雲一つない晴れやかな空の下でアークエンジェルと骨董品レベルのサラミス級艦隊が海面近くを飛んでいる、最新型エヴァと言えどアークエンジェルまで用意して送る必要は無い。
この艦隊、エヴァ以外にもゲンドウが用意した人類補完計画の重要なパーツを運んでいた。
それは卵にまで還元された第一使徒アダムとネブカドネザルの鍵と呼ばれるもの、どちらもゼーレが所有する重要な物だがネルフの優秀な二重スパイ、加持リョウジがゲンドウから預かったシンジのデータとゲンドウの陳情を叩き付け更に口八丁手八丁でそれっぽい理由をでっち上げてゼーレから巻き上げ、もとい持ち出したのだ。
ゲンドウはリョウジの優秀な働きに感謝し温泉旅行無期限無料パスとモビルスーツカタログをプレゼントした。
それはそれとして第一使徒アダム、つまり使徒の親が運ばれているとなれば自ずと使徒もよってくる、否が応でも引き寄せてしまう。
艦内に警報が鳴り響く、レーダーが警戒すべき物を見つけ、それが何か見た索敵担当は声を張り上げて驚いた。
「か、艦長! バカデカい化け物が来てます! 衝突コースでこちらに向かっています! あんなのが突っ込んできたら確実に沈みますよっ!?」
「アークエンジェル回避運動! 『全艦隊戦闘体制、高度上昇!』そこの子達をブリッジから避難させて!」
「了解!」
周囲を観測していたアークエンジェルのクルーが叫ぶ、レーダーでも目視でも確認したそれは全長一キロはある巨体だった。
そんなものが加減無しにアークエンジェル目掛け突っ込んでくるとあって全速力で全戦艦は空へと上昇した。戦闘体制になったことで見学中のトウジとケンスケは安全な区画に投げ込まれていた、ケンスケは文句を垂れたが気になる外の様子は狭いものの小窓から見えている、それで我慢しておいた。
ひとまずこれで助かった、と思いきやその巨体は水上に飛び出してきたのだ。クジラかイルカのような飛び上がりでアークエンジェルの右翼を食い千切りかっさらっていった。
巨大な口を持った使徒、ガキエル。魚のようなフォルムを持つがその体は桁外れに大きく水中を自由自在に泳ぎ回る生きた質量兵器。ATフィールドを纏い魚雷のごとく突っ込こまれたらこちらは確実に沈む、しかし奴は水中が主戦場であるためビーム兵器は軒並み減退され有効な反撃は一切出来ない圧倒的不利な状態だ。
「何あれ?! ミサト!」
「あー使徒ね、あれ。一応使徒はネルフの管轄だから私に従ってね?」
「使徒、あれが……ならばこの戦闘はミサトの指示に従いましょう」
「ならば通信切り替え、艦内放送にしてっと……よし『シンジくーん! アスカー! 聞こえてるー? エヴァ弐号機の力見せてやってちょうだーい!』通信戻して良いわよ」
まさかのエヴァ出撃命令、無茶や無謀を通り越してバカとしか言い様の無い指示にマリューがキレた。
「エヴァで水中戦闘? 何考えてるのミサト! あのエヴァは私から見ても水中向きの機体じゃないわ!」
「今使える有効な手札はあのエヴァだけよ、さっきネルフに救援要請出したけどすぐには来れないし、こっちは主砲があてになら無い」
「そうだけど……シンジ君がまた無茶で死ぬ所は見たくないわ、エヴァ弐号機の発進は認められません」
「ここは無茶する所よ、情けないけど大人は手が出せないの」
「でも、出撃は認められません、ミサトも知っているでしょ? 死んでしまってからでは遅いのよ」
マリューとミサトで言い争いになってしまったが、エヴァ弐号機は武装しておらず適切な装備もしていない事を踏まえればマリューの判断が正しい。
しかしパイロット側からエヴァを大幅補正出来るなら話は違ってくる、マリューはエヴァをモビルスーツと同じ兵器と捉えていたが実際は存在がデタラメな使徒と似ている、エヴァとは何万もの装甲で拘束された使徒だ、だからATフィールドを展開出来るのだ。
そんなエヴァは簡単に言えばパイロットのやる気次第でカタログスペック以上の力を見せるスーパーロボットの部類、ミサトはそれを知っている。
だがエヴァの機密に当たる部分なので話せる訳でない、ミサトとマリューはいつまでも平行線をたどってしまう。と、思いきや状況は勝手に動いていた。
『あーあー、ブリッジ、こちらシンジ、エヴァ弐号機で強制出撃します。カタパルト開けてくれよな~頼むよ~、じゃなきゃギアスでこじ開けるどー! ってアスカが言ってまーす』
『やめろバカ! 整備班の仕事を増やすな! 開けてやるからとっとと行け!』
『レッツヒモ無しバンジー!』
やたら気の抜ける声で整備班を物理的に殺しかねない文句で脅して格納庫からエヴァがヒモ無しバンジーしていった、マリューとミサトは喧嘩そっちのけでその通信に耳を疑った。
ヒモ無し? つまりアンビリカルケーブル無しバンジー、電源装置無しのエヴァは最新型の弐号機であってもフル稼働で一分もてば良い程度だ、内蔵バッテリーだけであの化け物と戦おうなど、知っていてやっている分狂人に思えてしまう。
しかしパイロットは勝算があってやっていた、シンジをシンジろ。
☆★☆☆★☆
時は戻り出撃前の事、アスカはシンジにエヴァを見せびらかしていた。
「じゃーん! これが世界初の戦闘用エヴァよ。スペックは初号機、零号機を大きく上回る、そして内蔵されたサイコミュである程度遠隔で脳波コントロール出来る!」
「そりゃすげぇな! にしても真っ赤だな、こりゃ赤い彗星だな」
「赤い彗星より真紅の稲妻と呼んで欲しいわ」
アークエンジェルの格納庫に狭そうに膝を抱えて寝転がっていたエヴァ弐号機、モビルスーツの格納庫に無理やり突っ込んだので色々とガタガタだ。固定器具が若干不安定に見える。アスカの解説とともにエヴァを見ていたシンジに声が掛かった
「おう、噂のシンジ君じゃないか」
「ん? どちら様です?」
「初めましてシンジ君、俺は加持リョウジって言う者さ、平のネルフ職員だよ。そこのアスカちゃんと一緒に日本のネルフに転勤だ、あと届け物もね」
この加持リョウジ、シンジには怪しく見えた。普通気配は隠すことなど一般人ならない、しかしこの加持と言う人物は気配を当たり前のように消していた。
何かしらやましい事や後ろめたい事をしているに違いない、シンジは警戒を強めた。対してリョウジは自然体でいる、興味本位で顔を見に来ただけなので怖いものは無い。強いて言えばシンジの後ろからギアスをちらつかせているアスカぐらいなものだ。
「加持さん、シンジとお喋りしてたのに」
「悪かったよアスカ、じゃおじさんはここで引くとするよ、だからそれは止めてくれ」
「じゃまたネルフで、機会があったらまた話をしません? ギュネイの事とか色々」
「あぁまたなシン、はぁ警報か……君らの出番かな」
シンジとリョウジの別れ際に警報が鳴り響く、しばらくすると艦内アナウンスでシンジとアスカの出撃命令が出た。リョウジは本格的な戦闘になる前に届け物があると言ってそそくさとネルフへ逃げた、別にシンジは咎めるつもりはないが大人の卑怯な部分を見た気がした。
それはそれとしてシンジとアスカの二人はエヴァ弐号機に乗り込んだ、エヴァは複座ではないしシンクロシステムのおかげで二人乗りだとお互いの思考ノイズでシンクロ率か上がらずエヴァが起動しないまである。
しかし二人はマトモな価値観で計れる人間ではなかった
「いっちょ行きますか!」
「シンジプラグスーツは?!」
「そんなの無くても動く! いつもの事さっ!」
エントリープラグに二人は窮屈だが入る事ができた、プラグスーツは要らないのか? とアスカが問えば無くても動く、なんともエヴァのパイロットらしからぬ発言だ。
アスカはエヴァの専属パイロットととして訓練してきたエリートだからエヴァに対しての常識は持っていた(尚その他はシンジに準ずる)なので急いでプラグスーツを着るように説得しようとするとそれを読んだシンジが
「レッツヒモ無しバンジー!」
操縦席はシンジに譲っていたのでそのまま出撃、話を意図的に断ち切られたアスカは以前より無茶さが増したシンジに呆れるしかなかった。
高高度からのスカイダイビングのように両手足を大の字に開け海面スレスレでATフィールドを展開し着地した。スーパーヒーロー着地だ、膝が痛そうだ。
『シンジ君! 今すぐ逃げて! アンビリカルケーブル無しじゃなにも出来ないわよっ!』
「一分も掛かりません、だってアスカと俺の全力が出せるんですよ? そもアンビリカルケーブルの長さが足りないです、高度考えたら妥当だと思いますねぇ」
「ごめんねマリュー艦長、はい通信カット。んでシンジ、作戦は? 有るんでしょ?」
「もちろん、アスカと俺の全力を出すだけだ、遠慮しなくて良いからな」
「それは作戦とは言わない、でも分かりやすくて良いわね。なら早速……私を『反転』」
アスカがギアスを発動するとアスカが男になった、こんなの理屈に合いませんよ! シンジは叫びたかった、どの口が言うのかとネルフ職員のツッコミが聞こえる。
「えぇ……それは想定外だぜアスカ」
「チッチッチッ、新しいアスカ、と言う意味のシン・アスカと呼んでくれ。この状態になった私は無敵だ。皆には内緒だよっ☆」
「声まで男かよ参ったなこれ……よ、よぉし俺も本気出すか、すぅ……来た、ゲッターの力が!」
「ゲッターってシンジそんなのいつ……じゃない、今は使徒だ、前方距離1000メートルの地点に使徒発見! やってやるぜぇ!」
「見せてやるぜ、エヴァと俺達の恐ろしさをなっ! アスカ、気を合わせるぞ、ゲッターの力を込めた最終奥義にて決着を着ける!」
二人の気合いが伝わったのかエヴァ弐号機もうなりを上げて答えた、内蔵電源のタイムリミットはあと三分を切り戦闘をするならもってあと45秒程だろう、それだけあれば二人には充分だった。
ガキエルの巨体が大きく口を開きエヴァを丸のみにする体勢にはいった、その口の奥に赤く光るコアを発見したが二人には関係ない、どのみち使徒は跡形もなく消し飛ばすからだ。
「「流派東方不敗が最終奥義! 石破天驚っ! ストナァァァァサァァァン! シャイン!」」
エヴァは両手を合わせて超密度に凝縮されたエネルギーを球状に固め、エヴァより大きくなったそれを力を込めて使徒に向かい投げ放った。
使徒はそれを口を開けて飲み込んだ、すると内側からぼこぼこと肉が沸き立ち閃光が肉を割いた。内から爆発し爆心地の海上から半径25キロはギラつく十字の閃光をともなう爆炎、膨大な熱で水蒸気が発生し晴れやかな空が一転曇天になり100メートル級の津波が発生していた。
エヴァ弐号機はATフィールドで凌ぎ切り、アークエンジェル艦隊は高度が高く強烈な衝撃波で揺れた以外は被害はなかった。それよりもアークエンジェルではあの巨体を一撃で『消し飛ばした』攻撃にミサトはマリューに詰め寄られていた。
「アレがミサトの言うエヴァの力なの?」
「あー、うん、エヴァの力と言えば力だしシンジ君とかアスカの力とも言えるし、と言うか二人がが想定外過ぎて参考にして良いものか……あんなの分かってたら大人しくマリューの言うこと聞いてりゃよかったー! 報告書めんどーい!」
「えぇ……ミサトも想定外なの……」
あの力はエヴァの力なのか? 疑問に答えてもらおうにも専門家に分からないと匙を投げられたら素人は黙るしかない、エヴァと言う謎に溢れた兵器には注意しておこうとクルー全員が心に刻んだ。
マリューは伝手を使ってネルフをより深く調べシンジ君の力が悪用されていないか……ミサトは信用しているがネルフは信用出来ないので調べて貰うことにした。
ミサトはシンジ君のこの戦果と戦闘データに頭を悩ませる、無茶に無謀を被せて規格外を飾り想定外で成り立つこの混沌としている世の中(スパロボ世界)でも特に訳の分からない事をしている。
ゲンドウはこの報告を受けてどう思うのか想像したら、ちょっと同情を覚えたミサトだった。
「あ、エヴァが力尽きてるから回収しなきゃ……」
今回の使徒のイレギュラーはビックサイズな事です