【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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4-4……いよいよ明後日

 

テストは二日にかけて返却された。

 

昨日は、数学の授業は無かったので、それ以外の4教科。

 

今日は、一限目で数学のテストが返ってきた。

 

それと同時にテスト結果の『学年順位(暫定(ざんてい))』が書かれた紙も渡される。

 

順位が暫定なのは、返却されたテストの採点ミスなどによる点数変動で、順位が変わるからだ。

 

当然、採点は人間がやる仕事なので、ミスは起き得る。

 

俺も、数学のテストで採点ミスを見つけたので、2点減点された。まあ、これは仕方ない。

 

確定順位は後日配布されるとのこと。

 

 

 

「金山くん、どうだったの?」

 

順位が書かれた紙を眺めていると、後席の紅葉(くれは)から声が掛かった。

 

「クラス2位、学年8位だって」

 

我ながら上出来だ。

 

「流石金山くん」

 

紅葉(くれは)は拍手してくる。

 

しかし、大して驚いている感じはない。

 

同じ中学だし、それ故の出会い方だったから、知ってて当然だろう。

 

「席が成績順じゃなくて良かったよ。中一の時みたいなことにならなくて……」

 

中一の時の担任は、席替えを成績順で行っていた。

 

それで、俺の後ろに紅葉(くれは)が来て、背は低いし目も悪いから、前に背の高い俺がいると、黒板が見えなかった。

 

なので、担任に事情を話して、席を交代した。

 

今思えば、あれが俺と紅葉(くれは)が知り合ったきっかけだったな……。

 

 

 

紅葉(くれは)は?」

 

「クラス8位」

 

流石。一夜漬けの賜物(たまもの)か。

 

これで普段からこうなら良いんだけどな。

 

今、同じテストを受けたら、結果は雲泥(うんでい)の差となるだろう。

 

「学年は?」

 

「言わなきゃ駄目?」

 

「俺は言ったんだぞ」

 

渋るような結果なのか。

 

「38位……」

 

確かに渋りたい。

 

「進学クラス強し、か……」

 

進学クラス40人の壁は高い。

 

普通のクラスで上位に立つと、『進学クラスの打倒目標』と言われたりするらしい。

 

しかし、普通のクラスで上位でも、進学クラスを混ぜた順位では下がってしまうことも多い。

 

つまり、進学クラスは平均点が高いということ。

 

「そういえば、オーディション。もうすぐだっけ?」

 

「うん、明日から。金管とパーカスが先で、木管は明後日」

 

「じゃあ、明日がオーディションなのか」

 

「私は明後日だよ」

 

「何で? フルートって金属製だよな? 金管じゃないの?」

 

「金山くん、フルートは金属製だけど木管楽器だよ」

 

マジか。

 

「金管と木管の区別が難しいな。よく分からない」

 

あ、紅葉(くれは)の目の色が変わった……。

 

「それじゃあ、木管と金管の違いを教えてあげようか」

 

メガネの縁が一瞬光ったぞ……。

 

 

 

その後、休み時間と昼休み中、違いについての説明をひたすら聞かされた……。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

明日からオーディションということで、吹奏楽部員たちの間にも、ピリピリした空気が漂っている。

 

俺は部室でパソコンとにらめっこしている訳だが、窓の外から聞こえる楽器の音に、集中が途切れてしまう。

 

この音は、加納先輩だろうか?

 

そういえば、加納先輩の演奏って、あがた祭りの日に大吉山で聞いたのが初めてだった。

 

高坂(こうさか)さん曰わく、『演奏は上手い。でも、更に上手い、プロ級の腕を持つのが、(あずさ)』だそう。

 

 

 

今年の課題曲は、誰もが知っているであろう『威風堂々(いふうどうどう)第一番』。

 

しかし、自由曲は『うさぎの駆ける道』。童話『ウサギとカメ』を題材にした曲らしい。

 

俺は曲名すら聞いたことがないが、この曲の難易度はかなり高い。そう堀田(ほりた)先輩が言っていた。

 

 

 

音が止まる。

 

詳しい内容は分からないが、一言二言交わした感じ。

 

お。トランペットの音に、他の楽器の音が加わった。

 

低い音……ユーフォニアムだろう。

 

と言っても、加納先輩と一緒にいるユーフォ奏者といえば、一人しかいない。

 

二人で練習しているようだ。

 

聞こえてくる曲は威風堂々ではないので、これが『うさぎの駆ける道』か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うさぎの駆ける道』と思われる曲を聞きながら、パソコンに向かって作業していたところ、窓の外から聞こえていた音が、突然止んだ。

 

手を止め、窓の方を見る。

 

何か話しているのは聞こえるが、会話の内容までは分からない。

 

見ているだけでは状況は変わらないと分かっていても、窓の方へ寄ろうとは思わなかった。

 

「……分からないじゃないですか!」

 

悲鳴に似た声が聞こえてきた。途中から文面も分かるくらい大きな声だ。

 

「……。だって……」

 

「諦めないで……」

 

言い争っているようにも聞こえる。

 

どういうことなんだ?

 

流石に気になってきたので、窓を開ける。

 

顔を出した途端……。

 

ゴツン!

 

「痛っ!」

 

「きゃっ!」

 

俺の頭に何かがぶつかった。

 

「なんなのよ、もう……」

 

下から声がする。

 

一瞬の出来事で、咄嗟(とっさ)に閉じていた目を開くと……。

 

窓の下に、尻餅をついた新川(あらかわ)先輩が居た。

 

「あ、新川先輩大丈夫ですか!」

 

そう言いながら、すぐに目線をそらす。

 

だって、見えてるんだもの。見てはいけないものが……。

 

そらした目線の先には、案の定堀田(ほりた)先輩と加納先輩が居た。

 

二人とも担当楽器を持っているから、さっき演奏していたのはこの二人だろう。

 

「えっと……えっ! 金山(かなやま)くん!」

 

新川先輩は、ぶつかった物の正体が、俺であることに気づくと大慌て。

 

「ごめんね。大丈夫? 怪我ない?」

 

「いや、俺よりも新川先輩大丈夫ですか? 尻餅ついたようですし……」

 

見えている状態に気づいたのか、更に慌てる。

 

「あー。いやいや、私のことは気にしないで……」

 

いつも思うんだけど、吹奏楽部の人たちって、俺のことになると、扱いというか、接し方が違うんだよな。

 

その筆頭が野間(のま)先輩だけど。

 

「金管は明後日オーディションですよね? 大事な時期ですから、怪我しないように気をつけてください。あ、熱中症にもよ」

 

この時期の京都は蒸し暑い。

 

だから、水分補給と適度な休息が大事だ。

 

「良ければ中来ますか? エアコン付いてますし……」

 

因みに、『付いている』は、設置されているという意味であり、動作している訳ではない。

 

俺一人のために付けるのも勿体ないし、普段は使っていない。

 

「あ……いや。いいよ。練習続けたいから」

 

「私も」

 

加納先輩と堀田先輩はそう言って練習を再開した。

 

「邪魔しちゃって悪かったね。私も遠慮しておくよ。ごめんね」

 

新川先輩も去っていった。

 

 

結局、何があったかは分からず仕舞だ。

 

俺が首を突っ込むような話ではないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉がノックされる。

 

「失礼します……。水野です」

 

水野……。アカネ先輩の方だ。

 

「お疲れ様です。えっと……」

 

時計を確認。

 

もうそんな時間か。

 

予約表には『W水野』。

 

「一人ですか?」

 

「もう少しで来ると思うけど……」

 

「先入ってますか?」

 

「……少し待ってて良い?」

 

「はい。じゃあ、椅子にでも……」

 

ファゴットを抱えたまま、アカネ先輩は椅子に座っている。

 

「いよいよ明後日がオーディションですね」

 

間が持ちそうに無いので、何とか話題を見つけ、振ってみる。

 

「そうね。今年は二人とも出れると良いんだけどね……」

 

二人とも?

 

どちらかが出ていないってことか。

 

だとしたら、どっちだろう。

 

確か、去年の大会の写真を見せてもらったとき、アカネ先輩は冬服だったが、佳介(けいすけ)先輩は夏服だったような気がする。

 

ということは……。

 

「佳介先輩、去年はオーディション落ちてたんですか?」

 

「うん。彼は昔から、コントラファゴット演奏してたのよ。でも、この学校には無いから、普通のファゴットに変えてね。リードも演奏方法も異なる部分が多いから、感覚が掴めなかったらしいの」

 

コントラファゴット?

 

なんだそれ……。って、目の前にパソコンあるじゃないか!

 

「それでオーディション。私は彼の演奏技術なら大丈夫だと思ってたけど、受からなかったの」

 

えっと。あった。これがコントラファゴットか。

 

「大きいんですね。うわっ、高い……」

 

普段見るものと桁が幾つか違う。

 

「高さは同じになるように巻いてあるのよ。……あ、値段の話? まあ、値段はメーカーによって違うからね」

 

そもそも、吹奏楽の楽器はどれも高いんだよね。

 

仮に、学校にある楽器全部売ったとしたら、中古になることを加味しても、家一軒買えるのでは……?

 

「奏者が居た記録はあるから、前は有ったらしいんだけど、今は無いんだって。まあ、ファゴット三人も必要ないっていうのが大きいのかな」

 

再び扉がノックされる。

 

「失礼します。あ、お待たせ」

 

水野佳介先輩だ。

 

「話付き合ってくれてありがとう!」

 

アカネ先輩は、佳介先輩と一緒に防音室の方へ入っていった。

 

 

 

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