【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
「懐かしいなぁ。久し振りだね」
傘木さんと一緒に北宇治の校門を潜る。
「卒業して11年かあ……」
感慨深い感じだろう。
俺は生徒用の昇降口から上履きに履き替え、傘木さんは来客用玄関から校舎へ入る。
一応、部活中の体を整えるには部室の鍵が必要だし、傘木さんも来客手続きを踏まなければ不審者・侵入者に扱われてしまう。
『職員室』
誰がいるかな……。
「し、失礼します……」
ゆっくり扉を開く。
良かった。居るのは
「1-2の金山です。図書館閉架書庫の鍵を借りにきました。それと、来客が一名……」
後半、変な感じになってしまった。
「あれ? 金山くんだ。……隣はどなた?」
西尾先生が俺に気づき、傘木さんにも気づく。
そして、首を傾げる。
その様子に、隣の滝野先生も顔を上げた。
「傘木……!」
声を上げながら立ち上がった。
驚いているのか?
そうか……。傘木さんと滝野先生はここにいた時期が被るのか。
もしかして同級生か?
「滝野じゃん! どうしたの?」
「それ俺の台詞。俺はここの教師だよ」
「滝野先生……?」
二人のやり取りに、西尾先生がまた首を傾げる。
「彼女は、傘木希美といいます。ここの卒業生で、俺とは同級生なんです」
俺の読み通りだ。
「そうでしたか。あ、来客手続きですね。こっちの用紙に記名お願いします」
西尾先生の案内で、傘木さんが来客手続きを行う。
「吹部に用か?」
「えっ? うん。そうだよ」
「せっかくだし、俺も少し顔出すか。確か、滝先生も松本先生も外出中だしな」
滝野先生も来るの……?
「そっか……。今年は高坂が来るのか」
「うん。高坂さんと、私の大学の先輩がね。新山先生の代わりに」
「高坂もすっかり有名人だもんな」
職員室を出た俺たちは、音楽室へ向かっている。
二人は昔の話などで会話が弾んでいるが、俺は蚊帳の外……。
「滝先生も戻ってきたし、今年は全国行けそうだな。まあ、過度に期待しすぎるとプレッシャーになるか」
「程々にね」
階段を昇る。
それにつれ、聞こえてくる楽器の音も大きくなる。
「園田先生も頑張ってたんだけど、一昨年の全国銀止まりで、去年は関西銀。だから、滝先生が戻ってきたもんだから、玉突きで、顧問外されてしまったんだよな……」
なるほど。そんなことがあったのか。
『音楽室』
俺は初めて来たが、傘木さんは久し振りなのだろう。
「待ってて」
そう声を掛け、滝野先生が音楽室へ入って行く。
「失礼します。って、滝先生に加納。戻っていらしたんですね」
驚いた声。
思わず、傘木さんと顔を見合わせる。
「ええ。打ち合わせが終わって先ほど戻りました。松本先生は直帰です」
「純ちゃん先生、ペット教えてくださいよ」
純ちゃん先生……? 滝野先生のことか。そんな
「俺から教えれることは無いよ。てかお前、地理大丈夫なのか?」
「あやち~、純ちゃん先生苛めてくるよ」
「はいはい。分かってるって」
堀田先輩の声だ。
「堀田さんも戻ったんですね」
「堀田さんは外部指導者との打ち合わせに行っていました。一旦帰宅してから来たみたいですよ。坂の下で拾ってきましたから。滝野くん……失礼、滝野先生はどうしたのですか?」
「ちょっと俺には話が読めませんから、入ってもらいますね。二人とも、入ってきて」
滝野先生の声に、二人で音楽室へ入る。
「失礼します……」
「金山くん? それに傘木さん……。これは一体どういうことでしょう?」
滝先生も驚いている。
それどころか室内の全員が驚いているようにも見える。仕方ない。
順番に状況を説明する。
堀田先輩と俺が、外部指導者の打ち合わせに行った。
帰りに傘木さんに送って頂いたが、俺は部室に用があり、学校へ送ってもらった。
傘木さんがお手洗いを借りに校内へ入っていたところ、校門に停まっていた車を見つけた堀田先輩から連絡があり、お連れするように言われ、やって来た。
ちょっと違う部分もあるけれど、だいたいこんな感じだろう……。
音楽室の黒板前に、
そして、何故か三人の隣に俺も……。
俺は部外者です。早く帰りたい。
とは言えまい。
「それでは皆さん。と言っても全員は居ませんから、また改めて説明しますが、せっかくですから居る人は聞いてください」
滝先生が話し始める。
「二・三年生は覚えてると思いますが、今年も昨年同様、外部指導者の指導を予定しています」
外部指導者……?
「プロの木管指導者
先生の名前を聞いた途端、静かになった。
やはり、有名な人たちなんだろう。
「本来なら私が直接打ち合わせに行くべきでしたが、生憎サンライズフェスティバルの打ち合わせで行けませんでした。代わりに、
はい。行って、帰ってきました……。
「ところで滝先生、打ち合わせ私たちで良かったんですか?」
聞く側の堀田先輩が手を上げて言った。
先輩、こっち側の人では?
「大丈夫ですよ。高坂さ……高坂先生とは事前にお会いしていますし、坂部先生にはお電話でお話していますから。日程の調整だけが、まだだったのです」
そういうことだったのか。
それなら尚のこと俺が行く必要無かったんじゃないのか?
「滝先生、そちらの女性は何方ですか?」
「彼女は、傘木
「傘木希美です。ここの卒業生でフルートを演奏しています」
フルート。
そう言うなり、加納先輩がキョロキョロし始めた。
誰を捜しているのか、俺にも検討がついた。
しかし、彼女は音楽室にはいない。
そういえば、この部屋には
となると、もしかして……。
俺はグラウンドが見える側の窓に寄る。
どれどれ……。
いた。
「加納先輩、あっちです」
俺は加納先輩の方を向き、窓の外を指差しながら言った。
「あっち? 何のこと……って、
「なんで分かったの?」
「いや、音楽室に居ないなら、
なんとなく、だけどね。
「そっちじゃない。私が
俺がそれに気付いたことに驚いているのか。
「なんで分かったの?」
「傘木さんがフルート奏者だと分かった途端、加納先輩キョロキョロし始めたから……。なんとなく」
「凄い……」
「でしょ?」
なんでそこで堀田先輩がドヤ顔なんですか。
「金山、
加納先輩が当たり前のように言い放った。
「え? いや、俺
「傘木さんに演奏聞いてもらいたいのよ」
いや、人の話聞いてますか?
待てよ。使えるか?
「分かりました。ちょっと呼びに行ってきます」
渋々、という感じを装って音楽室を出る。
よし。音楽室脱出成功。
これで解放された。
俺は吹奏楽部とは無関係の部外者のはずなのに、まるで関係者のように扱われて疲れる。でも。
「今日は仕方ないのか……」
「何が?」
「えっ!」
階段を降りる途中で、下から急に声掛けられるとビックリするんだけど!
「あ、練習終わりにしたのか?」
下に
この立ち位置、逆だったらスカートの中が見えているだろう……。
「ちょっと風強くなってきたから」
なるほど。梓の頭を見ると、髪が少し乱れている。
「なんでここにいるの?」
「ああ、加納先輩に
「私を?」
「そう。音楽室に居るよ」
オッケー。そう言って紅葉は音楽室へ向け、階段を登って行く。
それを梓が追い掛ける。
よし。俺はお役御免、帰ろう……。