【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
オーディション1日目。
今日は金管とパーカッション。
なので、今日の防音室利用は、明日にオーディションを控えている木管の人が殆どだ。
「失礼します」
扉がノックされ、開く。
「お初です。低音パートの
「あ、文芸同好会の金山です」
突然の自己紹介に驚いたが、こちらも挨拶する。
「えっと……」
彼は扉を押さえながら、手ぶらで立っている。楽器はどうしたのだろう?
「あ、この扉全開にならないんですね……。押さえてもらって良いですか?」
さっきから、しきりに扉を動かしていると思ったら、それを確認していたのか。
「はい。ちょっと待っててください」
扉を押さえて欲しいって……。
何故だろう? そう思いながらも扉へ向かう。
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます。よいしょっと」
扉を押さえると、何か大きい物を抱えて入ってきた。
大きい。人の背丈ぐらいありそうだ。
「ヴァイオリン……じゃないですよね」
「はい。これはコントラバスという楽器です。略してコンバス」
吹奏楽に紛れ込む唯一の弦楽器。それがコントラバス。
そう
「それでは防音室お借りしますね」
そう言いながら、防音室の方へ入っていった。
日比野先輩、背は俺より少し低いぐらいだけど、コンバスより小さく見えた……。
コンバスが大きいのか。
「失礼します」
ノックされ、扉が開く。
声で誰が入ってきたのか分かった。
予約表通りなら、彼女一人のはず。
「お疲れ。もうすぐ日比野先輩出てくるから」
だから、パソコンに向かったまま声を掛けた。
ちょうど良いところで、手を止めたくなかったからだ。
しかし、その手は止めることになった。
近づいてくる足音が、俺の隣で止まったからだ。
顔を上げると、左隣に
「どうしたの?」
問いかけるも返事がない。
ただ無言で、右手に持っている紙を差し出してきた。
「何……これ!」
『清水
「どうしたの、これ?」
「私も入りたい。文芸同好会に」
「それは嬉しいけど……何で?」
「
いつになく、まじめな表情で淡々と喋っている。
「でもあいつら名前だけで、こっちでは活動してないよ」
あくまで、部の存続のために人数が必要だったから、協力してもらっただけ。
「それは分かってる。でも、嫌なの。覚えてる? 4月のこと」
4月……。仲間外れ……。
思い出した。昼休みの中庭でお昼ご飯にした日だ。
「あの時か……。今更かもしれないけど、ごめん」
あの時、
「もう
「それって……。知ってたの?」
「やっぱり。あの『グリーンスリーブス』はそういう意味だったのか」
入部して少し経った頃、梓と
『何であの曲なのかは知らない。ただ、
梓はそう言っていた。
『グリーンスリーブス。
そして、中二の時に
つまり、あれは俺に対するメッセージだったんだ……。
「許すも何も。私はみんな一緒に仲良くできれば良いだけだから」
これ、遠回しに『許さない』って言ってるんじゃないだろうか……。
「その代わり、今月最後の日曜日に、一緒に行って欲しいところがあるの。それに付き合って」
一体
怖いけれど、今の俺に拒否権は無い。
「いいよ。何処へ行くの?」
「それは当日ね。今は内緒」
内緒か……。
「分かった。じゃあ、時間とか集合場所決まったら教えて……」
「オッケー。あ、日比野先輩」
「お待たせしました」
日比野先輩が出てきた。
やっぱり、コンバスの方が大きいよな。
抱えながら持ってきたのだが、逆に抱えられているように見える。
「それじゃあね」
先輩はカーテンのところに立ったままだ。
あ、扉を開けないと出れないんだっけ。
「今開けますね」
扉のところへ駆け寄る。
先輩、笑ってる?
もしかして、聞こえてた?
扉を開く。
「失礼しました」
部屋を出ていった。
廊下に出て、見えなくなるまで見送ったけれど、やっぱりコンバスに先輩が抱えられているように見える……。