これは一体どういう事なんですかねえ?
ほんとさーもうさー、理解が追いつかねえっての。
現在、某所にある無駄に入り組んだ構造の市民ホールの一室で、名前も知らない他校の同級生と共に大勢に囲まれていた。
まあこれがまた完全包囲網というかなんというか。殺気立ってて逃がす気ねえなマジで。
成人した男女が十重二十重で中坊二人にすんごい目つきで囲んでるんだから、そりゃあもうビビって動けなくなること請け合いだ。
つーか、俺はたまたま居合わせただけなんすけど。どっちかっていうとそっちの立場なはずなんすけど?
と、半ば現実逃避してるとそんな雰囲気にあてられてか、隣の同級生男子(仮)が、
「うぁ、ええと、……これ、どうなってるんだ?」
とか言いながら縋るような目つきでこっちを見下ろしてくるが、いやいやアンタ、俺が聞きたいし原因お前だし。
ぶっちゃけ、こうなった理由は簡単なのだ。
ただ性質の悪いことにその理屈が俺達は勿論のこと、周りの連中にもわからないってのが問題だけど。
隣を見て思う。
ホントさ、お前なんでIS動かしてんのさ?
とりあえずこの状況を頭の中で整理する為というか、現実を受け入れる為というか、ちょっと朝からの出来事を思い返したいと思います。
まず、目覚ましの五分前に起床。
朝が弱い俺としてはかなり珍しい出来事。幸先良いかもとか思ってたこの時の俺が心底恨めしい。
で、飯食って高校入試の会場である市民ホールまで寒い中を早歩き。
周りには参考書を見ながら歩いてる奴が何人もいたが、こんな寒い中で参考書読んでも頭に入るわけないし危険だからやめようぜ? 昨日の夜に降った雪がちょっと積もってるしさ。転んで怪我しても知らねえよ?
で、正門にいた守衛さんになんとなく頭を下げつつ会場に到着。
受験票と案内図を見て目的地を確認してから奥に進む。
途中、道に迷ったらしいスポルディングのバッグを持った女子を発見。
なんの気まぐれか自分でもわからないが、忍びないので道案内をかって出る。
道中お互いの緊張をほぐす為に雑談を少々。
なんでも、かのIS学園を受験するそうで。ということは頭良いのかーエリートなのかー、と冗談交じりに言うと、「そんなことはないよ」と返事。
おお、女尊男卑な世の中なのになんと謙虚な。
なんでも世間で言われる女尊男卑はテレビで大げさに言われるだけで一部を除いてそこまで酷くはないらしい。
やっぱそんなものなのか。うちの中学でもうるさく言ってるの数人だけだったしなあ。
「っと、ここまで来ればあとは分かるだろ?」
「うん、ありがとう助かったよ」
「おう、頑張れよ」
「そっちもね」
そう手を振って自分の行くべきところに向かう彼女。
こっちもそれに手を挙げて応え、背を向けて歩き出す。
将来もし彼女が有名になったら、目で追いかけるくらいはしようかねと思うくらいには可愛かった。
「って、そんなこと考えてる場合でもないか」
腕時計で確認すると、そこまで余裕のある時間でもなくなっていた。
無駄に入り組んで時間がかかるな、ここ。
毒づきながらも歩を進める俺であった。
……ここまでは普通にある出来事として片付くことだ。ここまでは。問題はここからだった。
「うぅ……道に迷った。なんて複雑な構造なんだここは?」
横道からそんな声が聞こえてきたので覗いてみるとまたもや他校の生徒が。
「またかー」
俺と同じ受験生で受験票片手に渋い顔をしている男子はどう見ても迷子っぽそうで。
どうやら半ば自棄になっているらしく、目に付く扉を片っ端から開けては落胆、開けては落胆を繰り返していた。
さっさと無視して通り過ぎても良かったがさっきの女子を助けた手前、そしてそいつの必死な顔を見て、声をかけることにした。
ここで見捨てても後味悪いしな。
「おーい、そこの……んん?」
今まで動きを止めることのなかった彼が、扉を開けた姿勢のまま固まっていた。
訝しみながらも俺はそいつの傍まで歩き、声をかける。
「なあ、お前も受験生なんだろ? 試験場所はあっちだ、ぜ……?」
言葉を放ちながらも、なんとなくその部屋の中の様子が気になり視線をそちらに向ける。
するとそこには、
「アイ、エス……?」
照明が落ちていて薄暗い室内、その最も奥にそれはあった。
鎧武者を思わせるそのフォルムはあまり詳しくない俺でも知っている、日本の第二世代型IS、打鉄のそれだ。
なぜこんなものがここに? という疑問が浮かぶがそれはすぐに氷解する。
ここではIS学園の筆記試験もやっているのだ。IS学園受験生向けのデモンストレーション用と考えれば一応の説明もつく。
しかしなんの警備もセキュリティもなしにこんなところにあるのは、おかしくね? とも思うけど。
そんなことを考えていたら、ふらっと横にいたはずの某君がISに近づいていく。
「お、おい、お前……!」
呼び止めるも、こちらの声が聞こえてないのか、その歩みを止めない。
追って俺も室内に入るが、怒られないか? いや、見つかったら確実に怒られるぞ。
そんな心配をする俺を完全無視して(良い子の皆は真似しちゃダメだぜ。なぜなら俺が涙目になるから)、彼は打鉄に触れる。
そして、ありえないことが起こった。いや、実際に起こってしまったのだから、有り得ないとされていたこと、か。
そんな言葉遊びはともかく。
彼が打鉄に触れた瞬間、ISから薄暗い部屋を白く染め上げるほどの光が発せられた。
それは薄暗闇に慣れ始めた俺の目には痛みを伴うくらいの強烈さで、思わず目を背けてしまう。
十秒かそこらだろうか。体感時間では倍くらいに感じた発光現象は徐々におさまり、視界が戻ってくる。
そしてその視界の中心に馬鹿がいた。
ああ、馬鹿で十分だ。男でISを起動させるなんて馬鹿か天才のどちらかだ。そしてあいつはどう見ても天才には見えない。だから馬鹿でいい。
「な、な……、何やってんだよお前!?」
「へ? 何って……うわっ!? なにがどうなってるんだコレ!」
動かした本人も訳がわかっていないらしく、慌てふためくばかりだ。だがこんな狭いところでISで暴れられても困るので、俺は馬鹿を落ち着かせるために近づいていく。
と、後ろから女性の声が聞こえてきた。
「ちょっと、アナタたち! 何をやっている、の……え? 男がISを? ちょ、ちょっと誰か来て!!」
この部屋に入ってくるということはIS学園の関係者だろうか。スーツ姿の女性が入口から俺たち二人を見て叫んでいた。
そして五分もしないうちに大人数が押し寄せてきて、冒頭に至るというわけだ。
回想終わり。そしてようこそ現実。……全然嬉しくねぇよチクショウ!
「と、ともかく、そこの男子生徒! 早くそれから降りなさい!!」
俺たちを囲む集団のどこからか、そんな声がかかってきた。
「だってさ。とりあえず降りろよお前。あと、変なスイッチ押していきなり飛んだりするなよ? マジであぶねえから」
「わかってるよ!」
そんなやりとりをしつつ、馬鹿はISから降りる。
そこからは猛烈な質問攻めだ。なんせ史上初、男でISを動かしたのだから。質問の嵐にタジタジになっているが、まあこれからのことを考えると序の口がすぎるだろうし精々頑張ってくれ、としか言えんな。
とまあ所謂、歴史的瞬間ってやつを目撃した俺は、他人事と言わんばかりに横目で状況を見ていた。
俺? 俺は質問責めに晒されなかったのかって?
そんなもん、
「俺は見てただけっスよ! こいつがISに触れた瞬間、すんげぇ光ったかと思ったらもう乗ってたんっスよ!? いやマジで!」
なんて大振りのジェスチャーを交えつつ頭の悪い解答をしたら見向きもされなくなりましたよ。その際、馬鹿が何とも言えない表情でこっちを見たような気がしたけど俺は知らん。
それにしても、と打鉄を見て思う。
ホント、なんで動いたんだろうな、コレ。乗った本人は全く訳がわかってなさそうだから、何かあるとしたらISの方にありそうだけど。
打鉄の装甲に触れてみる。
どうせこれから先、ISに触れる機会なんてないだろうから、とか、この騒動のせいで受験受けそこねたな、とか、歴史的瞬間に立ち会ったかもしれないけど、俺には何もしようもねえよな、とか、益体のないことを考えながらなんとなく触っただけなんだ。
だから、
「…………ジーザス」
だから、起動してしまったISに乗った俺が思わずそう呟いても、いいよな?
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