【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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6-5……部員たちの夏

 

課題曲の演奏が終わる。

 

ここで、人によっては楽器やポジションチェンジが行われるはずだ。

 

金山(かなやま)くん、電話代大丈夫ですか?」

 

不意に(たき)先生が言った。

 

演奏は、課題曲と自由曲合わせ12分。電話ならそれなりに長電話だ。もちろん、その分電話代もかかる。

 

「気にしないでください。俺、こう見えてもお金持ってるんです」

 

そう。

 

俺の作家デビューとなった、『審査員特別賞』。副賞として頂いた20万円は、そのまま銀行の定期預金に預けている。

 

「そうですか。なら安心ですね」

 

お金を持っていることについて、追求されたらなんて答えようかと思ったが、それ以上聞かれることはなかった。

 

そして、自由曲の演奏が始まる……。

 

 

 

 

 

 

「次、ペットのソロです」

 

ソロか。

 

『私、本当は最初からソロを吹くつもりはなかったの。(あずさ)ちゃんの方が上手いのは知ってるし、梓ちゃんがいれば全国間違いなし、って思ってたから』

 

『でも、可愛い後輩からあんなに強く言われたら、吹けるなら吹きたい、って思い直した』

 

ホール練習の休憩時間に、俺のところにやって来た加納(かのう)先輩から聞いた話だ。

 

「次はフルートのソロです」

 

あれこれ考える間もなく、今度は紅葉(くれは)のソロだ。

 

彼女のソロは聞いたことがなかったが、梓に匹敵……いや、それ以上の演奏だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話越しに聞こえてくる割れんばかりの拍手に、我に返る。

 

演奏は終了していた。

 

『演奏、どうでしたか?』

 

「素晴らしい演奏でした。松本(まつもと)先生や部員たちに宜しくお伝えください」

 

「感動しました!」

 

滝先生と、いつの間にか帰ってきていた西尾(にしお)先生がそう言った。

 

『それでは、結果発表の際にまた電話しますね。失礼します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(のぼる)、着替え持ってきたぞ」

 

病室の扉が開く。

 

先生の名前を呼び捨て? どちら様?

 

「あ、兄さんありがとう」

 

お兄さん? 似てないな……。

 

「金山くん、西尾先生、紹介します。私の兄です」

 

「はじめまして。滝 (たける)です」

 

先生のお兄さんだった。

 

「あまり似てないですね」

 

西尾先生ばっさり!

 

「良く言われるよ。昇が父に似て、俺は母に似てるからだね」

 

それじゃあ似てなくても仕方ないか。

 

滝先生は父親似か。じゃあ、滝 (とおる)さんもこんな顔……?

 

「申し遅れました。私、北宇治高校の西尾 千夏(ちなつ)といいます。滝先生にはいつもお世話になってます」

 

おっと、自己紹介まだだった。

 

「俺は、金山 はるかです……」

 

「西尾先生に、金山くんだね。よろしく」

 

悪い人ではなさそうだ。

 

「昇、とりあえず4日分の着替え持ってきたから。申し訳ないけど、俺今日中に帰るから、後のことはよろしく」

 

「来てくれて助かったよ」

 

「もうお互い若くないんだから、体調には気を付けろよ。無理は止めとけ」

 

そういえば、結局滝先生の年齢を知らないままだ。

 

一体(いく)つなんだ?

 

「元気でな」

 

「兄さんも元気で」

 

「それじゃあ、またいつか」

 

そう言って健さんは病室を出て行った。

 

普段、誰に対しても丁寧な言葉遣いの滝先生だから、砕けた会話が新鮮だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ結果発表の時間だ。

 

京都府大会は、他の都道府県大会とは異なり、結果発表は模造紙によるものとなっている。

 

だから、電話口では結果が判らない。

 

どうしようか困っていたら、園田先生から電話が掛かってきた。

 

「はい、金山です」

 

『あ、金山くん。結果発表始まるよ。ビデオ通話に切り替えるから』

 

ああ。その手があったか。

 

ビデオ通話に切り替えた電話を、先生方にも見えるように構えた。

 

「いよいよですね」

 

西尾先生まで緊張しているようだ。

 

陸上競技の場合、レースの順位や飛距離など、結果はすぐに目で分かるが、吹奏楽はそうはいかない。こうした緊張感には慣れていないのだろう。

 

『お待たせ致しました。只今より結果発表を行います』

 

司会者の声。

 

『来たっ!』

 

ステージ上部のバルコニーから、模造紙を持ったスタッフが現れる。

 

構え、広げる。

 

同時に、会場からは歓声や悲鳴といった様々な声が上がった。

 

小さい画面に表示されている結果に目を凝らす。えっと……。

 

『北宇治高等学校……金賞』

 

やった。金だ。

 

「金賞、おめでとうございます!」

 

西尾先生が、感動しているのか、少し震える声でそう言った。

 

「まだです。関西に進めるのは、この金賞の中から三校です」

 

そう。

 

金賞をとっても、代表に選ばれるかは別なのだ。

 

『えー。この中より、関西大会へ出場する学校は……』

 

来い!

 

『3番、立華(りっか)高等学校』

 

『10番、舞鶴海港(まいづるかいこう)高等学校』

 

『12番、北宇治高等学校』

 

よっしゃあ~!

 

関西大会出場決定!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビデオ通話が切れ、通常の通話に戻る。

 

『おめでとう。関西決まったね』

 

電話口の園田先生は、そこまで嬉しそうではない気がする。

 

『みんな大団円みたいな雰囲気になってるけど、目標は全国で金賞とることなんだから、こんなの当たり前。ここで喜びのあまり油断したら大変だからね。みんなには私からきつーく叱っておくから、滝先生に宜しく』

 

言われてみれば……。

 

「そうですね。ではそう伝えます。また」

 

電話を切る。

 

「おめでとう! 金山くん」

 

途端に、西尾先生に抱きつかれた。

 

「ちょ、先生どうしたんですか」

 

「良かったね。関西大会出場おめでとう!」

 

「いや、それ俺に言っても意味ないでしょう?」

 

「それもそうか……だよね」

 

冷静になったのか、先生が離れる。

 

「あ、滝先生。園田先生から伝言です。部員たちが大団円みたいな雰囲気になってるから、油断するなって叱っておく、とのことです」

 

「ありがとうございます。そうと決まれば合宿の手配をしなければ……」

 

「あ、滝先生はまだ休んでなきゃ駄目ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校は既に夏休みに突入している。

 

しかし、これで吹奏楽部員の夏休みは無くなった……。

 

とはいえ、夏が終わるわけではない。

 

部員たちの夏は、これから始まるのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 





京都府大会が終わりました。長かった……。

流石強豪北宇治。余裕で金賞取りましたね。


本作での設定は、原作・アニメでも滝先生が、早くから遅くまで仕事をしていることを利用しました。

原作から10年以上経ってるわけですから、先生も40歳半ばですからね。無理してたら倒れます。

松本先生も、副顧問でありながら、顧問らしい指導・仕事をしていないように感じたので、働いてもらいました。

指揮者の交代について、詳しい大会規定が分からないので、もし認められていない場合、『規定が改訂された』と思ってください……。


府大会は終わりましたが、物語はまだまだ続きます。このままだと、タイトル詐欺になってしまいますからね。

タイトルらしい物語になるよう精進します。


いつもお読みいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。
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