【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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いよいよ府大会がやって来ます。




6……京都府大会
6-1……滝先生が倒れた


 

トランペットソロを巡る問題は、公開オーディション(全員の前で演奏して、全員で決める)という形で、(あずさ)に決まった。

 

滝野(たきの)先生()わく、高坂(こうさか)さんも同じような経験があるらしい。

 

滝先生が真っ先に再オーディションを提案したのも、過去の経験に(なら)ったものだろう、と言っていた。

 

結局、今回の()め事は、俺の出番はほとんど無いまま終息していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みに突入し、コンクールまであと僅か。

 

本番に向けて日々猛練習が続いている。

 

もちろん、防音室の貸し出しも普段通り行っている。

 

だから、場合によっては、予約対応のために17時頃に学校へ行くこともある。

 

まあ、これは家が近いことの特権とも言えるだろう。

 

なにより、俺が吹奏楽部の為に協力できることは、これぐらいしかない。

 

全国大会出場のためなら、大したことはないさ……。

 

 

 

こんなタイミングで起こる、大地震を誰が予想しただろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

府大会5日前。

 

今日で7月が終わる。

 

「失礼します。防音室借ります」

 

「失礼します。うわ! 涼しいねぇ」

 

トロンボーンの野間(のま)先輩と白沢(しらさわ)先輩が入ってきた。

 

「外、かなり暑いよ」

 

連日真夏日となっている。

 

岐阜県(ぎふけん)多治見(たじみ)で、また41℃超えたらしいですよ」

 

パソコンに表示されたネットニュースでそう出ていた。

 

「マジか。溶けるわ~」

 

金山(かなやま)くんも毎日ありがとうございます。このためにわざわざ来て下さって……。助かってます」

 

「俺に協力できることはこれしかありませんからね。皆さんの頑張り次第で俺の協力が報われるか否か。それだけです」

 

「おお。余計にプレッシャー掛かるな……」

 

二人と喋っていたら、ファゴットの(ダブル)水野(みずの)先輩が、防音室の方から出てきた。

 

「お疲れさま」

 

「気を付けて」

 

「ありがとう」

 

「それじゃあ」

 

入れ替わりに、野間先輩と白沢先輩が入って行く。

 

交代が終われば、20分間は静かな時間となる。

 

さて。俺も原稿に集中しなければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま」

 

「ありがとうございます」

 

あっという間に20分経過。

 

二人が出てきた。

 

「お疲れ様です。どんな感じですか?」

 

「完璧だね。明日が本番でも大丈夫。って感じ」

 

「まあ、僕ら個人が良くても、合奏だからね。全体が良くないと」

 

なるほど……。

 

「あ、そういえば金山くん、必勝祈願行ってくれたんだって?」

 

ああ。近江神宮(おうみじんぐう)に行った件か。

 

「はい。全国大会で金賞をとれるようにお願いしてきましたよ」

 

神頼みに効果があるか不明だけど、しっかりお願いしてみた。

 

「ありゃ、府大会じゃないのか」

 

「何言ってるんですか。全国金賞です。府大会や関西大会は、当然金賞ですよ」

 

「プレッシャーかけるねぇ」

 

「今の北宇治なら大丈夫ですよ。ね?」

 

公開オーディション後の合奏を聞いた高坂(こうさか)さんが、そう言っていた。

 

「先輩方、もう遅いですし、気を付けて帰ってください」

 

話し込んでいたらもうすぐ20時だ。

 

「ありがとう。それじゃあ」

 

「お疲れ」

 

先輩2人を帰す。

 

俺はもう少し残る。

 

見回りの先生に追い出されるまでは作業したい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

遅いな……。

 

時計を見ると20時半を回っている。

 

いつもなら、見回りの先生にとっくに追い出されている時間だ。

 

不思議に思いつつも、そろそろ帰ろうと思って身支度を済ませる。

 

戸締まりを行い、部室をあとにする。

 

 

 

 

 

廊下を歩いていると、救急車のサイレンが聞こえてきた。

 

近づいている……。近所だろうか?

 

確か二軒隣に高齢夫婦が暮らしているから、何かあったのかもしれない。

 

しかし、サイレンはどんどん近づいている。

 

……お。止まった。

 

ちょうど俺が職員室に着いたところだ。

 

ノックしてから扉を開ける。

 

後ろの方から物音がするとは思ってたけど……。

 

「失礼します。えっ!」

 

「救急隊入ります」

 

誰が救急隊だと予想できただろうか。

 

俺が職員室に入ると、すぐに救急隊が入ってきた。

 

物音の正体は、救急隊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室に鍵を返しに来たところ、救急隊と鉢合わせた。

 

あの救急車は学校に来たんだ……。

 

待て。誰が呼んだの? ()()()()()()()()()の?

 

状況が理解できない。

 

「あ、こちらです!」

 

声がする方を見ると、教頭先生が奥の扉のところで手を上げていた。

 

あの扉の向こうは、……確か、校長室だ。

 

救急隊の人が扉の向こうへ入って行く。

 

俺も、鍵を返してから続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「た、(たき)先生!」

 

滝先生が校長室のソファーに横になっていた。

 

えっ、救急車が呼ばれたの滝先生なの?

 

「急に気を失って倒れて……。はい。彼と私だけです、居るのは……」

 

教頭先生が隊員に、状況を説明している。

 

……落ち着け。まずは、今の状況を整理しよう……。

 

 

 

  滝先生が倒れ、救急車が呼ばれた。

 

  学校に残っている先生は、教頭だけらしい。

 

  20時半を過ぎているのは確か。

 

 

 

ということは……。

 

これ、かなりまずいよな。

 

何か俺にできることは……一つある。

 

スマホを取り出し、電話を掛ける。

 

「……あ、滝野(たきの)先生ですか? 今動けますか?」

 

『えっ? まあ、大丈夫だけどどうしたの?』

 

動揺している。それもそうか。

 

こんな時間に電話してるし、急に動けるか問われたら、誰だって同じだろう。

 

「学校で滝先生が倒れたみたいです。至急来てもらえますか?」

 

『滝先生が! 救急車は? 他に誰かいるのか?』

 

「救急車は到着してます。教頭先生が応対してますが、他には俺しか……」

 

俺が言いたいことは、先生に伝わったみたいだ。

 

『そっか、分かった。10分で行く!』

 

そう言って電話が切れた。

 

 

 

 

 

「どなたが同行されますか」

 

搬送準備が整ったようで、隊員から問いかけられる。

 

「私が同行します……あ」

 

教頭先生が応えるが、何かに気づいたようで、言い(よど)んだ。

 

大丈夫。それを想定して俺が手配してある。

 

「教頭先生、滝野先生に連絡しました。10分で来るようです。それまで俺が残りますから、行ってください」

 

俺の言葉を聞いた教頭先生は驚いた様子で目を見開いた。

 

「えっと。君は確か、金山(かなやま)くんですね」

 

入学して半年も経っていないのに、教頭先生に名前を覚えられている……。

 

「はい、金山 はるかです」

 

名前(ゆえ)、仕方無い。

 

それに、今は緊急事態だ。

 

「ありがとう。学校はお願いします」

 

そう言い、俺の手を取り、鍵を渡してきた。

 

「確かに。滝先生をお願いします!」

 

救急隊と教頭先生が校長室を出て行く。

 

滝先生の容態は気になるが、俺にできることは全てやった。

 

あとは何か連絡が来るのを待つしかない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救急車を見送って、職員室で待っていると、

 

「お待たせ!」

 

滝野先生が飛び込んできた。

 

「教頭先生からです」

 

預かっていた鍵を渡す。

 

「見回りしてくるから待ってて」

 

慌ただしく職員室を出て行った。

 

鍵閉め当番の先生は、各校舎入口の扉が閉まっているか確認して、セキュリティーを作動させる。

 

もし、それで異常が表示されると、どこかが開いているということで、また見回りに行く……。

 

時々付き合わされたから、覚えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

10分ぐらいで先生は戻ってきた。

 

「よし。鍵閉めたから、病院行こうか」

 

「えっ? 今からですか?」

 

「教頭迎えに行くんだよ。救急車に乗ってったんだろ? 帰れないじゃん」

 

確かに。

 

学校に車を置いて行ったんだから、帰りの足がない。

 

この辺りまで来るバスはあるが、病院から直接来れるわけではない。

 

それに、こんな遅い時間まで運行しているとは限らない。

 

あれ? 搬送先の病院ってどこだ?

 

「滝野先生、病院知ってるんですか?」

 

「見回り中に電話来た。慶大(けいだい)付属病院だって」

 

京滋(けいじ)バイパス脇の病院か。

 

車なら15分ぐらい。

 

この時間なら、宇治街道も渋滞していないはずだから、すぐだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

滝野(たきの)先生の運転も、園田(そのだ)先生に負けず劣らずで、(けい)大付属病院まで、たった5分で着いた。

 

正面玄関のロータリーのところに、教頭先生が立っている。

 

「お待たせしました」

 

滝野先生がそこに車を止め、降りる。

 

「ご苦労様です。もう面会時間を過ぎてますから、とりあえず帰りましょう。車内でお話しますから」

 

そうか。

 

搬送されてきた時点で、既に面会時間を過ぎていただろうから、手続きが済んだら出されてしまう。

 

だから、玄関前に立っていたのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は元々後部座席に座っていたので、教頭先生は助手席に乗り込んだ。

 

「詳しいことはまだ分かりませんが、過労みたいです。命に関わることは無いそうです」

 

教頭先生が滝先生の容態について話していく。

 

「夏休みに入ってからも、毎日休まず指導されてましたからね。かなり疲労が蓄積していたのでしょう」

 

確かに。

 

滝先生の車はクラシックな車で、エンジン音も独特なため、覚えてしまった。

 

その音が、家にいても聞こえてくるため、先生が毎日学校に、しかも、朝早くから来て、夜遅くまで残っていたことを、俺は知っている。

 

「今、ご両親がこちらに向かっていますので、身の回りの物はお願いすることになっています」

 

「名古屋でしたっけ?」

 

「いえ、浜松ですね」

 

浜松か……。

 

どれくらい掛かるだろうか。

 

「夜通し運転しても、3時間程度ですね。でも、確かご高齢ですよね……」

 

そういえば、滝先生って幾つなんだ?

 

先生が年を召していれば、ご両親も(しか)り。

 

しかし、そう言う話を聞いたことが無いから、知らないんだよね……。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。到着です」

 

学校に戻ってきた。

 

「今日はわざわざありがとうございました」

 

「いえ。こういう時は助け合わないと。自分は家が近いので。それよりも、金山(かなやま)のファインプレーを()めてやりましょう」

 

えっ? 俺?

 

「金山くん。今日は本当に助かりました。君が滝野先生を呼んでくれなければ、学校のことも帰りのことも、私一人ではどうにも出来ませんでした」

 

「あ、いえ。お役に立てて良かったです」

 

急に、しかも教頭先生相手だから、緊張してしまった。

 

「この件については、明日朝部員たちに説明します。可能であれば、滝野先生と金山くんにも同席してもらいたいです。よろしいですか?」

 

「自分は大丈夫です」

 

「あ、俺も行きます」

 

明日の朝か……。

 

「それでは9時に音楽室にお願いします。では、これにて失礼します。金山くん。近いとはいえ遅いので、気を付けて帰って下さい」

 

教頭先生が車を降り、自分の車の方へ歩いていく。

 

「じゃあ、俺たちも帰ろうか。すぐだけと送っていくよ」

 

「あ、お願いします」

 

滝野先生が車を走らせる。

 

玄関前で降ろしてもらった。

 

「じゃあ、また明日」

 

「はい。今日はありがとうございました」

 

 

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