【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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4-2……金山相談所

 

ん?

 

部室の前に誰か居る。

 

防音室か……こんな時間から?

 

それに、室内に先生が居るならば、外で待つのも不自然。居ない?

 

鍵を借りに引き返そうと思ったが、部屋の前に居るのが誰か分かり、そのまま向かう。

 

 

 

 

「お。来た来た」

 

「何してるんですか? 滝野先生」

 

「加納に呼ばれた」

 

「私が呼んだ」

 

「加納先輩も、こんな所で何してるんですか?」

 

部室の前に立っていたのは、滝野先生と加納先輩だ。話しぶりからして、俺を待っていたらしい。

 

滝野先生の手には、電動ドライバー……。

 

ふと扉の方を見ると、部室の扉の横に、看板のようなものがぶら下げられているのに気づいた。昨日まで無かったぞ。

 

「何ですか、これ?」

 

「書いてあるとおり、『金山相談所(かなやまそうだんじょ)』」

 

加納先輩はさも当たり前のように言い放つ。

 

ホームセンターで売っている、大きいプラスチックの板に、『黄前(おうまえ)相談所』と書かれている。

 

その『黄前』の部分に取消線が引かれ、横に『金山』と書いてある。

 

「相談所が何かも気になりますけど、この『黄前』って誰ですか?」

 

再利用なのか、使い回しなのか……。

 

「知らない。音楽準備室の片隅に置いてあったから、使えると思って」

 

「滝野先生、何か知ってるんですか?」

 

先生は隣で俺たちのやり取りを笑って見ている。

 

「さて?」

 

何か隠してる。

 

「そういえば、一つ下の後輩に黄前って名前の奴がいたな……」

 

「知ってるんですね?」

 

「いやいや、俺接点無かったし。名前覚えてるだけだよ」

 

これは本当だろう。

 

この間、傘木さんが言っていたことから察した。

 

 

 

「ところで。相談所って何をすれば良いんですか?」

 

こうなったら乗りかかった船だ。今更降りる気にはなれない。

 

相当な無茶振りでなければ、頼まれたことは引き受けよう……。

 

「基本、今まで通りで大丈夫だよ。防音室を貸してもらうのと、大会の時の楽器運搬とか?」

 

とか、って。そう曖昧(あいまい)に言われると、無限に増えるから怖いんだけど。

 

「それと、今回みたいにテスト前に勉強手伝ってもらったり。場所貸してもらうのも含めて」

 

まあ、今と大して変わらないか。

 

「分かりました。改めてまして、これからもよろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ。頑張って全国行ってくるからね」

 

流石北宇治の部長。頼もしいな……。

 

さて。それでは俺が考えていることを、この部長さんにお話するとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「加納先輩、実は折り入って相談があるんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンライズフェスティバルが終わっても、文芸同好会の部室である 図書館閉架書庫室(としょかんへいかしょこしつ)の防音室は、連日満員となっている。

 

コンクールのオーディションが近いため、吹奏楽部が使っているからだ。

 

今までは、音出しが出来なくなる18時から予約を受けていたが、個人練に使いたい人もいるため、20分前倒しした。

 

また、日没が遅くなっていることから、学校から19時40分までの使用許可が出たので、1日6件まで受け付けている。

 

 

今日もその時間がやって来た……。

 

 

 

 

 

 

「失礼します。防音室借りますよ」

 

「失礼します。金山(かなやま)、よろしく」

 

18時少し前、野間(のま)先輩と白沢(しらさわ)先輩が現れた。

 

「はい。えっと、もうじき堀田(ほりた)先輩が出てくると思いますので……」

 

今日は最初に堀田先輩が予約している。

 

「そっか。明日はあがた祭りだから合奏練習だけなんで、自主練してるんだよ。先輩は」

 

あがた祭り? あ、もうそんな時期か。

 

(たき)先生も見回りに行くので、練習を早めに切り上げるそうです」

 

あがた祭りか。

 

去年はゆうきが熱だしたから行ってない。

 

今年はどうするかな……。

 

「お待たせ~」

 

堀田先輩が出てきた。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れさん」

 

入れ替わりに、二人が入ってゆく。

 

「今日園田(そのだ)先生は?」

 

堀田先輩はまだ部室に残っている。

 

先生に用があるのか。

 

「用事があるって、先に帰りました」

 

俺が来るのを待っていたようで、すぐ飛び出していった。

 

「そう……」

 

「どうしました?」

 

先輩の様子が変だ。

 

「明日あがた祭りだよね」

 

さっき話していたのが、聞こえていたのだろうか?

 

「そのようですね」

 

俺は言われるまで忘れていたけど。

 

「行く?」

 

「まだ未定です。それに、防音室の予約対応があるので、行くとしても遅い時間からですね」

 

予約表を眺める。明日も予約は一杯だ。

 

「そんな時間から行っても、遅くなっちゃいますからね……」

 

「そっか……。だよね」

 

「どうしました?」

 

「いや、一緒に行きたいなって、思ってたんだけど。残念」

 

「一緒に……? 誰とですか?」

 

「はるかと」

 

先輩が俺と? マジで……。

 

「ごめんね。沙也(さや)誘ってみるね」

 

「あ、明日最後の予約、加納(かのう)先輩ですよ」

 

「えっ? そ、そっか……。えっ? 沙也が?」

 

「はい」

 

『ペット加納』という文字。加納先輩だろう。

 

その前には『ファゴットW水野(ダブルみずの)』と。

 

「どうしました?」

 

本日三度目……。堀田先輩どうしちゃったの?

 

「ううん。何でもないよ。ごめんね、今日は帰るね」

 

言うが早い。

 

慌てるように部室を出て行った。

 

 

なんだったんだ?

 

 

 

 

 

 

今日も最後まで予約で一杯。

 

予約対応を任されているのと、部屋の施錠(せじょう)をしなければならないため、防音室の貸し出しが終わるまでは、俺か園田先生が在室していることになっている。

 

先生が残ってくれる日もあるが、執筆(しっぴつ)する関係で、俺の方が多い。

 

集中して取り組めれば良いんだけど、20分毎に人の出入りがあるからそうもいかない。

 

流石に毎日こうだと疲れる……。

 

 

まあ、頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャイムが鳴る。

 

「はい。それじゃあ今日はここまで」

 

「起立。礼」

 

「ありがとうございました」

 

四限目、日本史の授業が終わった。

 

今日はあがた祭りだ。

 

あと、五・六限が終われば、殆どの生徒が行くのだろう。

 

クラスでの話題は殆どがそれだ。

 

俺は、防音室の予約対応で、行く予定はない。

 

もし行くとしても、予約が全部片づいてからだから、20時近くなる。

 

そんな遅い時間から行ってもね……。

 

と、その前に昼休み。

 

 

 

 

 

 

さて、お昼ご飯の時間だ。

 

机に弁当箱を広げる。

 

『生徒の呼び出しをします』

 

突然、校内放送が流れ出した。

 

生徒の呼び出し? 誰か悪いことでもしたのだろうか。

 

『1年2組金山(かなやま)くん、至急職員室に来なさい。繰り返します。1年2組金山くん、至急職員室に来なさい』

 

って俺? なんで?

 

クラス中の視線が俺に集まった。

 

「なにしたの?」

 

後席の紅葉(くれは)から怪訝(けげん)そうな声が掛かる。

 

「いや、心当たりが無いんだけど。まあ、行ってくる」

 

広げたお弁当を畳み、席を立つ。

 

なにがあった……?

 

 

 

 

廊下で、(たくみ)(あずさ)にも同じように声を掛けられたが、呼び出された理由に、全く心当たりが無い。

 

教室の前を通る度、俺を知っている吹奏楽部の面々が、俺を見ている。

 

もはや公開処刑じゃないか……。

 

急ごう。

 

『職員室』

 

毎日のように来ているが、普段とは比にならないほど緊張している。

 

扉に手をかけ、ゆっくり開ける。

 

「失礼します……」

 

「あ、来た」

 

「待ってました」

 

「は? なんで?」

 

園田(そのだ)先生のところに、堀田(ほりた)先輩と菜穂子(なおこ)が居る。

 

「金山くん、こっちよ」

 

先生が呼んでいるので三人が居るところまで歩いてゆく。まさか、呼び出したのこの人たち?

 

「ごめんね、急に呼び出したりして……。驚いたよね」

 

「驚いたってレベルではありません……。教室の前を通る度に、吹奏楽部の先輩方から好奇の目で見られましたよ」

 

「ごめんなさい、はるか」

 

「い、いや、先輩は悪くないですよ。というか、この場合誰も悪くないと思います」

 

校内放送で個人が名指しで呼び出されれば、誰であっても注目されてしまうだろう。

 

人の不幸はなんとか……って言うし。それが不幸とは限らないけど。

 

「優しいのね、金山くん」

 

「それより、俺を呼び出した理由はなんですか?」

 

茶番劇を見せるためではないだろ?

 

「その件ね。今日の夜、あがた祭りがあるのは知ってるよね」

 

「はい」

 

「その関係で、防音室の貸し出しに変更が生じたのよ」

 

変更……?

 

「一番最後の加納(かのう)さんは、予約取消」

 

「それと、他の人の予約対応は私がするから、はるかは堀田先輩と加納先輩と一緒にあがた祭り行ってきてね」

 

は? 何でそうなる。

 

「どうして菜穂子が予約対応を?」

 

「副部長だから」

 

「肩書き与えただけだと思ってましたが?」

 

「いいじゃん。はるか、祭りに行くことが嫌なの?」

 

嫌な訳無いでしょう。

 

吹奏楽部のマドンナに部長ですよ。両手に花。盆と正月が一遍にやって来るのと同じ。

 

「お姉ちゃんに任せなさ~い」

 

姉じゃないだろ。

 

「菜穂子を姉と思ったことはありません」

 

「酷いなぁ。一度くらいはあるでしょ?」

 

「妹と思ったことなら」

 

「もっと酷い」

 

「面白いね……」

 

ほれ見ろ。堀田先輩笑ってるよ。

 

「でも、何で俺が先輩方と?」

 

「私がはるかと一緒に行きたい、って理由じゃあ駄目かな?」

 

そんな目で見られたら……。

 

元々、予約対応の心配が無ければ断るつもりはなかったけど。

 

「分かりました。一緒に行きましょう」

 

「じゃあ、京阪宇治駅待ち合わせね」

 

「はい。承知しました」

 

京阪宇治駅か。JR宇治駅と間違えないように……。

 

 

 

 

因みに、京阪宇治駅とJR宇治駅は、宇治川を挟んで徒歩10分の距離がある。

 

しかし、京阪の駅の上をJRの線路が通っていて、少し変わった位置関係だ。

 

 

 

 

 

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