【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
玄関を開ける。
無施錠、誰かはいるんだろう。
「ただいま~」
「お邪魔します……」
二人で玄関を潜る。
「おかえりー。あら、いらっしゃい。どちら様?」
出迎えたのは母だ。
「
「あらまあ。ありがとうございました。さ、上がってください」
母にうながされ、傘木さんが居間へ向かう。
俺はとりあえず、制服から着替えよう……。
「お待たせ……あれ?」
着替えて居間へ行くと、窓が開いていた。
「傘木さんがね、聞こえてくる演奏聴きたいって」
なるほど。
居間の窓は、開けると学校の音が全部聞こえてくる。
グラウンドの掛け声、吹奏楽部の演奏、授業中は先生の声や、酷いときには個人を名指しした
だから、普段は開けていない。
……勿論、閉めていても聞こえる音は聞こえる。
「良いですね。こうやって演奏が聞けるのって」
テーブルには、お茶とお茶菓子が並んでいる。
母の側に湯呑みが2つ。
その前の椅子に座る。
「これが吹部の演奏だけなら言うことなし、なんですけどね」
難しいなあ。
「今年の吹奏楽部は全国行けるのかな?」
母が不意に呟く。
「今年は大丈夫だと思います。優秀な指導者も来ますし、顧問の先生も全国常連の先生ですからね」
傘木さんには聞こえていたようだ。
「10年位前だったかな? 入学式の朝の演奏が酷くてね。聞くに耐えなかったこともあったから……」
10年位前。
最初に滝先生が来た頃の話だろうか?
「お母様は、吹奏楽の経験が?」
ん?
母の経験など聞いたことがないが。
「一応ね」
あるの! 初めて知った……。
話が吹奏楽に傾いていった。
俺には理解できない話が続く。
「先生の指導に反発してね、
「本当に投げたんですか!」
「そう。10回通しをやったときに、11回目に入ったの。それで、話が違うって怒って」
「凄いですね」
「しかも、その子が投げたのって、その時使ってたのと別の奴でね。先生も激昂して大騒ぎよ」
「その話詳しく聞いても良いですか?」
食いついた……。
「10回目が終わったのね。そうしたら先生が、『はい。2分休憩したら次』って。誰かが『11回目です。終わりでは?』って言ったの。『知るか。2分休憩』って言った先生が振り返ったタイミングで、背中にマッピ投げつけたの」
凄い……。
「痛いですよね」
「痛いわね。先生は顔色変えずに『誰か知らんがまあいい。演奏できないからわかんだろ』ってね。でも、その子別のマッピ投げたから普通に演奏始めてね。『どいつだふざけた真似しやがって! 知らん。帰る!』先生ぶちギレよ」
ん? スマホにラインの通知が。
えっと……あやち?
堀田先輩か。
あやち:ナンバー702って、傘木さんの車だよね?
あやち:まだ、学校の前に停まってるけど、何か知らない?
あやち:学校に居るならお会いしたいんだけど
あー。
「傘木さん」
「何かな?」
「堀田先輩からラインで、俺の家の前……つまり、学校の前に車が停まってることについて聞かれてるんですが……」
一瞬、傘木さんの頭に?マークが見えた(気がした)。
「あ、みんなここが金山くんの家だって知らないんだね……。金山くんを学校に送って行ったと思ってるよね。どうしよう?」
どうしようね……?
あ、またラインだ。
『さわやかハンバーグ』
は? 誰これ?
さわやかハンバーグ:今すぐ連絡求む。加納
加納先輩!?
あれ? 交換した時は『
慌てて無料通話を押す。
「……あ、か金山です」
話が面倒なことになった。
俺と傘木さんは学校にいることにしてしまったのだ。
制服を脱いでしまったので、再び着る。
『俺が学校に用事があり、学校へ送ってもらった』
『学校に着いて、傘木さんがお手洗いを借りに一緒に入ったところ、そのまま文芸同好会の部室に行った』
『一緒に部活中』
という感じ。
別に、俺の家の場所がバレても構わないんだけど、加納先輩に電話をしたときに、上手く舌が回らずに、変な話になってしまったんだよね……。
仕方ないじゃん。先輩、しかも女子。ましてやあの加納先輩だもん。許して……。