【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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今回も少し長いです。

サンフェスの選曲については……。

滝先生の選曲なので、許してください。


〈2024年4月30日追記〉

北宇治高校吹奏楽部の伝統行事(?)を忘れてました……。追加しておきますね。






3-5……特に言いたいことはありません

 

楽器を載せたトラックとほとんど同時に、バスも到着した。

 

「はるかー! 園田(そのだ)先生! お待たせしました!」

 

真っ先に降りてきたのは副部長の堀田(ほりた)先輩だ。

 

部長である加納(かのう)先輩は統括だから、最後に降りるのだろう。

 

「トラック来てるから、楽器運搬係先に降りてもらって」

 

先生が堀田先輩に指示を飛ばす。

 

「了解しました!」

 

マーチング衣装の先輩は、いつにも増して美人だな……。って、呑気なことを言っている……、

 

「金山くんも手伝って」

 

俺にも指示が飛んでくる。

 

「はい!」

 

こんな状況だから、今回ばかりは文句言っている場合ではない。

 

先輩はバスへ戻ってゆく。俺はトラックへ向かう。

 

「トイレ~!」

 

「漏れる!」

 

ん? バスの方からなんか変な声が。

 

……それもそうか。大渋滞にはまっていたんだから、トイレも我慢していたのだろう。

 

男女問わず何人かがトイレに走ってゆくのを見ながら、俺はトラックへ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

かなり慌ただしかったが、我ら北宇治高等学校の吹奏楽部は、準備が整った。

 

所定の場所に集合し、順番まで待機する。

 

開始が二時間遅れているが、現時点ではそれを加味した上で、時間通り進んでいる。

 

「お前ら、今日はトラブルがあったが、それを気にすることはない。練習通りやれは出来る!」

 

松本(まつもと)先生の言葉だ。

 

「「「はい!」」」

 

それに部員たちが返事をする。

 

軍曹(ぐんそう)先生による訓示、という感じだろう。

 

「北宇治の演奏を楽しみにしている人は多い。手を抜いたら承知しないからな! 分かったか!」

 

「はい!」

 

「気合いを入れろ。声が小さい!」

 

そんなこと言ったら逆効果ではないだろうか?

 

「「「はい!」」」

 

そうでもない感じだ。

 

流石北宇治。イベント事にも強いのか。

 

「私からは以上だ」

 

え。松本先生の話終わっちゃったよ……。

 

次、滝先生の番だよな? どっか行ったっきり戻ってこないんだけど。

 

俺は部員側に立つのもおかしいと思って、松本先生の隣に立っているが、園田先生は部員側にいる。まさか……。

 

「何か言いたいことは?」

 

うわ。先生に振られてしまった。

 

隣にいたのが間違いだった。とはいえこうなったら仕方ない。

 

「えっと……今月入ってから色々大変でしたね。でも、皆さんの頑張りは見てました。陰ながら協力できて良かったでしゅ!」

 

噛んじゃったよ。慣れないことをするもんじゃないなぁ。

 

「ありがとう! はるか」

 

堀田先輩……。

 

「金山、助かったよ」

 

「君がいなかったら大変だった。ありがとう」

 

みんな……。

 

「これからもよろしく!」

 

「演奏見ててね!」

 

「頑張るよ!」

 

駄目だ、泣きそう。

 

「ありがとうございます! が、頑張ってください!」

 

涙が……。

 

目元を押さえながら、背を向ける。

 

泣いているところなど見たくないだろう……。

 

ん? 足音が。誰か走ってきたようだ。

 

「すいません。ちょっと迷ってしまいました」

 

この声は滝先生だ。

 

迷ってたのか、この人。

 

「……何があったのですか?」

 

何かって……俺のことだろう。

 

迷って急いで走ってきたら、一人泣いている生徒がいる。普通驚くよな。

 

「松本先生からは?」

 

「終わりました。あとは滝先生だけです」

 

「そうですか。えっと、特に言いたいことはありません。トラブルがあったとはいえ、普段通りやりましょう。皆さんの演奏楽しみにしています」

 

「「「はい!」」」

 

「それでは皆様、ご唱和ください」

 

加納先輩が音頭を取る。

 

「北宇治ファイト~」

 

「「「お~!」」」

 

全員が、拳を握った手を上へと突き上げる。

 

『続きまして、北宇治高校吹奏楽部です』

 

 

 

 

 

 

涙が収まったので振り返ってみると、部員は誰もいなかった。

 

松本先生、滝先生、園田先生がいるだけ。

 

「ひどい顔ですね、金山くん。一体何があったのですか?」

 

滝先生は未だ状況が掴めない模様。

 

ひどい顔って。今の俺、泣き腫らして真っ赤なのか……?

 

「ちょっと、みんなに泣かされました」

 

苦笑い。

 

「えっ?」

 

「5月から金山に協力してもらってここまで来ましたから。部員たちから彼への感謝の言葉がありました」

 

松本先生が代わりに説明してくれた。

 

「そうですか……。金山くん。私からもお礼を言わせてください。ありがとう」

 

「いや。俺は何も……」

 

「あなたのお陰で今日の北宇治高校吹奏楽部はあります。ほら」

 

そう言って滝先生は手を伸ばす。

 

その方向を見ると……。

 

「素晴らしい演奏です。見てください」

 

行進している部員の姿。

 

「金山くん、行きましょう」

 

「は、はい!」

 

園田先生に連れられて隊列の方へと向かう。

 

 

 

 

 

「今年の北宇治も流石ね」

 

「間に合って良かった」

 

「一時はどうなるかと思ったけど……」

 

「ドラムメジャー、格好いいね! 男の子かと思ったけど女の子だよね?」

 

観客の声や視線は、北宇治の隊列に夢中だ。

 

立華(りっか)も良かったけど、北宇治はやっぱり最高だな」

 

「確か、滝先生戻ってきたんだよね?」

 

「そうそう。さっき走って行くの見たから」

 

「えっ? じゃあ、この渋い選曲も滝先生かな?」

 

渋い選曲……?

 

「園田先生。この曲、何て名前ですか?」

 

俺の発言に、園田先生は驚いた。

 

「知らないの。ジェネレーションギャップってやつか」

 

いや、実際先生と俺の年の差……やめておこう。

 

残酷(ざんこく)な天使のテーゼ。30年位前の曲よ。かなり有名なアニメソングだけど、今の子知らないのか」

 

俺、生まれてないじゃないですか……。

 

でも、言われて思い出した。

 

テレビとかで聞いたことがある。

 

 

渋い選曲、と言われればその通りかもしれない。

 

 

 

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