【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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7-2……両手に花

 

昼食を取って、執筆を続けている。

 

ノックと同時に扉が開いた。

 

「失礼します」

 

「お疲れ様」

 

「防音室借りま~す」

 

もうそんな時間か……。

 

トランペット。加納(かのう)先輩、(あずさ)町方(まちかた)

 

いつものメンバーと違う。

 

先に梓と町方(まちかた)が防音室の方へ入って行った。

 

「珍しい組み合わせですね」

 

加納先輩だけが残っている。俺に用が有るのだろうか。

 

先に話を振ってみる。

 

「まあね。偶には。ところで、金山くん」

 

「はい」

 

「花火大会の日、予定ある?」

 

さっき、傘木さんにしつこく聞かれた話だ。

 

「特に予定は……。たぶん、ゆうきは行けないんで、俺はどうしようか迷ってます」

 

「なるほどね。じゃあ、私とあやちと3人で行こう」

 

えっ? 3人でって。

 

「じゃあ、時間押してるからあとでね」

 

勝手に決められてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇治川花火大会の日は、交通規制が敷かれてしまうと先生が帰れなくなるため、練習は17時で終わりらしい。

 

俺は、ゆうきが夏期講習で行けないはずだから、行くかどうか決めていなかった。

 

しかし、傘木(かさぎ)さんにしつこく聞かれて、その場しのぎで何とか誤魔化し、加納(かのう)先輩には堀田(ほりた)先輩と3人で行くことに、半ば強引に決められてしまった。

 

当日の予約表を確認すると、真っ白だ。つまり、ほとんどの人が花火大会に行くということだろう。

 

防音室の対応がないのなら、その日は別に学校に来なくても大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉がノックされた。

 

「失礼します」

 

「はるかお疲れさま」

 

ユーフォニアムの玉野(たまの)先輩と堀田先輩が入ってきた。

 

「はるか、沙也(さや)から聞いてる?」

 

こちらからも聞こうとしていたことが早速飛んできた。

 

「花火大会ですか?」

 

「そう。それ」

 

「あれはそのままの意味で合ってますよね?」

 

「うん。私は一旦家に帰ってから行きたいから、また京阪(けいはん)宇治駅待ち合わせで大丈夫だよね?」

 

また? ああ、あがた祭りの時も、京阪宇治駅待ち合わせだったな。

 

「構いませんよ。時間は?」

 

「19時28分でどう?」

 

分単位で指定してくるとは……。

 

もちろん、これは電車の時間に合わせたものだろう。

 

「沙也が場所取りしてくれるから、いい場所で見れると思うよ」

 

それは楽しみだ。

 

しかし、花火を楽しむ余裕があるだろうか?

 

吹奏楽部の部長と副部長とだぞ。両手に花。しかもそれは高嶺(たかね)の花。

 

俺はなぜか、吹奏楽部のメンバーからは特別扱いされているから問題ないんだけど、それ以外の人に見つかった時のことを考えると、鳥肌が立つ。

 

何か言い訳を考えておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加納先輩たちが出てきた。

 

入れ替わりに、堀田先輩と玉野先輩が入って行く。

 

誰も言葉を交わさなかったが、アイコンタクトを取っていたようだ。

 

花火大会のことだろう。

 

「じゃあね」

 

退室際、珍しく(あずさ)から声掛けられた。

 

まさか、堀田先輩と一緒に花火見に行くことに対して、何か言いたいことがあるのだろうか……。

 

最近紅葉(くれは)と一緒にいることが多いらしいし、何か怖いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金山(かなやま)くん、頑張ってる?」

 

園田(そのだ)先生がやって来た。

 

「お疲れさまです。どうですか、吹奏楽部は」

 

「半年前まで顧問だったのよ。指導は問題なし。滝先生が戻られるまで、今の質の演奏を保てるようにしてる」

 

「向上、ではなく?」

 

「無理よ。言っておくけど、滝先生凄い人なのよ。甘く見積もったら怪我するよ」

 

承知しております。

 

春先、高坂(こうさか)さんが来始めの頃に、滝先生を批判した部員を叱り飛ばしていた。

 

『馬鹿にしたら許さないんだから』って。

 

俺は偶々(たまたま)その様子を見ていたのだが、あれは怖かった……。

 

「滝先生はいつ頃戻られるんですか?」

 

「確か、花火大会の日じゃなかったかな」

 

じゃあ、もうすぐじゃないか。

 

「失礼します」

 

「防音室利用に来ました」

 

扉がノックされ、2人入ってくる。

 

知らない顔だ。えっと……、矢田(やだ)先輩と南宿(みなみじゅく)先輩らしい。

 

楽器は……クラ。

 

「あ、園田先生。お疲れさまです」

 

「お疲れ。矢田ちゃんと南宿ちゃんが防音室使うの珍しいね。初めてなんじゃない?」

 

やはり。俺が顔を知らないはずだ。

 

「今日はどうしたの?」

 

「いつもはお互いどちらかの家で練習するんですが、今日は生憎(あいにく)都合が悪くて……」

 

家で練習しているのか。

 

持ち運びやすい楽器の特典だろう。

 

「それで防音室を使ってみようと思って」

 

「なるほどね。頑張って。あ、お疲れ」

 

堀田先輩と玉野先輩が出てきた。

 

「お、さくらちゃんにここで会うの初めてだね」

 

彩香(あやか)先輩は?」

 

「私は入り浸りだよ。はるかにも会えるし」

 

俺?

 

「はるか……って、彼のこと?」

 

その反応、慣れてる。

 

「うん。金山はるか、文芸同好会の部長だよ」

 

そして、堀田先輩はなぜか得意気。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火大会当日。

 

俺は学校へ行かなかった。

 

文芸同好会の場合、実質活動しているメンバーが俺一人であり、部活の有無も俺一人で決められる。

 

今日はこれから起きるかもしれない出来事のことで頭が一杯で、部活どころではなかったから。

 

夕方まで家で過ごして、待ち合わせ時間に遅れないように出発した。

 

 

 

 

 

 

京阪(けいはん)六地蔵(ろくじぞう)駅から電車に乗る。

 

『扉を閉めます、ご注意ください』

 

多客対応のためか、普段はワンマン運転の列車も、今日は車掌が乗っている。

 

でも、列車はそこまで混雑していない。

 

最後尾のこの車両は、空席があるような状態。

 

終点の宇治駅の改札口に近い、先頭車両はそれなりに混んでいそうだ。

 

だから、黄檗(おうばく)駅から乗ってきた堀田(ほりた)先輩に、列車の中で会うことが出来た。

 

しかし驚いた。何故かって?

 

 

 

「はるか。お待たせ」

 

堀田先輩の声がして、顔を上げる。

 

……。

 

堀田先輩は浴衣を着ている。

 

色々な花が描かれた、オレンジを基調とした色の浴衣。

似合ってる。

 

「えっと……びっくりしました。まさか浴衣着てくるなんて……」

 

「せっかくの花火大会だしね。似合ってるかな?」

 

「勿論。まさに堀田先輩って感じの浴衣ですね」

 

「良かった。はるかに褒めてもらえて嬉しいよ」

 

上機嫌の堀田先輩は、迷うことなく俺の隣に座り、なんの遠慮もなく、肩を枕代わりに寝てしまう。

 

寝るのは構わないけど、たった2駅ですよ……。

 

 

 

 

 

あっという間に終点、(京阪)宇治駅に到着。

 

沙也(さや)が場所取りしてくれてるから、とりあえず合流しよっか」

 

「はい」

 

電車を降りると、やはり先頭車両に集中していたであろう人たちが、改札前に列になっていた。

 

列に並んで、改札を抜けると、混雑が酷くなる。

 

「はぐれないように気を付けましょう」

 

「だね。手、繋ごっか」

 

言うが早い。堀田先輩が俺の手首を取り、歩き出す。

 

「せ、先輩?」

 

先輩が前になって歩いているから、顔は見えない。

 

でも、横顔はほんのり赤い。

 

たぶん、俺も同じ……。

 

 

 

「あ、あやち~!」

 

宇治橋を渡り、川沿いに歩いて行くと、加納(かのう)先輩の声が聞こえた。

 

「こんばんは。お疲れ様です。先輩、浴衣似合ってますね」

 

加納先輩も浴衣を着ている。

 

水色を基調とし、桃色の朝顔が描かれている。

 

「そ、そう? ありがと……」

 

先輩が少し照れた様に頬を掻く。

 

「あやちも浴衣似合ってるよ」

 

「ありがとう。場所どの辺り?」

 

「あそこだよ」

 

加納先輩が指差す方を見る。

 

あ、塚本(つかもと)さんが居るから、あそこか……えっ?

 

「お、来た来た」

 

「待ってたよ」

 

「こんばんは」

 

何か、大勢居るんですが……。

 

 

 

 

 

 

場所取りしているところでは、塚本さん、黄前(おうまえ)先生、加納先輩ともう一人背の低い女性が待っていた。

 

「紹介するね。彼女は、川島みどりちゃんです」

 

黄前先生も浴衣を着ている。

 

淡い黄色に様々な花が……。堀田先輩と色違いで同じデザインだ。

 

「はじめまして。川島みどりです」

 

その、紹介してもらった川島さんは、普通の服装だ。

 

ところで、何故敬礼?

 

「えっと、川島さんは何で敬礼してるんですか?」

 

俺も同じように思うも、聞かない方が良いと思ったのだが、堀田先輩は遠慮なく疑問をぶつけた……。

 

「ああ。川島は俺と同じで京阪で運転士やってるんだ」

 

なるほど。だから敬礼したのか。

 

もしかして、川島さんが普通の服装なのは、仕事帰りということだろうか?

 

 

 

 

加納先輩、堀田先輩と黄前先生が3人で出店へ向かう。俺を含めた3人が残る。

 

さて。何を話そう……?

 

「えっと、加納先輩が場所取りしてるって聞いてましたが、結局ここは誰が抑えているんですか?」

 

無難に、気になったことを聞いてみる。

 

「加納さん、塚本くん、それから久美子ちゃんは、同じマンションに住んでるんですよ。加納さんは部活が終わってから来るから、いい場所が取れないかもって心配してたから、久美子ちゃんが代わりに場所取りしてたんです」

 

なるほど。

 

「川島さんは?」

 

「私は仕事終わりでやって来ました。今は滋賀里(しがさと)駅近くに住んでるんですが、花火見終わったら、実家に泊まって明日帰ります」

 

滋賀里。どの辺だ?

 

「川島も花火見たいってことで、俺も同じ時間で終わりだったから、一緒に来たんだ」

 

「もしかして、川島さんも北宇治吹奏楽部の出身ですか?」

 

「えっ? そうですよ。よく分かりましたね。えっと……」

 

あ、俺自己紹介してない!

 

「申し遅れました。北宇治文芸同好会の部長してます、金山 はるかです」

 

「金山 はるかくんですね。よろしくです」

 

あれ、珍しい反応だ。

 

「『はるか』は平仮名ですか?」

 

「えっ? はい」

 

俺がそう答えると、川島さんは少しだけ考えるような素振りを見せた。

 

「じゃあ、金山くんには私の秘密を教えちゃいます」

 

えっ? 秘密ですか?

 

「それ、秘密って言えるのか?」

 

すかさず塚本さんが突っ込む。

 

「秘密ですよ。今まで何人欺いてきたか……」

 

「自慢げに言う事じゃないだろ……」

 

どんな会話だよ……。というか、どんな秘密?

 

「実は、みどりの本当の名前は、緑輝(サファイア)って言うんです」

 

さ、さふぁいあ?

 

「恥ずかしいから普段はみどりって名乗ってるんですが……あ、勿論(もちろん)市役所とか病院とか、そういったところでは、ちゃんと緑輝(サファイア)って名乗ってますから」

 

そりゃあ当然だろう。

 

「金山くんなら、みどりのこの気持ちを分かってくれそうな気がしたので、言っちゃいました」

 

光栄です。

 

 

俺とは少し違うが、確かにその気持ちは分かる。

 

 

 

 

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