【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
はるかは、合宿に参加しています。
立ち位置としては、滝野先生のお手伝いといった辺りです。
便利屋ですね……。
合宿のお話は省略させていただきますが、後ほど他者視点で語るかもしれません。
貴重な2日のお盆休みと2泊3日の合宿が終わった。
いよいよ関西大会が明後日に迫った日。
この大事な時に、また大地震が起こった。
今年の吹奏楽部はどうなっているんだろう?
当日の打ち合わせがあるので、俺は音楽室に向かっている。
夏休みも残すところ一週間、宿題が終わっていない者同士で勉強しているのか、教室に生徒の姿がちらほら。
廊下も教室も、窓を全開にしているが、入ってくるのは熱風で、ちっとも涼しくならない。左手に持った
だから、勉強している人は、ペンを持つ右手が止まることはあっても、団扇で扇いでいる左手が止まることがない。なかなかおもしろい光景だ。
音楽室へ向かう階段を登っていると、下から足音が聞こえてきた。駆け足だ。
「……
立ち止まって足音の主を待つと、それは開明先輩だった。
「あ、
「なんの練習ですか」
「あ、ごめん。だよね……。つい、いつもの癖で。社交辞令みたいなやつ?」
そうだと思った。
「先輩は?」
「多分、金山くんと同じ理由だよ」
「打ち合わせですよね」
「うん」
一緒に音楽室へ向かう。
「合宿の時はありがとうね」
「合宿……あ、カレーの
二日目の夕食はペットのところで食べたんだけど、開明先輩が福神漬けがダメだって言うから、変わりに食べたんだった……。
「うん。助かったよ」
「福神漬けぐらい、残しても良かったんじゃないですか? そういう人居ましたから」
「でもね。
音楽室に入る。
音楽室には、
「はーい。全員いるか確認するから動かないでね」
時間になったのだろう。
「えっと……あれ? 1人足りない……」
揃っていないらしい。
誰がいないか把握するには、パート毎に点呼を取った方が早い。
「各パートリーダーは、自分のパートが揃ってるか確認を……」
喋っている途中で、やや乱暴に音楽室の扉が開け放たれた。
「
居なかったのは彼女のようだ。
走ってきたのか、息を切らしている。
「た、
ただでさえ急に現れて視線が集中しているのに、そこから衝撃発言が飛び出すものだから、室内は騒然となる。
「先生は?」
「あ、滝先生!」
「お待たせしました。あ。えっと……、すでに噂になっているようですから、先に皆さんにお断りしておきます」
先生は、室内の様子から察したようだ。
壇上に上がり、淡々と話し始めると、室内が静かになる。
横には、
「私の父が脳出血で入院しました」
脳出血……。
場合によっては亡くなることもある。
「容態は安定していますし、すぐに命に関わるようなことはないと聞いています。今は兄が付き添っているのですが、見舞いに行きたいと思います」
それならよかった。
お見舞いか。確か
病院もそっちの方だろうか。
「私も、滝
松本先生も行くらしい。
お世話になった……。そういえば、昔この学校に勤務していたって、聞いたことがある。
「なので、明日は私と松本先生が不在となります。練習は園田先生に代理をお願いしてあります。明後日が本番という大事な時期で申し訳ありません。当日、私と松本先生は直接、会場へ向かいます。部長、統括よろしくお願いします」
「分かりました」
「それでは、今日の練習を始める前に、当日の打ち合わせを行います。部長、どうぞ」
滝先生の合図で、加納先輩が登壇する。
「あれ? そういえば
今年の関西大会は、和歌山市で開催されるため、会場まで車で2時間ほど掛かる。
しかも、北宇治の演奏は前半の部、しかも2番目に行われるため、楽器の積み込みを、前日つまり明日中に済ませることになっている。
学生は夏休み中だけど、普通に平日だから、道路が渋滞する事を考慮し、集合は6時で、6時半に出発予定だ。
「前にも話した通り、今回は会場が遠いので、朝早く出発します。電車やバスでは間に合わない人は、親御さんの送迎などの手配をしてもらってありますが、まだ決まっていない人は居ませんか?」
「大丈夫です」
「送ってもらいます」
数人から返事があった。困っている人は居ないようだ。
「はい。ありがとうございます。それでは、明日の練習が終わったら、楽器の積み込みを行います。楽器運搬係はお願いします」
「了解」
「承知しました」
俺も手伝うことになっている。……あれ?
「部長、積み込みは何時からですか?」
俺はこの後の練習に参加しないから、時間を聞いておかないと手伝えない。
「えっと、18時前には来てくれると助かる」
「了解です」
17時ぐらいに来て待っていれば良いか。
「はい。それでは今日の練習を始めます。滝先生お願いします」
打ち合わせが終わったので、俺と滝野先生は音楽室を出る。
「お疲れ様」
「先生こそお疲れ様です。完全なる便利屋扱いですね」
「まあな。でも、可愛い後輩たちが全国大会へ向けて頑張ってるんだから、出来る限りの協力はするさ」
可愛い後輩か……。本当にそう思ってるんだろうか。
「そういうお前だって便利屋みたいな感じだろ? イベントの時だけ吹部の一員なんだから。合宿の時もそうだっただろう」
「イベントの時だけじゃありません。立派な吹奏楽部の一員です」
「なるほど。でも、程々に頑張れよ。若いからって無理すると、後で大変だからな」
はい。滝先生みたいにならないよう、気を付けます。
お。
橋本さんが走ってきた。
大遅刻ではないか。打ち合わせは終わってしまったよ……。
床に穴が開くんじゃないかってぐらい、ドタバタ走っていくのを、2人で苦笑いしながら見送った。
関西大会前日。
昼過ぎに学校へ向かう。
音楽室の方からは、楽器の音色と、
最後の練習……10回通しだろう。
昇降口で靴を履き替える。
やはり、昨日同様勉強するために登校している生徒は多いようだ。
『職員室』
「失礼します。1-2の
居る先生の数は少ない。
「お、金山くん。元気かな?」
「元気ですよ。先生、だいぶ焼けましたね」
「まあね。宿題は順調かな?」
「順調も何も、終わってますよ。夏休み入る前に」
そう答えても、先生はさして驚かない。
「それでこそ金山くんだよ。次の試験はクラス一位決定かな?」
「期待しないでくださいよ。頑張りますけどね」
「これから部活?」
「はい。それと、吹奏楽部の手伝いです」
「そっか、明日いよいよ関西大会だね。あ、熱中症には気をつけて」
鍵を借りて部室へ向かう。
職員室は冷房が
西尾先生と話している間涼めたけれど、その余韻もあっという間に消え去った。
早く部室に行こう。そして冷房を付けよう……。
「失礼します……」
鍵を開けて部室に入る。
案の定、室内も蒸し暑い。
さて、冷房を……。
「お疲れ様」
「あ、園田先生」
俺が入るのに続いて園田先生もやって来た。
「先生、吹奏楽部は良いんですか?」
「今は休憩中。ところで金山くん。明日はバスで行くのよね?」
「えっ。はい。今日、この後楽器運搬係の手伝いをして、明日はみんなとバスで向かいます」
「私は今日の夜までに出発するから、明日よろしくね」
夜までに?
「そんなに早く出るなんて。何かあるんですか?」
確か、当初の予定では、
「和歌山の学校の先生に、ちょっと相談したいことがあるからって、呼ばれてるのよ」
先生の私用だった
和歌山か。園田先生もなんだかんだ顔が広いんだな。
「ん? ということは、明日の朝は、先生方誰も来ないって事ですか?」
「
滝野先生が? 本当に便利屋扱いされている。
いくら文芸同好会唯一の部員である俺が、吹奏楽部と関わり合いが多いからって、顧問2人を同時に吹奏楽部に引っ張らなくても良いだろう……。
「それじゃあ、この後楽器運搬係のお手伝い、よろしくね」
先生が出て行く。
それだけを言いに来たのか……。
明日が本番ということもあり、今日は防音室の貸し出しがない。
しかし、関西大会が終われば、文化祭・全国大会・定期演奏会・クリスマスコンサート・卒部式・卒業式と、イベントが続く。
明日の結果がどうであれ、吹奏楽部は一年中忙しい。
だから、明後日以降も防音室の予約はいっぱいだ。
かくいう俺も、文芸同好会として活動している体を示すため、面倒だけど文化祭の冊子を作らないといけない。
そろそろ着手しないと間に合わないんだけど、これがまた面倒だ。
部員が実質的に俺一人だから、印刷・製本を全部一人でやらなきゃいけない。
印刷・製本は業者に依頼した方が良いか……。でも、お金がかかるしなぁ……。
あ、もちろん『いっそ作らない』という選択肢は行使できません。
さてと。
そろそろいい頃合いだ。
楽器運搬係の手伝いに行こう。
音楽室へ行くと、少し早かったようで演奏の最中だった。
流石に演奏中の音楽室に入るわけにはいかないので、外で待つ。
開いている窓からグラウンドの方を眺めると、陸上部と思われる人たちが走っているのが見えた。お、西尾先生も走っているのか。
しかし、槍投げ・円盤投げの成績は群を抜いているらしい。
陸上競技には、地区大会・府大会・関西大会の順で大会があり、関西大会に出るのはなかなか難しいらしいが、
「あ。はるか」
グラウンドを眺めている間に練習が終わっていたようだ。
部員たちが音楽室から出てくる。
「お疲れ様です。
「もうすぐ始めるから、中で待ってて」
「分かりました」
音楽室に入ると、冷房が
「あ、金山くん!」
早速、
「お手伝いありがとうございます。明日はパーカッションの搬入順路がいつもと違うので、積み込む順番も違います。指示は出しますから注意してくださいね」
「はい。了解しました」
会場が違うと、そういうこともあるんだ……。
この後、楽器運搬係に混じって楽器の積み込みを手伝った。
いよいよ明日が関西大会本番だ。
明日も朝早いし、家に帰って早く寝よう……。
何もトラブルが起きなければ良いんだけど……。