ISに振り回されて平穏が遠い   作:風呂

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膨大な書類整理に対する教師陣の反応。

冬「……終わらん」(遅)
山「織斑先生お願いですから手を動かしてください!」(超早)
ナ「終わったら酒。終わったら酒……」(普)
木「そうですね。早く終わらせて帰りましょう」(早)


その6

 翌日。

 一年全体が一組代表決定戦の余熱に少し浮かれているように思いはするが、それでも授業は平常通りに進んでいく。

 今はほぼ毎日あるISに関しての授業の最中だ。

 ISについて学ぶためのIS学園ではあるが、この一週間、実は一年生は授業でISに乗ることはなかった。

 というのも、宇宙開発用のパワードスーツという名目で開発されたISではあるが、現在のところもっぱら兵器運用されており、その扱いには慎重にならなければならない。

 なので大半の生徒がISに殆ど触れたことがないというのを鑑みて、まずは運用するにあたって正しい知識をつけさせる、というのがこの学園の教育方針らしい。

 よって、ISの授業の最初の一週間は実技の時間も全て座学となっている。

 というようなことを最初のガイダンスで説明されたのだが、よくよく考えると織斑とオルコット嬢の試合の日程はその辺りも考慮されてたんだろうなと、教壇に立っている童顔眼鏡巨乳の山田先生と、電子黒板の横でパイプ椅子に座りながら授業の様子を見てる長身クール系の織斑先生を眺めつつだらだら考えていた。

 ……自分で言っててなんだが、一組担任ズの紹介が雑すぎる。なのでもう少し続けてみる。

 片や世界的な超有名人である世界覇者。もう片方も、知る人ぞ知る実力者らしい。

 ブリュンヒルデはともかく、山田先生には心底驚いた。授業中のちょっとした雑談で元代表候補だったという話が出たので嘘だと思って調べたらほんとだった。ぶっちゃけ今でも半信半疑である。

「というわけで明日から実技が始まりますが、皆さんこの一週間で学んだことは決して忘れないように。いいですね?」

 はーい! と元気に返事をする二組の生徒たち。

 皆、明日からの実習への期待に目を輝かせている。

 かくいう自分も期待で胸を膨らませているのだが。

「やっとISに乗れるんだね。漸くだよ」

 隣から都下が話しかけてきたので、そうだなと返す。

「ずっとおあずけ状態だったからな。これでIS学園らしいことができるってもんだ」

 そういう意味では、俺たち一年生は皆フラストレーションが溜まっていたとも言える。

 ISに憧れて入った専門学校なのにその専門分野であるISに触れることすらできなかったのだ。そりゃあ不満と共に、期待も膨らむわけで。

 代表候補生や一部企業や組織に繋がりがある者を除いて、ここにいる生徒は今までISに触れたこともないド素人ばかりだ。それこそ入試試験の実技で数分しか触ったことが無いはずだ。

 故に言い方は悪いが俺を含め、皆の気持ちを代弁するとこうなる。

“早くISに触らせろ”

 いやもうホント楽しみで仕方がない。何の因果か偶然か。はたまた運命か、男なのにISを動かせるのだから世の中わからないものだ。

 などとうんうん頷き――、次の瞬間勢い良く上体を反らす。

「授業中だ。私語はつつし――、む」

 何故なら、そんな言葉と共に出席簿が眼前を上から下に通り抜けたからだ。

 勿論下手人は織斑先生である。

 いきなり何すんだという話ではあるが、この教師に限ってはそう珍しくないことだったりする。

 この一週間で今回を入れて自分に二回、複数人の生徒に三回、織斑に十回以上(授業中はわからないので多分かなりの回数)、出席簿アタックを実行していた。

 ……アンタいつの時代の教師だと言いたい。

 どうにもこの人、口より先に手が出るタイプらしい。どんなに早くても同時で口の方が早く出てたところを見たことないが、それは教師として大丈夫なのかどうなのかと。

 まあ、やりすぎなところもあるが、弟に対する時以外は手の上げどころは間違っていないようなのでギリギリ許容範囲といったところか。

 織斑に対しては事ある毎に叩いているのを見て、もう理不尽といってもいいレベルだろという感想だが、多分口に出したら速攻で殴られる。

「なにか余計なことを考えてないか?」

「いえいえ、そんなことはないですよ?」

「……ふん、まあいい。とにかく集中して授業は受けるように」

「イエスマム!」

 なおも何か言いたげではあったが、そのまま織斑先生は踵を返し定位置に戻っていった。

 ……おお、怖い怖い。

 ふと教壇の方を見れば、一連の流れを山田先生は苦笑しながら見ていたので、すんません、と軽く会釈を送る。

 全く、織斑先生に比べて山田先生はホント癒しだねえ。

 一組担任ズは何から何まで真逆の性質を持った二人だった。

 そう考えると、二組の担任達も決して似たような性格とは言えない。もしかして、他のクラスもそんな感じだったりするのだろうか?

 

 

 それから数時間後。

「俺は、俺の家族を守る!」

「やめろおおおおおおおおおおおお!?」

 広く大きく、適度に雲と風あり、そして素晴らしく綺麗な青空に、男子高校生の痛々しい悲鳴が響いていく。

 場所はIS学園屋上、時間はお昼休みの出来事である。

 事の発端は四時限目の授業が終わり、入学初日のような醜態(昼休み逃走)を晒さず、普通に昼の時間を過ごせるようになった俺(それでもまだ半分慣れてない)は、いざ学食へ! と廊下を歩いたのだが、その時不意に呼び止められた。

「おーい、一緒にお昼食べようぜ」

 女の園で絶対に聞き間違えることのない声に振り返ると、案の定、織斑がそこにいた。

「ん? 別にいいぞ……、って、ホントにいいのか?」

 織斑の背後に侍系とお嬢様系の少女が、空気読めって顔してるんですが。

「良いに決まっているだろ。遠慮すんなよ」

 その発言に、後ろ二名の表情がさらに険しくなってきてるんですが!

「いや、そうは言ってもな……」

「なんか予定でもあるのか?」

「ないけど。先約とかもいないけど」

 織斑の空気読めてなさすぎな発言に、二人の般若が実力行使に出ようとしてるんですが!!

「いっつも、誘おうとしてもお前いないからさ。たまには良いだろ?」

 いつもより押しの強い織斑である。だからどうしてこういう時だけ……!

 う~ん。

 大体こんなことになるだろうって予想があったから、校内ではちょっと距離置いてたんだけどな。

 これ以上は避けては通れんか。一度一緒に食べれば織斑も暫くは大人しくなるだろう。

「わかったよ。一緒に食うよ」

 あ、やめて。そんな目でこっちを見ないでお二人さん。俺死んじゃう。

「よっし。それじゃ屋上で食べようと思ってたんだけどそれでいいよな?」

「あ、ああ。良いよそれで。……っと。ちょっと待て。都下、カーティス女史、一緒に昼飯食わねぇ?」

 渋々承諾したのだがそこで点の思し召しか、偶然通りかかったクラスメイト達に声をかける。

「うん? ……あぁ、良いよ。オリヴィエも良いよね?」

「……私も、構わんぞ」

 おっけ。これで戦力差が埋まった。

 一人だと一組女子コンビの視線に耐えつつの飯なんて、楽しむ余裕がなさそうだしな。

 巻き込んで悪いが二人には道連れになってもらう。

 二人もこの状況を理解できたのか、苦笑混じりだが承諾してくれた。理解が早くて助かる。ジュースくらいは奢ってあげようと思う。

 そんなこんなで屋上に上がり、六人で食事を囲む。

 お互い殆どが初顔合わせでもあるので適当に自己紹介し雑談に興じていると自然と話題は昨日の試合のことになる。

 そこで暫く話が進んだところで織斑のモノマネをして本人からのありがたい悲鳴をいただき、程良く場の空気が温まったところで質問タイム。

「で、さっきから気になってたんだけどさ、なんで織斑とオルコット嬢が一緒にいるのさ? 喧嘩してたんじゃねえの?」

 聞くと自分でもよく分かっていないのか、微妙な顔をしながら織斑が答えた。

「それは朝のHRでセシリアが謝ってきてくれたからさ。あと何故か俺が一組の代表を譲られた」

「なんだそれ?」

 という反射で返してしまった疑問に、オルコット嬢本人が答えてくれた。

「それはですね、一夏さんに実力をつけていただきたいからですわ。今の実力では私が代表になるのは当たり前のことですが、それでは一夏さんが成長する機会を奪ってしまうことになりますもの。ですからワタクシのほうから辞退させてもらったんですの」

「…………、えー」

「なんですのその反応!?」

 いや、だって、ねえ?

 そんな感情を表情に乗せて二組メンバーの方に振り返ると、二人に視線を逸らされた。

「だからなんですのその反応は!!」

 その言葉を受けて、俺達三人は顔を見合わせ、視線だけで誰が言うかを牽制し合っていたが結局俺が折れてしまった。

 ……仕方ないなもう。

「なら言わせてもらうけどさ、オルコット嬢。お前さ、昨日までと態度が百八十度逆じゃん。なんなの? まさか織斑に惚れ――あぶっ!?」

 電光石火というに相応しい速度で口を塞がれた。

「な、何を言ってますの? 勘違いも甚だしいですわね。貴方にも無礼を働いたことを謝ろうと思っていましたが、その気もなくなりましたわ!」

 顔真っ赤にしてそんな態度とられてもな。確実に惚れてんじゃん。というか切っ掛けとしては昨日の試合でなんだろうけど、どこにそんな要素があったんだろうか。是非とも教えてもらいたいものである。

「む。セシリア、やはり貴様!」

「いきなりどうしたんだセシリア? 箒も怒って。何かあったのか?」

「な、なんでもありませんわ一夏さん」

 そうして騒ぎ出す一組の三人。成程、織斑は二人からの好意に気づいてないのか。確かにそっち方面は鈍そうだもんな。モテそうだけど。リア充はさっさと爆発しないものか。

 それにしても、

「これがラブコメってやつかー。口から砂糖吐きそうだわ……。二人はこれ見てどう思う?」

「どうなんだろうね。うーん、好きな人がいるのは良いことじゃないかな?」

 とは、都下の弁。

「カーティス女史は?」

「今のところ、興味がない」

 さいですか。相変わらずの切れ味ありがとうございます。

「そういうお前はどうなんだ?」

「俺? あー、俺もこれは無理だなあ。そもそも恋愛なんてする余裕もないし」

「勉強の所為で?」

 この質問はそもそもがIS学園レベルの受験勉強をしていなかったことに起因する。なんだかんだでIS学園はエリート校なのである。地元の普通校を受験しようとしていた俺には厳しい偏差値を誇っているのだ。それでも何とか授業についていけるのは、きっと教師陣の教え方が上手いからだと思う。

「それもあるんだが、主な理由は俺のネームバリューとハニートラップ関連な。あとが怖すぎておちおち恋人なんて作ってられねえんだわ」

「大変だね……」

「本当にな。……あ、そういえば一回お誘い受けたなあ」

「え!?」

「ほう」

 いきなりの爆弾投下に驚いて目を剥く二人。中々悪くないリアクションである。残りの三人? ラブコメしてて聞いてすらいねえよ。

「上級生かな。タイの色からして多分二年だったと思う。人をからかうのが好きそうな美人で、なぜか“誘惑”って書かれた扇子持ってた」

「そ、それで?」

「こっちの腕とって胸押し付けようとしてきたから、関節きめられる前に抜け出して全力で逃げた」

 その際、振り返るといつの間にか上級生が持ってた扇子の文字が“残念”に変わっていたのは気のせいだったのだろうか。どうでもいいか。

 とりあえず名前は知らないが顔は覚えたので、脳内ブラックリストの最上段に登録してある。因みにスタイルは良かった。勿体無かったとは思うが、命には代えられない。関わったらまずいって俺の危険察知センサーが全力で告げていた。

 IS学園というのは俺にとって魔窟だと思った出来事である。俺の平穏はこの学園にはないのかと問いたい。

「ヘタレ」

「うっさいよ!?」

 だからそういう問題じゃないってーの。俺だってなぁ、楽しめるもんなら楽しみたいんだよ!

 ……とにかく飯だ飯。さっきからあんまり食べてなかったからな。だから心が荒れるんだ。きっと。メイビー。

 そうして俺が購買で買った昼食を食べ始めると、一組側も落ち着いたのか、食事を再開する。

 改めて目の前に広げられた食事を見る。

 俺と同じように購買で昼食を買ったのが都下と篠ノ之。

 弁当を持ってきているのが、カーティス女史と織斑とオルコット嬢である。

 同室なんだからついでに織斑に弁当を作ってもらえばいいという意見もあるが、家族でもないのに男に弁当を作ってもらうとか、それはちょっとない。態々腐女子にネタを提供するようなお人好しではないので念のため。

 で、二組の二人にそれぞれ昼食の内容について聞くと、

「いつもは作っているんだけどね。今日は時間なかったから」

 そういえば、今まで昼休みになるとすぐに教室を離れてたから都下の弁当なんて見たことなかったなと思い返す。

「私の場合、栄養バランスを第一に考えて作っている」

 ……正直に言うと意外だった。てっきりこういうことは出来ないものとばかり思っていた。

 どっちかというと、そういうの気にせずガツガツ食べて、めちゃくちゃ動いて全部エネルギーに回してるイメージを持っていた。

 なんて失礼なことを考えていたからか。カーティス女史がこちらを睨んでくるがやめてもらえないだろうか。考えを改めるからさ。

 と、喋りながら食事をしていると、ふいにオルコット嬢が織斑に自分の弁当を差し出した。

「ささ、一夏さん。これ、私の自信作ですの。ぜひ食べてくださいまし」

「お、良いのか? それじゃ代わりに俺のも食べてくれよ」

 そのお礼にと自分の弁当のおかずを差し出す織斑。

 仲直りして直ぐにここまで仲良くなるのは良いことだが織斑よ、いい加減オルコット嬢とは反対側に座る篠ノ之ことを思い出してやれ。悔しさと怒りで物凄い表情してるから。

 そんな篠ノ之に向かって、

「……そんなに悔しいなら、お前も弁当作ってきてやったらいいのに。ってか、この一週間ずっと織斑に付きっきりだったんだろ? そういう機会は沢山あったろうに」

「ぐ、……うぐっ。出来るならそうしてる。いや、そもそもなんでそれを思いつかなかったんだ私は……、ぐぅ」

 言うと、頭を垂れて唸る篠ノ之。どうやら追い討ちかけてしまったようだ。

「す、すまん、言いすぎた」

 だから涙目にならないで欲しい。どう対処していいかわからん。

「し、篠ノ之さん? 良かったら今度私がお料理教えてあげようか? だからそんな顔しないで、ね?」

 ナイスフォロー! 本当に助かります都下さん。

「女の扱いがなってないな」

 ぐうの音も出ない。彼女いない歴イコール年齢なんです勘弁してください。

 こっちが涙目になりつつ、ふと織斑の方を見るとオルコット嬢の弁当を食べて非常に辛い何かを我慢していた。

 ああ、凄く不味かったんだなオルコット嬢の弁当。けどその我慢は彼女のためにならないと思うんだがなぁ。

 はあ、とため息を一つ。

 ……どうやら今日の昼食は、男子が割りを食うものだったらしい。

 

 

 内容に面白味のない、しかし学生にとって大事な午後の授業を睡魔と戦いから乗り切った放課後の学生寮。

 一度部屋に戻り楽な格好に着替え、暇でも潰そうとブラブラしていると、廊下の向こうから荷物の山を抱えた女子がこちらに向かってきた。

 その荷物は持ってる人物の頭を超えるほど高く積み重なっており前が見えておらず、フラフラと揺れてもいて、非常に危なっかしい。

 暫くその様子を見ていると案の定、俺の目の前でその人物は転けそうになって荷物を大きく傾けてしまう。

「あぶねっ!」

 間一髪、前に出てその荷物を抱えることに成功する。

 持ってみてわかったが、中々に女子一人では持つのに苦労しそうな重量で、よくこんなの運んでたなと感心するくらいには重かった。

 一体誰だこんなの持たされてたのは? と運んでた人物を見ると、

「おりむー? ありがと~、助かったよ~」

 そこにはなんというか、緩い笑顔を浮かべる癒し系な女子がそこにいた。

 茶色い髪でツーサイドアップ、でいいのか? 長めの髪の両横をひと房ずつ飛び出すように括っている。

 その若干幼く見える髪型と柔和な笑顔のお陰で、見る者の心をほぐすような気持ちにさせてくれる、そんな少女だ。

「いや~残念だけど、織斑じゃないんだなーこれが」

 男の声がしたので織斑と思ったのだろうが、残念。不正解。

 いやしかし、おりむーか。解りやすいといえば解りやすいのか? なんとも不思議なネーミングセンスである。

「え? あ、ごめんねー、間違えちゃった」

 てへへ、と朗らかな顔で謝ってきたが別に怒っちゃいないので、気にすんなよ、と軽く返す。

「で、どうしたんだこの荷物? 結構な量みたいだけど」

「それはね~、パーティ用なのだ~」

「パーティ用?」

 はて? 今日は何か催し物でもあったか? と頭を巡らすが何も浮かんでこない。

「皆でおりむーの一組代表決定を祝うんだ~」

「ああ、成程……?」

 確かに、世界初の男子IS操縦者が自分たちのクラス代表になったのだ。馬鹿騒ぎしたい気持ちはわかる。わかるんだが、ちょっと待って欲しい。

 確か織斑は代表の座をオルコット嬢から譲られてなった筈だ。

 そんな素直に喜べない経緯でなった代表のお祝いを派手にするって、なんていうか、微妙だ。

「んー、それ織斑は承諾してんの?」

「うん、さっき皆でやろうって決めた時に訊いたら、良いよって言ってくれたよ~」

 ……織斑さん、漢だわ。俺ならいたたまれなさすぎて絶対断るわ。

 まぁ、本人も良いと言ったようだし、周りも楽しければそれで良いのか?

「ふぅん、まあいいや。それで、これ運ぶんだろ? 手伝ってやるよ」

「え、いいの~?」

「暇だしな。けど上のは少し持ってくれよ。で、どこまで運ぶんだ?」

「……うんしょ。食堂だよ~。それじゃレッツゴ~♪」

 持つのに無理がないだけの荷物を抱えた彼女は、陽気にそう言って先を歩き出した。

 一度腕の中の荷物を抱え直して俺は、その後を追う。

 横に並び、互いのクラスの様子や話のタネになりそうな事を話しつつ俺達は食堂へと歩みを進める。

「へえ、じゃあなんだ。白式って本当に雪片弐型しか装備がないんじゃなくて、それしか装備できないんだ?」

 武器がないだけであれば追加すればいいが、そもそも出来ないのであれば手の施しようがない。つまり、白式とは汎用性が全くと言っていいほどない機体ということになる。

「そうなんだよね~。拡張領域が全部雪片で埋まってるんだって。おりむーも嘆いてたよ」

「それで高速戦闘向きで防御力は打鉄に毛が生えた程度だってんだろ? またピーキーというかなんというか、何考えてんだか解んない機体構成だな」

 というか現代戦で銃火器が一切ないとか、致命的だろうに。

 例えばの話、織斑の姉である織斑千冬は現役時代、雪片一本で第一回モンド・グロッソの総合優勝を勝ち取ったが、それこそ並大抵の困難ではなく、ピーキーな機体を十全に扱うだけの技量があったからこそ、そこまで運用できたんだと思う。

 それを素人同然である織斑に求めるのは酷な話である。

「そーそー、篠ノ之博士ももうちょっと扱いやすいものを作ったら良いのにね~」

「そういや、篠ノ之博士が元からあったのを勝手に弄って作ったって噂があったんだよな。あれって本当?」

「本当だよ~。だから製造元の倉持技研は躍起になって白式のことを調べてるの。おかげでかんちゃんの打鉄弐式の開発も止まっちゃったんだけど……」

「……かんちゃん? 弐式?」

 なにやら事情があるようで思わず聞き返したが、なんでもないよ~、と彼女ははぐらかす。どうやらあまり喋りたい話題ではないようだ。

「まあいいや。ともかく、何故かは知らないけどそんなブレオン機体を与えられたんだ。案外、篠ノ之との剣道特訓ってそこそこ役に立ってたのかもな」

「それは、う~ん。どうなんだろ~。うぅ~ん?」

 ……やっぱ駄目ですかそうですか。特訓の方向性間違ってるよなー。人のことは言えないが、何故誰も止めなかった。いや、篠ノ之が許さんか、あの様子だと。

 そうこうしているうちに、俺達は食堂に到着。

 どうやら祝賀会は食堂内の一角でやるようで、その辺りを中心に一組の女子達が楽しそうに、『織斑一夏くん、一組代表決定おめでとう!』と書かれた横断幕や飾り付け、食事の用意などを着々と進めていた。

 そのうちの一人がこちらに気づき、

「あ、本音お帰りー。え? どうしたのよ? なんで彼が?」

 という一言で周りも俺が居ることに気づき、更に食堂が騒がしくなる。

 ……この子、本音っていうのか。名前か……いや、苗字だろうか?

「えへへ~、途中で荷物を落としそうになったところを助けてもらったんだ~」

「で、危なっかしいし、ついでだからここまでって感じで」

「そうだったんだ。一組の用事なのに、態々ありがとう」

「気にしない気にしない」

 委員長属性っぽい子の言葉に手を振って応える。

 それから雑談しつつ、ついでのついでで女子たちの手の届かないところ少し手伝いその場を離れた。

 ……皆、いい子っぽかったな。ただ全体で見ると没個性な気もするけど。

 二組の面子と比べるのも酷というものか。まだ全員のことを把握しているわけではないがカーティス女史を筆頭に、菊池みたいにキャラが濃そうなの多いし。

 菊池ってあれだぜ、趣味がTRPGでそっち系の会社の公式WEBセッションに一般ユーザー枠で三回も参加して、本にも載ってるほどのヘビーユーザーで一般ユーザーのカリスマだからな。

 聞けばIS学園に入ったのも箔付けの意味合いが強いようだ。少し不純な動機とはいえ、見事にここにいるわけだから十分に変人枠である。

 とはいえ一組の中では、世界初の男性IS操縦者、IS開発者の妹、英国の代表候補生を除いた中で、さっきの本音と呼ばれてた子は別だ。あれはなんというか、うん。反論の余地なく、

「癒しだよなー」

 あれは少しでも気を抜くと、癒し空間に捕らわれて帰ってこれなくなる。学園バトル物から、ほのぼの日常物に世界観がシフトチェンジしそうになるほどの。

 そんな風に顎に手を当てて考えていると、

「何が癒しだって?」

「うぉ!? おお?」

 いきなり肩に手を置かれて吃驚する俺。誰だよ一体!?

 反射的に振り返り目に映ったのは我がルームメイトの織斑、とその姉だった。

「ありゃ、姉弟揃ってとは珍しい」

 授業中以外でこの二人が同じ場所にいるのは珍しいんじゃなかろうか。確か隠し撮りしたツーショット写真が高値で出回っていた筈。勿論、本人らには知られずに。

「それがさ、昨日白式が手に入っただろ? その為の書類手続きをさっきまでしてたんだよ。その書類の確認で仕事上がりだって千冬姉が言うから、たまには一緒に――いってぇ!?」

「ここでは織斑先生だと何度言ったら分かるんだ馬鹿者」

 あ、また殴られてるよ織斑。懲りないな。いい加減学んでもいいだろうに。

 というか本当によく見るなこういう場面。もう織斑姉弟のお約束と化しているような。

「良いんじゃないですか? もう放課後で先生も仕事終わってるし。今は家族の時間ってことで」

「――む、確かにそうかも知れんな。だがこいつは授業中でも言うから既に癖になっていてな」

「え? じゃあ殴られ損ってことか!? 酷いぜ、千冬姉! あがっ」

「だから織斑先生と――、すまん。今のは私のミスだな」

 小さなミスで殴られる織斑。不憫である。

 それにしても今のは絶対わざとだろ。間違いねえ。その証拠に笑顔ですからね織斑姉(世界最強)。

 この場にいるのは当人らを除いて俺だけな所為か、スキンシップを取ってるつもりなんだろうな。

 ……家族の団欒に巻き込まれる前に退散しておいたほうが懸命だな。

「それじゃ先生、自分はこれで。織斑、――強く生きろよ」

「どういう意味だ!」

 どうもこうもない。そのままの意味である。

「ちょっと待て。少し聞きたいことがある」

「? 何ですか先生?」

 横を通り過ぎようとしたところで織斑先生に呼び止められた。はて、何の用だろうか。

「貴様、何か格闘技の経験は?」

「格闘技? いえ、ありませんよ。……強いて言えば中学のときの授業で柔道を少ししたくらいですね。それだって本職から見ればおままごとのレベルでしょうし」

 おかげで、受身の取り方は覚えました。組み手の方? 美人とならともかく、野郎とくんずほぐれずなんてごめんだったので、怪我しない程度にしかやる気なかったので実力はお察しである。

「そうか。スポーツもか?」

「ええ、まあ。それが何か?」

「いやいいんだ。すまなかったな、呼び止めて。行って良いぞ」

「? ……はあ。それでは」

 ……んん? 一体なんだったのだろうか。

 織斑先生の意図は分からなかったが、お言葉に甘えて俺は二人から離れ、暇つぶしの散歩を再開した。

 その後、暫くして一組の祝賀会が始まり、一組の人間ではないが食い物目当てでちょっとだけ参加させて貰った。

 一組の女子達の手作りらしき料理は美味かったし、織斑は篠ノ之に殴られていたし、俺同様に他のクラスの子も混ざって楽しんでいたし、織斑は修羅場に巻き込まれていたし、記念撮影にもこっそり写ったし、織斑は女子達のリクエストで食べ過ぎ飲みすぎで倒れていたしで、盛況だった。

 そして一日が終わり、待ちに待った始めてのIS実習の日がやってきた。




今更ですが、都下(みやした)と読みます。
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