ISに振り回されて平穏が遠い   作:風呂

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楯「息抜きと実益もかねて今日も、あの子をからかっちゃうぞ☆」
虚「? 実益があったのですか?」
楯「あら失礼ね。ちゃんと本命に備えての予行演習って意味があるわよ?」
虚「彼も不憫な……」


その9

 授業が半チャンで終わる土曜日の午後、IS学園の生徒は思い思いに時を過ごしていた。

 IS学園の生徒らしく、自主練に励んだり、勉学に勤しんだり。はたまた、部活や趣味に没頭したりと様々だ。

 これが日曜や祝祭日になると、学校設備は兎も角、教師陣の殆どがオフ日となる為、土曜の内に相談などしておこうと、熱心に勉強のことなどについて訊きに行っている生徒もいる。

 そんな中、俺自身と言えば大体が体力作りのために走り込みなどをしている。

 勿論毎日の放課後にある程度の運動はしているが、いくら男子として基礎体力が女子に比べてあるとはいえ、それに胡坐をかくようなことは出来ないのだ。

 何故ならIS操縦者はトップレベルともなればオリンピックに出るようなアスリートと変わらない(というかアスリートから転向など普通にある事例)為、それらを育成する機関であるIS学園の生徒たちの体力も推して知るべしなのである。

 無論、皆が皆、化け物クラスの運動神経という訳ではないが、たった二人しかいない男子生徒が女子達と混ざったとき、下から数えた方が速いくらいの体力しかないというのは考え物なのだ。男のプライドってのにも関わってくるのだからして。

 そんな訳で入学当初よりは体力ついてきたかなと思う今日この頃であるが、その体力作りに最近、変化があった。

 最初は一人でやっていたのだが、二組のいつものメンバーが合流することになったのだ。

 理由としては単純で、一年二組クラス代表育成計画が始動したからである。

 我がクラスの代表である菊池健美、彼女は学力は兎も角、体力はそんなにある方ではなかった。

 そりゃそうである。元々ゲーム大好きっ子のインドア派少女なのだからして。

 話し合いの結果、ISの操縦技術云々以前に体力つけなきゃどうしようもねえ、というのが満場一致(本人以外)した意見だった。

 その時、本人は顔を青くしていたが、今と比べればだいぶマシといえよう。

 何故なら、

「どうした! もうバテたのか? だらしないぞ、腹から声出せぇ!! いちにーさんしー!?」

『ごくろうさん!!』

「にーにーさんしー!?」

『ごくろうさん!!』

 現在進行形でカーティス女史にスパルタ式で扱かれてるのだから。

 鬼教官からのプレッシャーにあてられた所為で涙目になっており、疲労とも合わさって中々に酷い表情をしていた。

「これは酷い。男の俺からはとてもじゃないが言えないので、都下さんお願いします」

「私に振る!? コメントに困るよ! 私も結構辛いし!」

「何!? 二人して何さ!? これ以上私を追い込む気かな? 泣くよ? 私ホントに泣いちゃうよ!?」

 ……自分で言ってるうちはまだ大丈夫だな、多分。

 そんなこんなで現在、俺達は学園島内のジョギングコースを走っているのだが、これが結構きつい。

 元々島であったのを開拓して作られたIS学園である為、高低差もあり距離も長い。

 それを後ろから怖ーい人に突っつかれながら走るのだ。涙目になるのも納得せざる得ない状況である。

 因みに俺と都下も一緒に育成計画に参加しているのは、前にも言ったように二組全体の能力底上げという名目からの被験者になっている為だ。

「口を動かしている余裕があったら、身体動かせ!」

「イエス、マム!」

 このようにカーティス女史のドSっぷりがいかんなく発揮される訓練内容であるが……、

「おい、何か言ったか?」

「ッサー! 何も言ってません、サー!」

 ……もとい、カーティス女史の適切な指導が光る訓練ではあるが、ただ闇雲にハードメニューにしている訳ではない。

 育成計画の方針が決まり、訓練メニューを決める為に、我が二組の副担任で体育教師である木本先生にカーティス女史と共に相談しに行ったのだ。

 その時の、カーティス女史と木本先生の会話が酷かったのをよく覚えている。

「木村先生、訓練メニューを考えたのですがどうでしょうか?」

「どれどれ。……もう少し全体的に量を減らした方が良いですね。これではオーバーワークになると思います」

「そうでしょうか? これくらいやらないと他の生徒を超える、ましてやクラス代表としてやっていけないと思うのですが」

「そう思うかもしれませんが、これは貴女レベルではないにしろ、下地が出来ている者向けの内容ですよ。菊池さんは体力面では素人もいい所ですよね? 加減は考えるべきです」

「成程、確かに」

「それにですね……」

「?」

「少しくらい余裕を持たせておけば、適時練習量を増やすことが出来るでしょう?」

「なんと、そこまでお考えでしたか」

「ふふふ」

「フフフ」

 この時、窓の外の景色を眺めて現実逃避を始めたのは言うまでもない。

 ……菊池に聞かせていたら、多分逃げただろうなあ。

 と、回想していたら、

「残り一周! 但しお前はそれプラス、ショートコース一周追加だ!」

「はぁ!? なんでだよ!」

「またいらん事を考えていただろ。私達三人がロングコース一周するまでにゴール出来なかったら、この後全員にデザート奢りだからな」

「ちょ、それ理不尽!! つかまだマシに見えるかもしれないけど俺も結構一杯一杯だからな!?」

「お前のほうが速くゴール出来たら、なんといったか、最新ガ○ダムのプラモ買ってやってもいいぞ?」

「無視かよコノヤロその話乗ったぞ見てろよチクショウ!!」

 疲れた身体に鞭を入れ、ダッシュ開始。上手く乗せられたと思うが、気にしてはいけない。自分でも分かってるから。

 

 

 なんとか余計な出費を抑えられた(だからと言って儲けた訳でもないが)、その日の夜。

 携帯端末経由で、突然呼び出しを受けた。

 送り主は我が一年二組担任、ナナコ・ブラックウェルだった。

 何の用かと返信すると、『頼みたいことがあんねん。ちょっとこっち来ーや』とのこと。

 なので普段は全く寄り付かない職員寮に向かうことに。

 そもそも学生寮は学年毎に一棟ずつ、計三棟が並んで建っており、それが一階の渡り廊下で繋がっている。

 そこから更に三年の寮の向こう、校舎からは最も遠い位置に同じような渡り廊下で繋がっているのが職員寮だ。

 職員寮そのものは学生寮に比べて建物自体の大きさは少し小さく、部屋数もそれ相応だ。

 しかしその分、部屋自体は大きく、全室個室なのだとか。

「改めて考えると、やっぱ金かけすぎだよなー」

 IS学園及び、IS学園島の金の出どころは一応IS発祥の地というか元凶である日本から出ているが、各国からの設備やセキュリティ等に対する要望が強く、どこもが納得するレベルにするにはかなりの金額が動いたらしい。

 しかし、どの国もその辺日本が泣き寝入りすると高を括っていたが、ここで開き直った当時の日本国首相が逆に、これらを十全に機能させたかったら金寄越せと逆脅しをかけたとかなんとか。麻雀勝負で決めてたんじゃねえの? とか言いたくなるが、真相は闇の中だ。

 その結果、IS学園島全体の開発費は日本が半分以上出し、作りもしたが、運営費についはその負担が大分減っているのだという。

 まあ、そんな四方山話は置いといて。

「おじゃましまーすぅ……」

 遠慮がちに言いつつ、俺は職員寮に足を踏み入れた。

 エントランスに入ると、一部間取りや設置物の違いはあるものの、雰囲気は学生寮のものとそう違いはなかった。

 そうして辺りを見渡していると、

「お、結構速かったなー。こっちやこっち」

 と、声をかけられた。

 見れば壁際に並べられているソファーに俺を呼び出した張本人が座っていた。どうやらここで待っていてくれたようだ。

「ばんわっす先生。それで、何の用です?」

「おう、それやねんけどな。自分、明日空いとる?」

「明日っすか? ……何の用事もないですけど」

 明日は一日、部屋でのんびりして気が向いたら身体動かそうかなと思っていたくらいだ。

 まだまだここのレベルに学力が追いついてないので勉強しろという話でもあるが、それもまあ、自分に言い訳程度にはしとこうかとも考えてはいたが。

「そうか、じゃあ明日本土のほうに行くから、うちに付き合えや」

「え? 付き合え? デートのお誘いですかヤッフォー!!」

「なんでやねん! ちゃうわボケェ!!」

 ツッコミ頂きましたー。ですよねー分かってます分かってます。

「ハァ、自分、そういうボケ、余所じゃやめとけや? 自分の首絞めるだけやで」

「いやぁ、最近どうにもそっち方面で鬱憤が溜まってまして。あ、思春期特有のリビドー爆発的な意味でなく」

「なんかあったんか?」

「それがですね、最近妙な先輩に付きまとわれてる気がするんっすよ。書かれた文字の変わる扇子持った人なんですけど。今日もランニングしてたらいつの間にか視界の隅にいて、悩殺とか眼福とか書かれた扇子広げてジョジョ立ちで見せつけてくるんすよね」

「あー、あの子か。あの子なぁ」

「知ってるんで?」

「知ってるも何も自分も一度は見たことある筈やけど、……まあええわ。うちのほうから少し言っとくわ」

「問題児って奴ですか?」

「せやな、そんなところやわ。いろいろ事情が複雑でなぁ」

「よく分かんないですけど、お疲れ様っす」

「……自分にも原因の一端はあるんやけどな。とはいえ、自分じゃどうしようもないか」

 やっぱりハニートラップ関係なのだろうか。

「いや、あの子も面白半分冗談半分でやっとると思うで。というか、まさか本気引っかかりそうになってたりせーへんやろな?」

「あ、それは問題ねぇっすわ。アレ、絶対人をからかうのが楽しいってタイプだろうし。まともに付き合ったら疲れるだけですよね、多分」

「分かってるならええわ」

 どちらともなく一息ついて、この話題は終了。本題の続きへと戻る。

「それで本土に行くって言ってましたけど何しに?」

「君の息抜きがてら、うちらの買い物に付き合ってほしいだけや。ほれ、入学してからこっち、君と織斑君、学園島から出られへんかったやろ?」

「マジっすか!?」

 朗報である。

 俺達男性IS操縦者は安全確保の為、学園島から一切の外出を禁じられていたのだ。

 勿論女子生徒並びに教職員などはこの限りではなく、ある程度の制約はあれど定期便などで本土に渡れるのだが、それを横目に歯痒い思いをしていたのだ。

 確かにこの島にも特殊な閉鎖環境を考慮してか、娯楽施設や通販対応もしている買い物施設もあるが、いかんせん、満足しきれるものではない。

「いや、けど、本当に良いんですか? 今はまだ勝手に動き回られると色々問題があるって、入学前にさんざん言われたんですが」

「ま、そこは大人の事情ってもんがあるんやけど、簡単に言えば、思春期真っ盛りの男子がハーレムに閉じ込められて暴走されても敵わんからガス抜きさせろってとこやね。まあ、逆に思春期ゆえの暴走どんと来い、って派閥も少数とはいえ確かにおるんやけど」

「うわぁ……、聞きたくなかったかも」

 今後もハニトラには要注意ってことか。今の所は扇子先輩以外は笑い話で済むレベルだが。

「そんでまあ、今回の外出における条件なんやけど、うちと木本センセーの同伴という名の護衛と定期連絡が絶対条件。あと行けるエリアも限定されとるな。こっちは監視体制の問題やな。そんでもしもの時は必ずこちらの指示に従うこと。あと細々としたこともあるけど、普通にしてる分には問題ないかな」

 妥当なところだと思う。VIP待遇万歳である。

「全然大丈夫ですよそれで。……そうだ、もしかして織斑も外出許可降りてるんですか?」

「ん、別の日になるけど許可はでとるよ。そっちは織斑センセーと山田センセーが同伴することになっとるけど」

「あ、やっぱり」

 IS界最強の護衛か。豪華なもんだ。姉弟なんだから当たり前って言えば、当たり前だが。

「んじゃま、そういうことやから明日朝八時に港集合な。遅れたら置いてくで?」

「了解っす」

 こうして、一か月以上ぶりに本土に行くことになった。あ、ニチアサちゃんと録画しとかなきゃ。

 

 

「おはようございます、木本先生」

「おはよう。今日もいい天気ですね」

 IS学園島港二番乗り場。

 そこに八時十分前に辿り着くと、潮の香りと共にすでに待っていた木本先生の姿が見えた。

 何時ものスーツ姿ではなく、薄茶の長袖の上着でその下に青シャツ、焦げ茶色の七分丈のスキニーパンツにパンプス、あと女性物の小さいショルダーバックという出で立ちだ。

「おおう、これが大人の着こなしか。似合ってますよ先生」

「……そうですか? ふむ、褒められて悪い気はしませんね」

 とか言っているが、若干嬉しそうにしているのだからこの人、結構かわいい所があると思う。

 割とスパルタなところがあるこの体育教師、勿論自身の能力も相応に高い。

 どれだけ強いかと言えば、素手限定の真っ向勝負であればどこぞの世界最強とも渡り合えるとかなんとか。

 そもそもの話、ここの教師陣は全員、護身術の訓練を受けているというのだからある意味徹底してるとも言える。

 その中でトップクラスの実力を誇る木本先生がいてくれるなら、とりあえずは安心できるというものである。

「それで、学園生活はどうです? 少しは慣れましたか?」

「まあ少しは。中々イベント多いですけどね」

 ちょっと前までは中学生で、それまでは多少の山あり谷ありとはいえ日々平穏な学生生活送っていたのだが、気付けばこんなところにいるんだから、我ながら不思議なもんだ。

「けど、振り返ってしみじみするには、まだ早いと思うんすよね」

「ふふ、確かに」

 お互い苦笑を一つ。

 ……よくもまあこちらを振り回してくれるもんだよ、ISって奴は。

 なんて思ってしまうが、仕方ないのかもしれない。

「っと。そういえばナナコ先生遅いっすね」

「そうですね。もうすぐ船の出航時間なのですが」

 木本先生と雑談に耽っていたら大分時間も経っており、もうそろそろ定期船に乗っておかないとまずい時間になってきた。

「一緒に職員寮を出なかったんですか?」

「朝弱いですからあの人。一応起こしてはきたので、大丈夫かとは思ったのですが」

 だからいつも一時限目に英語の授業があるときは、時間ギリギリなのか。

 と、その時だ。

「おぉ~い! チョイ待ちチョイ待ち! うちもそれ乗るで~」

 学校施設や寮施設に続く道から、ナナコ先生が慌てて走ってきた。

 迷彩柄で薄地の長袖シャツに紅色の袖なしサマーコート、それにスキニージーンズに運動靴という姿で息を切らせて俺達の傍までやって来た。来たのだが。

 ……あれ?

「…………」

「ナナコ先生、ギリギリですよ。私、ちゃんと起こしましたよね?」

「うっ。起きたんよ? 起きたんやけど、着るもの殆ど洗濯してなくてなあ。探すのに手間取ってたんよ……って、どした自分?」

「いや……、なんでも、ないです。ないですよ?」

「なんやねん、ハッキリせーへんなぁ。……ん? 自分、もしかして」

 ……やば、気付かれた。

 そう、実はこの金髪女教師、何時ものスーツ姿じゃ分からなかったが、かなりスタイルが良かったのだ。

「ふっふ~~ん。自分も漸くうちの魅力に気づいたんか。うち、着痩せするタイプでなあ。学生時代は気安く話しかけられて、気立ても良くて、それに抜群のプロポーションから男女問わず大人気やったんやで。そんなうちの魅力にやられてまうんも、しゃーないな!」

 カッカッカッ! と高笑いを上げるナナコ先生。

 くそ、悔しいが事実なので反論できないのが辛い男の性である。しかし気立てが良いってのは、ちょっと疑問なんですがどうでしょうかね。

「全く、馬鹿言ってないで乗りますよ二人とも」

 呆れた風に言う木本先生に、へ~いと答えて続く俺とナナコ先生。

 ……よく考えたらこれ、美人さん二人と買い物なんて、両手に花状態なんじゃなかろうか。

 そう考えると、IS学園に来たのもそう悪いことじゃないかもと思えてくる。

 

 

 さて、どこぞの軍隊から巻き上げたらしい高速貨物船で太平洋沖にあるIS学園島から小一時間ほどで本土に上陸し、そこから更に公共機関を乗り継いで十分程。

 千葉県某所にあるショッピングモールに俺達は来ていた。

 できてまだ一年くらいらしく、小奇麗で巨大な建物が俺達を迎え入れてくれた。

 中に入ると、構造自体はどこにでもあるショッピングモールとさして変わらず、蛇行しつつL字を書いたメインストリートの両側に、多種多様なお店が軒を連ねている。

 視線を上げると、二階三階部分は吹き抜けになっており、連絡橋代わりに何ヶ所かサービスカウンターや広場的なスペースが、二階と三階で被らないように設置されていた。

 そうして辺りを見渡していると、あることに気付く。

「そういえば、よく見たらIS関係の商品売ってる店、多くないっすか?」

 店内に入らずとも、外から覗ける位置にISとタイアップした商品が並んでいるのが目に映る。

 そもそもISは表向きスポーツとして広まってはいるが、一般人が気軽に触れられるものではない。

 例えるなら、戦車同士の戦いが流行ってはいても、だからと言って一家に一台戦車がある訳ではないのと同じ理屈だ。

 ……けどあのアニメじゃ部活で触れるしなあ、やっぱ世界観無理があるだろ。家元ってなんだよ。いや、面白かったけども。

 閑話休題。

「ああ、それな。そもそもこの辺ってIS学園が出来て発展した地域やからなあ。言うてみればIS特産地みたいな状態になっとんねん。例えば……ほれ、本土に上陸するとき見いへんかったか? 隣接してた臨海公園に展望台があったやろ? あれ、学園島を望む為のビュースポットとして建てられたんやで?」

 世界で唯一のIS専門学校が見れるということで、観光名所にもなっているんだったか。

「そんなのもあったなぁ」

 しかし入寮時に一度見かけはしたが、強制連行同然に連れて行かれた為、あそこで景色を楽しむ余裕なんてなかったのを覚えてる。

「それにIS関連企業が一部出資してますからね、このモール。特別協賛としてIS学園からも名前出してますし。ここの全体的な売り上げのほんの一部ですが、それがうちの運営資金に充てられてもいるんですよ」

「へえ」

 ギブアンドテイク、という奴なのだろう。なんとなくだがその辺、法の隙間を縫っていたり、超法規的措置とかとられていそうではあるけど関わらない方が身の為なんだろうな。

 ともあれ、研究・開発や、スポーツ・軍事等、直接関わる部分ではなく、副次産業的な意味合いで発展した地域、ということなのだろう。

「ま、そんな話は横に置いといて、さっさと買い物しよか」

「そういえば何買うんです? まだ聞いてなかったですけど」

「ん? まあ趣味的なものが大半かな。メジャーなものは兎も角、ニッチなものになると学園の通販じゃリストになかったり、頼めない、頼みにくいものもあるからな。因みにうちらの分だけじゃなくて、教員連中に頼まれてるもんもあるからな」

「あれそれ俺荷物持ちじゃね? ひょっとして」

「話が速くて助かります」

 酷い。これ、騙された形になってね? 俺の外出と見せかけて、体よく荷物持ちゲットされただけじゃね?

『まあまあ』

 確信犯ですかそうですか。

 

 

 そうして買い物すること数時間。

 途中昼食等を挟みのんびり雑談しつつ、モール内を巡る。

 時間経過と共に荷物が多くなってきて、正に漫画みたいに大量の荷物を抱える羽目になったのには乾いた笑みを浮かべるしかない。

 女性の買い物に付き合わなければならないと、事前に腹をくくっていたおかげで、女性服の専門店やランジェリーショップに立ち寄り、恥ずかしさのあまり悶死しそうになったが、醜態を晒さずにすむことができた。

 勿論服飾関係だけではなく、日用品やインテリアなどの小物、アウトドア系の物品なども購入し、書店に寄ったときは自分用にラノベや漫画などの新刊も購入できたので良しとする。

 教師二人もそれなりに楽しんでたようなので、荷物が重いこと以外は特にいうこともないし、俺自身も気分転換できたので良かったな、などと小学生の夏休みの宿題で出た読書感想文みたいなことを思う。

 いやしかし、本当に織斑以外で久しぶりに生で男を見て、安堵している俺がいるのが何とも言えない気分にさせてくれる。

 ……嫌だぞ? IS学園に通っていたら逆に男に目覚めてましたとか。

「俺はノーマル。俺はノーマル……」

「何さっきからぶつぶつ言っとんねん」

 何でもないっす! と返しつつふと、もしかしたら織斑も同じこと考える可能性に気付いて戦慄する。

 うん、奴には最大限注意しておこう。特に奴が外出から帰った直後は。

 密かにそんな馬鹿らしくも割と冗談にならないことを決意していると、粗方買いたい物も買い終えたのか、

「そろそろ帰りましょうか」

「もう全部買ったんかな?」

「ええ、大丈夫だと思います」

 との事だったので、帰ることになった。

 しかし。

「ん……?」

 二階の隅のエリアであまり人影のない位置で一息入れていた俺達だったが、少し離れたところに俺達以外の数人の人影が目に付いた。

 男三、女一の組み合わせみたいだが、どうやらナンパの現場を目撃したようだ。

 男達の陰になって、女の方の姿はよく見えない。

 男達の浮かれようから、少なくとも外見のレベルは高い女性なのだろう。

 更に暫く見ていると、場所を移動するらしくその場から離れようとしていたが、どうにも女性にはあまり歓迎されておらず、態度自体は柔らかいものの剣呑な雰囲気を醸し出していた。

 そうして動いたお蔭で空いた男達の合間から、付きまとわれた子の姿が覗いて見えた。

 その子を見て、まず目に飛び込んできたのは二つの色だ。

 一つは背中にまで届く長髪の、光を受けて反射する月のような輝きを持つ銀の色。

 もう一つはレースの付いた少々ゴシック感のあるワンピースの、夜を思わせる黒の色。

 そんな目立つ格好の彼女であるが、更に無視できない特徴があった。

 伏せられた目と、手に持った杖だ。

 それは彼女が盲目か、もしくはそれに近い弱視だということだろう。男達に絡まれている状況でも決して開かれることがないことからも察せられる。

 見てる間にも男達に連れて行かれそうになる彼女は、しかしその表情を崩すことはない。

 それどころか、こちらを向いた。

「…………」

 すぐに視線を切ったが、明らかに目が見えない筈なのに、離れた場所にいる俺達を、いや、俺の方に真っ直ぐ視線を向けたのだ。

 その間、一度も彼女は眼を開けていない。

 単なる偶然とは思えなかった。明らかにこちらを意識していたように思う。

 ただまあどういう事かは分からないが、

「ご指名なら、応えないとな」

 声はなくても、この状況で呼ばれて無視できるほど、義理も人情も捨ててやしない。

 立ち上がり、彼女を追う。

「お? 行くんか? うちも付き合うで。大人として、男の子してる生徒はほっとけんしな」

「本当はトラブルは御免なんですが、仕方ありませんね。なるべく穏便に、迅速に済ませましょう」

「あざっす」

 そんじゃま、行きますか。心強い味方もいることだし。

 

 

 人気が完全に途絶えた、客が通る動線から外れた一角にある男子トイレ。そこが男達が彼女を連れて向った場所だった。

 追跡する中、迷いなく向かったことから手馴れているようである。この様子だと、従業員や警備員の巡回時間などもある程度把握してるのかもしれない。

 トイレの中にまでは監視カメラもない上に、モール内の喧騒や店内BGMで少々騒がれても気付かれにくい環境だ。

 近づくにつれ、男達の話し声が聞こえてくるが、頭の悪い内容ばかりなので気にせず無視して三人で男子トイレへと進入する。

「んだガキ。お取込み中なんだよ、さっさと消えろや」

「おぉ!? ちょっと待てよ。後ろの二人、結構すげえぞ!」

「金髪巨乳にクールなお姉さんかぁ、いいねえ」

 当然、俺達に気付いた男達はこちらを追い払おうとするが、先生達の姿を見て色めき立つ。

 同じ男としてわからんでもない。

 が、

「称賛したくなるほどの屑っぷりだなアンタら」

「なんだとテメェ!」

 男達の内、俺達の一番近くにいた奴が、俺の挑発につられて俺の胸ぐらを掴もうとする。

 だがそんなもの、織斑先生の出席簿アタックを避けられる俺からすれば、児戯に等しい。

 なので、逆に伸ばした腕を掴んで引き寄せ、まだまだ拙いなと思いながらも同時に足を引っ掛けバランスを崩し転ばせる。

 更にダメ押しとばかりに転んだ男の頭を踏んづけて、起き上がれないようにすれば、ハイ終了。

 頭を押さえられ、立ち上がることもできないこの男はこれで無力化できた。

 今後どうなるかわからんが、絶対に護身術は覚えておけと言われ、相手を無力化する方法をカーティス女史から文字通り身を以て叩き込まれて(といっても、チンピラ相手に一対一で漸くどうにかなるレベル)いたが、こんな早くに役立つのだから、俺の人生素敵すぎるんじゃなかろうか。

「で、お兄さん方、まだやります?」

 暴れて起き上がろうとする男に対し、乗せた足に更に体重をかけて大人しくさせつつ、残りの二人に問う。

「チョーシにノってんじゃねえぞ!」

「上等だクソガキ、てめえが死ね!」

 仲間をやられて、激昂した二人が同時に襲いかかってくる。

 最初の一人を抑えてる為、動けない俺には回避することさえできない。

 勿論そのまま逃げることもできなくはないが、その気はないし、する必要もない。

 なぜなら、

「フン!」

「オラァ!」

 複数の格闘技有段者である木本先生が片方の懐に素早く飛び込み、顎に掌底を叩き込み、

 もう一人にはナナコ先生が任侠映画ばりの、しかもえらく腰の入ったヤクザキックもとい前蹴りを相手の腹に突き刺すように喰らわせたのだから。

 掌底を喰らった方は脳震盪でも起こしたのか失神して倒れ、蹴られた方はなんと反対の壁まで吹き飛ばされてそのまま崩れ落ちた。

「女だからと……」

「……舐めたら怖いで~?」

 お二人共、かっこ良すぎです。伊達にIS学園の教師をしている訳ではない、といったところか。

 IS学園はその特殊性から荒事にもある程度対応できないといけない。

 木本先生は兎も角、ナナコ先生もしっかりと格闘術を修めている訳ではないが、IS学園教師番付をしたら上から数えた方が速いくらいには喧嘩慣れしているそうな。

 そんな二人が俺のクラスの担任副担任を任されるあたり、やはりそれだけ俺には価値があるのだろう。どういう価値かはあまり考えたくはないが。

 その後すぐに二度とこういう事をするなと軽く脅しつけて男達を解放し、そこで漸く連れ込まれた少女に振り向く。

「大丈夫だったか?」

「……ええ。まあ、私一人でもどうにかできたのですがね」

 目の前であれだけの騒ぎだったにも拘らず、終始彼女は全く表情を変えずにいた上で、そう答えた。

「……お人形さんのような見た目やのに、肝が据わってるんやな」

 呆れたようにナナコ先生が言う。

 なんというか、言ってる内容は兎も角、こうも反応が薄いとどうしたら良いか困るんだが。

 俺達がどうしたもんかと思っていると、彼女が口を開いた。

「質問があります」

「へ? あ、はい。なんでしょう?」

 何故か微妙に敬語になってしまった。

「何故私を助けた……、助けようと思ったのですか?」

 やはり目が見えるかのように、真っ直ぐにこちらに顔を向けながら問うてくる。

 それに俺は、

「いや、だって、なぁ? 誰だってさっきみたいな状況なら助けるだろ、まともな感性してたら」

 何を当たり前な、と保護者二人を仰ぐと同意するように首を縦に振ってくれた。

「ではご一緒のお二人がいなければ? さっきの男達より自分が弱かったら?」

「さっきから何を知りたいのか分からんが、それならそれで近くの店員か警備員でも呼ぶけど? あと警察」

 どういう問答なんだろコレ? しかも男子トイレで。

 しかしそんな事はどこ吹く風で、件の少女は一人納得したようで、

「……ふむ、成程。そうなんですね」

 なんだろなんだろ、なんか凄い勢いで見定められている気がするんですが! これ後々なんかのフラグになってたりしないよね? 現実でイベントフラグ管理とかやりたくないですよ?

「分かりました。お答えいただきありがとうございます」

「は、はぁ」

 なんともゴーイングマイウェイを地で行っている感が凄い少女だった。

「では、この借りはいずれ、ザ・セカンド」

 軽く会釈だけをして、彼女は立ち去って行ってしまう。

 それを俺達は狐に化かされたような顔で見送るしかできなかった。

「なんだったのですかね?」

「さあ?」

 いや、ホントに。

 しかしふとそこであることに気付いた。

「……あれ?」

 どうして彼女は自己紹介もしてないのに俺の事に気付いたのだろう? 終始瞼を上げず、俺の顔を捉えてはいなかった筈なのに。




因みにこの遭遇は、本当にただの偶然。
名前を言ってはいけない例のあの人が、監視対象にはしててもまださして興味を持ってい無い為。
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