【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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6-2……何のために顧問が二人居ると思ってるんだ?

 

翌朝。

 

滝先生のこともあるが、自分の部活もあるので、7時に学校に向かう。

 

「失礼します。図書館閉架書庫(としょかんへいかしょこ)の鍵を借りに来ました」

 

職員室に入ると、教頭先生と松本(まつもと)先生、坂部(さかべ)さんと高坂(こうさか)さんが集まって、話し合いをしている。

 

「そうですか……」

 

松本先生の表情はかなり暗い。

 

高坂さんは顔色が真っ青で、椅子に座っていた。

 

「恐らく過労です。命に関わるようなことはないと思います」

 

まだ説明し始めたばかりのようだ。

 

「しかしながら、府大会には間に合いません。当日開会式開始2時間前までなら、指揮者の変更が可能ですから、代わりの指揮者がいれば、出場辞退の必要はありません」

 

そうだ。

 

もうコンクールが近い。

 

滝先生が指揮者なら、出れるわけがない。

 

「そういうことですか。分かりました。……お、金山じゃないか」

 

松本先生が俺に気づいたようだ。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。昨日は助かった、ありがとう」

 

昨日。あのことだろう。

 

教頭先生から説明があったらしい。

 

「あ、いえ。大変だと思いますが、コンクール頑張ってください」

 

「ありがとう。金山も部活頑張れよ」

 

「はい。では、失礼します」

 

職員室を出る。

 

 

 

 

 

 

部室に到着。

 

当然、園田先生は居らず、鍵も開いていない。

 

鍵を開けて入室。

 

「失礼します」

 

誰もいないと分かっていても、癖で言ってしまう……。

 

さて、執筆(しっぴつ)(部活動)を始めよう……。

 

 

 

 

 

 

 

9時に音楽室に来るように言われているので、執筆を途中で切り上げ、少し早めに向かう。

 

普段、朝早くから来ている滝先生が今日は居ない。音楽室の雰囲気はどんな感じだろうか。

 

変な噂が飛び交っていなければ良いが……。

 

「お、来たな」

 

階段を昇っていると、滝野先生と合流。

 

そのまま一緒に音楽室へ。

 

「失礼します」

 

滝野先生が先に入る。

 

「失礼します」

 

続いて俺も入る。

 

室内は意外と静かだ。

 

既に何かを察してる人もいるように見える。

 

「あれ、純ちゃん先生だ」

 

「はるか……」

 

そこに現れた俺たち二人。

 

室内が一気に騒がしくなる。

 

「なんで滝野先生が?」

 

「滝先生がいないことと関係が?」

 

「金山くんまで来てる」

 

普段見ない顔に、驚きが隠せない感じだろう。

 

「はるか、何しに来たの?」

 

堀田(ほりた)先輩が寄ってきた。

 

「何って……」

 

どう誤魔化したら良いんだ? いや、嘘を言うのはまずい。

 

「失礼します。お待たせしました」

 

返事に困っていたら、教頭先生が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽室には、恐らくコンクールメンバー全員と松本(まつもと)先生、高坂(こうさか)さん、坂部(さかべ)さん、滝野(たきの)先生と俺、そして教頭先生がいる。

 

普段と違う面子がいて、異様な空気が漂っているように感じる。

 

しかし、人数が多い集団(ゆえ)、少し騒がしい。それは宿命だろう。

 

「はい。皆さんに大切なお話があります」

 

教頭先生が話し始める。

 

「昨夜、(たき)先生が倒れまして、救急搬送されました」

 

この言葉に、室内が一瞬にして静まり返る。

 

「た、滝先生が倒れた!?」

 

「大丈夫なんですか!」

 

「容態は?」

 

「今どちらに?」

 

そして、蜂の巣をつついたような騒ぎとなる。

 

「皆さん、落ち着いてください!」

 

教頭先生が呼び掛けるも収拾がつかない。

 

「順に説明しますから、静かに!」

 

人数が多い集団だと、こういう事態が起きるんだよね……。

 

あ、滝野先生に助け船を求めてる。

 

しかし、両手を挙げて見せた。お手上げか。

 

松本先生も、こめかみを押さえている。

 

誰にも手が付けられない。そう思った矢先。

 

『バシーン』

 

室内に、シンバルの音が響き渡った。

 

室内が静まり返る。さっきまでの騒ぎが嘘のように……。

 

音の主のもとに視線が集まる。(あずさ)だ。

 

「まずは、教頭先生のお話を聞きましょう」

 

なるほど。

 

トランペットソロを巡る公開オーディションの時もそうだったが、彼女はインフルエンサーになれる人物だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ほど病院から連絡がありまして、過労ということでした。かなり疲労が溜まっているので、一週間ほど入院して様子見、ということになります」

 

一週間。今日はコンクール4日前。

 

「大会間に合わないよ……」

 

誰かが悲鳴のような声を上げる。

 

確かに。大会には間に合わない。

 

しかし、滝先生が居なければ大会に出られない、というわけではない。もちろん、居て欲しいけれど……。

 

「お前ら、そんなことでうろたえるな! 北宇治高校吹奏楽部だろう」

 

松本先生から(げき)が飛ぶ。

 

「でも、指揮はどうするんですか?」

 

「何のために顧問が二人居ると思ってるんだ?」

 

「まさか」

 

「私がやるから安心しろ」

 

室内からは驚きの声が上がった。

 

「それより、私の指揮で演奏したこと無いだろ。本番まで時間無いのだから、ここから猛練習だ」

 

「「「はい!」」」

 

松本先生がそう言うと、ほぼ全員声を揃えて返事をした。

 

流石。これでこそ北宇治高校吹奏楽部だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教頭先生が音楽室を出て行ったので、一度室内を見渡してから、俺も出る。

 

「まあ……何とかなったのか……」

 

『滝先生のためにも、絶対関西へ行こう』

 

そういう雰囲気になっていた。

 

残された時間は僅かだけど、あとは部員たちの頑張り次第だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文芸部の部室に戻ってきた。

 

鍵は開いていない。園田(そのだ)先生は来ていないようだ。

 

「失礼します」

 

誰もいない部室へ声を掛けてから入る。

 

当然、誰もいない。

 

今日は来る予定が無いのだろう。

 

まあ、居なくても問題は無いし、園田先生まで倒れても困る。休めるのなら休んで欲しい。

 

さて。執筆(部活動)を再開しよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お腹が空いたのに気づき、顔を上げる。

 

卓上時計に目をやると、13時を過ぎていた。

 

さてと。お昼ご飯にしよう。

 

電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。

 

机の下に置いている段ボールから、カップラーメンを取り出す。

 

園田先生から、ケトルの使用とカップ麺の保管の許可を取ってあるので、ある程度は自由に使える。

 

ラーメンが出来るまで5分。……換気をしよう。

 

窓を開けると、物凄い勢いで熱風とも言える外気が侵入してきた。

 

「暑いな……」

 

連日真夏日、時々猛暑日という状況だ。

 

外気と共に、楽器の音も入ってくる。

 

そして、はっきりと内容は分からないが、松本先生の声も混じる。(げき)が飛んでいるのだろう。

 

さて、俺も食べたら頑張ろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

ノックと共に、扉が開く。

 

「防音室借ります」

 

「あ、お疲れ様です」

 

ファゴット(ダブル)水野(みずの)先輩だ。

 

「松本先生はどうですか?」

 

先生が言っていたとおり、普段滝先生の指揮でしか演奏していないわけだから、勝手も違うだろう。

 

「滝先生が普段から指揮棒を使わない人だから、私たちもそれに慣れてるのね」

 

「だから、松本先生もそれに合わせてくれてるんだけど、先生の方が慣れてないみたいだよ」

 

なるほど。

 

「まさに熱血軍曹って感じだね」

 

佳介(けいすけ)くん。そんなこと言って後で怒られても知らないよ」

 

「いやいやアカネさん。これは褒め言葉だと思うけどなぁ」

 

「だとしても別の言い方があるんじゃない?」

 

「どんな?」

 

夫婦漫才(めおとまんざい)かよ……。

 

「先輩方、時間減りますよ」

 

時間は20分しか無い。

 

「えっ。そうだ急がないと」

 

「じゃあ、また後でね」

 

二人が急いで防音室へ入って行った。

 

 

 

 

 

 

府大会まで、残された時間はあと僅か。

 

 

 

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