニャースは口にするのを躊躇って誤魔化したのだろう。実のところ、ボールを壊すだけでは、ポケモンは解放されない。

 やるなら自発的か強制してトレーナーが野生に返すか、それが無理なら、殺してIDを抹消させるしかないのだが、僕も堅気が居る場面で、そこを訂正する気はなかった。

 

「世界の危機だ。出来ないとは言えないな……何より、奴には砲弾を貰った貸しがある」

「……サトシ君、目が変わってない?」

 

 これまでのフルーラさんにしてみれば、確かに今の僕はスイッチが変わったように思えるだろうが、それも当然だ。

 

「飛行宮の主は、僕達を標的に撃った。一度目は見えていなかったとしても、その次は殺す気でね」

 

 元より世界を崩壊させるような()()()()を、危険性の自覚は別として行ったこともだが、相手が目的の為に手段を選ばない人でなしだと確信した以上、僕が情けをかける理由は消えている。とはいえ、だ。

 

「大丈夫。何よりも優先して、フルーラさんは安全に送り届けるから」

 

 コジロウのマタドガスに黒い〈えんまく〉を張って貰いながら、明かり一つない夜の海を飛べば、安全に宝玉を納める本島まで辿り着けるだろう。けれど、フルーラさんは僕をしっかり見つめて頭を振った。

 

「駄目よ。私だけ、安全な場所になんて……!」

 

「むしろ素人さん引っ張ってく方が、よっぽど危険ってもんでしょ?」

「俺達だって居るんだし!」

「コンツェルンのAクラス・エージェントとチャンピオンが組めば、向かう所敵なしニャ!」

 

「そういうこと。それとも、僕は信用できないかな?」

「だって、あんな物騒なのを撃ってくる相手の所に行くんでしょう? チャンピオンって言っても……まだ私、サトシ君のこと、全然知らないし……」

「そうだね。僕も、君のことはそんなに知らない──けど、君は危険を顧みず、僕の元まで来てくれたよね?」

 

 あの嵐の中を、お姉さんや周囲の人にだって止められただろうに、フルーラさんは真っ先に、たった一人で僕の元に来てくれた。

 

「それだけで、命を懸ける理由が出来た」

 

 だから、と──言いつつ本島に降ろしたフルーラさんに、僕は安心させるように微笑む。

 

「──僕の大事な人と、君が生きてる世界の一つぐらい、男の子として守らせてよ」

 

 決意を胸に固めて、真っ直ぐに瞳を捉えて、柄にもないことを口にしてしまった僕に、フルーラさんは小さくため息を溢した。

 

「そっか……君、そういう人が居るんだ……」

「うん」

 

 短く。けれどはっきりと言っておく。誤解なんて生まないように。何より僕自身、不義理な真似なんてしたくなかったから。

 

「じゃあ、その子の為にも、私の為にも戻って来て──戻ったらしきたりなんて言わずに、ちゃんとキスしてあげるから! だからっ……!」

 

 泣きそうな顔で訴えるフルーラさんに、思わず苦笑してしまう。

 

“どうしてこう、(片思い中だけど)相手がいるってちゃんと言っても、こういうこと言っちゃう女の子ばっかりと出くわしちゃうかな……”

 

 困ったなと頬を掻きながら、僕はみっちゃんを横目見る。

 出来ればみっちゃんにも付いて来て欲しかったが、()()彼女はフルーラさんと同じ素人として居る上に、万が一ここが襲われた際に、動ける戦力が必要だ。

 

「後を頼めますか?」

「断れないでしょ? 罪作りな男の子」

 

 その笑顔が。晴れやかな彼女の顔が、何よりも信頼できる了解の意思だった。だけど、彼女が脇見見たその先に居た、泣きそうなフルーラさんに対しては減点だと言いたげだったから、及第点ぐらいは貰えるように、僕は自分の赤い帽子を、フルーラさんの頭に被せる。

 

「預かってて。父親同然の人から貰った、大切な帽子なんだ」

 

 旅立ちの日を迎えた僕に、感動なんて何一つもなかったけれど、一〇歳の誕生日にボスから貰ったこの帽子が、この世界で得られた無二の感動だったのは、今でもはっきり覚えている。

 たとえそれが、子供としての僕の心を操りたい程度だったとしても。子供が欲しがりそうな物を、褒美として与える程度のことだったとしても……。

 

“僕は、本当に嬉しかった”

 

 サトシとしての、今世での実父は母を置いて蒸発した。マサラタウンで食堂を営む母が父を悪く言うことは決してなかったが「戻って来られても困る」と零す程度には、既に心が離れていた。

 存命の祖父にしても、そんな母を置いて、トレーナーとして何処かに消えてしまったままだ。

 身勝手極まりない肉親と比べれば、たとえ利用しているに過ぎなかったとしても、この世界に生きる僕にとって、ボスは本当に父親であって欲しい人だった。

 

「絶対、取りに戻るからさ」

「絶対……、絶対だよ……!!」

 

 絶対を繰り返すフルーラさんに頷いてから、僕はそっとピカチュウも降ろす。

 

「いざという時は、君が彼女達を護るんだ」

 

 ここからは、お目付けは必要ないだろう? とピカチュウに問えば、僕と居る時よりずっと活き活きとしながらフルーラさんの肩に飛び乗った。

 

「ピカ!」

「良い子だ。じゃあ、またね」

 

 任せろと手を上げるピカチュウに頷き、そして飛び立つ。その間際──

 

「ホント──素敵に()()()()、君は」

「まだまださ」

 

 そんな、プロにあるまじき言葉を漏らしたみっちゃんに、僕は似合わないことを自覚しながら、昔したように、ニヒルな笑みを作って見せた。あの頃よりは、少しは成長しただろう? と示すように。

 目指す先は、空に浮かんだ悪の根城。世界を壊す敵と戦う舞台には、これ以上ない目的地だ。

 

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