【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
翌朝。
滝先生のこともあるが、自分の部活もあるので、7時に学校に向かう。
「失礼します。
職員室に入ると、教頭先生と
「そうですか……」
松本先生の表情はかなり暗い。
高坂さんは顔色が真っ青で、椅子に座っていた。
「恐らく過労です。命に関わるようなことはないと思います」
まだ説明し始めたばかりのようだ。
「しかしながら、府大会には間に合いません。当日開会式開始2時間前までなら、指揮者の変更が可能ですから、代わりの指揮者がいれば、出場辞退の必要はありません」
そうだ。
もうコンクールが近い。
滝先生が指揮者なら、出れるわけがない。
「そういうことですか。分かりました。……お、金山じゃないか」
松本先生が俺に気づいたようだ。
「おはようございます」
「おはよう。昨日は助かった、ありがとう」
昨日。あのことだろう。
教頭先生から説明があったらしい。
「あ、いえ。大変だと思いますが、コンクール頑張ってください」
「ありがとう。金山も部活頑張れよ」
「はい。では、失礼します」
職員室を出る。
部室に到着。
当然、園田先生は居らず、鍵も開いていない。
鍵を開けて入室。
「失礼します」
誰もいないと分かっていても、癖で言ってしまう……。
さて、
9時に音楽室に来るように言われているので、執筆を途中で切り上げ、少し早めに向かう。
普段、朝早くから来ている滝先生が今日は居ない。音楽室の雰囲気はどんな感じだろうか。
変な噂が飛び交っていなければ良いが……。
「お、来たな」
階段を昇っていると、滝野先生と合流。
そのまま一緒に音楽室へ。
「失礼します」
滝野先生が先に入る。
「失礼します」
続いて俺も入る。
室内は意外と静かだ。
既に何かを察してる人もいるように見える。
「あれ、純ちゃん先生だ」
「はるか……」
そこに現れた俺たち二人。
室内が一気に騒がしくなる。
「なんで滝野先生が?」
「滝先生がいないことと関係が?」
「金山くんまで来てる」
普段見ない顔に、驚きが隠せない感じだろう。
「はるか、何しに来たの?」
「何って……」
どう誤魔化したら良いんだ? いや、嘘を言うのはまずい。
「失礼します。お待たせしました」
返事に困っていたら、教頭先生が入ってきた。
音楽室には、恐らくコンクールメンバー全員と
普段と違う面子がいて、異様な空気が漂っているように感じる。
しかし、人数が多い集団
「はい。皆さんに大切なお話があります」
教頭先生が話し始める。
「昨夜、
この言葉に、室内が一瞬にして静まり返る。
「た、滝先生が倒れた!?」
「大丈夫なんですか!」
「容態は?」
「今どちらに?」
そして、蜂の巣をつついたような騒ぎとなる。
「皆さん、落ち着いてください!」
教頭先生が呼び掛けるも収拾がつかない。
「順に説明しますから、静かに!」
人数が多い集団だと、こういう事態が起きるんだよね……。
あ、滝野先生に助け船を求めてる。
しかし、両手を挙げて見せた。お手上げか。
松本先生も、こめかみを押さえている。
誰にも手が付けられない。そう思った矢先。
『バシーン』
室内に、シンバルの音が響き渡った。
室内が静まり返る。さっきまでの騒ぎが嘘のように……。
音の主のもとに視線が集まる。
「まずは、教頭先生のお話を聞きましょう」
なるほど。
トランペットソロを巡る公開オーディションの時もそうだったが、彼女はインフルエンサーになれる人物だと思う。
「先ほど病院から連絡がありまして、過労ということでした。かなり疲労が溜まっているので、一週間ほど入院して様子見、ということになります」
一週間。今日はコンクール4日前。
「大会間に合わないよ……」
誰かが悲鳴のような声を上げる。
確かに。大会には間に合わない。
しかし、滝先生が居なければ大会に出られない、というわけではない。もちろん、居て欲しいけれど……。
「お前ら、そんなことでうろたえるな! 北宇治高校吹奏楽部だろう」
松本先生から
「でも、指揮はどうするんですか?」
「何のために顧問が二人居ると思ってるんだ?」
「まさか」
「私がやるから安心しろ」
室内からは驚きの声が上がった。
「それより、私の指揮で演奏したこと無いだろ。本番まで時間無いのだから、ここから猛練習だ」
「「「はい!」」」
松本先生がそう言うと、ほぼ全員声を揃えて返事をした。
流石。これでこそ北宇治高校吹奏楽部だ。
教頭先生が音楽室を出て行ったので、一度室内を見渡してから、俺も出る。
「まあ……何とかなったのか……」
『滝先生のためにも、絶対関西へ行こう』
そういう雰囲気になっていた。
残された時間は僅かだけど、あとは部員たちの頑張り次第だろう。
文芸部の部室に戻ってきた。
鍵は開いていない。
「失礼します」
誰もいない部室へ声を掛けてから入る。
当然、誰もいない。
今日は来る予定が無いのだろう。
まあ、居なくても問題は無いし、園田先生まで倒れても困る。休めるのなら休んで欲しい。
さて。執筆(部活動)を再開しよう……。
お腹が空いたのに気づき、顔を上げる。
卓上時計に目をやると、13時を過ぎていた。
さてと。お昼ご飯にしよう。
電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。
机の下に置いている段ボールから、カップラーメンを取り出す。
園田先生から、ケトルの使用とカップ麺の保管の許可を取ってあるので、ある程度は自由に使える。
ラーメンが出来るまで5分。……換気をしよう。
窓を開けると、物凄い勢いで熱風とも言える外気が侵入してきた。
「暑いな……」
連日真夏日、時々猛暑日という状況だ。
外気と共に、楽器の音も入ってくる。
そして、はっきりと内容は分からないが、松本先生の声も混じる。
さて、俺も食べたら頑張ろう……。
「失礼します」
ノックと共に、扉が開く。
「防音室借ります」
「あ、お疲れ様です」
ファゴット
「松本先生はどうですか?」
先生が言っていたとおり、普段滝先生の指揮でしか演奏していないわけだから、勝手も違うだろう。
「滝先生が普段から指揮棒を使わない人だから、私たちもそれに慣れてるのね」
「だから、松本先生もそれに合わせてくれてるんだけど、先生の方が慣れてないみたいだよ」
なるほど。
「まさに熱血軍曹って感じだね」
「
「いやいやアカネさん。これは褒め言葉だと思うけどなぁ」
「だとしても別の言い方があるんじゃない?」
「どんな?」
「先輩方、時間減りますよ」
時間は20分しか無い。
「えっ。そうだ急がないと」
「じゃあ、また後でね」
二人が急いで防音室へ入って行った。
府大会まで、残された時間はあと僅か。