【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
「それじゃあ、私たちも行こうか」
既に到着していた
俺がバスが見えなくなるまで見送るのを、待っていてくれたようだ。
「すいません。お待たせしました」
「いいよ。急いで行ったって面会時間前だったら入れないからね」
いつもの西尾先生らしく笑い飛ばす。
「じゃあ乗って」
先生に促され、助手席に乗り込む。
「行くよ」
「わざわざ休みの日にありがとうございます」
「良いって。夏休みと言えども、陸上部の大会は土日開催が多いし、今日は部活も休みだから暇だったよ」
そう言ってくれると有り難い。
「そういえば、普段私たちこうやって1対1で話す機会無いよね?」
言われてみれば。
「確かに。
「せっかくだし、何でも言ってみて。悩みとか、単に話したいこととか」
急に言われてもね……。
別に悩んでる事はないし、話したいことといっても……。
確か、
「先生の高校時代って、どんな感じだったんですか……?」
「私の? といっても、原作に設定無いんだよね……」
「えっ?」
「ごめん、今の忘れて。えっとね。部活の思い出がほとんどだね。それか、仲良かった子のこととか」
「仲良かった子?」
「うん。あ、でも彼、彼女いたし、今は結婚してるからね」
別に男の子、と決めつけた訳じゃなかったけど、本当に男の子だった。
「文芸部でね、作家目指してたのかな」
作家?
「その人の彼女さんは?」
「中学の時は陸上部で同じだったよ。高校は別の学校に行っちゃったからね」
どっかで聞いたことある話に似てる。
「速かったよ、彼女。私の目標だった。確か、中学最後の大会の記録を彼が小説のタイトルにして、投稿サイトに載せてたとか……」
おいおい……。
「先生、その人の名前教えてもらえますか?」
「えっ?
合点。全てが繋がった。
「知り合い?」
俺の担当編集者……知り合いだ。しかし、それを言うのは、俺が作家である事をバラすことにもなる。
適当に誤魔化す。
「いや、そう言う訳じゃあないんですけどね……。そういえば先生、この車物凄く煙草臭いんですけど、先生吸われるんですか?」
最初に乗った時は、あまりの悪臭にむせた。
しかし、先生が喫煙している姿を見たことがない。
「いや、私は吸わないよ」
じゃあなんで?
「どういうことですか?」
「えっとね。この車は格安中古車なんだよね……。前の車が駐車中にダンプに鉄くずにされちゃってね。伝手で買った安物」
ダンプに鉄くずに……?
想像できない。
「消臭はしたんだけど、全く臭いが取れなかったの。少しだけ我慢してね?」
我慢しますとも。
これ以上文句言って、『じゃあ、降りて歩け!』と言われたら堪らない。
彼の名誉のために、理由は伏せるが、
車が止まる。
「着いたよ」
『
5日前、教頭先生を迎えに来たとき以来だ。
しかし、中に入るのは初めてだ。
もちろん、正面玄関に車を止めていくわけにはいかないので、駐車場から歩く。
病人の見舞いに来たにも関わらず、俺たちは手ぶら。
事前に先生から、『いろんな人から貰った見舞い品が山ほどある。もうすぐ退院だから要らない』と、断られているからだ。
先生は伝手も多いし顔が広い。何より生徒からの人気が高い。
普段は『粘着イケメン悪魔』と言われていても、こういう場合は別だ。
部員たちからも大量の見舞い品が届いていることだろう。
面会手続きを行い、病室へ向かう。
えっと……『滝昇 様』この部屋だ。
良かった。個室だ。
「失礼します」
ノックして扉を開ける。
「おや、
何故だろう。ほんの数日顔を見ていないだけなのに、ひどく懐かしい感じがする。
「お見舞いに来ました。……って言うのは建て前で、見舞い品の片付けにやって来ましたよ」
泣いてしまいそうになったので、変なことを言って誤魔化そう……。
「誤魔化さなくても良いですよ。金山くんはそんなキャラではないでしょう」
バレてた。
「とりあえず、メロン食べますか?」
先生が移した視線の先には、やはり大量の見舞い品が積まれていた。
西尾先生が手早くメロンを切り分けてくれた。
これ、普通に買ったら軽く5,000円は超えるだろう……。
「先生方が揃ってメロンを持ってくるので、かれこれ6個あります……。しかしメロンばっかり貰っても、丸かじりするものでもありませんからね。困ってたところ、
流石松本先生。
「
「戴きます」
お、甘い。
「とても甘いですね」
西尾先生も舌鼓。
あっという間に完食してしまった。
「金山くん、まだ食べられそうですか?」
「えっ? はい」
「でしたら、そちらの篭盛りのフルーツも食べませんか?」
あれ、まさか佐藤錦じゃないだろうか?
お腹いっぱい果物を戴いてしまった……。
西尾先生が出た生ゴミ(皮や種)を捨てに出て行き、病室には二人だけとなった。
「さて。金山くんが来た本当の理由を聞きましょうか。そう言っても、聞くまでも無いでしょう。ですよね?」
先生は何でもお見通しか。
時計を見る。そろそろ時間だ。
「分かりました。えっと、ここ、個室だから携帯電話大丈夫ですよね」
電話を掛ける。
相手はもちろん……。
『園田です』
園田先生だ。
「先生、順番は?」
『ちょうど良いところで掛けてきたわよ。もう始まるところ』
電話をハンズフリーに切り替える。
これで受話口からではなく、スピーカーから音が聞こえてくる。
ベット横の椅子に腰掛け、テーブルに電話を置く。
『プログラム12番、北宇治高等学校吹奏楽部。課題曲Ⅳ番に続きまして、自由曲 うさぎの駆ける道。指揮は、
電話越しに、会場のアナウンスが、はっきりと聞こえてきた。
しかし、アナウンス以外何も聞こえない。
今、会場では恐らく、先生がステージ上を見回し、構え。
そして、振りおろす……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
一つ前のお話が公開された日の朝……一昨日ですね。
総合評価のポイントが、急に倍になっていて驚きました。
5名以上から評価いただけると、調整平均……? が、加わるんですね。
皆様ありがとうございます。
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