【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
テストは二日にかけて返却された。
昨日は、数学の授業は無かったので、それ以外の4教科。
今日は、一限目で数学のテストが返ってきた。
それと同時にテスト結果の『学年順位(
順位が暫定なのは、返却されたテストの採点ミスなどによる点数変動で、順位が変わるからだ。
当然、採点は人間がやる仕事なので、ミスは起き得る。
俺も、数学のテストで採点ミスを見つけたので、2点減点された。まあ、これは仕方ない。
確定順位は後日配布されるとのこと。
「金山くん、どうだったの?」
順位が書かれた紙を眺めていると、後席の
「クラス2位、学年8位だって」
我ながら上出来だ。
「流石金山くん」
しかし、大して驚いている感じはない。
同じ中学だし、それ故の出会い方だったから、知ってて当然だろう。
「席が成績順じゃなくて良かったよ。中一の時みたいなことにならなくて……」
中一の時の担任は、席替えを成績順で行っていた。
それで、俺の後ろに
なので、担任に事情を話して、席を交代した。
今思えば、あれが俺と
「
「クラス8位」
流石。一夜漬けの
これで普段からこうなら良いんだけどな。
今、同じテストを受けたら、結果は
「学年は?」
「言わなきゃ駄目?」
「俺は言ったんだぞ」
渋るような結果なのか。
「38位……」
確かに渋りたい。
「進学クラス強し、か……」
進学クラス40人の壁は高い。
普通のクラスで上位に立つと、『進学クラスの打倒目標』と言われたりするらしい。
しかし、普通のクラスで上位でも、進学クラスを混ぜた順位では下がってしまうことも多い。
つまり、進学クラスは平均点が高いということ。
「そういえば、オーディション。もうすぐだっけ?」
「うん、明日から。金管とパーカスが先で、木管は明後日」
「じゃあ、明日がオーディションなのか」
「私は明後日だよ」
「何で? フルートって金属製だよな? 金管じゃないの?」
「金山くん、フルートは金属製だけど木管楽器だよ」
マジか。
「金管と木管の区別が難しいな。よく分からない」
あ、
「それじゃあ、木管と金管の違いを教えてあげようか」
メガネの縁が一瞬光ったぞ……。
その後、休み時間と昼休み中、違いについての説明をひたすら聞かされた……。
放課後。
明日からオーディションということで、吹奏楽部員たちの間にも、ピリピリした空気が漂っている。
俺は部室でパソコンとにらめっこしている訳だが、窓の外から聞こえる楽器の音に、集中が途切れてしまう。
この音は、加納先輩だろうか?
そういえば、加納先輩の演奏って、あがた祭りの日に大吉山で聞いたのが初めてだった。
今年の課題曲は、誰もが知っているであろう『
しかし、自由曲は『うさぎの駆ける道』。童話『ウサギとカメ』を題材にした曲らしい。
俺は曲名すら聞いたことがないが、この曲の難易度はかなり高い。そう
音が止まる。
詳しい内容は分からないが、一言二言交わした感じ。
お。トランペットの音に、他の楽器の音が加わった。
低い音……ユーフォニアムだろう。
と言っても、加納先輩と一緒にいるユーフォ奏者といえば、一人しかいない。
二人で練習しているようだ。
聞こえてくる曲は威風堂々ではないので、これが『うさぎの駆ける道』か……。
『うさぎの駆ける道』と思われる曲を聞きながら、パソコンに向かって作業していたところ、窓の外から聞こえていた音が、突然止んだ。
手を止め、窓の方を見る。
何か話しているのは聞こえるが、会話の内容までは分からない。
見ているだけでは状況は変わらないと分かっていても、窓の方へ寄ろうとは思わなかった。
「……分からないじゃないですか!」
悲鳴に似た声が聞こえてきた。途中から文面も分かるくらい大きな声だ。
「……。だって……」
「諦めないで……」
言い争っているようにも聞こえる。
どういうことなんだ?
流石に気になってきたので、窓を開ける。
顔を出した途端……。
ゴツン!
「痛っ!」
「きゃっ!」
俺の頭に何かがぶつかった。
「なんなのよ、もう……」
下から声がする。
一瞬の出来事で、
窓の下に、尻餅をついた
「あ、新川先輩大丈夫ですか!」
そう言いながら、すぐに目線をそらす。
だって、見えてるんだもの。見てはいけないものが……。
そらした目線の先には、案の定
二人とも担当楽器を持っているから、さっき演奏していたのはこの二人だろう。
「えっと……えっ!
新川先輩は、ぶつかった物の正体が、俺であることに気づくと大慌て。
「ごめんね。大丈夫? 怪我ない?」
「いや、俺よりも新川先輩大丈夫ですか? 尻餅ついたようですし……」
見えている状態に気づいたのか、更に慌てる。
「あー。いやいや、私のことは気にしないで……」
いつも思うんだけど、吹奏楽部の人たちって、俺のことになると、扱いというか、接し方が違うんだよな。
その筆頭が
「金管は明後日オーディションですよね? 大事な時期ですから、怪我しないように気をつけてください。あ、熱中症にもよ」
この時期の京都は蒸し暑い。
だから、水分補給と適度な休息が大事だ。
「良ければ中来ますか? エアコン付いてますし……」
因みに、『付いている』は、設置されているという意味であり、動作している訳ではない。
俺一人のために付けるのも勿体ないし、普段は使っていない。
「あ……いや。いいよ。練習続けたいから」
「私も」
加納先輩と堀田先輩はそう言って練習を再開した。
「邪魔しちゃって悪かったね。私も遠慮しておくよ。ごめんね」
新川先輩も去っていった。
結局、何があったかは分からず仕舞だ。
俺が首を突っ込むような話ではないだろう……。
扉がノックされる。
「失礼します……。水野です」
水野……。アカネ先輩の方だ。
「お疲れ様です。えっと……」
時計を確認。
もうそんな時間か。
予約表には『W水野』。
「一人ですか?」
「もう少しで来ると思うけど……」
「先入ってますか?」
「……少し待ってて良い?」
「はい。じゃあ、椅子にでも……」
ファゴットを抱えたまま、アカネ先輩は椅子に座っている。
「いよいよ明後日がオーディションですね」
間が持ちそうに無いので、何とか話題を見つけ、振ってみる。
「そうね。今年は二人とも出れると良いんだけどね……」
二人とも?
どちらかが出ていないってことか。
だとしたら、どっちだろう。
確か、去年の大会の写真を見せてもらったとき、アカネ先輩は冬服だったが、
ということは……。
「佳介先輩、去年はオーディション落ちてたんですか?」
「うん。彼は昔から、コントラファゴット演奏してたのよ。でも、この学校には無いから、普通のファゴットに変えてね。リードも演奏方法も異なる部分が多いから、感覚が掴めなかったらしいの」
コントラファゴット?
なんだそれ……。って、目の前にパソコンあるじゃないか!
「それでオーディション。私は彼の演奏技術なら大丈夫だと思ってたけど、受からなかったの」
えっと。あった。これがコントラファゴットか。
「大きいんですね。うわっ、高い……」
普段見るものと桁が幾つか違う。
「高さは同じになるように巻いてあるのよ。……あ、値段の話? まあ、値段はメーカーによって違うからね」
そもそも、吹奏楽の楽器はどれも高いんだよね。
仮に、学校にある楽器全部売ったとしたら、中古になることを加味しても、家一軒買えるのでは……?
「奏者が居た記録はあるから、前は有ったらしいんだけど、今は無いんだって。まあ、ファゴット三人も必要ないっていうのが大きいのかな」
再び扉がノックされる。
「失礼します。あ、お待たせ」
水野佳介先輩だ。
「話付き合ってくれてありがとう!」
アカネ先輩は、佳介先輩と一緒に防音室の方へ入っていった。