【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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6-4……構え。そして、振りおろす……。

 

「それじゃあ、私たちも行こうか」

 

既に到着していた西尾(にしお)先生がやって来る。

 

俺がバスが見えなくなるまで見送るのを、待っていてくれたようだ。

 

「すいません。お待たせしました」

 

「いいよ。急いで行ったって面会時間前だったら入れないからね」

 

いつもの西尾先生らしく笑い飛ばす。

 

「じゃあ乗って」

 

先生に促され、助手席に乗り込む。

 

「行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざ休みの日にありがとうございます」

 

園田(そのだ)先生は(たき)先生の代理として会場へ行ってしまったし、滝野(たきの)先生は外せない用事があって来れないため、西尾先生にお願いすることになった。

 

「良いって。夏休みと言えども、陸上部の大会は土日開催が多いし、今日は部活も休みだから暇だったよ」

 

そう言ってくれると有り難い。

 

「そういえば、普段私たちこうやって1対1で話す機会無いよね?」

 

言われてみれば。

 

「確かに。HR(ホームルーム)以外で話す機会は少ないですね」

 

「せっかくだし、何でも言ってみて。悩みとか、単に話したいこととか」

 

急に言われてもね……。

 

別に悩んでる事はないし、話したいことといっても……。

 

確か、埼玉県(さいたまけん)川越市(かわごえし)出身って言ってたよね。埼玉の……って、園田先生の時にも同じ事を考えて撃沈したんだよね。

 

「先生の高校時代って、どんな感じだったんですか……?」

 

「私の? といっても、原作に設定無いんだよね……」

 

「えっ?」

 

「ごめん、今の忘れて。えっとね。部活の思い出がほとんどだね。それか、仲良かった子のこととか」

 

「仲良かった子?」

 

「うん。あ、でも彼、彼女いたし、今は結婚してるからね」

 

別に男の子、と決めつけた訳じゃなかったけど、本当に男の子だった。

 

「文芸部でね、作家目指してたのかな」

 

作家?

 

「その人の彼女さんは?」

 

「中学の時は陸上部で同じだったよ。高校は別の学校に行っちゃったからね」

 

どっかで聞いたことある話に似てる。

 

「速かったよ、彼女。私の目標だった。確か、中学最後の大会の記録を彼が小説のタイトルにして、投稿サイトに載せてたとか……」

 

おいおい……。

 

「先生、その人の名前教えてもらえますか?」

 

「えっ? 安曇(あずみ) 小太郎(こたろう)くんだよ」

 

合点。全てが繋がった。

 

「知り合い?」

 

俺の担当編集者……知り合いだ。しかし、それを言うのは、俺が作家である事をバラすことにもなる。

 

適当に誤魔化す。

 

「いや、そう言う訳じゃあないんですけどね……。そういえば先生、この車物凄く煙草臭いんですけど、先生吸われるんですか?」

 

最初に乗った時は、あまりの悪臭にむせた。

 

しかし、先生が喫煙している姿を見たことがない。

 

「いや、私は吸わないよ」

 

じゃあなんで?

 

「どういうことですか?」

 

「えっとね。この車は格安中古車なんだよね……。前の車が駐車中にダンプに鉄くずにされちゃってね。伝手で買った安物」

 

ダンプに鉄くずに……?

 

想像できない。

 

「消臭はしたんだけど、全く臭いが取れなかったの。少しだけ我慢してね?」

 

我慢しますとも。

 

これ以上文句言って、『じゃあ、降りて歩け!』と言われたら堪らない。

 

 

 

彼の名誉のために、理由は伏せるが、(たくみ)は大会帰りのバスの中で、先生に刃向かって、途中で降ろされて歩いて帰ったことがあるらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車が止まる。

 

「着いたよ」

 

慶大(けいだい)付属病院』

 

5日前、教頭先生を迎えに来たとき以来だ。

 

しかし、中に入るのは初めてだ。

 

もちろん、正面玄関に車を止めていくわけにはいかないので、駐車場から歩く。

 

病人の見舞いに来たにも関わらず、俺たちは手ぶら。

 

事前に先生から、『いろんな人から貰った見舞い品が山ほどある。もうすぐ退院だから要らない』と、断られているからだ。

 

先生は伝手も多いし顔が広い。何より生徒からの人気が高い。

 

普段は『粘着イケメン悪魔』と言われていても、こういう場合は別だ。

 

部員たちからも大量の見舞い品が届いていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面会手続きを行い、病室へ向かう。

 

えっと……『滝昇 様』この部屋だ。

 

良かった。個室だ。

 

「失礼します」

 

ノックして扉を開ける。

 

「おや、金山(かなやま)くん。西尾先生も」

 

(たき)先生だ……。

 

何故だろう。ほんの数日顔を見ていないだけなのに、ひどく懐かしい感じがする。

 

「お見舞いに来ました。……って言うのは建て前で、見舞い品の片付けにやって来ましたよ」

 

泣いてしまいそうになったので、変なことを言って誤魔化そう……。

 

「誤魔化さなくても良いですよ。金山くんはそんなキャラではないでしょう」

 

バレてた。

 

「とりあえず、メロン食べますか?」

 

先生が移した視線の先には、やはり大量の見舞い品が積まれていた。

 

 

 

 

 

 

西尾先生が手早くメロンを切り分けてくれた。

 

これ、普通に買ったら軽く5,000円は超えるだろう……。

 

「先生方が揃ってメロンを持ってくるので、かれこれ6個あります……。しかしメロンばっかり貰っても、丸かじりするものでもありませんからね。困ってたところ、松本(まつもと)先生はナイフを持ってきてくださいました」

 

流石松本先生。

 

高坂(こうさか)先生から頂きました。どうぞ」

 

「戴きます」

 

お、甘い。

 

「とても甘いですね」

 

西尾先生も舌鼓。

 

あっという間に完食してしまった。

 

「金山くん、まだ食べられそうですか?」

 

「えっ? はい」

 

「でしたら、そちらの篭盛りのフルーツも食べませんか?」

 

あれ、まさか佐藤錦じゃないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お腹いっぱい果物を戴いてしまった……。

 

西尾先生が出た生ゴミ(皮や種)を捨てに出て行き、病室には二人だけとなった。

 

「さて。金山くんが来た本当の理由を聞きましょうか。そう言っても、聞くまでも無いでしょう。ですよね?」

 

先生は何でもお見通しか。

 

時計を見る。そろそろ時間だ。

 

「分かりました。えっと、ここ、個室だから携帯電話大丈夫ですよね」

 

電話を掛ける。

 

相手はもちろん……。

 

『園田です』

 

園田先生だ。

 

「先生、順番は?」

 

『ちょうど良いところで掛けてきたわよ。もう始まるところ』

 

電話をハンズフリーに切り替える。

 

これで受話口からではなく、スピーカーから音が聞こえてくる。

 

ベット横の椅子に腰掛け、テーブルに電話を置く。

 

 

『プログラム12番、北宇治高等学校吹奏楽部。課題曲Ⅳ番に続きまして、自由曲 うさぎの駆ける道。指揮は、松本(まつもと) 美智恵(みちえ)です』

 

 

電話越しに、会場のアナウンスが、はっきりと聞こえてきた。

 

しかし、アナウンス以外何も聞こえない。

 

今、会場では恐らく、先生がステージ上を見回し、構え。

 

そして、振りおろす……。

 

 

 

 





いつもお読みいただきありがとうございます。

一つ前のお話が公開された日の朝……一昨日ですね。

総合評価のポイントが、急に倍になっていて驚きました。

5名以上から評価いただけると、調整平均……? が、加わるんですね。

皆様ありがとうございます。


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