【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
早朝・夕方以降の音出し練習が出来なくなってから、土日も関係なく、防音室を輪番で使用しながら練習していた。
そんな猛練習の末、サンライズフェスティバルの当日がやって来た。
今回だって、俺は部外者と言いきれない。なんでなんだ……。
大会やイベント当日の吹奏楽部は朝が早い。
ただでさえ男子部員が少ないのに、その男子部員が総出で楽器を運び出す。
そういうわけだから、力自慢の女子部員が手伝うこともあるとか。
しかし、残念ながら今年はそんな女子はいないらしい……。
朝6時前、既に多くの吹奏楽部員が集まっている。
力仕事は男子に任されるものの、重くない楽器は女子も運搬を手伝うからだ。
それに加え、会場の都合で学校で衣装に着替えて出発するため、7時に全員集合になっている。
因みに、7時集合で10分前に登校すると、遅刻扱いされるらしい。
「部長、これはどっちに?」
「トラックに乗せるから、えっと、
「了解!」
「フルートは各自持参でも良いよ。ただ、トラック積むなら最後にね」
「トラック来ました!」
6時半になり、トラックが到着。
運び出した楽器を、順にトラックへ積み込む。
「パーカス先入れないと何も入んないぞ!」
今度は、トラックの荷台に乗った
「先輩、それ後で良いですから!」
俺も、男子部員8人に紛れ、一緒に積み込みを行う。
「
「先輩、これは後の方が良いと思いますよ。分かんなくなります」
「なら、そっち先か。
「オッケー」
それなりに騒がしい。騒音クレーマー、大丈夫か?
「あ、
俺を呼ぶ声がしたので、振り返る。
声の主は、トロンボーンパトリの
「部室ですね。今、鍵を借りてきます」
どういうことかって? それは、文芸同好会の部室を借りたいという文字通りの意味だ。
吹奏楽部は言うまでもなく、女子部員の方が多い。
そのため、部の部室である音楽室は、女子更衣室と化す。
勿論、男子部員は追い出されるわけで、更衣室を確保しなければならない。
そこで、防音室貸し出しで関係が深まった、文芸同好会の部室を貸すことになったのだ。
なお、野間先輩は三年生の先輩だが、俺が部外者ということもあるのか、態度はよそよそしい。敬語だし。
俺は構わないんだけどね。他のパトリがうるさいとか? 吹奏楽部員に好かれているからか。
因みに、パトリの白一点*1。
『職員室』
「おはようございます。1-2金山です。閉架書庫の鍵を借りに来ました」
土曜日の朝。そんな時間でも、来ている先生がいる。
勿論、その顔ぶれは決まっている。
「おはようございます」
「おはよう、金山くん」
「ご苦労様です」
「金山か。おはよう」
吹奏楽部の面々が揃っている。
「いつもありがとうございます。男子の更衣室に使うんですね」
「あ、はい。野間先輩に頼まれまして……」
「お願いしますね」
滝先生は礼儀正しい人だ。
詳しい年齢は知らないが、恐らくその半分にも満たない俺に対しても、丁寧な応対で、好感を持っている人は多いと思う。
勿論、彼の(吹奏楽部での)指導を知らない人の感想だろう。
「では、失礼します」
鍵を借りて職員室を出る。
部室(閉架書庫)に着いた。
鍵を開ける……あれ?
手応えが無い。開いている。
ということは……。
「失礼します」
「あ、おはよう」
「今日は早いんですね、先生」
「搬入終わった?」
「いえ、まだ途中です。でも、野間先輩に鍵開けるように言われたんで……」
先生は、これで意味を把握したらしく、立ち上がった。
「じゃあ私は職員室に行ってるわ。後よろしく」
そう言って部室を出ていった。
えっと……、先輩たちを呼んでくるか。
楽器の積み込みをが終わると、サンフェスの衣装に着替える。
既に7時を回っていて、部員は全員集まった模様。
因みに、最後に来たトランペット二年生の
男子の着替えを見ていても誰得なので、部屋の外で待つ。
暇だ。早く終わってくれないだろうか……。
着替え終わった男子部員が順次部室から出てくる。
「
マーチングの衣装か……。何というか、派手だ。
「先輩方、頑張ってくださいね」
声を掛けて送り出す。
「金山サンキュー」
「おう、頑張れ」
最後に
「金山くん、ありがとうございます」
「こちらこそ。それでは行ってらっしゃいませ」
男子部員を見送る。
会場の都合で、サンフェス終了後の着替えは、会場の更衣室が利用できる。
なので、更衣室としての使用は終わった。
この部屋に制服を忘れていくと、終わっても着替えられなくなるので、室内に忘れ物がないかを確認。
念のため施錠してから、席を外してもらった先生を呼びに、職員室へ向かった。
「失礼します、1-2金山です。
職員室に入ると、吹奏楽部の先生方はいなくなっていた。
「いるよ~」
「お。金山くんが来たということは、吹部準備できたのね」
因みに、最初の少し間の抜けた返事が北新川先生だ。
「はい。全員着替えて向かいましたよ」
「そろそろバスが出る時間ね」
そういえば、先生の服装がいつもと違う。
さっき、部室で見たときは普段通りの格好だったのに、今はジャージ姿。
場所といい、服装といい、体育教師みたい。
「私たちも行きましょう」
はい?
「えっ? 俺も」
「そうよ。私の車で一緒に行きましょう」
「先生の車で?」
「勿論。金山くん、吹奏楽部員じゃないから、部費払ってないでしょ? バス乗れないよ。だから、私の車で行きましょう」
「いや、そういうことじゃなくて。行くことは確定なんですか?」
「行かないという選択肢があるとでも?」
ありませんね。
このやりとりを、北新川先生は、笑いをこらえてながら見ていた……。
園田先生と一緒に、職員駐車場へ向かう。
「さ、助手席に乗って」
先生の車は、何というか、普通の軽自動車だ。
「お願いします」
念のため、といいながら部室の鍵を閉めてきて正解だった。
「出すよ」
先生がそう言うと、車が走り出した。
あっという間に学校を出る。
家の前を通過……まさかこんなことになるとは。
先生の車とか、本当誰得ですか? これ。
「楽器運搬お疲れ。朝ご飯は食べたの?」
「食べてきましたよ。けれど……」
朝早くからの力仕事でお腹が……。
「お腹減ったの?」
「はい……」
「マック寄ってく?」
マック? パソコン……?
「マックって何ですか?」
「マクドナルド。知らない? そんな訳無いよね」
ああ、マクドか。
そうか、関西以外ではマックと略すらしい話を聞いたことがある。
いやいや、固有名詞出したらまずいだろう?
「大丈夫です。緊張してろくに食べてない部員も居るらしいですし、その横に腹一杯の状態で立つのも失礼でしょう」
「まあね。分かった」
そのまま真っ直ぐ太陽公園へ向かった。
真っ直ぐ向かったからか、トラックとバスを追い越してしまったらしい。なんでこうなる……。