【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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お待たせしております。

実は、次回作の執筆を開始したため、こちらの執筆が物凄く遅くなっております。申し訳ありません。

なお、次回作はユーフォとは全く関係の無い、しかしながら『滝野 純一』くんを主人公にしたクロスオーバー作の予定です。


……話が脱線しないうちに、本編どうぞ。



その②……岐阜から来た二人

 

日曜日の朝、文芸同好会部室にて。

 

「聞いてた話と違うんですよ」

 

「確かにね……」

 

犬山(いぬやま)さんと加木屋(かぎや)先輩が話し込んでいる。

 

先輩は定位置の椅子に座り、本を読んでいる。

 

犬山さんはその隣に座り、構い無しに話し掛けている。見慣れた光景だ。

 

愛実(めぐみ)ちゃん、今日部活は良いの?」

 

あ、俺もそれ気になってた。

 

「休みです。みなみ先輩に会いに来たんですよ」

 

そうですか……。

 

「そう」

 

先輩の態度は素っ気ない。休みの日に可愛い後輩が、わざわざ自分に会いに来たというのに。

 

……違う?

 

まあ、さっきも言ったが、いつもの光景だ。

 

「それで、違うじゃないか! って詰め寄ったら、一言『うそやでー』って。どう思います?」

 

「それ、誰の話?」

 

「私の再従姉(はとこ)の話です。山梨で小学校の先生やってるらしいです。これも嘘かもしれませんけれど」

 

「そうね。確か、前はキャンプ場を作って運営してるって言ってなかった?」

 

「はい。でも、教員は副業が禁止されている筈だから、嘘だと思うんですよ。どちらかが」

 

「でも、前に見せてくれた写真だと、キャンプ場建設に関わっていたのは事実よね?」

 

「はい。だから、もう何処までが本当なのか、分からないんですよ」

 

 

 

息詰まった。お茶を飲もう。

 

俺の机に置いてあるのは、『美濃白川茶』。ペットボトルのお茶だけど、これは……。

 

「これ、犬山さんが?」

 

そう尋ねると、二人の視線が俺を向く。

 

「うん、私の。引っ越す時に通りすがった白川町の道の駅で、買ってきたやつ。賞味期限ヤバいから持ってきたの」

 

賞味期限……って、昨日じゃないか!

 

「犬山さん、これ期限切れ!」

 

「賞味期限だから、1日2日過ぎたぐらいなら、大丈夫だよ」

 

まあ、確かにそうだけど……。お腹壊したらどうするんだよ……。

 

「引っ越す時に、美濃白川を通ったの?」

 

さっき犬山さんが言ったことに、加木屋先輩が反応する。

 

「はい。……そういえば、みなみ先輩って前は何処に住んでいたんですか?」

 

可児(かに)市よ。岐阜県の」

 

「マジですか! 私は高山市です」

 

お。二人とも岐阜県出身だったのか。

 

「高山市から41号線を南下して、途中から高速道路通ってきました。先輩は?」

 

「私のところは、可児市と言っても多治見(たじみ)市に限りなく近いところだったのね。家の前にある用水路が境界だったの。だかから、多治見駅から名古屋駅まで出て、そこから新幹線で来たの」

 

「新幹線だったんですね。ところで、京都に引っ越してきて驚いたことってありますか?」

 

話が変わった。

 

引っ越してきて驚いたこと。それは俺も気になる。

 

「そうね。やっぱり味の違いかしら」

 

「先輩もですか!」

 

確かに味は違う。

 

全国大会前日に、名古屋駅のホームで食べたきしめんは、こっちの方とは異なる濃い味付けになっていた。

 

「あとは、京都の町並み……風景かな?」

 

「と、言いますと?」

 

「ほら、今までだと、写真やテレビでしか見たことの無い建物や風景が、自分の目で見ると、本当に存在していたんだな……って、実感したの」

 

「なるほど。それは私も思いましたね」

 

「奈良の東大寺と、清水寺(きよみずでら)、二条城とかは、小学校の修学旅行で来たから見てるけど、有名どころだけだからね」

 

平等院(びょうどういん)、実物見るのは私も初めてでした。やっぱり実物は凄いですよね。10円玉の表は見飽きてますけど……」

 

「泊まったホテルが無くなってたのは驚いたわ……」

 

 

 

「それじゃあ、私はバイトあるからこれで……」

 

時計を見ると、丁度10時。

 

今日お昼からのシフトらしい。

 

本を畳んで鞄に入れ、その鞄を持って立ち上がる。

 

同時に犬山さんも立ち上がった。帰るのだろう。

 

「今日はありがとうございました」

 

「私も。面白い話も聞けたし、良かったよ」

 

扉を開け、二人が外へ出た。

 

「それじゃあ」

 

「また」

 

よし。これで静かになる。執筆(しっぴつ)に集中出来るな……。

 

「それでね。金山くん!」

 

と思ったのが間違いだった。

 

犬山さんは戻ってきた。まだ帰らないらしい……。

 

 

 


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