【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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1-3……トランペット吹きの休日返上

 

翌日。

 

朝、目が覚めたタイミングで起き、朝食を摂ったら出発する。

 

まだ早い時間だが、遅刻するよりマシだろう。

 

玄関を出れば目の前に北宇治のグランドが見える。

 

家の門を出れば、目の前が学校の門。

 

まだ6時半。それでもグランドからはなんかの掛け声が聞こえる。

 

朝練だろう。

 

校門を入ると、どこからか楽器の音色が聞こえてきた。

 

これは、トランペットだろうか。

 

この曲は……聴いたことがある曲だけど、タイトルが分からない。それに、かなりゆっくりだ。本来ならもっとアップテンポのはず。

 

しかしまあ、吹奏楽部も朝練があるのか……。流石強豪北宇治。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

立ち止まって聞き惚れていると、後ろから声が掛かった。

 

「俺ですか?」

 

振り返る。

 

そこにはポニーテールの女性が立っている。

 

制服のリボンの色から三年生だと分かった。

 

「あなた以外に誰が居るのよ?」

 

確かに。周りを見渡しても、俺とその先輩しか居ない。

 

「このトランペット、誰が吹いているか知ってるの? 吹部の人間じゃないと思うんだけど」

 

「えっ?」

 

吹奏楽部じゃないのか。

 

でも、それなら誰が……。

 

「北中のトランペットに似てるのよね」

 

「北中ですか。もしかすると、(あずさ)かもしれません」

 

梓ならどこかで一人吹いている可能性は高い。

 

自分のトランペットを持っているからいつでも吹けるだろうし。

 

「あずさ?」

 

小牧(こまき) 梓。北中の吹奏楽部でトランペット吹いてましたから。俺も同じ中学出身なので……」

 

彼女の性格なら、校庭横の築山辺りだろうか。

 

「そう……」

 

目つきが鋭い人だな……。なんか攻撃的な印象を受ける。

 

「あなた……」

 

沙也(さや)~お待たせ!」

 

その先輩が何か言い掛けたところで、別の人からの声が掛かった。

 

「あ、おはようあやち」

 

「ありゃ、邪魔しちゃった?」

 

あ。今来た先輩……。

 

「昨日指揮してた人だ……」

 

あの超美人の。

 

「ああ。昨日の演奏聴いてくれてたんだ。あなたも吹部に入るの?」

 

「いや、俺は全くの素人ですので……」

 

小中とリコーダーすらまともに吹けなかったんだから、吹奏楽部なんて無理。

 

「初心者大歓迎だよ?」

 

「遠慮します……」

 

入りたい部もあるし。同好会か……。

 

「入部希望じゃないのか。ところで、沙也と何話してたの?」

 

「このトランペット誰が吹いてるか尋ねてたの。知り合いみたい」

 

「トランペット? ああ、この『トランペット吹きの休日』?」

 

後から来た先輩がそう言った。

 

「そういう曲名なんですね。聞いたことはあっても曲名までは知りませんでした」

 

「正しくは『ラッパ吹きの休日』ね。別名、『トランペット吹きの休日返上』とも」

 

えっ?

 

「何ですか、その別名?」

 

「休日と言うけれど、トランペットが主旋律だから全然休めないのよね。だから」

 

なるほど。

 

この聞こえてくる演奏はスローテンポだけど、本当はもっと早いからね。

 

「まあ、この曲が作られた頃、ラッパは軍隊の信号、つまり合図として使われてたの。今でも自衛隊は起床・食事・就寝とかはラッパが合図らしいよ。自由に吹くことはできなかったから、『休みの日ぐらいは、好き勝手にラッパ吹かせろー!』って思いを曲にしたんだって」

 

そう言われてみると、確かに好き勝手吹いている感じがするかもしれない……。

 

 

 

「突然ごめんね。私、吹奏楽部副部長の堀田(ほりた) 彩花(あやか)です」

 

「あ、名乗ってなかったわね。私は部長の加納(かのう) 沙也よ」

 

超美人の副部長 堀田先輩と、ちょっと怖い部長 加納先輩……。

 

吹奏楽部のメンバー、濃すぎるんじゃないのか?

 

果たして上手くやっていけるだろうか。俺が心配しても仕方ないか。

 

「あ、俺は金山(かなやま) はるかといいます」

 

「「はるか?」」

 

いつもの反応……。慣れてる。

 

 

 

「沙也、朝練始まるよ」

 

「あ、もうそんな時間か。ごめんね呼び止めちゃって」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

急に呼び止められてびっくりしたけれど……。

 

用もないのに早く出てきてたから、時間調整にはなったかな。

 

「じゃあねー」

 

堀田先輩、超美人……。早く来た甲斐があったかもしれない。

 

先輩二人が校舎へ向け歩き出した。

 

「あ、もうちょっといい?」

 

でもすぐに加納先輩が、スマホ片手に俺のところへ戻ってきた。

 

「連絡先教えてもらっていい?」

 

「えっ! 連絡先ですか?」

 

急すぎて驚く。

 

でもまあ、連絡先を教えても不都合は無いだろう……。

 

「は、はい。分かりました」

 

ポケットからスマホを取り出す。

 

ラインでいい? そんなやり取りをしてると、横からもう一台スマホが差し出された。

 

堀田先輩だ。

 

「私も良いかな?」

 

「あ。えっと、はい……」

 

連絡先を交換すると、二人は足早に去っていった。

 

 

 

数分後。ラインの通知が届く。

 

 

沙也:加納です。登録よろしく。

 

 

ラインのホームには、加納先輩の連絡先(電話番号)が表示されている……。

 

入学早々大変なことになりそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

五限と六限目に行われた部活動紹介でも、文芸同好会についての紹介は無かった。

 

文芸同好会だけが無かった訳ではない。

 

他にも一覧で部員数が0になっている部は、紹介されなかった。

 

 

 

放課後、職員室へと向かう。

 

昼過ぎから降り出した雨のせいで、校舎内は暗い。

 

廊下の電気は生徒を含め誰でも付け消しが出来る。

 

しかし、誰も付けていないから、真っ暗だ。

 

『職員室』

 

扉をノックする。

 

「失礼します……」

 

当然だが室内は明るい。

 

「1-2の金山(かなやま)です。西尾(にしお)先生いらっしゃいますか?」

 

初めて入るから、座席配置を把握していない。西尾先生は何処だ?

 

「金山くん? こっちだよ!」

 

俺に気付いた先生が手招きをしている。

 

「どうしたのかな?」

 

先生の机は窓側にあった。

 

外は雨が降り続いていて、室内も何となく湿っぽい。

 

「部活動のことなんですが」

 

「えっと……何部かな」

 

そう言いながら、先生は俺たちにも配った部活動一覧を開く。

 

「文芸同好会です」

 

「文芸……同好会……。ああ、今部員0なんだね。入部希望なら顧問の先生に話した方が早いよ」

 

顧問。確か、園田(そのだ)先生だっけか。

 

涼子(りょうこ)先生の席は何処だっけ……。居ないなぁ」

 

西尾先生が見ている方を俺も見る。

 

背の高い先生と、白髪が目立つ先生が座っている。

 

その間の席には誰もいない。そこが園田先生の机らしい。

 

……下の名前で呼んでるのか。

 

松本(まつもと)先生、園田先生知りませんか?」

 

西尾先生の声に、白髪が目立つ先生が反応した。

 

松本先生というらしい。

 

「園田先生……? 昼以降見てませんが」

 

「私も見てませんね。昼まではいらしたのですが……」

 

松本先生と、背の高い先生が続いて言った。

 

「涼子先生居ないみたいだね。……どうしたの?」

 

「あ、いえ。その、名前呼びだから、西尾先生、園田先生と親しいのかなって。少し気になって」

 

他の先生に話しかけるときは苗字で呼んでいたから、親しい者同士のニックネームみたいな感じだろうか?

 

「それか。涼子先生はね、私が中学の頃にお世話になった先生なんだよ」

 

「そうなんですね。因みに、どこの中学ですか?」

 

川越(かわごえ)第三」

 

「は?」

 

「埼玉県川越市。知ってるかな?」

 

「名前くらいは……」

 

遠い。いや、遠いっていうレベルではない。関西と関東だ。

 

「私はこっちの大学に進学してね。そのまま居着いちゃった感じかな。あ、涼子先生もしかすると部室にいるかもよ」

 

部室?

 

「部室……ですか」

 

「うん。図書館閉架(へいか)書庫室」

 

それ部室なのか?

 

まあ、行ってみれば分かるか……。

 

「分かりました。行ってみます。ありがとうございました」

 

先生にお礼を言ってその場を離れる。

 

ちょうど、背の高い先生が職員室を出て行くところだったので、続いて職員室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下は誰か電気をつけてくれて、明るくなっていた。

 

俺の道筋にはスイッチが無いから助かった。

 

しかし、渡り廊下を通って隣の校舎へ入ると、再び真っ暗になった。

 

電気のスイッチを押すと、明かりがつくが、蛍光灯が切れかけで、チカチカ光る。

 

こういう場合、誰が変えるのか、誰に言えばいいのか。そんなことを考えながら歩くと、お目当ての部屋に着いた。

 

『図書館閉架書庫室』

 

突き出し看板にはそう書かれている。

 

どこにも文芸同好会とは書かれていないが、この部屋に間違いないはず。

 

 

 

 

図書館(としょかん)閉架(へいか)書庫室(しょこしつ)

 

そう書かれている部屋の扉をノックする。

 

……返事がない。

 

もう一度ノックする。

 

…………返事がない。

 

ドアノブを回してみると、鍵は開いていた。

 

「失礼します……」

 

ゆっくりと扉を開けながら、中へ声を掛ける。

 

室内は電気がついておらず、真っ暗だった。

 

「誰かいますか?」

 

何も見えない。

 

しかもこの部屋の前が、切れかけの蛍光灯なので、本当に見えない。

 

園田(そのだ)先生……?」

 

返事はない。

 

蛍光灯が光った。

 

……その光で、室内になんか見えたぞ。

 

もう一回光った。

 

机に突っ伏して寝ているのか?

 

埒があかない。部屋の電気を付けたい。

 

壁を手探りで触ると、すぐに電気のスイッチに触れた。

 

付ける。

 

室内の電気がついた。

 

突っ伏して寝ている人は、顔を上げていた。

 

30代位の女性。寝起きだからか目が赤い。

 

「どちら様?」

 

寝ているところを起こしてしまったからか、機嫌が悪そうな声だ。

 

「あ、えっと、金山(かなやま)はるかといいます。文芸同好会に入りたいのですが……」

 

そう答えると、何も言わずに机に突っ伏してしまった。

 

「ちょ、寝ないで、起きてください!」

 

声を掛けるが反応なし。

 

「園田先生ですよね?」

 

机のところまで行き、更に声掛ける。

 

「我がお座敷へようこそ……」

 

ようやく顔を上げた。

 

意味不明なことを言いながら。

 

「お座敷? 普通の床じゃないですか」

 

「私のプライベートルームへようこそ……」

 

「部室でしょう? この部屋」

 

「どう見ても閉架書庫ですよね」

 

「それ俺の台詞!」

 

何なんだこの人?

 

「まあ良いわ。確かにあなたの言うとおり、ここは文芸同好会の部室。でも、部員が卒業して誰も居なくなってしまったの。だから、誰も入部しなければ、私のプライベートルーム同然だったの」

 

部室を私物化する気なのか?

 

「言ってることおかしいですよ。いや、日本語としては正しいですが、教師としては間違ってませんか?」

 

「教師でなければ問題ないのね」

 

教師じゃないのか? 園田先生だと思ったが、人違いなのか?

 

「えっと、じゃああなたは何者なんですか?」

 

「冗談よ」

 

良く分かんないよこの人……。

 

 

「改めまして。文芸同好会顧問の園田涼子(そのだりょうこ)です。えっと、あなたは入部希望の金山はるか……くん?」

 

そこで言い淀むのか。慣れているけど、散々遊ばれた後だからか、なんか悲しい。

 

「はい。1-2の金山はるかです」

 

「1-2。西尾(にしお)先生のクラスね」

 

「はい。西尾先生のクラスですよ」

 

「彼女泣かせたでしょ?」

 

「は?」

 

急に何言い出すの!

 

「泣かせてませんよ。どういう意味ですか?」

 

まあ、泣く寸前までいったからな……。言いたいことは何となく分かった。

 

「そう。泣かなかったんだ……。少し成長したのかな。あ、でも金山くんには泣いてもらうことになるかもしれないよ」

 

俺が泣く……。

 

どういう意味だ?

 

 

園田(そのだ)先生、俺が泣くってどういう意味ですか?」

 

真顔で冗談言うし、担任泣かせたとか言ったり、今度は俺が泣くとか。

 

この人にはついて行けそうにない……。

 

「ご存知の通り、我が文芸同好会には今、部員が居ません。0です」

 

聞いていたとおりだ。

 

「今月中に部員が集まらない場合、廃部になってしまいます」

 

そういうことか。ある程度予想していた。

 

「何人集めれば良いんですか?」

 

「お。話が早いね。条件は『二学年に跨がり、四人以上』です」

 

二学年……。ハードルは高い。

 

でも、そんなことでは諦めない。

 

「分かりました。あと三人集めてきます」

 

「おお。頼もしいね。頑張って~」

 

気楽だな、この先生は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室を出る。

 

雨は止みそうにない。

 

部活動中の部もあるけれど、新入生である俺らは帰るだけだ。

 

でも、一応西尾先生にこのことを報告した方が良いだろう。

 

『職員室』

 

本日二回目……。

 

「失礼します。1-2の金山(かなやま)です。西尾(にしお)先生いらっしゃいますか?」

 

部活動中だからか、先生の数はさっきより少ない。

 

「西尾先生なら部活行ったよ」

 

西尾先生の席まで行くが、先生は居なかった。

 

代わりに、そのことを隣の席の先生が教えてくれた。

 

「何か用だった? 俺が伝えておこうか?」

 

「あ……。別に大した用件ではないので、改めます」

 

居ないのなら帰ろう。

 

「失礼しました」

 

職員室を出る。

 

しかし、西尾先生は陸上部の顧問のはず。

 

この雨の中、どこで部活を行っているのだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出る。すぐに帰宅。

 

「ただいま」

 

玄関をくぐる。ん?

 

見慣れているが、この家の者のではない靴がある。

 

「お、おかえりー」

 

出迎えたのは菜穂子(なおこ)だった。

 

「お前俺の家で何やってんの?」

 

「雨酷いから弱まるまで雨宿り」

 

確かに外は雨が降り続いている。

 

「人の家何だと思ってるの?」

 

「あ、はるかおかえり」

 

母も出てきた。

 

「母さん、何で菜穂子が居るのさ」

 

「いいじゃない。どのみちこの雨だから、ゆうき 迎えに行くから、ついでに送ってくる」

 

ゆうき というのは、妹だ。北中の二年生。

 

菜穂子の家は、俺の家が北宇治高校の真ん前にあるのと対照的に、北中の真ん前にある。

 

俺も何回か菜穂子のお父さんに送ってもらったことがあるので、ああは言ったけれど、互いにWinWinの関係だ。

 

元々幼なじみでもある。

 

「はるか遅かったね。先生に怒られてたの?」

 

人を何だと思ってんのさ。

 

「入学早々怒られるようなことはしてません。てか、菜穂子が早すぎんだよ」

 

部活は無いのか? ……というのは冗談。

 

「帰宅部だからね」

 

知ってた。

 

って、そこ笑うところか?

 

「で、何で遅かったの?」

 

「部活の見学」

 

「えっ? 何部?」

 

「文芸同好会」

 

「そんな部あった?」

 

「廃部寸前。部員居ないから。あ!」

 

カモを捕まえたぞ(笑)

 

「菜穂子名前貸して」

 

「えっ? どういう意味?」

 

「部の存続のため、部員が必要なんだよ」

 

「……まあ、良いよ。はるかにはいろいろとお世話になってるからね」

 

あっさり一人目、しかも上級生を捕まえた。

 

 

『2年 大里(おおさと)菜穂子』

 

 

 

 

「そっか……。あんた文芸同好会入るのね……」

 

菜穂子を送っていく前に、母より言われた。

 

「流石に夜食を学校に持っていけないから、遅くなる前には帰ってくるのよ」

 

分かってます。

 

 

 

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