【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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2-7……倒れなきゃ良いんだけど

 

そのまま帰ろうとして、昇降口へ向かっていたところ、鍵を借りたままなのを思い出す。

 

当然、鍵を借りたまま帰宅するわけにもいかない。

 

といっても、鍵を借りてから30分も経たずに返すのも不自然。

 

……部室へ行こう。

 

それで少し時間を置いて、鍵を返しに行けば良いだろう。

 

そう思って進路を部室へ変更。

 

 

 

 

部室の鍵が開いている……。

 

先生が来ているのか。

 

「失礼します」

 

ゆっくり扉を開く。

 

「あら、いらっしゃい」

 

案の定、居るのは園田先生だ。

 

「訳あって来ました。え……」

 

よく見ると、先生はお昼ご飯の準備中のようだ。

 

机の上に、電気式湯沸かし器とカップラーメンが置かれている。

 

「この部屋飲食大丈夫なんですか?」

 

「火気使用禁止。飲食は特に規定無かったと思う。ティファールなら大丈夫よ」

 

「へえ……。いや、その固有名詞が大丈夫か心配になりますけど……」

 

本当に気楽で自由な人だな。

 

「あ、金山くんも食べる? 塩は貰ったから、味噌か醤油があるわよ」

 

あ。そういえば、お昼まだ食べてなかった。

 

「じゃあ醤油で……。貰って良いんですか? ラーメン」

 

「今日の御駄賃と言うことでね」

 

御駄賃? 嵐山へ行った件か……。

 

お湯を注いで4分待つ。

 

先生のは先に出来上がった。

 

「どうだった? 今日のデートは」

 

ラーメンを食べ始めた先生が、唐突に言い出した。

 

「で、デート?」

 

急に何言い出すんだ、この人は。

 

「あら? 吹部のマドンナ堀田さんと二人でデートだったんじゃないの?」

 

先生がラーメンを啜る。

 

園田先生とラーメン。

 

なんか不釣り合い……。

 

「いや、確かに二人でしたけど、デートって雰囲気じゃなかったですよ」

 

だいたい、吹奏楽部のマドンナ堀田先輩と、文芸同好会の俺じゃあ、釣り合わないだろう。

 

そう。今目の前に見ている光景の(ごと)く。

 

「そもそも、あれは俺が行く必要ありましたか?」

 

話がさっぱり理解できなかったし、日程調整だけだったし。

 

「あら。でも、あなたを指名してきたのは加納さんよ」

 

「は?」

 

加納先輩が?

 

「顧問の先生方がダメだと分かって、自分も行けないから。代わりに私、という話になりかけていたところで、『金山くんに頼めないか』って」

 

なんで俺が?

 

「だから、私が上手く誘導してね……」

 

それには見事に騙され、嵌められた……。

 

「ラーメン伸びない?」

 

「あ!」

 

しかし、安い御駄賃だな……。

 

 

 

 

お昼ご飯を食べ終える。

 

とはいっても、俺にはカップラーメン一食では、到底足りないのだが、貰っておいて贅沢を言うのは良くない。

 

園田先生は本を読んでいるので、俺はパソコンを立ち上げ、執筆に取り掛かる。

 

しかし、中々手が動かない。行き詰まったかな。

 

先生に何か話題を振って、話でも……。

 

で、何を話そう?

 

吹奏楽部の話……は、何となく触れない方が良いように感じたのでパス。

 

嵐山……鉄道の話? 川越から来たらしいから、埼玉県の鉄道。西武・東武・京急……?

 

俺が墓穴を掘りそうなのでパス。

 

音楽の先生だから、音楽……の話を振っても俺がついて行けない。駄目。

 

あ~もう!

 

諦めた。集中しよう。それが良い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

集中し過ぎた。

 

空腹を感じ顔を上げる。

 

えっ! 今何時? 外真っ暗!

 

「園田先生……?」

 

先生居なくなってる。

 

もうそんな時間か。

 

パソコンの時計が狂ってるから時間が掴めなかった。

 

スマホを取り出す。

 

時間は……19時過ぎ。

 

新着通知多数。

 

『園田涼子』先生?

 

先生俺のライン知ってるのか。

 

『声掛けても無反応だったので先帰ります』

 

マジが……。

 

お腹も減っているし、今日は帰ろうか。

 

 

 

 

『職員室』

 

19時を過ぎているが、職員室には明かりがついている。

 

まあ、見回りが来なかったということは、まだ残っている先生が居るということだ。

 

「失礼します」

 

扉を開く。

 

やっぱり。この人過労で倒れなきゃ良いんだけど……。

 

「おや? 金山くんまだいらしたんですか」

 

それは俺の台詞でもあるが。いや、お互い様か。

 

「はい。集中し過ぎてて、気付いたらこんな時間でした」

 

小さく笑う。

 

「集中してるとあっという間に時間は過ぎますね。足りないくらいですよ」

 

「分かります。だからこそ、限られた時間を有効に使うのですよ。それは今後社会に出ると尚必要になります。あ、それから……」

 

何か思い出したのだろうか。

 

坂部(さかべ)先生は如何(いかが)でしたか? お元気だとは思うのですが、なにぶん電話でお話しただけなので」

 

坂部先生……。木管の指導者だという人か。

 

「普段を知りませんが、元気だと思いますよ。格好いい方ですね。あ、確か……」

 

会ったときの印象を伝える。

 

好青年という感じだったから……。

 

「モテると思います」

 

「あ、でも坂部先生は親しくなると口が悪くなる方です。要注意ですよ」

 

あの顔で毒舌か。怖そうな感じ……。

 

「金山くんは直接関わる機会は無いと思いますが、気を付けてくださいね。おや、少し話し込んでしまいましたね」

 

そう言って先生が柱の時計を見上げる。

 

「もう19時半ですね。遅いから送りましょう」

 

もうそんな時間か。

 

「あ。大丈夫です。俺の家、目の前なんで……」

 

仮に、送ってもらうとしても、徒歩で同伴して貰う程度の距離だし。

 

「そういえばそうでしたね。では、気を付けて帰ってください」

 

会話に気を取られて鍵を返し忘れる……何てことはないように、ちゃんと鍵を返す。

 

「失礼しました」

 

職員室を出る。

 

 

 

 

 

学校を出ればすぐに帰宅だ。

 

玄関を開ける。

 

「ただいま~」

 

「お、お兄ちゃんおかえりー。遅かったじゃん」

 

出迎えたのはゆうき*1だ。

 

風呂上がりのようで、タオル一枚……なら良いのだが。

 

「お前、全裸でうろつくなって言ってるだろ」

 

「ごめん。替えの下着持って降りるの忘れてたから……」

 

そう言ってゆうきは、二階の自室へ向かって行く。

 

「せめてタオル巻いて行けよ」

 

「はーい」

 

全く。

 

「母さん、お風呂先の方が良い?」

 

母はリビングに居るだろうから、そう言いながらリビングへ入る。

 

「お父さん先だから。さっさとご飯食べて」

 

「はーい」

 

自分の席へ座る。

 

ん?

 

テーブルに名刺が置いてある。傘木(かさぎ)さんのものだ。

 

『経理部課長代理兼主任』

 

少し長い役職名が書かれている。

 

聞いたことのない会社だけど、社名から見るとイベント等の運営をしているみたいだ。

 

「さっさと食べちゃって」

 

 

 

食後、母が先に風呂に入っていたので、出るのを待って入る。

 

今日はいろいろあって疲れた……。

 

今日は土曜日だから、明日も休みか。

 

いつもより早く寝た。布団に入ったら即寝落ちだった……

 

 

 

*1





これ、良く読んでみると、職員室での話のところ、職員室にいた先生の名前が書かれていない……。

でも、誰がいたのかはお分かりですね。
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