【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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7……関西大会
7-1……『合宿のお知らせ』


 

吹奏楽部が関西大会進出を決めた翌日。

 

俺は普段(?)通り、部活のために登校した。

 

いつも通り職員室で鍵を借り、部室へ向かう。

 

部室の扉に手を掛けると、鍵が開いていた。

 

あれ? 昨日……は来ていないから、一昨日か。確か、鍵を閉めて出たはずだけど……閉め忘れたか。

 

まあ良い。盗られて困るものは置いていないし。

 

「失礼します……」

 

誰もいないのに、いつもの癖で声を掛けながら入室する。

 

だが、今日はいつもと違った。

 

「お、金山(かなやま)。おはよう」

 

返事があったのだ。

 

……?

 

なんで?

 

「昨日は行けなくて悪かったな。どうした? そんな所に突っ立って」

 

驚きの余り、一瞬息するのも忘れてた。

 

「なんで滝野(たきの)先生がこの部屋に居るんですか?」

 

そう。社会科教師、滝野 純一(じゅんいち)先生が居たのだ。

 

「改まったようにフルネームで呼ぶなよ。恥ずかしいから」

 

声に出てた? 言ったつもりないんだけど。

 

「……なんでって、副顧問だから。園田(そのだ)先生は(たき)先生が復帰するまで、吹奏楽部に出張中。その代わり」

 

ふ、副顧問だって?

 

「あ。この間何処の部の顧問か聞いたとき、内緒って言ってたの、こういうことだったんですか。俺なら知ってて当たり前だから」

 

「その通りだよ」

 

やられた……。

 

 

 

 

 

 

「でも、副顧問なら、園田先生がいつもはこんなに朝早く来ないことは知ってますよね?」

 

「うん」

 

即答ですか。

 

「じゃあ、何でもう来てるんですか?」

 

「何だ? 俺が居ると困るのか?」

 

うん。困ります。

 

「そういうわけではないんですけど……」

 

とは言えまい。

 

「今日は傘木(かさぎ)が来てるんだよ」

 

「傘木さんが?」

 

何でだろう。

 

「合宿の準備だって。滝先生が来られないから、代わりに。場所はそんなに遠くないとこ。普通なら今から予約してたら遅いけど、滝先生が懇意(こんい)にしてるところだからね。大歓迎してくれるんだよ。学生時代、俺も行ったなぁ……」

 

遠い目。合宿のことを思い出しているのだろう。まさか、女子風呂を覗いてたとか?

 

有り得ない話だけど、傘木さんや高坂(こうさか)さんから聞いている感じだと、否定しきれない……。

 

 

 

 

 

 

 

扉がノックされた。

 

「失礼します」

 

この声は園田先生か。

 

……違った。

 

「金山くん、久し振りだね。滝野も」

 

傘木さんだった。

 

「俺はついでかよ」

 

「そうじゃん? 私が用あるのは金山くんだからね。はい、どうぞ」

 

差し出された紙を受け取る。

 

「ありがとうございます」

 

えっと、『合宿のお知らせ』。

 

16日から2泊3日の日程で行われる。

 

施設名には聞き覚えがある。確かに近い。

 

しかし、本当に急な日程だな。100人近い大所帯をこんなギリギリでも受け入れてくれるなんて、とても親切なところなんだな。

 

「吹奏楽部は全員参加ですか?」

 

「もちろん。模試や家庭の都合で参加できない人もいるけど、近くだから中抜け出来るから、たいていみんな参加だよ」

 

そうか。近いとそういうことが出来るんだ。

 

「滝野先生は?」

 

「なんで俺が参加しなきゃならんのだ」

 

「トランペット短期集中特訓とか」

 

「それは俺が受ける側って事だよな?」

 

「あ、それもありですね」

 

「ねぇよ。まあ、俺も行くけどな」

 

本当に行くの?

 

「参加するんですか?」

 

「参加といっても、俺は楽器運搬と食事の準備だけど……。全く。俺のことを便利屋みたいに使うんだから」

 

楽器運搬は、大型免許を持っているからだ。食事とは?

 

「先生、料理出来るんですか!」

 

「出来るよ。調理師免許持ってるし」

 

大型免許や調理師免許を持っていて、高校の社会科の教師をしている。

 

滝野先生って、一体何者なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

「傘木さんも参加ですか?」

 

話の流れで聞いてみる。

 

「私は行かないよ。ただ、合宿場所がうちの会社が贔屓(ひいき)にしてる所でね。今は滝先生がいないから、代わりに予約しただけだよ」

 

なるほど。

 

「あれ、傘木って旅行会社だっけか?」

 

「ううん。イベントの準備・設営とかをやってる会社だよ。近いところだと、宇治川花火大会も関わってるね」

 

花火大会? もうそんな時期か。

 

「金山くんは誰と行くの?」

 

「行くって、何処へ?」

 

「花火大会」

 

「分かりません。そもそも、行くかどうかも未定ですから」

 

堀田(ほりた)さん? 沙也(さや)ちゃん? それとも紅葉(くれは)ちゃんかな?」

 

「傘木さん。俺の言ったこと聞いてますか?」

 

「うん、聞いてるよ。それで、誰と行くの?」

 

だめだこりゃ。

 

好奇心は何とか……。諦めてくださいよ。

 

 

 

 

 

 

結局、同じ問答を数回繰り返して、ゆうきと行くことになった(話の中で。実際のところ、当日ゆうきは夏期講習のはず)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

傘木(かさぎ)さんが退室し、滝野(たきの)先生と二人になった。

 

俺はパソコンを立ち上げ、執筆(しっぴつ)を開始。

 

先生は、パソコンの反対側の椅子に座って本を読んでいる。

 

どれどれ。先生が読んでいるのは……ライトノベルじゃん。

 

一応俺もラノベ作家だから、その辺は詳しい。

 

数年前にアニメ化もされ、街中のバイクが9割方カブになったほどの人気作だ。

 

少し話を振ってみようか……。

 

「先生のクラスにそんな子、いますか?」

 

「そんな子? ……ああ、居ないよ。そもそもバイク通学してる奴が居ない」

 

それもそうか。

 

バイク通勤の先生なら居たと思うけど。

 

礼子(れいこ)みたいな子は?」

 

「どうだろう? 親が市議だって子は前に数人いたけど、今年は聞かないなぁ」

 

小熊(こぐま)みたいな子は?」

 

「流石に、親が失踪(しっそう)して一人暮らしって子は居ないよ。奨学生(しょうがくせい)は居たかもしれない……」

 

まあ、あくまでフィクションの話だ。深堀したらつまらなくなる。

 

「俺はバイク乗ったこと無いからね。高校卒業してすぐに免許はとったけど、大学出るまではペードラだったし。有った方が便利だから、とっただけだったよ」

 

運転免許証といえば、顔付き身分証の筆頭だ。

 

持っていても運転しないって人は、特に芸能界に多い。

 

「ということは、先生の免許証、フルビットではないですよね」

 

へぇ~。

 

今の一言で先生が唸った。

 

「金山、いろんな事知ってんのな。フルビットの順番知ってる?」

 

「確か、原付、小特、普通、準中の順ですよね?」

 

「誰かが金山のこと、『ウィキペディアくん』って言ってたの。確かだな」

 

おいおい。変な渾名(あだな)付けるなよ。誰か知らんけど。

 

「ウィキペディアくんの名に相応しいのは、(たくみ)ですよ。あいつの方がもっと詳しいです」

 

富士松(ふじまつ)か。確かに、いろんな事を知ってるからな。俺も驚かされっぱなしだよ」

 

(たくみ)の雑学・豆知識にはいつも関心する。

 

「ところで金山。お前、夏休みの宿題は進んでるか?」

 

おお。話が変わったよ。

 

まあ、勉強こそが学生の本分(ほんぶん)だから、当たり前な話だ。

 

「安心してください。夏休みが始まる前に終わらせました」

 

執筆(しっぴつ)に息詰まったとき、息抜き代わりに宿題をやっていたら、夏休み前に片付いてしまった……。

 

「すげえな。次の試験は学年トップ狙えるんじゃないか?」

 

「進学クラスには勝てませんよ。彼らはいろんな部分が根本(こんぽん)的に違いますから」

 

「進学クラスか……。鎧塚(よろいづか)高坂(こうさか)中川(なかがわ)……」

 

先生が呟いた。

 

誰? 高坂は、高坂さんのことだろう。他は知らない。

 

「確かに。進学クラスの連中は変わり者が多かったからな。個性が強い奴とか……。さてと。それじゃあ、俺は職員室でやる事があるから。これにて失礼」

 

先生が本を畳んで立ち上がる。

 

「あ、お疲れ様です」

 

 

 

 

 

滝野先生が退室し、やっと俺一人になった。

 

さて、時間一杯頑張りますか……。

 

 

 






『宇治川花火大会』が廃止されていることは承知しております。

この後の展開をお楽しみに……。
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