CODE NAME:“RED”   作:c.m.

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02 ポケモンバトルを始めよう

 ロケット団からの追放。そして、カスミとの別れからふた月後。

 

 僕はセキエイリーグに出場し、優勝という頂きへと到達した。

 カントー中から集った名だたるトレーナー、四天王やシゲルとの対決はカントーを熱狂の渦に巻き込み、裏社会のエージェントから一転して表世界に新星としてのし上がった自分が有名人として祭り上げられる一方で、現実にセキエイリーグチャンピオンとして付随した諸々の特典と義務には、実年齢どころか、精神年齢を加味しても荷の重いものではあった。

 

 何しろ僕は、社会人というものを前世でも経験して来なかったのだ。各地のイベント参加やエキシビジョン・マッチに加え、インタビューの対応にテレビCMの契約等々……。

 しかもそれらはポケモントレーナーとしての旅の続行と、次なる地方リーグ出場を宣言しても逃れきれるものではないと来ている。

 加えて、チャンピオンに勝って名声を得ようと日夜野良バトルを申し込まれ、町に泊まれば次の日には受付に挑戦状の束が届く。それだけならまだしもだ……。

 

“……流石に、旅の道中でさえ空から郵便物が降ってくるのは勘弁して欲しいんだけど”

 

 無視しても良いけれど、リーグ優勝をきっかけに強制的に契約する事となった各社の書類や、リーグ関係者の物も紛れているから捨て置く訳には行かない。

 時間も惜しいとばかりに便箋を降らせて去るピジョンに辟易しつつ見送れば、間を置かず特大の郵便カバンを提げたカイリューがやってくる始末。

 今日は厄日かと隠しもせず溜め息一つ零してから、先程の無礼な鳥と違って丁寧に手渡された一通の便箋を受け取れば、宛名が無い。

 

“これは……”

 

 ふと、前世の記憶の通りならばと封を開ければ、モンスターボールの描かれたホログラムカードと、Yes/Noのチェックリストの入った返信用葉書が一枚。

 ホログラムカードを起動すると、暗色のロングドレスに頭蓋帽の女性が恭しく一礼し、用件を述べた。

 

『貴方様を、前途有望なポケモントレーナーと見込んで、最強のポケモントレーナーである、ご主人様のパーティに招待致します。場所は──』

 

“ニューアイランド、ポケモン城か”

 

 一も二もなくYesにチェックを入れ、律儀に待ってくれていたカイリューに手渡す。

 これから先、何が起こるかを理解していながら……いや、理解しているからこそ、僕は誘いに乗ることにした。

 

 グレン島から南西、オレンジ諸島との中間地点に位置するニューアイランド島への招待は、正直に言えば意外だった。

 招待状が届いた事が、ではない。招待状が来るのはカスミと一緒の時期か、そうでなくともセキエイリーグに挑む前だろうと考えていたからだが、よくよく考えずともミュウツーがロケット団から逃れる時期が遅れたのだし、その原因を作ったのは他ならぬ僕なのだから、入念な準備を重ねて事を起こすのは当然かと含み笑った。

 

 

     ◇

 

 

 ニューアイランド島への渡し船は嵐の為に欠航だと、波止場に待機していたボイジャーとジュンサーには説明されたが、この程度の嵐など何の障害にもなりはしない。

 手持ちのカイリューの背に跨りつつ、その速度から来る風圧と暴風雨をビリリダマの〈リフレクター〉でカバーしてニューアイランドに上陸。

 一番乗りを果たした僕が、ホログラムカードの女性に案内されるまま広間の席について待てば、後続も次々に登城してきた。

 

「まさか、こんなに早く君と再会できるとはね」

 

 僕に背後から──意識の外からではない──声をかけたのは、藍色の髪をした青年だ。雨風に濡れたピジョットをタオルで拭きながら労う彼に、僕もまた気付かなかったと言わんばかりの表情で、苦笑しつつ返す。

 

「本当にね、ソラオさん……それに」

「俺達も忘れて貰っちゃ困るぜ」

「でも意外。最強のポケモントレーナーっていうから、てっきりサトシ君が招待状を送ったんだとばっかり思ってたわ」

 

 流石にそこまで自己顕示欲が高い訳ではないし、ロケット団時代の給与を含めた全財産を注ぎ込めば城ぐらい買えるけど、そんな無駄遣いをする気も毛頭ない。

 ソラオ同様、セキエイリーグで凌ぎを削ったウミオとスイートもここに来たのは予想通り……というより前世からの事前知識通りだったけど、セキエイリーグのトーナメントで相対した時に面食らったのは良い思い出だ。

 そして、こうして再会した今だからこそ分かるが、彼ら彼女らのポケモンは、リーグ以降に相当鍛え直していたことが窺える。

 

「しかし、サトシ君のポケモンは随分顔ぶれが変わったね」

「まぁね」

 

 実際、自分がここに案内した女性の言いつけ通りボールから出して待機させているポケモン達の内、マタドガス以外はロケット団時代に任務を共にした犯罪用途のポケモンと見せ札だ。

 

 一応告げておくと、ピカチュウもベストメンバーの枠には入れていない。

 僕が本来の主人公(サトシ)のような、特別な愛着をピカチュウに抱いていないと言うのもあるし、ピカチュウ自身僕よりカスミに懐いているのだから当然だ。

 セキエイリーグでは肩に乗っているので登録時に強制的にスタメン入りされたが、そうでなければもっと楽にリーグ優勝を果たしただろう。

 

 カイリューはその強さと巨体からインパクトは大きいし、全速力であればマッハ二・五にもなる飛行速度は旅する上でこれ以上ないほど有用だけど、見せ札はあくまで見せ札。

 ベストメンバーとのバトルともなれば、どのポケモンとも相手にならない。どころか、今こうして談笑している中、リンゴを齧っているピカチュウにも負ける。

 ベストメンバーや犯罪用の一部の手持ちと違い、カイリューを育てた時期は遅かったので、レベルが一〇〇に到達していないのだ。

 

「ピカチュウにマタドガス、カイリュー、マルマイン、ゴルバット……失礼かもしれないけど、バランス悪くないかしら?」

 

 癖毛の髪を肩口まで伸ばした女性……、スイートの言に「育成途中なんだ」と言い訳する。実際のところ、レベリングが必要なのはカイリューだけで他は『完成』しているのだが、それを口にする気はない。

 

「おいおい、鍛えきってないメンバーで自称最強のポケモントレーナーの挑戦を受けに来たのかよ? 流石に自信過剰じゃねえか?」

「それはどうかな?」

 

 恰幅の良い体型の肩を竦めるウミオに対し、反駁する声が新たに追加された。

 軽い靴音と、ウミオと同じ種でありながら、それ以上の仕上がりと力強さのギャラドスを背に、最後の一人が広間に入る。

 

「底意地の悪いサートシ君のことだ。何か得体の知れない〈わざ〉の一つは仕込んでるかもしれないね」

「シゲル……?」

 

 何故お前がという当惑と、実力からすれば当然かという納得の織り交ざった声に、ふん、とシゲルは鼻を鳴らした。

 

「セキエイリーグ出場者が四人も集って、どうして準優勝者の()()が来ないと思ったんだ?」

 

 本来の一人称は『僕』だった筈だが、旅の中で変わったらしく、セキエイリーグで再会してから一層不敵な笑みに磨きのかかったシゲルに僕は肩を竦めた。

 尤も、自分も敢えて俺と自称していたのを元の僕に戻したのだから、他人のことをとやかく言えた筋ではないけれど。

 

“物語の都合を考えるなら、シゲルがここに来たのはリザードンを所持しているからか……”

 

 忘れもしない、セキエイリーグの決勝。本来自分より早く敗れる筈だったシゲルはトーナメントの上位二名にのみ許される四天王への挑戦権を得てこれを下し、中途で倒れる筈だった本来の主人公(サトシ)と異なり、僕自身もまたドラゴン使いたる四天王の長、ワタルを倒して最後の戦いに挑んだ。

 そして、最後の大将戦に僕はフシギバナを。

 シゲルはリザードンを出して戦い、僕は勝った。

 タイプ相性の差を埋めたのは、レベルとポケモンそのものの僅かな個体値。

 そして血の滲む努力値の成果であったが、観客(ギャラリー)に、あの戦いは接戦の中での奇跡の逆転だったと見られがちなのは、ドラマ性を演出しがちな中継の策略やインタビューでの答弁からとはいえ、正直不服でもある。

 僕自身はともかく、自分のポケモンの努力が奇跡扱いなど面白くも無いのは当然だ。

 

 尤も、全ては終わったことだし、何より僕自身はそうしたバトルの結果以上にリーグチャンピオンのマスコットにして相棒を、マタドガスでなく強制的にピカチュウにして持ち上げてきた報道陣や記者団の方が憎らしいので、別にそちらに関しては深く恨んでいる訳でもない。

 

 ともあれ、これであの嵐を超えてポケモン城に到着したトレーナーは全員揃った訳だ。

 ドレスを纏う女性は上階へと続く螺旋階段の傍へと控え、主人の入来を告げる。

 

「皆様、お待たせ致しました。最強のポケモントレーナーにして私の主人。そして──」

 

 螺旋階段の中心から、階段を使うことなく『最強のポケモントレーナー』が降り立つ。

 その姿は、明らかに『人間』ではない。白蝋めいた体色に、紫の尾と鋭い瞳。

 

「──最強のポケモンであらせられる、ミュウツー様です」

 

 

     ◇

 

 

「……サトシ、トキワジムであいつと戦った事はあるか?」

 

 他が当惑と、ポケモンがポケモントレーナーであることへの不平の表情を隠しもしない中、シゲルだけは微かに伝う汗を拭う事をせず、じりじりと手持ちポケモンに間合いを測らせながら小さく問うた。

 

「トキワジム以外でなら……あれとは、ポケモン研究所で会ったよ」

 

 そして僕は、嘘と本当の半々で返す。拘束具を装着した状態のミュウツーにトキワジムでバトルを行わせていた時は、万が一にもロケット団との接点に気付かれぬよう、名目上ポケモン研究所からデータを取る為に、ジムリーダーに貸与されていたという設定で通っていた。

 

「そうか……」

 

 噛み締めているのは、セキエイリーグ出場前の腕試しとして戦った相手に舐めた辛酸の味か。それとも余りに強すぎた相手への畏怖の念か。

 おそらく、いいや間違いなく前者だろう。シゲルの目に緊張はあっても恐怖の色はなく、リベンジマッチの機会を得たことへの歓喜が背筋に走っている。

 

「サトシ、ここは俺に譲れ」

「ご自由に」

 

 そうは言いながら、先鋒になる気が微塵もない辺りシゲルも性格が悪い。現に。

 

「ポケモンがポケモントレーナ!? 馬鹿な!」

 

 そう口にしながら、相手がポケモンである事を理由にウミオはギャラドスの〈はかいこうせん〉を浴びせたが、それは軽く片手を上げたミュウツーのバリアに阻まれ、逆に〈ねんりき〉で鎧袖一触とばかりに投げ飛ばされた姿から、力量を正確に測る事に専念していたのだから。

 

「……ち。やっぱりあの時の鎧は拘束具だったか」

 

 出力も精密さも桁違い。おまけに今は枷もなければ、研究所の職員や事情をある程度把握していたであろうトキワのジムリーダーも居やしないと、シゲルの不機嫌さは増す一方だ。

 ただ、力量を測って貰った分の恩返しのつもりなのか。

 元々自意識過剰な反面、善人らしいところもあるためか。

 瀕死状態になったギャラドスの為に、ウミオに【げんきのかけら】を投げて渡すところは何ともシゲルらしい。

 僕自身も間近で見ることができたので、報酬代わりに【すごいきずぐすり】を渡す。

 

「すまねぇ、恩に着る」

「気にする必要はないさ」

「困ったときはお互い様だしね」

 

 善意半分利益半分。この程度の出費は痛くも痒くもないのだから惜しむ事はない。それよりも、今はミュウツーの一挙一動を目で追い続ける方が重要だ。

 あれが初期レベル(レベル七〇)ならベストメンバーで対応できるが、仮に一〇〇レベルに到達していた場合、こちらが指示を出す前にミュウツーに殺されかねない。

 

“ベストメンバーはリュックの中。護身用として常日頃肌身離さずくっついているビリリダマの〈テレポート〉さえ発動させれば、手元に呼べるけど……”

 

 ちら、とシゲルを見る。譲れと言われて承諾した手前、自分が動くのも気が引けた。尤も、命には代えられないので最悪の場合は反故にさせて貰うつもりだったし、ミュウツーに追撃や問答無用でこちらを殺そうとする動きがない以上、今は出方を窺う時だ。

 緊迫した空気の中、一旦僕から視線を外し、シゲルを眼光鋭く見据えたミュウツーが問いを投げる。

 

「お前()、あの組織の人間か……? 隣の人間の仲間か?」

「組織……ああ、ポケモン研究所のことかい? だとしたらNOだ。俺がトキワジムに立ち寄って君と戦ったのは腕試しのつもり……要は唯の偶然なのさ。それと、俺がサトシの仲間だなんて冗談じゃない。彼は敵でライバルだ」

 

 そうか、と怒気を孕んでいたミュウツーの視線は淡白なものとなったが、それはシゲルにとっては不愉快極まりなかったらしい。腕を組みつつあからさまに顔を顰め、ミュウツーに対し言の葉を続けた。

 

「それで? ポケモンである筈の君がポケモントレーナーを自称した理由は何だい? まさか自分が最強だと誇示する為に、俺達のポケモンと腕試しがしたいのかな?」

 

 だとしたら程度が知れたものだと笑うシゲルに、ミュウツーもまた挑発的な笑みで返した。僕としては、正直先の会話はギリギリの内容であるので、出来ればこのまま違う方向に誘導してくれるのは、空気が再度剣呑なものとなっても有り難くはある。

 

「そうだ。私はポケモンとしてでなく、私自身が戦うのでなく、ポケモントレーナーとしてお前たち人間に勝負を挑む──この私の、逆襲の狼煙のさきがけとしてな」

 

 そう告げる中で地下から広間へと出てくるのは、カントーのポケモントレーナーであれば誰もが最初に手にし、育てる御三家の進化系たるポケモン、リザードン、カメックス、フシギバナ。

 

「これらは私が作った、ポケモンのコピー。お前達人間の技術を私が改良し、進化させることで作り上げた、最強の個体だ」

「ポケモン研究所は、突然閉鎖されたと聞いていたけど……」

「……その理由は、これかよ」

 

 ミュウツーの発言に組織と言う単語。そして僕が漏らしたポケモン研究所と言うワードから情報を組み立てたのだろう。生命の冒涜と称すべき目の前の存在に、ソラオとウミオは愕然とした表情で言葉を漏らした。

 

「……サトシは知ってたか?」

「まさか。僕が研究所に行ったのは世界初の人工ポケモン、ポリゴンを見学する為だよ」

 

 今の手持ちがそうだと、またしてもシゲルに嘘を続けた。

 実際にはクローン実験のことも知っていたし、悪事の片棒は幾度となく担いだ身だが、ポリゴンに関しては製作者であるフジ博士から直接譲渡されたので丸きり嘘でもない。

 おそらくだが、研究所の閉鎖は悪事の露見を防ぐという以上に、ミュウツーの脱走を期に研究所としての役目の大半を終えたからだろう。隠蔽そのものは別段研究所を閉鎖せずとも幾らでも誤魔化しが効くのだし、官憲のメスも一度として入ったことはなかったのだから、そもそも悪事を疑うと言う発想は誰にもなかった筈なのだ。

 

 そうした思考と予測の海に埋没しかけた中、広間の奥の壁が捩れて消える場面を目の当たりにすることで、意識を現実に引き戻される。

 ライトアップされた闘技場(ポケモンスタジアム)。その奥に移動したミュウツーと御三家、そして境界線に審判として立つ女性と来れば、その思惑は明白だ。

 

「──さぁ。ポケモンバトルを始めよう」

 




 アニポケでシゲルが初めて貰った御三家はゼニガメですが、この世界線で闇堕ちサトシ君がスタメンにフシギバナを入れた結果、ライバルたるシゲルの手持ちがリザードンに変化しました。
 ちなみにシゲル君のスタメンは赤・緑で主人公がフシギダネを選んだメンバーそのまま。

 なんでこんな面倒くさい事をしたかというと、アニポケのシゲル君にミュウツーへのリベンジマッチをさせて上げたかったからでございます。
(この世界線だとセキエイリーグでワタル倒して、悪堕ちサトシ君とチャンピオン争いしたから、実質グリーン化してるけど)
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