【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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3-3……イベント当日の吹奏楽部は朝が早い

 

早朝・夕方以降の音出し練習が出来なくなってから、土日も関係なく、防音室を輪番で使用しながら練習していた。

 

そんな猛練習の末、サンライズフェスティバルの当日がやって来た。

 

今回だって、俺は部外者と言いきれない。なんでなんだ……。

 

 

 

 

 

大会やイベント当日の吹奏楽部は朝が早い。

 

ただでさえ男子部員が少ないのに、その男子部員が総出で楽器を運び出す。

 

そういうわけだから、力自慢の女子部員が手伝うこともあるとか。

 

しかし、残念ながら今年はそんな女子はいないらしい……。

 

 

朝6時前、既に多くの吹奏楽部員が集まっている。

 

力仕事は男子に任されるものの、重くない楽器は女子も運搬を手伝うからだ。

 

それに加え、会場の都合で学校で衣装に着替えて出発するため、7時に全員集合になっている。

 

因みに、7時集合で10分前に登校すると、遅刻扱いされるらしい。(ひど)い話だ。なお、ソースは滝野(たきの)先生。

 

 

 

「部長、これはどっちに?」

 

「トラックに乗せるから、えっと、藤浪(ふじなみ)持ってって」

 

「了解!」

 

「フルートは各自持参でも良いよ。ただ、トラック積むなら最後にね」

 

加納(かのう)先輩の指示で、順に楽器を運び出す。

 

「トラック来ました!」

 

6時半になり、トラックが到着。

 

運び出した楽器を、順にトラックへ積み込む。

 

「パーカス先入れないと何も入んないぞ!」

 

今度は、トラックの荷台に乗った日比野(ひびの)先輩の指示。

 

「先輩、それ後で良いですから!」

 

俺も、男子部員8人に紛れ、一緒に積み込みを行う。

 

水野(みずの)、先にそれ渡して」

 

「先輩、これは後の方が良いと思いますよ。分かんなくなります」

 

「なら、そっち先か。白沢(しらさわ)!」

 

「オッケー」

 

それなりに騒がしい。騒音クレーマー、大丈夫か?

 

「あ、金山(かなやま)くん。部室の鍵開けてもらえますか?」

 

俺を呼ぶ声がしたので、振り返る。

 

声の主は、トロンボーンパトリの野間(のま)先輩だ。

 

「部室ですね。今、鍵を借りてきます」

 

どういうことかって? それは、文芸同好会の部室を借りたいという文字通りの意味だ。

 

吹奏楽部は言うまでもなく、女子部員の方が多い。

 

そのため、部の部室である音楽室は、女子更衣室と化す。

 

勿論、男子部員は追い出されるわけで、更衣室を確保しなければならない。

 

そこで、防音室貸し出しで関係が深まった、文芸同好会の部室を貸すことになったのだ。

 

なお、野間先輩は三年生の先輩だが、俺が部外者ということもあるのか、態度はよそよそしい。敬語だし。

 

俺は構わないんだけどね。他のパトリがうるさいとか? 吹奏楽部員に好かれているからか。

 

因みに、パトリの白一点*1

 

 

 

 

 

『職員室』

 

「おはようございます。1-2金山です。閉架書庫の鍵を借りに来ました」

 

土曜日の朝。そんな時間でも、来ている先生がいる。

 

勿論、その顔ぶれは決まっている。

 

「おはようございます」

 

「おはよう、金山くん」

 

「ご苦労様です」

 

「金山か。おはよう」

 

(たき)先生、松本(まつもと)先生、坂部(さかべ)さんと高坂(こうさか)さん。

 

吹奏楽部の面々が揃っている。

 

「いつもありがとうございます。男子の更衣室に使うんですね」

 

「あ、はい。野間先輩に頼まれまして……」

 

「お願いしますね」

 

滝先生は礼儀正しい人だ。

 

詳しい年齢は知らないが、恐らくその半分にも満たない俺に対しても、丁寧な応対で、好感を持っている人は多いと思う。

 

勿論、彼の(吹奏楽部での)指導を知らない人の感想だろう。

 

「では、失礼します」

 

鍵を借りて職員室を出る。

 

 

 

 

 

部室(閉架書庫)に着いた。

 

鍵を開ける……あれ?

 

手応えが無い。開いている。

 

ということは……。

 

「失礼します」

 

「あ、おはよう」

 

「今日は早いんですね、先生」

 

園田(そのだ)先生がいる。

 

「搬入終わった?」

 

「いえ、まだ途中です。でも、野間先輩に鍵開けるように言われたんで……」

 

先生は、これで意味を把握したらしく、立ち上がった。

「じゃあ私は職員室に行ってるわ。後よろしく」

 

そう言って部室を出ていった。

 

えっと……、先輩たちを呼んでくるか。

 

 

 

楽器の積み込みをが終わると、サンフェスの衣装に着替える。

 

既に7時を回っていて、部員は全員集まった模様。

 

因みに、最後に来たトランペット二年生の吉浜(よしはま)先輩は、集合15分前に来たにも関わらず、遅刻扱いされたらしい……。

 

男子の着替えを見ていても誰得なので、部屋の外で待つ。

 

暇だ。早く終わってくれないだろうか……。

 

 

 

 

 

 

着替え終わった男子部員が順次部室から出てくる。

 

金山(かなやま)ありがとう」

 

マーチングの衣装か……。何というか、派手だ。

 

「先輩方、頑張ってくださいね」

 

声を掛けて送り出す。

 

「金山サンキュー」

 

「おう、頑張れ」

 

最後に野間(のま)先輩が出てきた。

 

「金山くん、ありがとうございます」

 

「こちらこそ。それでは行ってらっしゃいませ」

 

男子部員を見送る。

 

会場の都合で、サンフェス終了後の着替えは、会場の更衣室が利用できる。

 

なので、更衣室としての使用は終わった。

 

この部屋に制服を忘れていくと、終わっても着替えられなくなるので、室内に忘れ物がないかを確認。

 

念のため施錠してから、席を外してもらった先生を呼びに、職員室へ向かった。

 

 

「失礼します、1-2金山です。園田(そのだ)先生いらっしゃいますか?」

 

職員室に入ると、吹奏楽部の先生方はいなくなっていた。

 

「いるよ~」

 

「お。金山くんが来たということは、吹部準備できたのね」

 

北新川(きたしんかわ)先生と園田先生だけ。

 

因みに、最初の少し間の抜けた返事が北新川先生だ。

 

「はい。全員着替えて向かいましたよ」

 

「そろそろバスが出る時間ね」

 

そういえば、先生の服装がいつもと違う。

 

さっき、部室で見たときは普段通りの格好だったのに、今はジャージ姿。

 

場所といい、服装といい、体育教師みたい。

 

「私たちも行きましょう」

 

はい?

 

「えっ? 俺も」

 

「そうよ。私の車で一緒に行きましょう」

 

「先生の車で?」

 

「勿論。金山くん、吹奏楽部員じゃないから、部費払ってないでしょ? バス乗れないよ。だから、私の車で行きましょう」

 

「いや、そういうことじゃなくて。行くことは確定なんですか?」

 

「行かないという選択肢があるとでも?」

 

ありませんね。

 

このやりとりを、北新川先生は、笑いをこらえてながら見ていた……。

 

園田先生と一緒に、職員駐車場へ向かう。

 

「さ、助手席に乗って」

 

先生の車は、何というか、普通の軽自動車だ。

 

「お願いします」

 

念のため、といいながら部室の鍵を閉めてきて正解だった。

 

「出すよ」

 

先生がそう言うと、車が走り出した。

 

あっという間に学校を出る。

 

家の前を通過……まさかこんなことになるとは。

 

先生の車とか、本当誰得ですか? これ。

 

「楽器運搬お疲れ。朝ご飯は食べたの?」

 

「食べてきましたよ。けれど……」

 

朝早くからの力仕事でお腹が……。

 

「お腹減ったの?」

 

「はい……」

 

「マック寄ってく?」

 

マック? パソコン……?

 

「マックって何ですか?」

 

「マクドナルド。知らない? そんな訳無いよね」

 

ああ、マクドか。勿論(もちろん)知っている。

 

そうか、関西以外ではマックと略すらしい話を聞いたことがある。

 

いやいや、固有名詞出したらまずいだろう?

 

「大丈夫です。緊張してろくに食べてない部員も居るらしいですし、その横に腹一杯の状態で立つのも失礼でしょう」

 

「まあね。分かった」

 

そのまま真っ直ぐ太陽公園へ向かった。

 

 

真っ直ぐ向かったからか、トラックとバスを追い越してしまったらしい。なんでこうなる……。

 

 

 

 

*1
紅一点の逆。黒一点・青一点 という場合もある

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