【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

3 / 90
1-2……いいクラスだと思う

 

体育館での入学式が終わると、各教室に移動。

 

俺は、(あずさ)  (たくみ)とも違うクラスになった。

 

北中は南宇治高校に進学する人が多いものの、知っている顔は少なくない。

 

5~6人といったところか。

 

「はーい。みんな、席に着いてね」

 

先生が入ってきた。一瞬、私服姿の先輩でも来たのかと思った……。

 

「私はこのクラスを受け持つことになりました。西尾 千夏(にしおちなつ)といいます」

 

若い。美人とはちょっと違う。可愛いと言った方が良いのだろう。

 

そんな感じの先生だ。

 

「先生について質問ある人いる?」

 

そう言って西尾先生は教室を見渡す。

 

誰も何も言わない。緊張しているのだろう。俺とて同じ。

 

「あ、担当科目は体育です。と言っても男女別だから関わるのは女の子の方だね。でも困ったことがあったら何でも聞いてね。因みに、部活動は陸上部の顧問です」

 

陸上部か。工が喜びそうだ。

 

「それじゃあ自己紹介から始めよっか。その場で良いから。まずは……赤池 秀夫(あかいけひでお)くん」

 

オーソドックスに出席番号の若い方から始まった。

 

因みに、出席番号は男女混合だ。(ある程度)平等に呼ばれる。

 

「はい」

 

返事と共に立ち上がったが、彼は何も言わない。というよりは言えないのだろう。

 

「名前・出身中学・部活動辺りかな。言って欲しいのは」

 

それ、先に言わないと。

 

「はい。あ、赤池 秀夫です。南中です。部活はテニス部でした。テニス部に入部する予定です。えっと、よろしくお願いします」

 

拍手が起こる。

 

トップバッターは大変だろう。お疲れ。

 

「はい。ありがとう。次……」

 

そうか。自己紹介で部活動言わなきゃいけないのか。

 

何て言えばいいのだろうか。

 

中学の頃は帰宅部同然だった訳だが、だからと言って帰宅部と言うわけにもいかないだろう……。

 

「次、金山(かなやま) はるかさん」

 

考えていると、あっという間に順番が回ってきた。

 

ん? 『はるかさん』って呼ばれた?

 

「はい」

 

返事をして立ち上がる。

 

……やっぱりそうか。

 

先生の顔を見て分かった。同じような顔を見慣れている。

 

「北中出身、金山 はるかです。はるか という名前ですが、男です。以後、お見知り置きを……」

 

座る。

 

先生のお陰でなんとか誤魔化せたみたいだ……。

 

「えっと……ごめんなさい。以後気を付けます……」

 

先生、泣きそうな顔しないで! 嫌味のつもりは無いんです。

 

「えっと……次、清水(しみず) 紅葉(もみじ)さん」

 

「先生、それで『くれは』と読みます」

 

あちゃー。間違いが二人続いちゃったよ。

 

「ごめんなさい! 以後気を付けますから……」

 

これ下手すると本当に泣くぞ……。

 

「清水 紅葉(くれは)です。北中出身、吹奏楽部でした。吹奏楽部に入部する予定です。よろしくお願いします」

 

吹奏楽部か。

 

清水 紅葉(くれは)ってフルートだよな……。(あずさ)からそう聞いた記憶がある。

 

「ありがとう。次は……清水 正樹(しみずまさき)くん」

 

おいおい。先生まだ涙目なんだけど……。

 

「はい。清水 正樹です。北中出身です」

 

おや、彼も北中か。

 

「部活は陸上部でした。これからも続ける予定です。よろしくお願いします」

 

陸上部の清水……。

 

同じ中学とはいえ知らない。ごめんなさい。

 

「陸上部かあ。因みに種目は?」

 

お、先生嬉しそうだな。

 

「短距離です」

 

「短距離人数少ないから大歓迎だよ」

 

先生の機嫌が直った。

 

さっきまで泣きそうだったのが嘘のようだ。

 

 

 

 

 

 

「はい。みんなありがとう。このメンバーで一年頑張りましょう」

 

全員の自己紹介が終わった。

 

「それじゃあ、ちょっと気が早いけど、入部届と部活動一覧を配布します。明日の五限と六限で部活動紹介あるから、それも参考に部活動決めてください。詳細は明日説明するね」

 

お。早速きた。

 

渡された一覧を開く。

 

……あった。『文芸同好会』。

 

部 ではなく、同好会 か。どう違うんだ?

 

「部と同好会には明確な違いは無いんだよね。強いて言うなら校内で活動できない物が同好会かな? 普段は学校外で活動してて、大会なんかの時に、学校名で出場する感じ。例えば『茶華道(さかどう)同好会』だと、地域の教室に通って活動してるし、『弓道(きゅうどう)同好会』も、この学校弓道場が無いから、市営の弓道場で練習してるね……。大体そんな感じかな」

 

なるほど。

 

俺の疑問は、尋ねる前に先生が教えてくれた。

 

でも、そうなると文芸同好会は校内で活動していないってことか? よく分からない。

 

「あ、因みに、入れる部や同好会は1つだけなのでよく考えてね。部と同好会の掛け持ちは可能です」

 

あれ? 『文芸同好会』のところ、良く読んでみると『三年0 二年0』って書いてあるような……。

 

他の部のところにも目を通す。ちゃんと数字がある。

 

この数字は部員・会員の数。ということは……。

 

文芸同好会、誰もいないのか…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

高校生活の初日が終わった。

 

 

そうは言っても、今日は入学式とその後のオリエンテーションだったし、入学式自体午後からなので、学校にいた時間は短い。

 

「はるか居るか?」

 

扉のところから、聞き慣れた声が聞こえてきた。(たくみ)だ。

 

一旦扉の方に向いた視線が、一斉に俺に集まる。

 

やれやれ……。

 

「何の用だ?」

 

帰るためにまとめていた荷物を持ち、工の方へ歩いて行く。

 

「せっかくだから、学校内の探索に行かないか? 教室の場所とか、知らないと明日から大変だろ?」

 

それは一理ある。しかし、俺も暇ではない。

 

「嫌だ。探索って中学生かよ」

 

「じゃあ、部活の見学」

 

「言い方を変えたって一緒じゃないか。俺は忙しいの」

 

早く帰ってやることがある。

 

「……分かったよ。小牧(こまき)さんでも誘うよ。じゃあ、また明日」

 

工は渋々去っていった。

 

俺はそのまま教室を出る。

 

 

 

 

 

下駄箱で靴を履き替え、外へ出た。

 

「はるか、一緒に帰るよ」

 

出たところで(あずさ)が待っていた。

 

「待った?」

 

「別に。私が勝手にはるかと帰ろうと思っただけだから」

 

「工に誘われなかったのか?」

 

富士松(ふじまつ)くん? 見てないけど……。どうしたの?」

 

「いや、別に」

 

結局、工は梓を誘わなかったようだ。

 

靴があるから、まだ校内にいるみたいだし、1人で散策中なんだろう。

 

因みに、梓と俺はあくまで同じ中学の出身で仲が良いだけであり、それ以上の関係ではない。

 

「じゃあ、行こうか」

 

一緒に歩き始める。

 

 

 

「梓のクラス、担任の先生誰だっけ?」

 

梓は隣の3組で俺は2組、工は4組だ。

 

滝野 純一(たきのじゅんいち)先生。社会科だって」

 

「俺のクラスは西尾 千夏(にしおちなつ)先生だな。女子の体育だってさ」

 

「4組は松本(まつもと)先生で、国語担当。1組北新川(きたしんかわ)先生で数学担当だって。滝野先生が教えてくれたよ」

 

うちの担任はそこまで教えてくれなかった……。

 

「どうだった? クラスは」

 

「いいクラスだと思う。知り合いは多く無いけど」

 

「それなら俺のクラスも同じだよ。あ、でも、清水 紅葉(しみずくれは)いるな」

 

「は? 紅葉(くれは)ちゃん来てんの?」

 

梓がいつになく驚いている。

 

「どうした?」

 

紅葉(くれは)ちゃん、確か立華(りっか)推薦(すいせん)……。あれ、全額免除だっけ……入学金免除だったかな。蹴ったってこと?」

 

ぼそぼそ呟いている。さらっと凄いことを。

 

「どういうこと?」

 

「あの子、立華から好条件の推薦貰ってた筈。それ蹴って北宇治に来てるの?」

 

「マジで!」

 

「何が?」

 

校門を出たところで、別の声が会話に割り込んできた。

2人でその声がした方向を見る。

 

噂をすれば何とか……。清水 紅葉(くれは)が立っていた。

 

 

 

紅葉(くれは)ちゃん北宇治に来てたんだね……」

 

「うん」

 

一緒に歩いているメンバーが増えた。

 

しかし、梓と紅葉(くれは)で話していて、俺は一緒に居るだけ。

 

「何で立華に行かなかったの?」

 

「私、立華みたいなスパルタ嫌いだし。それに、去年は立華が行ったけど、全国行くんだったら、立華より北宇治の方が可能性高いし。滝 昇(たきのぼる)先生が戻ってきたんだから、今年は間違いないと思う」

 

滝先生か。梓も同じようなことを言っていたな。

 

どんな人なんだろう……。

 

「そっか……。そうだよね」

 

因みに、俺の家はとっくに通り過ぎている……。

 

しかし、「じゃあ俺はここで」とフェードアウトできる雰囲気ではなかったので、俺も一緒に居る。

 

まあ、散歩がてら歩くのも悪くないな。

 

 

 

2人と少し間を空け、駐輪場脇の階段を降りて行く。

 

「梓さんも吹部入るの?」

 

「うん。紅葉(くれは)ちゃんもだよね」

 

「もちろん。……彼は?」

 

紅葉(くれは)が立ち止まり、こちらを見る。

 

俺も立ち止まり、無意識に後ろを振り向くが、誰も居ない。つまり、俺のことだろう。

 

「俺? いや、俺は吹奏楽に関しては全くの素人だよ」

 

「じゃあ何部に入るの?」

 

「内緒」

 

「あ、そうだった。はるか何部に入るのか、結局教えてくれなかったよね?」

 

紅葉の二段ほど先で立ち止まっていた梓が、詰め寄ってくる。

 

「今度こそ教えなさい!」

 

またかよ。

 

「内緒だって! じゃあ俺はここで。また明日!」

 

逃げるように、今降りてきた階段を駆け上る。

 

「忘れ物かな?」

 

「さて?」

 

そんな会話が聞こえてきた。

 

これじゃあ一見、学校に戻っているように見えるからな。

 

そういえば、2人は俺の家を知らないんだっけ。

 

 

 

階段を登りきり、下りてきた坂を上って行く。

 

北宇治高校の駐輪場は、階段の脇にあるため、自転車通学の人は、毎日この坂を徒歩で上り下りしている。

 

だから、自転車通学の人も含め、下校する生徒の大半がここを通るわけだ。

 

だから、すれ違う生徒に変な顔をされてしまう……。

 

いちいち気にしていたら負けだ。家路を急ごう。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。