【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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2-4……『今すぐ連絡求む。加納』

 

玄関を開ける。

 

無施錠、誰かはいるんだろう。

 

「ただいま~」

 

「お邪魔します……」

 

二人で玄関を潜る。

 

「おかえりー。あら、いらっしゃい。どちら様?」

 

出迎えたのは母だ。

 

傘木 希美(かさぎのぞみ)さん。北宇治の卒業生で、今日出かけた用事の人。送って頂いたからお茶でも、って」

 

「あらまあ。ありがとうございました。さ、上がってください」

 

母にうながされ、傘木さんが居間へ向かう。

 

俺はとりあえず、制服から着替えよう……。

 

 

 

「お待たせ……あれ?」

 

着替えて居間へ行くと、窓が開いていた。

 

「傘木さんがね、聞こえてくる演奏聴きたいって」

 

なるほど。

 

居間の窓は、開けると学校の音が全部聞こえてくる。

 

グラウンドの掛け声、吹奏楽部の演奏、授業中は先生の声や、酷いときには個人を名指しした叱責(しっせき)も。

 

だから、普段は開けていない。

 

……勿論、閉めていても聞こえる音は聞こえる。

 

「良いですね。こうやって演奏が聞けるのって」

 

テーブルには、お茶とお茶菓子が並んでいる。

 

母の側に湯呑みが2つ。

 

その前の椅子に座る。

 

「これが吹部の演奏だけなら言うことなし、なんですけどね」

 

難しいなあ。

 

「今年の吹奏楽部は全国行けるのかな?」

 

母が不意に呟く。

 

「今年は大丈夫だと思います。優秀な指導者も来ますし、顧問の先生も全国常連の先生ですからね」

 

傘木さんには聞こえていたようだ。

 

「10年位前だったかな? 入学式の朝の演奏が酷くてね。聞くに耐えなかったこともあったから……」

 

10年位前。

 

最初に滝先生が来た頃の話だろうか?

 

「お母様は、吹奏楽の経験が?」

 

ん?

 

母の経験など聞いたことがないが。

 

「一応ね」

 

あるの! 初めて知った……。

 

 

 

話が吹奏楽に傾いていった。

 

俺には理解できない話が続く。

 

「先生の指導に反発してね、マッピ(マウスピース)投げた子もいたの」

 

「本当に投げたんですか!」

 

「そう。10回通しをやったときに、11回目に入ったの。それで、話が違うって怒って」

 

「凄いですね」

 

「しかも、その子が投げたのって、その時使ってたのと別の奴でね。先生も激昂して大騒ぎよ」

 

「その話詳しく聞いても良いですか?」

 

食いついた……。

 

「10回目が終わったのね。そうしたら先生が、『はい。2分休憩したら次』って。誰かが『11回目です。終わりでは?』って言ったの。『知るか。2分休憩』って言った先生が振り返ったタイミングで、背中にマッピ投げつけたの」

 

凄い……。

 

「痛いですよね」

 

「痛いわね。先生は顔色変えずに『誰か知らんがまあいい。演奏できないからわかんだろ』ってね。でも、その子別のマッピ投げたから普通に演奏始めてね。『どいつだふざけた真似しやがって! 知らん。帰る!』先生ぶちギレよ」

 

ん? スマホにラインの通知が。

 

えっと……あやち?

 

堀田先輩か。

 

 

あやち:ナンバー702って、傘木さんの車だよね?

 

あやち:まだ、学校の前に停まってるけど、何か知らない?

 

あやち:学校に居るならお会いしたいんだけど

 

 

あー。

 

 

 

 

 

「傘木さん」

 

「何かな?」

 

「堀田先輩からラインで、俺の家の前……つまり、学校の前に車が停まってることについて聞かれてるんですが……」

 

一瞬、傘木さんの頭に?マークが見えた(気がした)。

 

「あ、みんなここが金山くんの家だって知らないんだね……。金山くんを学校に送って行ったと思ってるよね。どうしよう?」

 

どうしようね……?

 

あ、またラインだ。

 

 

『さわやかハンバーグ』

 

は? 誰これ?

 

 

さわやかハンバーグ:今すぐ連絡求む。加納

 

 

加納先輩!?

 

あれ? 交換した時は『沙也(さや)』だったぞ?

 

慌てて無料通話を押す。

 

「……あ、か金山です」

 

 

 

 

 

 

 

話が面倒なことになった。

 

()(かく)、傘木さんと今すぐに学校へ行くことになった。

 

俺と傘木さんは学校にいることにしてしまったのだ。

 

制服を脱いでしまったので、再び着る。

 

体裁(ていさい)としては。

 

 『俺が学校に用事があり、学校へ送ってもらった』

 

 『学校に着いて、傘木さんがお手洗いを借りに一緒に入ったところ、そのまま文芸同好会の部室に行った』

 

 『一緒に部活中』

 

という感じ。

 

 

 

別に、俺の家の場所がバレても構わないんだけど、加納先輩に電話をしたときに、上手く舌が回らずに、変な話になってしまったんだよね……。

 

仕方ないじゃん。先輩、しかも女子。ましてやあの加納先輩だもん。許して……。

 

 

 

 

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