その1 書くこと自体に慣れたいと思ったので。
その2 ISは良くも悪くも想像の余地があるので。
その3 ノリで。
二月上旬、藍越学園及びIS学園の入試試験会場である某市民ホールで起こった、『男子によるIS起動事件』は日本を、いや世界を騒がせた。
なんせ、ISは女性にしか扱うことができないとされていたからだ。
【白騎士事件】という世界を震撼させた大事件とともにISが登場して十年。その定説が覆されることはなかった。
その間、幾度となくISに男を乗せようと世界中の科学者が挑戦したが、その全ては無駄に終わった。夢のまた夢、と半ば匙が投げられていたのだ。
その最中、この事件を起こした二人の少年に世界中の関心の目が向くことは無理からぬことであった。
「……なーんてさ、んなことテレビで言われても、当事者の俺にどーしろと」
俺は冬に食べきれなかったみかんを頬張りながら、テレビに映る俺と織斑一夏の顔写真をぼけーと眺めていた。
時刻は午後七時を過ぎた頃。場所は我が家の居間である。
五階建て集合団地最上階角の2DK、そこが十五年の人生を両親と共に過ごした愛しのマイホームだった。
今の俺は盛大に欝状態だった。最近のデフォルトである。
脳裏をよぎるのは、ここ二ヶ月ほどの情景だ。
役人に連行されて関係各所をたらい回しにされ、どこぞの研究機関で散々検査やら調査やらで身体を弄り回される毎日。
それに有名税という言葉が人生で初めて骨身にしみた。
家から一歩外を出ればマスコミ連中との素敵な追いかけっこ、学校では学友たちによる有難い質問攻め、街に買い物に行こうものならば知りもしないオバサンたちを筆頭に黄色い声援をいただくという、素晴らしい毎日。街で有名人を見かけてもスルーしてあげるのが情けだと悟った。
そんな感じでISを起動してしまってから暫くゴタゴタが続いた日々だったが、最近になって漸く落ち着いてきた次第である。
まあお陰様で? 軽い引きこもりになってしまい、することないからIS学園に強制入学させられるという事態に備えてそこそこ勉強出来て良かったのではなかろうか? と無理矢理にでもポジティブに考えないとやってられなかった。
「あー、そろそろ飯にすっか」
テレビのチャンネルを変えてたら、いい感じに腹が減ってきた。
ずっと座りっぱなしで固くなっていた身体を解しつつ、夕食の準備をする。
献立は一昨日に母さんが作ってくれたカレーと、コンビニサラダというシンプルなもの。
鍋に入っているルーを温め直し、あらかじめ炊いておいた白米にかけて冷蔵庫に入っているサラダを取り出せば完成というお手軽料理。
それとお茶を出すのを忘れていたので最後に用意して、これで完璧。
「いただきます」
しっかり手を合わせて、いざ実食。
……うん、やっぱ美味しいな。
父さんの好みに合わせて、すりおろしたりんごが入った我が家オリジナルカレーだ。
少々甘くはあるが十二分に美味しいと言える、所謂おふくろの味である。
ガツガツと勢いよく食べていたが、スプーンを動かす手がふと止まる。
「………………」
視線がカレーから外れ、宙を漂う。
暫くは母さんの料理、食えなくなるんだよなぁ。
思わず小さく溜息を吐いてしまう。
実の所、既に両親はもうこの家にいないのだ。
俺が下手をすれば命を狙われるレベルでの有名人になってしまったため、その直接の肉親になる二人は、重要人物保護プログラムが適用されてしまった。
準備期間を貰い親たちが家を出たのが一昨日のこと。その時、母さんが涙目になっていたのを見て、愛情持って育ててくれたんだなぁ、なんて思ったり。
父さんとは俺がいないからって二人目こさえんなよ、と冗談言っておいただけだが男同士なんてあんなもんでいいと思う。
特にベッタベタの親子関係という訳じゃなかったけど、いきなりいなくなるとそれはそれでなんとなく物足りないものだというのを知った、良い経験なんじゃなかろうか。
たまたま親離れするのが他よりちょっと早かっただけなんだし。
次に会えるのは一体何年後だろうとか、不安に思うところもあるけれど。
それに明日からは両親のことじゃなくて、自分のこれからを考えなければいけないんだ。
そう、明日からIS学園学生寮の入寮日なのだ。
既に荷物は送り、書類手続きとかそういうのは問題ないのだが、どうにも嫌な予感しかしない。
考えなくても当然だが、IS学園というのは世界で唯一のISについて学ぶ学校である。当然、そこで勉学に励む子供はISに乗る適正がある子供達である。ここで大前提として、例外はあれど(その例外のうち一人が俺というのは甚だ疑問ではあるが)ISは女しか乗れない。ということは必然的に学生寮には女子しか住んでないのである。
そんな授業中含め、二十四時間女子オンリーな場に男二人の片割れとして放り込まれるのである。しかも三年間。
……人生既に詰んだ気がするのは俺だけでしょうか?
どれだけ想像しても順風満帆は高校生活を送れそうな気がしないんだよな。
絶対に何か、面倒くさい事件事故が起きそうで怖い。
あー、やだなー。行きたいくないなー。面倒くさいのは御免で御座る。
まあね? だからといってIS学園入学を拒否しても後ろ盾とかないし、人生BADEND直行な雰囲気なんですが。
役人にも遠回しにそんなことを言われた。そうなるくらいならIS学園に入ってコネなり力なりつけて、最低限の自衛ができるようになったほうがいい、と。
やっぱりISを動かせる男子というのは、合法非合法問わず色々な人々に色々な目的で狙われる可能性が高いそうだ。
その点、IS学園に入れば少なくとも三年は変に敵を作らず、公けに守ることができるそうな。
「とは言ってもなぁ」
進むも地獄、退くも地獄。ということらしい。やっぱり詰んでるだろ、コレ。
ま、悲観ばっかしてても仕方ないし、俺にできることといえば、さっさと飯食って風呂入って、明日からの生活に備えて寝ることだけだ。
いやホント、どうなることやら。
そんなわけで、やってきました入学式当日。
寮に入ってから今日までどうしてたかといえば。
飯と生活必需品の確保の時以外、引きこもってました。
そんなどうでもいいことは置いといて。
今は学生寮から体育館まで歩き、そこで大人しく先生方の話を聞いて(聞き流して)いる状況なんですが。
何さ、これ。本当に女子しかいねぇじゃん。
三百六十度、見渡す限り女女女。字面にすると姦しいだね! いやいや、やっぱり来るとこ間違ったんじゃね? と思うこと請け合いである。
まずぼっち感が半端じゃない。場違いな気がしてならない。
まるでなんでもない平日に女子高を訪れたかのようだ。ああ、ここって実質女子高でしたよねー。
しっかし、生徒は仕方がないとして、教師陣もほぼ女性ってどういうことさ?
男性教師もいることにはいるが、どなたも年配の方々ばかり。これはあれか。世界各国から預かる子供達との間に間違いを犯させないための措置ってことなのか。
確かに、国を背負う将来有望な若者たちがどこぞの馬の骨ともわからん奴の毒牙にかかる、なんてことはあってはならないのはわかるんだけどさ。
あれ? そう考えると俺って……。
うん、これ以上はやめておこう。なんかとてつもなく危険な気がしてきた。
閑話休題。
女の園に放り込まれた哀れな子羊、の片割れであるところの織斑一夏氏(積極的に知ろうとしなかったせいもあるが事件の三日後に名前を知った)はどうしているかというと。
「ねぇねぇ、君が織斑君なんだよね?」
「ハイ。オレノナマエハオリムカイチカダ、デス」
ああ、うん。気持ちはわかる。すんごいわかるけど、いくらなんでも動揺しすぎじゃないかな。
同じ哀れな子羊として、もう少ししっかりしてもらわないと頼りにならないじゃねーですか。
織斑の背中を斜め後ろから見ながら心の中で愚痴っていると、
「ねえ君、大丈夫? 顔色悪いよ?」
隣にいた女子に声をかけられたので、
「はっは、大丈夫大丈夫。ぶっ倒れないのが不思議なくらいさ」
と、笑顔で即答しておいた。
微妙な顔をされました。
……駄目だわ、全く人のことが言えねぇ。
だからさー、思春期真っ盛りの健全な男子高校生にはきついってこれは。
肩身が狭いというか、精神的に来るものがあるね。こう、胃の辺りが痛む感じに。
これが明日明後日辺りになると少しは慣れてくるんだろうけど、流石に今日は無理っぽい。即応出来る奴がいたらそいつは男じゃねえ。男だとしても絶対どこかおかしいに決まっている。
そんな感じで男子生徒二人の心情などとは全く関係なく入学式は無事に終わり、俺たちはこれから一年間通うことになる教室に移動した。
教室に入ると何やらデジタル黒板(正式名称不明)の前に人だかりが出来ていた。
「なになに? どしたん?」
「え? ……あ、君は!?」
俺が近づくと、クラスメイトたちが皆、微妙に距離をとって黒板までの道を開けてくれた。なにこれ、モーゼ?
「いや、そんなあからさまに避けなくても……」
傷つくよ? 俺だって傷つくんだからね?
まぁ、お互い距離感とかわからないから仕方ないんだろうけど。そのうち普通に接してくれるようになると嬉しいなー……はは。
これからさ、これからなんだ。頑張れ俺。
で、だ。
近づいて黒板を見てみると、
「あ、そゆこと」
なんてことはない。座席表が書かれていただけだった。
それぞれの国の言葉の上にローマ字やカタカナの振り仮名付きという親切ぶりである。
どれどれ? 俺の席は……っと?
窓際の最後尾。それが俺の席だった。
おお、これは嬉しいね。
だって男女比1:30のこの空間で一日中女子の視線に晒されるなんて耐えられない。
例えば一番前のど真ん中とかだったら確実にストレスで胃に穴が開く。というかそんな座席指定、悪意しか感じられない。
その点、この席ならいくらか落ち着けるってもんだ。いつかみたいに三百六十度囲まれるってこともないし。逆に言えば教室の角で逃げ場がないようだけど、それは気にしない方向で。
ともあれ少しホッとしつつ、自分の席に座る。
するとタイミングを見計らったように予鈴のチャイムが鳴った。
あと五分でホームルームが始まるということだ。
クラスの皆も、そわそわしつつもほとんどが席に座り始めた。
暫くして。
「おーおー、今年のヒヨっ子共も元気でええなー」
「……そうですね」
そんな第一声とともに教師と思しき女性が二人、教室の扉を開けて入ってきた。
どっちもスーツ姿ではあるが、対照的な雰囲気を持つ二人だった。
生徒が全員席に着き、静かになったのを確認して、紫系のパンツスーツの女性が声を放つ。
「私の名前はナナコ・ブラックウェルや。これから一年間君ら一年二組の担任をすることになる。皆、これからよろしゅうなー」
そう言って笑顔を浮かべるナナコ先生。笑っている時にちらりと見える八重歯がチャームポイントか。
腰まである長い金髪を後ろでくくっていて、大体俺と同じくらいだから百七十を超えたくらいの身長の所謂長身美人だ。
なんでもイングランド人の母と関西人の父(婿養子)を持つハーフらしい。喋り方もそれが影響しているそうな。
「自己紹介はこんなもんかな。そんなら次は木本センセー、よろしゅうな」
「分かりました。……このクラスの副担任をします、木本美南です。宜しく」
今度は黒のスーツを着た人だ。
こちらもナナコ先生に負けず劣らずの美人さんである。
身長はナナコ先生より十センチ近く低い百六十前半くらいか。ショートカットの内ハネ黒髪で、赤いアンダーリムのメガネが色合い的なアクセントになっている。
怜悧な雰囲気を持つ女性で、ナナコ先生のサバサバとしたそれとはまた違った方向でキャラが立っていた。
しかし見た目に反して武闘派で、何度も格闘大会で好成績を残したそうだ。
「次は君らのこと、センセーらに教えてーな。廊下側の子からいってみよか」
先生たちの自己紹介が終わり、俺たち生徒の番になった。
順番に自己紹介を始める女子たちを見て、改めて国際色豊かだなと思う。
世界各国のIS保有国及び、量産型(劣化版、模造品とも)ISであるIScを持つ国々から来るだけはある。
IS学園のホストカントリーである日本は元より、アメリカ、カナダ、中国、ロシア、EU諸国、インド等々、ここは世界見本市かと。
とは言っても先進国出身が多いのはご愛嬌か。
ISが登場して十年、IScだって生まれてからまだ五年ほどしか経っていない。
発展途上国にISが浸透するにはまだまだ時間がかかるのだから。
と、ネットで見た自称有識者の話を思い出していると、
「ほな、大トリは皆お待ちかねの男子IS操縦者くんにお願いしよか!」
「えっ!? ……あ、もう俺の番?」
どうやらぼうっとしすぎたようだ。いつの間にか俺以外の全員の挨拶は終わっていたらしい。
慌てて俺は立ち上がりそのまま自己紹介に入った。
「み、皆さん初めまして! 俺の名前はわたぶっ!?」
盛大に舌を噛んだ。思わず口を抑えて涙目になる。
「…………」
ちょ、やめて。皆そんな目で見ないで! めちゃくちゃ恥ずかしいから!!
教室の温度が少し下がってその分、俺の体温が上がったのは気のせいじゃない筈。
といってもこのまま沈黙していても気まずいので、痛みを我慢しつつ言葉を続ける。
「あぁもう! 今更俺について説明不要でしょ! なんの因果かISを動かせたのでここにいます。皆、これから宜しく!」
なんとかそう繋げて、乱暴に椅子に座る。これ以上どうしろと。
ちなみにコレ、やりたいことはありますが、一話ずつ書いてから次考えてます。
そして初めて明らかになるオリキャラの名前は教師陣という。