【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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6-3……京都府大会の日

 

8月4日火曜日。

 

『全日本吹奏楽コンクール』の京都府大会の日だ。

 

6時に校門を入る。

 

当然ながら、吹奏楽部のイベント当日の朝は早い。

 

俺にとってはいつも通りの時間でも、他の生徒から見れば、かなり朝早い時間だろう。

 

 

 

8月に突入し、連日真夏日となっているが、この時間はまだ涼しい。

 

でなければ、吹奏楽部の部員には地獄だろう……。

 

金山(かなやま)くんおはよう!」

 

音楽室に入ると、早速声掛けられる。

 

「あ、おはようございます」

 

開明(かいめい)先輩だ。

 

「早いですね。まだ6時ですよ」

 

「チームほたかは、準備で朝早いのよ」

 

チームほたか? 山か?

 

「何ですか、それ?」

 

「私たちサブメンバーの名前。2年生の頭文字を取ったの。昔は『もなか』とか、『おばか』というのも有ったらしいよ」

 

頭文字を取るのは代々継承されているようだ。だからって『おばか』は無いだろう……。

 

えっと、サブメンバーの2年生。細畑(ほそばた) 佳菜子(かなこ)多屋(たや) 亜衣(あい)、開明 早紀(さき)

 

……頭文字だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、冬服を(まと)った生徒が登校してくる。コンクールメンバーだ。

 

北宇治のコンクールに()ける正装は、制服の冬服になっている。

 

この時期は暑いだろう。早く涼しいところ(バス)へ行けると良いな。

 

……と、その前にやるべき事が(いく)つかある。

 

 

 

 

 

 

部員が音楽室に集合している。

 

各々楽器の準備や譜面隠しの配布などがあるのだ。

 

室内は、やはり少し騒がしい。みんな緊張しているのだろう。

 

「はい! 点呼取るよ! パーリーは自分のパートの確認してね」

 

部長の声だ。

 

「パーカス揃ってます」

 

「フルート大丈夫です」

 

「トロンボーンオッケーです」

 

「ファゴット、オーボエ全員います」

 

「サックス完璧よ」

 

「クラ居ます」

 

「ホルンも居まーす」

 

「低音、揃ってるよ」

 

庶務(しょむ)居ます」

 

「ペットも大丈夫ね……。はい。全員揃ってるね」

 

点呼が終わり、全員居ることの確認が取れたようだ。

 

今、変な声が混じったが、気にしないでもらえると助かる……。

 

「はい。それでは先に楽譜係から譜面隠しの配布をしてもらいます。その後、7時にトラックが到着するから、その前には楽器運搬係に搬出をお願いします。ここまでで質問ある人?」

 

これに返事は無かった。

 

「7時半前にバスが到着するので、それまでには楽器の積み込みを終えてください。宜しいですか?」

 

「「「はい!」」」

 

「じゃあ楽譜係、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間になったので、野間(のま)くんの指示に従って、楽器運搬係は積み込みをお願いします」

 

「それじゃあ始めよう!」

 

男子部員……楽器運搬係がトラックへの搬入を行う。

 

野間先輩が先頭に立ち、指示を出す。

 

「いつも通りに積んでってよ!」

 

「3回目だから分かるよね?」

 

まずは、音楽室から外へ楽器を運び出す。

 

「そこ! フルートは最後だから」

 

「ティンパニーまだか!」

 

「スネア載せた?」

 

「次行ける?」

 

続いてトラックへの積み込み。

 

今日も今日で騒がしい……。騒音クレーマー、大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽器運搬も終わり、バスの前に集まる。

 

「いいかお前ら、普段通りにやれば良いんだ。何も気にすることはない」

 

陰では鬼軍曹(おにぐんそう)と呼ばれている松本(まつもと)先生だが、今日はいつもより声が弱々しい。

 

「緊張するのは仕方ない。私だって今日は緊張しているんだ……」

 

なるほど。理由はそれか。

 

急に指揮者になったのだから、大変だろう。

 

しかし、普段の先生を知っている部員たちは、先生が緊張していることに驚いていたり、意外性を感じていたりしているようで、緊張が幾分ほぐれているように見える。

 

「部長から何か言わないの?」

 

誰かがそう言った。

 

「えっ? 私から……」

 

加納(かのう)先輩は、急に振られてたじろいでいる。

 

「か、金山くんは何か無いの?」

 

「お、俺ですか!」

 

こっちに振るなよ……。

 

まあ、振られてしまったのなら仕方ない。

 

「えっと、皆さん」

 

喋り始めたところ。

 

「金山くん登場!」

 

「よっ! 我らの副々部長!」

 

男子部員の声が飛んできた。

 

「茶化さないでください! ……副々部長って何?」

 

謎の役職与えられてるんだけど。来年どうするよ……?

 

今はどうでも良いか。

 

「えっと、いよいよ府大会です。想定外のトラブルに見舞われた訳ですが、サンフェスの時も同じでしたよね?」

 

何人かが(うなづ)いてくれる。

 

「しかし、それでも皆さんは最高の演奏をして、観客を魅了しました。今度は、審査員の方々を魅了する番です。頑張ってください。以上です」

 

言い終えると、割れんばかりの拍手が起こった。

 

「ま、待ってください! 皆さんは拍手を受ける側ですよ。健闘を祈ります」

 

部長の方を見る。

 

『もう良いよ』

 

そう言っているように見えた。

 

えっと……あれで締めればいいのか。

 

「それでは皆さん、ご唱和ください。北宇治ファイトー」

 

「「「おー!」」」

 

部長の十八番(おはこ)を奪ってしまった。これでは副々部長言われても逆らえないな……。

 

 

 

 

「では、バスに乗ります。酔いやすい人は前側を優先してあげて……」

 

加納先輩の指示で、順にバスに乗っていく。

 

「行ってきます」

 

「頑張ってください」

 

「応援よろしく!」

 

「はい」

 

「金取ってくるよ!」

 

「待ってます!」

 

何人かに声掛けられたので、それに答える。

 

最後に、加納先輩と堀田(ほりた)先輩が残った。

 

「はるかはバスに乗らないの?」

 

せっかくだけど、今日は乗れない。

 

「俺には大事な役割がありますから……」

 

そう。行くべきところがあるんだ。

 

「そっか。じゃあよろしくね」

 

「はるか、頼んだよ」

 

先輩方にはこれで分かってもらえた感じだ。

 

「はい。頼まれました」

 

ちょうど、坂の下から西尾(にしお)先生の車が登ってくるのが見えた。

 

「あ、園田(そのだ)先生が会場に行っていますから、よろしくお願いします」

 

「オッケー。じゃあ行ってくるね」

 

先輩方がバスに乗り込む。

 

バスが動き出した。

 

手を振る部員たちを笑顔で送り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目指すは全国。

 

まずは今日の府大会で金賞だ……。

 

 

 

 

 

 

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