【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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3-6……最高の演奏

 

行進を終えた部員が戻ってきた。

 

出発前と同じ場所に集合している。

 

俺は、さっき泣いてしまったのが恥ずかしいのもあり、少し離れた場所から様子を見ることにした。

 

あれ? 部員たちの前に立っているのは園田(そのだ)先生だ。滝先生と松本先生は居ない……。

 

「滝先生相変わらずだね」

 

この声……。

 

聞き覚えのある声が背中に掛かったので、振り返る。

 

「久し振り。金山(かなやま)くん」

 

高坂(こうさか)さんだ。

 

一回会っただけなのに、名前覚えてくれたのか。

 

まあ、この名前だから覚えてもらいやすいんだよね。

 

「滝先生相変わらず、ってどういう意味ですか?」

 

「先生、よく迷うの。毎年来てるはずなのに、毎年ね」

 

それは……気の毒と言って良いのだろうか?

 

「演奏どうだった?」

 

「聞いてないんですか?」

 

「間に合わなかったからね。坂部(さかべ)先生と傘木(かさぎ)先輩もまだ着いてないと思う」

 

渋滞まだ(ひど)いのか。

 

これは帰りも大変だろう……。

 

「それは残念でしたね。最高の演奏だったと思います」

 

「なら良かった。……あ、やっと来たね」

 

高坂さんがそう言うので、彼女の目線を追うと、滝先生が走って行くのが見えた。

 

「あ、居た。滝先生~、探しましたよ」

 

すると、後ろから聞き覚えのある声がした。振り返れば、松本先生がいた。

 

滝先生を捜していたのか。道理で居ないわけだ。

 

松本先生は集合しているところへ歩いて行くが、今の声で俺と高坂さんの存在を、部員たちに気づかれてしまった……。

 

「あ、はるかー!」

 

堀田(ほりた)先輩が走ってくる。

 

「はるかも行くよ」

 

そう言うなり、俺の腕を掴んで強引に引っ張る。

 

「ほら」

 

何を思ったのか、高坂さんには背中を押される。

 

「行ってらっしゃい」

 

……もう諦めるか。今日は俺も吹奏楽部の一員なんだから……。

 

 

 

 

 

「すみません、また迷ってしまいました」

 

部員たちの前に、滝先生が立つ。

 

「えっと、園田先生からは?」

 

その隣には、松本先生、園田先生、高坂さん、そして俺。

 

「松本先生が滝先生を探しに行っている間に、言いたいことは話しましたので」

 

先生、また迷った挙げ句、探されていたのか……。

 

「それは。すいませんでした」

 

吹奏楽部とは無関係だった俺が、指導者側に立っている。

 

下克上(げこくじょう)した気分だろうか? 最も今の俺にそんな余裕はない。

 

「松本先生からは?」

 

「園田先生のことです。私の言いたいことは全て代弁してもらったと思いますから、大丈夫です」

 

先生方の話を聞きながら、そんなことを考えていると……。

 

「はい。えっと、高坂さ……高坂先生は?」

 

「私は演奏に間に合わなかったので。素晴らしい演奏だったということは、彼から聞きました。お疲れ様でした」

 

彼って、俺のことか……。

 

「では、金山くんから」

 

来た。

 

「最高の演奏だったと思います。沿道のお客さんも北宇治目当ての人が多かったですね。えっと……この調子でこの先も頑張ってください。以上です」

 

堀田先輩に連れてこられた時点で、こうなることは予想して、何を言おうか考えていた。

 

だから、何とか()まずに言えて良かった……。

 

二度も泣かされるわけにはいかないからね。

 

 

 

「それでは皆さん。お疲れ様でした。予定が遅れてしまったので、お腹も空いているでしょう。15時まで、1時間ではありますが、自由行動とします。15時までにバスに戻ってください」

 

「はい!」

 

「あと、楽器の積み込みは私たちで行いますので、テントのところに固めて置いておいてください」

 

「やったー」

 

そうなるか……。

 

行進して疲れた後に、あの重労働はきついだろう。

 

それから解放されるのだから、喜びも大きいようだ。

 

「あと、最後に一つ。ここの物販エリアに『ナックルの店』という、飲み物を売っているお店があるのですが、皆さんの先輩がやっているお店です。一人一本サービスしてくれるそうなので、是非」

 

「よっしゃー」

 

元気な声だな。

 

体力余ってるのなら、積み込み手伝えよ。

 

……と、思うだけで口にはしない。

 

「それでは解散します」

 

 

 

 

 

 

解散となり、部員たちは思い思い行動している。

 

更衣室へ行って着替える人、昼食を買いに行く人、他校の演奏を聞きに行く人、真っ先に『ナックルの店』へ向かう人……。

 

えっ? 俺?

 

俺はもちろん、堀田先輩に強引に……とはならなかった。

 

先生方に混じって楽器の積み込みだ。

 

嫌な予感はしていたが、まさか本当に積み込み手伝わされるとはね……。

 

とはいえ、先に到着していただけで、何もしていないのだから、これぐらい当然だろう。良い演奏を聴かせてもらったんだし。

 

どちらかと言えば、到着して早々に手伝わされている、坂部さんや橋本さんの方が気の毒だ。

 

「滝クン。来て早々これはないよね?」

 

「仕方ないでしょう。遅れたあなたが悪いんです」

 

「遅れたのはボクが悪い訳じゃないんだけど……」

 

「一緒です。早く出れば良かったのですから」

 

気の毒だけど、口より手を動かしてほしい……。

 

「橋本先生、パーカス先に載せないと何も積めませんよ」

 

希美(のぞみ)ちゃん、ボクに厳しいよね」

 

「何言ってるんですか。そもそも私がトラックの上って、逆でしょう?」

 

そう。

 

今トラック上で作業しているのは、傘木さんと坂部さん。

 

しかも、傘木さんはロングスカートなんだけど……。

 

「まあ、橋本先生のことだから、いやらしいこと考えてるんだろうけど」

 

「み、見るわけないだろ。そんなことしたら、旦那に殺される」

 

「まだ旦那じゃありません」

 

お喋りが多いな……。

 

「口より手を動かせ、手を」

 

松本先生に怒られてる。

 

「あ、先生今度の昼の部チケット取れましたよ」

 

「ほ、本当か?」

 

あれ、松本先生顔色が変わったぞ。

 

「はい。偶々(たまたま)S席が格安で入手出来ました。後で差し上げます」

 

「いつもすまない」

 

今の坂部さんとのやり取りに、俺は頭に?を浮かべる。

 

「松本先生、宝塚の大ファンなの」

 

その疑問を解決してくれたのは、高坂さんだ。

 

「そうなんですか」

 

普段見ることのない顔だった。

 

松本先生の意外な一面を知った気分。

 

 

 

積み込み終了。

 

「皆さん、お疲れ様でした。坂部先生、橋本先生、高坂先生、それから傘木さん、今日はありがとうございます」

 

滝先生から。

 

「トラブルこそありましたが、問題なく終われて良かったです」

 

「滝クンもお疲れ!」

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様でした」

 

「皆さんお疲れ様でした。それでは失礼します」

 

坂部さんと高坂さんが帰って行く。

 

そういえば、この二人って結局楽器の積み込みしかやってないよね?

 

何か気の毒だな……。

 

「じゃあ、ボクもナックルのところに顔出して帰るわ」

 

橋本さんも、楽器の積み込みだけか。

 

しかし、この人の場合不思議と気の毒とは思わない。何故だろう。

 

 

「金山くん、お疲れ様」

 

「あ、傘木さん。お疲れ様でした。演奏間に合わなくて残念でしたね……」

 

 

傘木さんも、楽器の積み込みだけだった。

 

「仕方ないよ。こんなこともあるよね。演奏どうだった?」

 

「素晴らしい演奏だったと思います。立華よりも目立ってましたよ」

 

「それなら良かった。あ、そろそろ行くね。堀田さん達によろしく」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと、集合時間になって、部員と先生はバスに乗り、俺と園田先生は車で学校へ帰った。

 

そして、部員総出で楽器を下ろし、解散となった。

 

 

慌ただしかった、サンライズフェスティバルが終わった。

 

次にやって来るのは……。何だっけ?

 

 

 





多少強引に引っ張った感じがするかもしれませんが、サンフェスはこれにて終わりです。

吹奏楽部はこれからオーディション・コンクールに進んでいきますね。


今回もお読みいただきありがとうございます。

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