俺「おお! やっと届いたか。割れてないといいけど」
ナ「どした? えらくご機嫌やん。ええことでもあったんか?」
俺「あ、先生。そうなんすよ。実家に置いてきた荷物が届きまして。まあ趣味関係ばっかなんですが、これでようやくストレス解消できると思うと、もう」
ナ「そうかそうか。けど程々にな。学生の本分は勉強やねんから」
俺「うっす、勿論っす」
そんなこんなで約一週間、勉学に勤しみつつ。
一組のクラス代表決定戦に向けて織斑が幼馴染と何故か剣道で特訓している間、俺はプライベートでは何をしていたのかというと、
「何を作ってるんだ?」
「蒼獅子」
「?」
大いに自分の趣味を満喫していた。
IS学園の寮に入ることが決まるにあたり、大小様々なストレスを被ることを予想していた俺は、それを発散する為の様々な趣味のものを学園に持ち込んでいた。
漫画、小説、アニメ、ゲーム。写真にプラモ作成その他エトセトラ。オタク文化寄りではあるが多趣味だと自分でも思う。
両親ともにそういうことには寛容で、ある程度成績をとっていれば自由にさせてくれたので感謝していた。
そして今やっているのはプラモ制作だ。その他の趣味についても色々語りたいところではあるが長くなりすぎるので割愛する。
で、今作っているのはスナップキットと呼ばれる、接着剤不要のプラモデルだ。
簡単に作れて、ピンキリなところもあるが説明書通りに作成すればイメージに近いものが作れるという、初心者から熟練者まで幅広い層に愛されているモデルだ。
人の形をした機械、所謂ロボットのプラモを夕食後の自室で説明書の通りに作っていた。
最近は作る暇もなかったが、IS学園に正式に入学して漸く一息つけたところで久々に作ってみるか、と一日三時間の制限を設けて手を出した。制限はただ単に一度に保てる集中力がそれだけだという話である。
「これ、いつ完成するんだ?」
風呂上がりの一杯を爽やかに飲み干した織斑が、製作中の俺に声をかけた。
「うーん? そうだなぁ……。空いてる時間によるけど、素組だけならお前がボコボコにされる明日の夜には。そこから基本工作して塗装するから、このペースでやれば大体三週間後くらいか?」
「へー、すっげぇな。そんなこともできるのか。って、今酷いこと言わなかったか?」
「気の所為だろ? それよりもそっちの調子はどうよ?」
ニッパーでランナーからパーツを切り出しつつ聞いてみた。最初はランナーが余るようにし、次にパーツギリギリで切り飛ばし、そこからカッターやヤスリでその跡を綺麗に整えるのが基本だ。
「おう、大分カンを取り戻してきたぜ。思った以上に体がなまってて大変だけどな」
「確か中学は年齢詐称してバイトしてたんだっけ? 世界で二人しかいない男子IS操縦者が前科持ちかぁ。世も末だな」
パーツ同士をくっつけるときは、無理に挟んでポリキャップが変形しないように気をつけてと。
「さっきから酷くないか? 知り合いに頼んで働かせてもらって小遣いもらってた程度だからな? それにそもそも捕まってないし!」
「そうかいそうかい。そんで、勝算はあんの?」
「うっ」
途端に言葉につまる織斑。
いや、そこで狼狽えてどうするんだよ。試合は明日だぞ?
「あー、まぁなんだ。頑張れ、としか言い様がないな」
「くっそぅ、見てろよ。絶対明日は驚かせてやるからな!?」
さてどうなるか。
「はいはい。期待してるよ」
噂に聞くところによると、オルコット嬢のISはブルーティアーズといって、中~遠距離射撃に特化した機体だという。
ISにはある程度情報開示の義務がある為、閲覧権限が必要にはなるが(流石に全くの資格無しで見れるわけではない)標準武装程度なら調べればすぐにわかるのだ。
一般人であればカタログスペックと専用機であればそのパイロットの氏名まで。
IS学園の生徒や教師等は更に機密に触れない(整備可能)な程度の内部構造を。
更に専門の技術者(製造メーカーや研究所等)や関係者(ISに関する権力者)になるとほぼ全ての機体情報を見ることができる。
勿論、ここでいう情報というのはISという機械の基本情報のことであり、特有の技術情報を含まない。
ただ、今現在唯一絶対の例外はISコアであり、ISの全ての情報が眠っていると言われる完全なブラックボックスに干渉可能なのは、ISの開発者である篠ノ之束博士のみである。
そんな情報閲覧権限ではあるが、俺は未だそれを利用していない。
何故ならば、そのほうが面白いからである。
勿論、自分の試合の対戦相手、なんて場合は調べるが今回はそんなことを全く気にしなくていいのだ。
例えば映画等で、純粋に楽しむ為にあらすじだけで前情報をあまり仕入れずに観る、という人がいるだろう。まさに俺がそうである。
ただの観客として人生初の生ISバトルが見られるのだ。これを楽しまないのは損である。
織斑にはそっけない態度をとっているが、内心ワクワクしているのだ。
パワードスーツでガチンコバトルとか男心くすぐるではないか。興味ない男は男の子じゃないね!
「楽しそうだな。今度俺にも教えてくれよ」
「おお、いいぞ。ただし自費でな」
織斑は勘違いしているようだが、プラモ製作も楽しいので良しとする。
IS学園に入ったこと自体はあまり乗り気じゃなかったが、それとこれとは別の話なのだ。
ああ、明日が本当に楽しみだ。
そして織斑の試合当日。一組を中心に一年全体が浮ついていた一日が終わり、放課後の第三アリーナ。
その観客席の一角。
「さあさあ始まりました、一組代表決定戦。実況は僭越ながらワタクシが担当させていただきます。解説は――」
持っていたヒトカラ用マイクを横に座るロシア系女子に向ける。
「オリヴィエ・カーティスだ。全く、どうして私がこんなことを……」
「まあまあ、細かいことは気にせずに」
仕方なし、と嘆息する姿を見て苦笑するしかない。
鉄をも切り裂きそうな視線を放つ鋭い三白眼、今にも心抉る言葉が飛び出しそうな厚い唇。その上に軽くウェーブした背中まである艶のある黒髪。そして女性らしくはあるも鍛え抜かれた身体を持つイケメン女子、将来は女傑確定だろう二組きっての戦闘民族、それがカーティス女史である。
「今何か変なこと考えていたな?」
「いやいや、そんなことないですよ?」
あと、動物並みに勘も鋭いようで。
今俺は一組のクラス代表決定戦に興味を持った二組メンバーと共にいた。
で、アリーナに向かう道すがらの雑談の流れから、ロシアの代表候補というカーティス女史に試合の解説を頼んだのだ。ちなみにマイクは他の女子のものだ。何故持っていたかは謎だが。
「お、早速オルコット嬢が出てきたな。……さてカーティス女史、どう見ます?」
「……見たところ、変わったところはないな。基本装備のスターライトmk.Ⅲと、背中に羽状にマウントされてるBT兵器があるだけだな」
カーティス女史の言う通り、オルコット嬢の纏う蒼色のISには大型のライフルと背中に大型のバインダーが装備されていた。
そもそもISというのはIS本体、装備品、そして搭乗者(+ISスーツ)で構成されている。
IS本体は、肘や膝の先から肥大化した頭部のない人体のシルエットをしている。
四肢はパワーアシスト機能やPIC等の作用によって通常の何倍もの力をほとんど重さを感じずに出せる仕組みだ。
そして胴体。ここはIS各部を繋げる役目と、搭乗者を守るための装甲や各種生命維持装置、更にマッスルスーツの役目を担っている。ここはアウタースーツ(対して搭乗者側のはインナースーツと呼ばれる)とも呼ばれ、ISと分離可能で強化服としても使えるのだ。
「成程。初心者相手に気負う必要なしと、自分の戦闘スタイルを崩す気がないようですね」
自分にマイクを当てつつ、オルコット嬢を見やる。
蒼いISを身に纏った彼女は、若干憮然とした表情ではあるものの、特に緊張した様子はなく余裕を感じられる。
「さてお次は織斑選手ですが、なかなか出てきませんね」
「ISの起動に手間取っているんじゃないのか? 確か、新型だと聞いたが?」
ふむ、と俺は頷いた。
そうなのだ。この度織斑には新型のISが与えられるらしいのだ。
どこぞの施設の倉庫の奥で眠っていたものを元に篠ノ之博士が仕上げて、倉持技研が調整したという、どうにも曰くあり気、というか確実にあるだろう機体だ。
その名を白式という。
「最適化に時間がかかっているのかもしれませんね。特別機っぽいですし。ところで、代表候補としてはいきなり専用機をもらえるというのは、やっぱり気になりますか?」
途端、
「ほう」
という呟きとともにカーティス女史から殺気が放たれた。
周りの女の子達から誰ともなく、ひっ、と悲鳴混じりの声が溢れる。
無理もない。相手の気配が読める、とかそういう達人めいた感覚のない俺にも感じられるほどの殺気だ。これに動じない人間など、少なくともこの場にはいない。
かくいう俺も内心かなりビビっている。男の子の意地で悲鳴を上げなかっただけマシと思っていただきたい。
「なかなか度胸があるじゃないか。専用機を持たない代表候補にそんな質問をするなんて、余程命が惜しくないと見える」
「や、やだなぁ。冗談ですよ冗談。そんなマジにならないでくださいよ。ほら、みんな怖がってるからね? ね?」
冷や汗をかきつつなだめようと試みる。まいった。やっぱり地雷だったか。
考えてみれば当たり前のことではあるんだ。専用機というのは個人差はあれど、血の滲むような努力をして評価されて、それでも与えられるかはわからない。それも四六七機しかないオリジナルISを与えられるというのは、IS乗りにとって誉れなのだ。
「けどまあ、その辺わかってるのかねぇあいつは」
歓声にスタンドが湧く。
漸く、織斑が出てきたのだ。
試合は一方的だった。
「さあ織斑選手、開始直後から果敢に攻めていきます!」
織斑は頑張っている方だとは思う。でも相手が悪かった。
「だがしかしオルコット選手、ステップを踏むような華麗な引き撃ちで織斑選手を全く近づけさせません! それにしても織斑選手、さっきから刀しか使ってませんが他に武器はないんでしょうか?」
「ふむ、初期装備になくて準備をしている時間がなかったのか?」
「ありえますね。入場時の様子から見るに、結構バタバタしていたようですからね」
「それに比べて、オルコットは余裕だな」
「ええ、そうですね。ほら見てくださいあの表情。獲物を狙うハンターの目、というより完全に楽しんでますね。素人相手にドSですね」
「相手があれではな。動きが読みやすくて簡単なのだろう」
「ですよねー。もうちょっとどうにかならないですかね? あ、下手くそ! そこは下に避けたほうがスペースあるだろうが!」
『さっきから煩いな! じゃあお前がやってみろよ!』
『シャラップ! それにワタクシはドSではありませんわ!!』
「えー? 俺、専用機持ってないしー。あとそっちは鬼の引き撃ちしてるくせに何言ってんのさ。後で映像記録見てみるといいよ? というかツッコむタイミングが同時って、実は仲いいだろお前ら」
『どこがだよ!?』
『どこがですか!?』
「そういうとこだよそういうとこ」
見事にハモるお二人さん。なにこれ超面白いんですが。
もうね、観客一同大爆笑である。鉄面皮のカーティス女史ですら顔を背けて肩を震わせるレベルである。
『あとで覚えてろよ!』
『あとで覚えておきなさい!』
またもタイミングが合い、思わず顔を見合わせた二人は苦虫を噛み潰したような顔をする。
そして溜まった鬱憤を晴らすように今まで以上に苛烈に戦闘を再開する。
「……しかし、なんだかんだ言いつつも結構粘りますね織斑選手。試合開始からかれこれ二十分くらいですか」
「そうだな、機体性能に助けられているのも勿論だが、オルコットの方が手加減している、というのもあるのだろうな」
「やっぱりそうなんですか?」
「ああ、見ていればわかる。ほら、織斑がその手加減の隙を攻めるぞ」
彼女の言う通り、試合が動いた。
なんと、織斑がオルコット嬢の虚をついてビットを次々と破壊したのだ。
BT兵器。カーティス女史の解説によるとイメージインターフェースを利用した遠隔無線誘導型の機動砲台、という代物だ。某有名ロボットアニメのアレを想像するとわかりやすい。
「一体織斑選手は何に気づいたんですか?」
「まだわからないか? オルコットはビットを操作するとき他に動きをとっていないんだ」
「……? え、あ、成程!?」
言われて納得。思い返してみれば確かにビットが飛び回っているときはオルコット嬢本人はその場から少しも動いていない。
ビットに敵を釘付けにしながら攻撃なりなんなりできるはずなのに、ビット操作に専念しているようだった。
だからだろうか。逆に織斑がオルコット嬢本人を牽制するとビットの動きが止まり、撃墜が容易になるみたいだった。
「ここで織斑選手、四機のビットを破壊してオルコット選手に向かっていく! 勝負を付ける気だ!!」
『うおおおおおおおお!!』
雄叫びと共に、織斑が最高速でオルコット嬢へ突撃していく。
ビット破壊直後でオルコット嬢は取り回しの悪いライフルを構える余裕がない。下手に避けても追撃される距離だ。ここはダメージ覚悟で防御に徹するのが正解だ。
だが、オルコット嬢には四つ目の選択肢を選んだ。
『甘いですわ!』
ブルーティアーズの両サイドスカート部分の装甲が稼働。それぞれその先端を織斑に向けた。
その装甲の裏にあるのは筒状の物体。補助ブースターか何かかと思われていたものは砲塔だったらしい。
そして発射されたのはミサイル。
カウンターで放たれたそれを織斑は避けることができず、直撃をもらってしまった。
「おおっと! オルコット選手、見事なカウンターだ! これは織斑選手、今までのダメージも考えると止めになってしまったか!?」
織斑がいた辺りに爆炎が広がる。それを見てオルコット嬢は得意満面の笑みを浮かべる。自分の勝利を確信しているようだ。
「これで終わりか。素人としては十分によくやったほうだな」
どうやらカーティス女史も同じ意見らしい。周りの皆も同様の意見だった。
だがちょっと待って欲しい。
「いや、まだかもよ?」
「どういうことだ?」
「だってさ、空中で撃墜されたなら落ちてくるはずだろ? それがないってことはさ……」
俺の言葉にカーティス女史が薄れゆく黒煙へ勢いよく振り向く。
『……まさか』
オルコット嬢が呆然と呟くのを聞いて、俺は言う。
「ああ、そのまさかってやつさ……!」
皆が注目する中、煙が晴れたその向こう、先程とは似て非なる純白の装甲に身に纏った織斑がそこにいた。
先程までと比べて鋭角化した各部の装甲は今まで以上の力強さを見る者に与える。
背面の大型スラスターは、鳥が大きく翼を広げたような形に姿を変え、内に秘めた力を抑えきれないかのように陽炎を吐き出している。
そして手にしてる武器もその姿を変えていた。
光の剣。
一言で言えばそれだ。
元のISブレードの刃をいくつかに分割して格納。そうして空いたスペースからビームっぽい光が伸びてそれが刀身の形を作っている。
それらすべての印象を合わせると、どことなく西洋の騎士を思わせるデザインになる。先程までが一般騎士とするならこっちは精鋭部隊とか近衛兵とかの上級騎士のイメージ。カラーリングから白騎士とか呼ばれそうな感じの。
……ん? んん? 白騎士? なんだこの引っかかり。最初のISにあやかったっていうには何か――、
『今まで初期設定で戦っていたんですの!?』
「――ッ」
オルコット嬢の声で我に返る。今はそんなことを気にしても仕方ない。
織斑の様子を見ると、呆然として自分の身体や変化した白式を確認していた。
だがやがて何かに納得したか、そもそも細かいことは置いておき考えるのをやめたのか、気合を入れ直して突撃を再開した。
「これは驚いたな。まさか最適化が済んでなかったとは」
「カーティス女史、やはり一次移行してるとしていないとではそこまで違うものなのでしょうか?」
「ああ、聞いた話だが段違いらしい。あくまで機械を動かす、から自分の身体を動かす、という感覚に変わるそうだ。それこそIScなどと比べると段違いだろう、それほどまでに劇的変化するそうだが実際専用機を持っているわけではないから何とも言えん」
「成程。確かにそればっかりは専用機持ちにならないとわかりませんね。聞こうにもそうそういませんし。いや、あとで戦ってる二人に聞いてみたらいいですね。……おっと、言ってる間に決着がつきそうですよ!」
機体性能が上がり、格段に動きの良くなった織斑がブルーティアーズから放たれるミサイルとライフルの銃撃を光の剣で切り払ったり、機動力に物を言わせて避けたりしてオルコット嬢に肉薄していた。
オルコット嬢の方は笑撃(笑うしかねえだろこんなもん。素人なのに代表候補の専用機持ち相手に舐めプすぎる)から立ち直りきれないのか、動きがぎこちなく、後手後手に回っていた。
そんな攻防の間、テンションが上がりすぎたかどうかは知らんが、
『俺も、俺の家族を守る!』
などと織斑容疑者は供述しており、あとで一部の人間から腫れ物を扱うかのようにからかわれることになると思います。主に俺から。
そして、
「下に避けてからの切り上げ! これで決着か!?」
『うおおおおおおおおお!!』
先程とは違い、ミサイルさえの突破されての突撃だ。オルコット嬢は攻撃直後で反応は出来ても対応しきれないタイミングだった。
誰もがこれで決まる、と思った直後。
『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』
『――は?』
その瞬間、アリーナ全体の時間が止まった。
あ、うん。気持ちはわかるぞオルコット嬢。皆同じ気持ちだから。あの様子だと織斑自身も何が起こったかわかってねえだろうし。
勿論、観戦していた俺たち含め観客も全く状況を理解できないでいた。
であるならば、皆が我に返ったあとにくるリアクションは予想できるわけで。――さん、ハイ。
『ええええええええええええええええええ!?』
アリーナ全体から、耳を塞いでなお鼓膜に響くほどの叫びが轟いた。
それから数時間後。
消灯時間を過ぎ、なんとなく自販機の飲み物が欲しくなった俺は、暗くなった寮の休憩スペースまで足を運んでいた。
消灯し、薄暗い廊下を非常灯の僅かな光だけを頼りに歩く。
その道すがら、一組代表決定戦からのことを思い返していた。
やはり、ISの戦闘はテレビで見るのと生で見るのとでは全然違っていた。
五感全てで感じるあの迫力は、テレビで見ただけでは想到もつかないものだった。
他の生徒も似たようなことを感じていたのだろう。夕食の時間帯でもその興奮は冷めぬようで、食堂はどこもその話題でもちきりだった。
なんだかんだ言って専用機持ちの代表候補は強いだとか、ビットは憧れるわ浪曼だわだとか、おりむーかーくいーだとか、白式の一次移行と同時に単一仕様能力が発現するとかありえないでしょだとか、情報開示された零落白夜がマジチートすぎるだとかそんな感じに盛り上がっていた。
もっとも、当の本人らは食堂には姿を現しておらず、馬鹿騒ぎになるほどではなかったが。
何人かに、
「ねえ、織斑君はこないの?」
と、織斑と同室ゆえに何度か尋ねられたものだったが、その度に、
「流石にお疲れモードだってさ。初めてのIS戦闘だったからな」
そう返す場面が何度かあった。
実際織斑は、帰ってきてシャワー浴びたらすぐに寝てしまった。ここ一週間張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったというのもあるのだろう。今日くらいはゆっくりさせてやりたい。
そんな訳で部屋にいて織斑を起こしてしまうのも忍びないので、暇つぶしも兼ねて自販機が置いてあるブースに来たのだが。
するとそこには少女が一人。自販機の明かりに照らされる姿は確か隣の席の、
「あれ? 都下……か?」
「え? わっ!?」
こちらに気づいて振り向いた都下は俺の顔を見て何故か驚き、その拍子に自販機のボタンを押してしまい、ガコンとジュースが落ちる音がした。
うわぁ……、と取り出したものを見て都下が顔をしかめる。
都下がこちらに掲げて見せてくれた缶には、長い黒髪の美少女のイラストともに『まロ茶』とデカデカと書かれていた。
「うわ、よりによってそれか。つーかなんでこんなとこで売ってんだよこれ」
「……美味しくないの?」
微妙な顔をしているだろう俺を見て都下が尋ねる。
「飲んでみればわかる。大丈夫、不味くはないからさ」
その言葉に訝しみながらも恐る恐るまロ茶を飲む都下。
よく味わうためだろう、目を瞑りその味に集中するが徐々に困惑した何とも言えない表情を浮かべる。
「なに、これ。美味しいのは美味しいんだけど、舌触りが必要以上に滑らかすぎて執念すら感じるよ。もしかして収益度外視してるんじゃない? というかこの美少女イラストとネーミングは何? 秋葉原のご当地茶でもないのにこのパッケージングはないんじゃないかな。絶対損してると思うんだけど。どこが作ったの――って、I.A.Iなの? ああ、なら仕方ないか……」
そこまで言って、都下は頭を垂れた。うん、その気持ちはよく分かる。俺も通った道だから。
「ついでに言うとな? そのお茶、I.A.Iの学生との合同開発企画で作られたものでな。そのイラスト、企画に携わった男子学生の彼女が元らしいぜ。ネーミングもその学生がイラストを押し通して、『丸くてエロい尻の君が飲むに相応しいお茶、そう! まロ茶だ!!』とか言って決めたらしいわ」
「……なんでそれ、誰も止めなかったの?」
「いやだってI.A.Iだしな。あそこ基本、変態かキ○ガイしかいねえし」
I.A.IとはIzumo.Air technology.Industryの略で、元々はその名の通り航空機関連の仕事をしてたが、その内様々な産業に手を出し大成功を収めている会社だ。
無論ISにもその手を伸ばしており、どんなISもその内部部品の三割以上はI.A.I製だと言われている。
そしてどれもこれも無駄に超高性能なのではあるが、その分ピーキーなデザインが多く、変なところで応用が効かないらしい。故にIS業界でも二位の地位に甘んじているのだとか。
しかし天才となんとかは紙一重、という言葉もあるようにどうにもI.A.Iに勤めてる者はどこかおかしい人間が過半数を占めており、各業界で結果を出す傍ら、企業的変態性とでも言うべき特性を遺憾なく発揮しているらしい。このまロ茶もその一つだとか。
「ま、それは置いといて。お前も寝付けなかったクチ?」
言いつつ、ちゃっかり普通のスポーツドリンクを買って都下に少し睨まれつつも俺は、彼女と共に備え付けのベンチに腰を下ろした。
一人分空けたその席は、夜だからか、少しだけ冷たい座り心地だった。
「うん、実は。君もなの?」
「ああ。今日生で初めて見たISバトルのことを思い出すとな」
「そうなんだ。私と同じだね」
それを聞いて、俺は視線を天井に向け、少し思う。
いい機会だし、都下に聞いてみるか、と。
「なあ、今日の試合を見て、どう思った?」
「どうって?」
都下の方を向くと、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「ISが動くとこを見てさ、正直な感想ってのを聞きたいんだよ。ただそんだけ」
彼女は少し思案するように首を傾げ、やがて口を開く。
「単純に凄かったよ? 迫力があったし。それに……」
「それに?」
「うん。正直に言うと、少し羨ましかった。あんなに自由に空を飛べていいなって。それに比べて今まで自分は何やってたんだろうってちょっと悔しくもあったかな。……な、な~んてね! そこまで大したもんじゃないよ、どうせ授業で乗れはするんだし」
そう言いつつ、恥ずかしそうに顔の前で軽く手を振る都下。
「……いや、いいんじゃないか? そんなこと考えてても」
「ふぇ?」
だってさ、
「多かれ少なかれ、皆ISに乗りたくてこの学園に来たんだろ? 態々難しい入試まで受けてさ。どんな理由だとしてもそこまで頑張った結果ここにいるなら、恥ずかしがる必要なくね? まあ、たまたまここにいる俺が言うのもなんだけど」
そこまで言ってスポーツドリンクを一口。何語ってんだろうなとは自分でも思う。
ただ、自分の本心ではあるのでまあこんなもんだろう。
嘘偽りないですし? 否定する要素は一つもないですし?
とかなんとか、自分に予防線を貼りまくっていると、
「……優しいんだね、君は」
「は?」
何を言ってるんですかね、都下サン?
「女の子の言ったことを否定せずに後押ししてくれる男の子って、世間一般には優しい部類に入ると思うよ?」
「そういうものかなー」
「そういうものだよ」
笑顔でそう言ってくる彼女に、俺は苦笑混じりの笑顔を返す。
この表情の応酬もきっと“そういうもの”なのだろう。
まだまだ知り合ったばかりの微妙な距離感で、互いの本心をほんの少しだけ晒す、そんなのは今みたいな夜の雰囲気だからこそ出来ることだ。だから“そういうもの”なんて曖昧な言葉で済ますのが丁度良い。
「……さてと、それじゃそろそろ戻りますか」
「先生に見つかると、拙いもんね」
そして俺達は小さな夜会に終わりを告げて立ち上がる。
こういうのは無駄に長く続けるものではない。
「んじゃ都下、おやすみさん」
「うん、おやすみ。また明日ね」
なぜなら、“そういうもの”なのだから。
超絶亀投稿。これ読んでくれてる人いるんですかね?気になりますね。
そして次も、ストックなんかないのでいつになるかわからないという……。