【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
課題曲の演奏が終わる。
ここで、人によっては楽器やポジションチェンジが行われるはずだ。
「
不意に
演奏は、課題曲と自由曲合わせ12分。電話ならそれなりに長電話だ。もちろん、その分電話代もかかる。
「気にしないでください。俺、こう見えてもお金持ってるんです」
そう。
俺の作家デビューとなった、『審査員特別賞』。副賞として頂いた20万円は、そのまま銀行の定期預金に預けている。
「そうですか。なら安心ですね」
お金を持っていることについて、追求されたらなんて答えようかと思ったが、それ以上聞かれることはなかった。
そして、自由曲の演奏が始まる……。
「次、ペットのソロです」
ソロか。
『私、本当は最初からソロを吹くつもりはなかったの。
『でも、可愛い後輩からあんなに強く言われたら、吹けるなら吹きたい、って思い直した』
ホール練習の休憩時間に、俺のところにやって来た
「次はフルートのソロです」
あれこれ考える間もなく、今度は
彼女のソロは聞いたことがなかったが、梓に匹敵……いや、それ以上の演奏だ。
電話越しに聞こえてくる割れんばかりの拍手に、我に返る。
演奏は終了していた。
『演奏、どうでしたか?』
「素晴らしい演奏でした。
「感動しました!」
滝先生と、いつの間にか帰ってきていた
『それでは、結果発表の際にまた電話しますね。失礼します』
「
病室の扉が開く。
先生の名前を呼び捨て? どちら様?
「あ、兄さんありがとう」
お兄さん? 似てないな……。
「金山くん、西尾先生、紹介します。私の兄です」
「はじめまして。滝
先生のお兄さんだった。
「あまり似てないですね」
西尾先生ばっさり!
「良く言われるよ。昇が父に似て、俺は母に似てるからだね」
それじゃあ似てなくても仕方ないか。
滝先生は父親似か。じゃあ、滝
「申し遅れました。私、北宇治高校の西尾
おっと、自己紹介まだだった。
「俺は、金山 はるかです……」
「西尾先生に、金山くんだね。よろしく」
悪い人ではなさそうだ。
「昇、とりあえず4日分の着替え持ってきたから。申し訳ないけど、俺今日中に帰るから、後のことはよろしく」
「来てくれて助かったよ」
「もうお互い若くないんだから、体調には気を付けろよ。無理は止めとけ」
そういえば、結局滝先生の年齢を知らないままだ。
一体
「元気でな」
「兄さんも元気で」
「それじゃあ、またいつか」
そう言って健さんは病室を出て行った。
普段、誰に対しても丁寧な言葉遣いの滝先生だから、砕けた会話が新鮮だった……。
そろそろ結果発表の時間だ。
京都府大会は、他の都道府県大会とは異なり、結果発表は模造紙によるものとなっている。
だから、電話口では結果が判らない。
どうしようか困っていたら、園田先生から電話が掛かってきた。
「はい、金山です」
『あ、金山くん。結果発表始まるよ。ビデオ通話に切り替えるから』
ああ。その手があったか。
ビデオ通話に切り替えた電話を、先生方にも見えるように構えた。
「いよいよですね」
西尾先生まで緊張しているようだ。
陸上競技の場合、レースの順位や飛距離など、結果はすぐに目で分かるが、吹奏楽はそうはいかない。こうした緊張感には慣れていないのだろう。
『お待たせ致しました。只今より結果発表を行います』
司会者の声。
『来たっ!』
ステージ上部のバルコニーから、模造紙を持ったスタッフが現れる。
構え、広げる。
同時に、会場からは歓声や悲鳴といった様々な声が上がった。
小さい画面に表示されている結果に目を凝らす。えっと……。
『北宇治高等学校……金賞』
やった。金だ。
「金賞、おめでとうございます!」
西尾先生が、感動しているのか、少し震える声でそう言った。
「まだです。関西に進めるのは、この金賞の中から三校です」
そう。
金賞をとっても、代表に選ばれるかは別なのだ。
『えー。この中より、関西大会へ出場する学校は……』
来い!
『3番、
『10番、
『12番、北宇治高等学校』
よっしゃあ~!
関西大会出場決定!
ビデオ通話が切れ、通常の通話に戻る。
『おめでとう。関西決まったね』
電話口の園田先生は、そこまで嬉しそうではない気がする。
『みんな大団円みたいな雰囲気になってるけど、目標は全国で金賞とることなんだから、こんなの当たり前。ここで喜びのあまり油断したら大変だからね。みんなには私からきつーく叱っておくから、滝先生に宜しく』
言われてみれば……。
「そうですね。ではそう伝えます。また」
電話を切る。
「おめでとう! 金山くん」
途端に、西尾先生に抱きつかれた。
「ちょ、先生どうしたんですか」
「良かったね。関西大会出場おめでとう!」
「いや、それ俺に言っても意味ないでしょう?」
「それもそうか……だよね」
冷静になったのか、先生が離れる。
「あ、滝先生。園田先生から伝言です。部員たちが大団円みたいな雰囲気になってるから、油断するなって叱っておく、とのことです」
「ありがとうございます。そうと決まれば合宿の手配をしなければ……」
「あ、滝先生はまだ休んでなきゃ駄目ですよ」
学校は既に夏休みに突入している。
しかし、これで吹奏楽部員の夏休みは無くなった……。
とはいえ、夏が終わるわけではない。
部員たちの夏は、これから始まるのだ……。
京都府大会が終わりました。長かった……。
流石強豪北宇治。余裕で金賞取りましたね。
本作での設定は、原作・アニメでも滝先生が、早くから遅くまで仕事をしていることを利用しました。
原作から10年以上経ってるわけですから、先生も40歳半ばですからね。無理してたら倒れます。
松本先生も、副顧問でありながら、顧問らしい指導・仕事をしていないように感じたので、働いてもらいました。
指揮者の交代について、詳しい大会規定が分からないので、もし認められていない場合、『規定が改訂された』と思ってください……。
府大会は終わりましたが、物語はまだまだ続きます。このままだと、タイトル詐欺になってしまいますからね。
タイトルらしい物語になるよう精進します。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。