【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
行進を終えた部員が戻ってきた。
出発前と同じ場所に集合している。
俺は、さっき泣いてしまったのが恥ずかしいのもあり、少し離れた場所から様子を見ることにした。
あれ? 部員たちの前に立っているのは
「滝先生相変わらずだね」
この声……。
聞き覚えのある声が背中に掛かったので、振り返る。
「久し振り。
一回会っただけなのに、名前覚えてくれたのか。
まあ、この名前だから覚えてもらいやすいんだよね。
「滝先生相変わらず、ってどういう意味ですか?」
「先生、よく迷うの。毎年来てるはずなのに、毎年ね」
それは……気の毒と言って良いのだろうか?
「演奏どうだった?」
「聞いてないんですか?」
「間に合わなかったからね。
渋滞まだ
これは帰りも大変だろう……。
「それは残念でしたね。最高の演奏だったと思います」
「なら良かった。……あ、やっと来たね」
高坂さんがそう言うので、彼女の目線を追うと、滝先生が走って行くのが見えた。
「あ、居た。滝先生~、探しましたよ」
すると、後ろから聞き覚えのある声がした。振り返れば、松本先生がいた。
滝先生を捜していたのか。道理で居ないわけだ。
松本先生は集合しているところへ歩いて行くが、今の声で俺と高坂さんの存在を、部員たちに気づかれてしまった……。
「あ、はるかー!」
「はるかも行くよ」
そう言うなり、俺の腕を掴んで強引に引っ張る。
「ほら」
何を思ったのか、高坂さんには背中を押される。
「行ってらっしゃい」
……もう諦めるか。今日は俺も吹奏楽部の一員なんだから……。
「すみません、また迷ってしまいました」
部員たちの前に、滝先生が立つ。
「えっと、園田先生からは?」
その隣には、松本先生、園田先生、高坂さん、そして俺。
「松本先生が滝先生を探しに行っている間に、言いたいことは話しましたので」
先生、また迷った挙げ句、探されていたのか……。
「それは。すいませんでした」
吹奏楽部とは無関係だった俺が、指導者側に立っている。
「松本先生からは?」
「園田先生のことです。私の言いたいことは全て代弁してもらったと思いますから、大丈夫です」
先生方の話を聞きながら、そんなことを考えていると……。
「はい。えっと、高坂さ……高坂先生は?」
「私は演奏に間に合わなかったので。素晴らしい演奏だったということは、彼から聞きました。お疲れ様でした」
彼って、俺のことか……。
「では、金山くんから」
来た。
「最高の演奏だったと思います。沿道のお客さんも北宇治目当ての人が多かったですね。えっと……この調子でこの先も頑張ってください。以上です」
堀田先輩に連れてこられた時点で、こうなることは予想して、何を言おうか考えていた。
だから、何とか
二度も泣かされるわけにはいかないからね。
「それでは皆さん。お疲れ様でした。予定が遅れてしまったので、お腹も空いているでしょう。15時まで、1時間ではありますが、自由行動とします。15時までにバスに戻ってください」
「はい!」
「あと、楽器の積み込みは私たちで行いますので、テントのところに固めて置いておいてください」
「やったー」
そうなるか……。
行進して疲れた後に、あの重労働はきついだろう。
それから解放されるのだから、喜びも大きいようだ。
「あと、最後に一つ。ここの物販エリアに『ナックルの店』という、飲み物を売っているお店があるのですが、皆さんの先輩がやっているお店です。一人一本サービスしてくれるそうなので、是非」
「よっしゃー」
元気な声だな。
体力余ってるのなら、積み込み手伝えよ。
……と、思うだけで口にはしない。
「それでは解散します」
解散となり、部員たちは思い思い行動している。
更衣室へ行って着替える人、昼食を買いに行く人、他校の演奏を聞きに行く人、真っ先に『ナックルの店』へ向かう人……。
えっ? 俺?
俺はもちろん、堀田先輩に強引に……とはならなかった。
先生方に混じって楽器の積み込みだ。
嫌な予感はしていたが、まさか本当に積み込み手伝わされるとはね……。
とはいえ、先に到着していただけで、何もしていないのだから、これぐらい当然だろう。良い演奏を聴かせてもらったんだし。
どちらかと言えば、到着して早々に手伝わされている、坂部さんや橋本さんの方が気の毒だ。
「滝クン。来て早々これはないよね?」
「仕方ないでしょう。遅れたあなたが悪いんです」
「遅れたのはボクが悪い訳じゃないんだけど……」
「一緒です。早く出れば良かったのですから」
気の毒だけど、口より手を動かしてほしい……。
「橋本先生、パーカス先に載せないと何も積めませんよ」
「
「何言ってるんですか。そもそも私がトラックの上って、逆でしょう?」
そう。
今トラック上で作業しているのは、傘木さんと坂部さん。
しかも、傘木さんはロングスカートなんだけど……。
「まあ、橋本先生のことだから、いやらしいこと考えてるんだろうけど」
「み、見るわけないだろ。そんなことしたら、旦那に殺される」
「まだ旦那じゃありません」
お喋りが多いな……。
「口より手を動かせ、手を」
松本先生に怒られてる。
「あ、先生今度の昼の部チケット取れましたよ」
「ほ、本当か?」
あれ、松本先生顔色が変わったぞ。
「はい。
「いつもすまない」
今の坂部さんとのやり取りに、俺は頭に?を浮かべる。
「松本先生、宝塚の大ファンなの」
その疑問を解決してくれたのは、高坂さんだ。
「そうなんですか」
普段見ることのない顔だった。
松本先生の意外な一面を知った気分。
積み込み終了。
「皆さん、お疲れ様でした。坂部先生、橋本先生、高坂先生、それから傘木さん、今日はありがとうございます」
滝先生から。
「トラブルこそありましたが、問題なく終われて良かったです」
「滝クンもお疲れ!」
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
「皆さんお疲れ様でした。それでは失礼します」
坂部さんと高坂さんが帰って行く。
そういえば、この二人って結局楽器の積み込みしかやってないよね?
何か気の毒だな……。
「じゃあ、ボクもナックルのところに顔出して帰るわ」
橋本さんも、楽器の積み込みだけか。
しかし、この人の場合不思議と気の毒とは思わない。何故だろう。
「金山くん、お疲れ様」
「あ、傘木さん。お疲れ様でした。演奏間に合わなくて残念でしたね……」
傘木さんも、楽器の積み込みだけだった。
「仕方ないよ。こんなこともあるよね。演奏どうだった?」
「素晴らしい演奏だったと思います。立華よりも目立ってましたよ」
「それなら良かった。あ、そろそろ行くね。堀田さん達によろしく」
「ありがとうございます」
このあと、集合時間になって、部員と先生はバスに乗り、俺と園田先生は車で学校へ帰った。
そして、部員総出で楽器を下ろし、解散となった。
慌ただしかった、サンライズフェスティバルが終わった。
次にやって来るのは……。何だっけ?
多少強引に引っ張った感じがするかもしれませんが、サンフェスはこれにて終わりです。
吹奏楽部はこれからオーディション・コンクールに進んでいきますね。
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