【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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中間試験をこの一話にまとめたので、少し長くなりました……。




第33話……金山相談所

 

あっという間に試験当日になった。

 

中間試験は5教科のみなので、日程は1日だけ。

 

この1日の為に、各々頑張っていたわけだ。

 

午前の4教科が終わると、やって来るのは昼休み。

 

普段なら騒がしい昼休みも、今日は静かだ。

 

早く昼食を済ませ、少しでも次の試験勉強をしようというのだろう。

 

もちろん、全員が全員そうとは限らない。

 

「はるかっ。どうだ?」

 

例えば、今話しかけてきた(たくみ)とか。

 

「工、お前勉強いいのか?」

 

わざわざ違うクラスに顔出しに来ている。

 

「今更だろ。ここで足掻(あが)くぐらいなら、もっと早くからやってた方が良いだろうに。どうにかなるもんでも無いだろ」

 

「流石工。これで頭良ければなお凄い。出番あって良かったな」

 

「頭悪くて悪かったな。……出番ってなんの話?」

 

工は成績こそ良くないものの、普段使えるような雑学をたくさん知っているので、一概に頭が悪いと言い切れないんだよね。

 

『今更足掻いても』か……。お。

 

紅葉(くれは)はテスト範囲を頭に叩き込んでいる模様。

 

お弁当を食べながら、問題集を見ている。

 

そんなに見つめたら穴開くんじゃないか?

 

というか、箸止まってる。

 

 

さて、そんな一夜漬けの成果は如何程(いかほど)か……。

 

 

 

 

 

 

 

「はい。そこまで!」

 

チャイムが鳴り、西尾(にしお)先生の号令がかかる。

 

「おわった~!」

 

「疲れた……」

 

中間試験終了。

 

クラス内の反応は三者三様。

 

このために一週間勉強していた人が大多数だろうから、納得。

 

「待って待って。答案用紙回収するまで待って」

 

終わった安堵(あんど)感から立ち上がろうとする人を、先生が(たしな)める。

 

「まだって言ってるでしょ。言うこと聞かないんなら0点にするからね」

 

「うわ。ちーちゃん先生厳しい」

 

「こらそこ。ちーちゃん呼ばないの」

 

先生が順に答案用紙を回収してゆく。

 

『ちーちゃん先生』か。確か、下の名前千夏(ちなつ)だよな。

 

だからちーちゃん。

 

滝野先生が『純ちゃん先生』だっけか。

 

すると、滝先生や松本先生にもそういったニックネームがあるんだろうか?

 

……『粘着イケメン悪魔』と『軍曹(ぐんそう)先生』が強すぎるな……。

 

「なに考えてるの?」

 

えっ!

 

突然降りかかった声に驚いた。

 

「なんでもないです……」

 

「そう?」

 

西尾先生に驚かされた……。

 

「hとnをしっかり分かるように書き分けられたか不安になりましたよ。変なこと言うから」

 

「ドンマイ。その時はその時だよ」

 

軽いな……。

 

 

 

 

 

「はい。じゃあ解散。気を付けて帰ってね。部活の人も、忘れ物無いようにね」

 

答案用紙を集め終えると、解散となった。

 

「部活は?」

 

「今日ぐらい休ませろよ」

 

「でも行かなきゃ怒られるぞ」

 

「どうだった?」

 

「まあまあかな」

 

教室が騒がしくなってきた。

 

荷物を(まと)め、そんな教室を出る。

 

とりあえず、部室へ行ってテストの自己採点だ。

 

この時間なら、園田先生が居るだろうし、鍵を借りずに直行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

部室の前に誰か居る。

 

防音室か……こんな時間から?

 

それに、室内に先生が居るならば、外で待つのも不自然。居ない?

 

鍵を借りに引き返そうと思ったが、部屋の前に居るのが誰か分かり、そのまま向かう。

 

 

 

 

「お。来た来た」

 

「何してるんですか? 滝野先生」

 

「加納に呼ばれた」

 

「私が呼んだ」

 

「加納先輩も、こんな所で何してるんですか?」

 

部室の前に立っていたのは、滝野先生と加納先輩だ。話しぶりからして、俺を待っていたらしい。

 

滝野先生の手には、電動ドライバー……。

 

ふと扉の方を見ると、部室の扉の横に、看板のようなものがぶら下げられているのに気づいた。昨日まで無かったぞ。

 

「何ですか、これ?」

 

「書いてあるとおり、『金山相談所(かなやまそうだんじょ)』」

 

加納先輩はさも当たり前のように言い放つ。

 

ホームセンターで売っている、大きいプラスチックの板に、『黄前(おうまえ)相談所』と書かれている。

 

その『黄前』の部分に取消線が引かれ、横に『金山』と書いてある。

 

「相談所が何かも気になりますけど、この『黄前』って誰ですか?」

 

再利用なのか、使い回しなのか……。

 

「知らない。音楽準備室の片隅に置いてあったから、使えると思って」

 

「滝野先生、何か知ってるんですか?」

 

先生は隣で俺たちのやり取りを笑って見ている。

 

「さて?」

 

何か隠してる。

 

「そういえば、一つ下の後輩に黄前って名前の奴がいたな……」

 

「知ってるんですね?」

 

「いやいや、俺接点無かったし。名前覚えてるだけだよ」

 

これは本当だろう。

 

この間、傘木さんが言っていたことから察した。

 

 

 

「ところで。相談所って何をすれば良いんですか?」

 

こうなったら乗りかかった船だ。今更降りる気にはなれない。

 

相当な無茶振りでなければ、頼まれたことは引き受けよう……。

 

「基本、今まで通りで大丈夫だよ。防音室を貸してもらうのと、大会の時の楽器運搬とか?」

 

とか、って。そう曖昧(あいまい)に言われると、無限に増えるから怖いんだけど。

 

「それと、今回みたいにテスト前に勉強手伝ってもらったり。場所貸してもらうのも含めて」

 

まあ、今と大して変わらないか。

 

「分かりました。改めてまして、これからもよろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ。頑張って全国行ってくるからね」

 

流石北宇治の部長。頼もしいな……。

 

さて。それでは俺が考えていることを、この部長さんにお話するとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「加納先輩、実は折り入って相談があるんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 


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