【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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1……入学・文芸同好会へ
1-1……北宇治高校へようこそ!


 

俺……金山(かなやま) はるかは、今年の春、京都府立北宇治高等学校に入学した。

 

北宇治を選んだ理由は、至ってシンプル。

 

『知り合いがいる』のと『家の真ん前にある』からだ。

 

家から校門までの距離より、校門から教室までの距離の方が長い……。

 

 

 

入学式の日。適当な時間に家を出る。

 

校門をくぐると、すぐのところにある階段に、吹奏楽部が並んでいた。

 

俺は吹奏楽に詳しくないが、……確か去年の成績は、関西大会出場だったはず。

 

何か演奏するんだろう。

 

足を止めるが、まだ始まる気配はない。準備中のようだ。

 

中には、通り過ぎて行く新入生に手を振る人もいる。

 

「あ、鳴海(なるみ)先輩だ」

 

寺本(てらもと)先輩だよ」

 

恐らく中学でも付き合いのある先輩なんだろう。

 

一年生も、何人か手を振り返したり、会釈している。

 

そう言う俺も、ちらほら知っている顔を見つけた。

 

とはいえ、吹奏楽部に関わりは無かったから、一方的に顔を知っているだけ。

 

「新入生の皆さん。北宇治高等学校へようこそ! 吹奏楽部から皆さんへの入学祝いに、演奏をプレゼントします!」

 

そうこうしている間に演奏が始まった。

 

指揮をしているのは、かなり美人の先輩。贔屓ではなく、誰が見ても美人と言うだろう……。

 

制服のリボンから察するところ、三年生。部長だろうか。

 

「すげー美人」

 

堀田(ほりた)先輩だぁ」

 

「えっ? あの人部長?」

 

ちらほら聞こえてくる。

 

演奏はというと……なるほど。

 

シロウトである俺にも分かる。少なくとも下手ではない。流石関西大会出場。

 

あっという間に一曲終わる。聞き惚れてしまった。

 

 

 

 

「はるかじゃん、こんな所でどうしたの?」

 

後ろからよく知ってる声が掛かり、我に返る。

 

跳ねるように振り向く。

 

「梓かよ。びっくりした」

 

小牧 梓(こまきあずさ)。同じ中学出身だ。

 

「驚きすぎ。どうしたの?」

 

「いやあ、上手いなって思って。聞き惚れてた」

 

「聞き惚れちゃう子が出るくらいには上手い演奏だよね。昔、入学式の日にここで演奏していた吹奏楽部の下手な演奏聞いて、『ダメだこりゃ』って呟く一年生が居たって。北宇治七不思議 の一つなんだよね」

 

七不思議?

 

「でもまあ、今の北宇治は上手いよ。強豪校だからね」

 

強豪校か……。

 

「2015年に、新しく顧問になった滝 昇(たきのぼる)先生の指導で、およそ10年振りに全国大会に出場したの」

 

おいおい。その2015年ですら、今から10年以上前だぞ……。

 

しかし、その滝 昇先生は、凄い指導者なんだろう……。

 

「そのあと、2017年から3年連続全国大会出場」

 

「3年連続? それは凄いのか?」

 

「もちろん!」

 

梓が目を輝かせながら喋っている……。珍しい。

 

「『3出』があった頃なら、その翌年は大会に出場出来なかったんだよ! まあ、3出はもう廃止されたけどね」

 

『3出』……。なにそれ?

 

「昨年は関西大会銀賞で、一昨年は全国大会で銀賞。ちょっと落ちてきてる感じがあるけど、今年は大丈夫よ! 滝先生が戻ってきたからね! それで……」

 

「梓。ちょっと待って!」

 

一方的に捲し立てられてもついていけない。

 

「何よ?」

 

話を止められたからか、梓は少し不機嫌そうだ。

 

「えっと、『3出』だっけ? どういう意味なの?」

 

それが分からないと話が読めない気がする。

 

「3出はね。『3年連続出場制度』の略で……。あ……」

 

梓が、俺の後方を見て話すのを止めた。

 

後ろに何が? 振り向こうとした瞬間、

 

「よっ! はるか元気か?」

 

強引に肩を組まれた。

 

(たくみ)かよ……。驚かせやがって」

 

富士松 工(ふじまつたくみ)。こいつも同じ中学出身だ。

 

「おはよー小牧さん」

 

「おはよう。相変わらず元気ね」

 

「それじゃあ体育館行こうぜ」

 

演奏まだ続いているんだけど。

 

まあいいか。また聞く機会はあるだろう。

 

しかし、このまま行く気か?

 

(たくみ)、このままじゃ歩きにくい。離れてくれんか」

 

そう言いながら、多少強引に(たくみ)を外す。

 

そして三人で体育館へ向けて歩き出す。

 

 

 

「小牧さんは吹部入んの?」

 

「そう言う富士松くんは、陸上部入るのよね?」

 

梓は俺と知り合った頃には既に、トランペットを吹いていた。

 

腕はかなりのものだ。

 

(たくみ)は中学から陸上部で、足は遅いが、高跳び 槍投げなどの種目で良い成績を残している。

 

この二人はそれぞれ、吹奏楽部 陸上部で決まりだろう。

 

「「はるかは?」」

 

お。梓と(たくみ)の声が揃った。

 

って、感動してる場合じゃないな。俺に話を振られたんだから……。

 

「俺は……まあ、有ったらそこに入るよ」

 

有る学校の方が少ない部活だからな……。まだ内緒だ。

 

「えっ? 何それ、教えろよ」

 

そこに食いつくな。

 

「無かったら恥ずかしいから内緒。てか歩けなくなるから肩組むな」

 

「はるかが隠し事って生意気ね。教えなさいよ」

 

梓、お前もか。

 

「だから内緒だって。後で教えるから……。梓お前まで肩組むな。首折れる!」

 

因みに、身長は工>俺>梓の順だ。

 

工と梓、両方から引っ張られている状態だ。痛いんだって!

 

体育館までの道程が遠い……。本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梓、さっき聞きそびれたけど、『3年連続出場制度』だっけか? それどういう意味だ?」

 

首が折れる前に、2人を引き剥がす。

 

そもそも、3人で肩を組んでいたら目立って仕方無い。

 

「3年連続出場制度、略して3出。簡単に言うと、『連続出場できるほどの強豪校が枠を占領してしまうと、他の学校が全国大会へ出場する機会を失う』から、『3年連続で全国大会に出場した場合、その翌年は大会に出ることができない』という制度なの。多くの学校に全国を経験してもらいたいからって」

 

なるほど。しかし、これって。

 

「先輩方の栄冠が、大会出場の機会を奪うんじゃ?」

 

「その通り。それも問題視されてね。先輩の頑張りが、罪無き後輩を苦しめるって。結局廃止されたのよ」

 

「はるか。吹部に入るつもりなのか?」

 

梓と吹奏楽部の話をしているからか、(たくみ)にそう言われた。

 

「いや。吹奏楽部には入らないよ」

 

「じゃあ何部に入るんだ?」

 

「だからまだ内緒だって!」

 

体育館の前に来ると、一カ所に人(だか)りが出来ている。

 

「あ、クラス分け名簿が貼り出されてるみたいだぞ」

 

「お、本当だ」

 

「先行くね」

 

(たくみ)と梓は我先にとその人集りへ向かっていく。

 

なんとか誤魔化せたな……。

 

 

 

 

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