【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
昼食を取って、執筆を続けている。
ノックと同時に扉が開いた。
「失礼します」
「お疲れ様」
「防音室借りま~す」
もうそんな時間か……。
トランペット。
いつものメンバーと違う。
先に梓と
「珍しい組み合わせですね」
加納先輩だけが残っている。俺に用が有るのだろうか。
先に話を振ってみる。
「まあね。偶には。ところで、金山くん」
「はい」
「花火大会の日、予定ある?」
さっき、傘木さんにしつこく聞かれた話だ。
「特に予定は……。たぶん、ゆうきは行けないんで、俺はどうしようか迷ってます」
「なるほどね。じゃあ、私とあやちと3人で行こう」
えっ? 3人でって。
「じゃあ、時間押してるからあとでね」
勝手に決められてしまった……。
宇治川花火大会の日は、交通規制が敷かれてしまうと先生が帰れなくなるため、練習は17時で終わりらしい。
俺は、ゆうきが夏期講習で行けないはずだから、行くかどうか決めていなかった。
しかし、
当日の予約表を確認すると、真っ白だ。つまり、ほとんどの人が花火大会に行くということだろう。
防音室の対応がないのなら、その日は別に学校に来なくても大丈夫だ。
扉がノックされた。
「失礼します」
「はるかお疲れさま」
ユーフォニアムの
「はるか、
こちらからも聞こうとしていたことが早速飛んできた。
「花火大会ですか?」
「そう。それ」
「あれはそのままの意味で合ってますよね?」
「うん。私は一旦家に帰ってから行きたいから、また
また? ああ、あがた祭りの時も、京阪宇治駅待ち合わせだったな。
「構いませんよ。時間は?」
「19時28分でどう?」
分単位で指定してくるとは……。
もちろん、これは電車の時間に合わせたものだろう。
「沙也が場所取りしてくれるから、いい場所で見れると思うよ」
それは楽しみだ。
しかし、花火を楽しむ余裕があるだろうか?
吹奏楽部の部長と副部長とだぞ。両手に花。しかもそれは
俺はなぜか、吹奏楽部のメンバーからは特別扱いされているから問題ないんだけど、それ以外の人に見つかった時のことを考えると、鳥肌が立つ。
何か言い訳を考えておいた方が良さそうだ。
加納先輩たちが出てきた。
入れ替わりに、堀田先輩と玉野先輩が入って行く。
誰も言葉を交わさなかったが、アイコンタクトを取っていたようだ。
花火大会のことだろう。
「じゃあね」
退室際、珍しく
まさか、堀田先輩と一緒に花火見に行くことに対して、何か言いたいことがあるのだろうか……。
最近
「
「お疲れさまです。どうですか、吹奏楽部は」
「半年前まで顧問だったのよ。指導は問題なし。滝先生が戻られるまで、今の質の演奏を保てるようにしてる」
「向上、ではなく?」
「無理よ。言っておくけど、滝先生凄い人なのよ。甘く見積もったら怪我するよ」
承知しております。
春先、
『馬鹿にしたら許さないんだから』って。
俺は
「滝先生はいつ頃戻られるんですか?」
「確か、花火大会の日じゃなかったかな」
じゃあ、もうすぐじゃないか。
「失礼します」
「防音室利用に来ました」
扉がノックされ、2人入ってくる。
知らない顔だ。えっと……、
楽器は……クラ。
「あ、園田先生。お疲れさまです」
「お疲れ。矢田ちゃんと南宿ちゃんが防音室使うの珍しいね。初めてなんじゃない?」
やはり。俺が顔を知らないはずだ。
「今日はどうしたの?」
「いつもはお互いどちらかの家で練習するんですが、今日は
家で練習しているのか。
持ち運びやすい楽器の特典だろう。
「それで防音室を使ってみようと思って」
「なるほどね。頑張って。あ、お疲れ」
堀田先輩と玉野先輩が出てきた。
「お、さくらちゃんにここで会うの初めてだね」
「
「私は入り浸りだよ。はるかにも会えるし」
俺?
「はるか……って、彼のこと?」
その反応、慣れてる。
「うん。金山はるか、文芸同好会の部長だよ」
そして、堀田先輩はなぜか得意気。
花火大会当日。
俺は学校へ行かなかった。
文芸同好会の場合、実質活動しているメンバーが俺一人であり、部活の有無も俺一人で決められる。
今日はこれから起きるかもしれない出来事のことで頭が一杯で、部活どころではなかったから。
夕方まで家で過ごして、待ち合わせ時間に遅れないように出発した。
『扉を閉めます、ご注意ください』
多客対応のためか、普段はワンマン運転の列車も、今日は車掌が乗っている。
でも、列車はそこまで混雑していない。
最後尾のこの車両は、空席があるような状態。
終点の宇治駅の改札口に近い、先頭車両はそれなりに混んでいそうだ。
だから、
しかし驚いた。何故かって?
「はるか。お待たせ」
堀田先輩の声がして、顔を上げる。
……。
堀田先輩は浴衣を着ている。
色々な花が描かれた、オレンジを基調とした色の浴衣。
似合ってる。
「えっと……びっくりしました。まさか浴衣着てくるなんて……」
「せっかくの花火大会だしね。似合ってるかな?」
「勿論。まさに堀田先輩って感じの浴衣ですね」
「良かった。はるかに褒めてもらえて嬉しいよ」
上機嫌の堀田先輩は、迷うことなく俺の隣に座り、なんの遠慮もなく、肩を枕代わりに寝てしまう。
寝るのは構わないけど、たった2駅ですよ……。
あっという間に終点、(京阪)宇治駅に到着。
「
「はい」
電車を降りると、やはり先頭車両に集中していたであろう人たちが、改札前に列になっていた。
列に並んで、改札を抜けると、混雑が酷くなる。
「はぐれないように気を付けましょう」
「だね。手、繋ごっか」
言うが早い。堀田先輩が俺の手首を取り、歩き出す。
「せ、先輩?」
先輩が前になって歩いているから、顔は見えない。
でも、横顔はほんのり赤い。
たぶん、俺も同じ……。
「あ、あやち~!」
宇治橋を渡り、川沿いに歩いて行くと、
「こんばんは。お疲れ様です。先輩、浴衣似合ってますね」
加納先輩も浴衣を着ている。
水色を基調とし、桃色の朝顔が描かれている。
「そ、そう? ありがと……」
先輩が少し照れた様に頬を掻く。
「あやちも浴衣似合ってるよ」
「ありがとう。場所どの辺り?」
「あそこだよ」
加納先輩が指差す方を見る。
あ、
「お、来た来た」
「待ってたよ」
「こんばんは」
何か、大勢居るんですが……。
場所取りしているところでは、塚本さん、
「紹介するね。彼女は、川島みどりちゃんです」
黄前先生も浴衣を着ている。
淡い黄色に様々な花が……。堀田先輩と色違いで同じデザインだ。
「はじめまして。川島みどりです」
その、紹介してもらった川島さんは、普通の服装だ。
ところで、何故敬礼?
「えっと、川島さんは何で敬礼してるんですか?」
俺も同じように思うも、聞かない方が良いと思ったのだが、堀田先輩は遠慮なく疑問をぶつけた……。
「ああ。川島は俺と同じで京阪で運転士やってるんだ」
なるほど。だから敬礼したのか。
もしかして、川島さんが普通の服装なのは、仕事帰りということだろうか?
加納先輩、堀田先輩と黄前先生が3人で出店へ向かう。俺を含めた3人が残る。
さて。何を話そう……?
「えっと、加納先輩が場所取りしてるって聞いてましたが、結局ここは誰が抑えているんですか?」
無難に、気になったことを聞いてみる。
「加納さん、塚本くん、それから久美子ちゃんは、同じマンションに住んでるんですよ。加納さんは部活が終わってから来るから、いい場所が取れないかもって心配してたから、久美子ちゃんが代わりに場所取りしてたんです」
なるほど。
「川島さんは?」
「私は仕事終わりでやって来ました。今は
滋賀里。どの辺だ?
「川島も花火見たいってことで、俺も同じ時間で終わりだったから、一緒に来たんだ」
「もしかして、川島さんも北宇治吹奏楽部の出身ですか?」
「えっ? そうですよ。よく分かりましたね。えっと……」
あ、俺自己紹介してない!
「申し遅れました。北宇治文芸同好会の部長してます、金山 はるかです」
「金山 はるかくんですね。よろしくです」
あれ、珍しい反応だ。
「『はるか』は平仮名ですか?」
「えっ? はい」
俺がそう答えると、川島さんは少しだけ考えるような素振りを見せた。
「じゃあ、金山くんには私の秘密を教えちゃいます」
えっ? 秘密ですか?
「それ、秘密って言えるのか?」
すかさず塚本さんが突っ込む。
「秘密ですよ。今まで何人欺いてきたか……」
「自慢げに言う事じゃないだろ……」
どんな会話だよ……。というか、どんな秘密?
「実は、みどりの本当の名前は、
さ、さふぁいあ?
「恥ずかしいから普段はみどりって名乗ってるんですが……あ、
そりゃあ当然だろう。
「金山くんなら、みどりのこの気持ちを分かってくれそうな気がしたので、言っちゃいました」
光栄です。
俺とは少し違うが、確かにその気持ちは分かる。