【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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はるかは、合宿に参加しています。

立ち位置としては、滝野先生のお手伝いといった辺りです。

便利屋ですね……。

合宿のお話は省略させていただきますが、後ほど他者視点で語るかもしれません。



7-4……関西大会前々日・前日

 

貴重な2日のお盆休みと2泊3日の合宿が終わった。

 

いよいよ関西大会が明後日に迫った日。

 

この大事な時に、また大地震が起こった。

 

 

今年の吹奏楽部はどうなっているんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日の打ち合わせがあるので、俺は音楽室に向かっている。

 

夏休みも残すところ一週間、宿題が終わっていない者同士で勉強しているのか、教室に生徒の姿がちらほら。

 

廊下も教室も、窓を全開にしているが、入ってくるのは熱風で、ちっとも涼しくならない。左手に持った団扇(うちわ)がせわしなく動いている。

 

だから、勉強している人は、ペンを持つ右手が止まることはあっても、団扇で扇いでいる左手が止まることがない。なかなかおもしろい光景だ。

 

 

 

音楽室へ向かう階段を登っていると、下から足音が聞こえてきた。駆け足だ。

 

「……開明(かいめい)先輩?」

 

立ち止まって足音の主を待つと、それは開明先輩だった。

 

「あ、金山(かなやま)くん。練習?」

 

「なんの練習ですか」

 

「あ、ごめん。だよね……。つい、いつもの癖で。社交辞令みたいなやつ?」

 

そうだと思った。

 

「先輩は?」

 

「多分、金山くんと同じ理由だよ」

 

「打ち合わせですよね」

 

「うん」

 

一緒に音楽室へ向かう。

 

「合宿の時はありがとうね」

 

「合宿……あ、カレーの福神漬(ふくじんづ)けですか?」

 

二日目の夕食はペットのところで食べたんだけど、開明先輩が福神漬けがダメだって言うから、変わりに食べたんだった……。

 

「うん。助かったよ」

 

「福神漬けぐらい、残しても良かったんじゃないですか? そういう人居ましたから」

 

「でもね。(じゅん)ちゃん先生の作った料理は残せないよ……」

 

滝野(たきの)先生、好かれてますね……。

 

音楽室に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽室には、高坂(こうさか)さん、坂部(さかべ)さんと、ほとんどの部員が集まっている。

 

「はーい。全員いるか確認するから動かないでね」

 

時間になったのだろう。加納(かのう)先輩が壇上(だんじょう)から、人数を数え始める。

 

勿論(もちろん)、動かないで、というのは、移動しないでという意味だから、各々(おのおの)(しゃべ)っていたり、楽譜を眺めていたり、様々。

 

「えっと……あれ? 1人足りない……」

 

揃っていないらしい。

 

誰がいないか把握するには、パート毎に点呼を取った方が早い。

 

「各パートリーダーは、自分のパートが揃ってるか確認を……」

 

喋っている途中で、やや乱暴に音楽室の扉が開け放たれた。

 

南宿(みなみじゅく)さん……」

 

居なかったのは彼女のようだ。

 

走ってきたのか、息を切らしている。

 

「た、(たき)先生のお父さんが倒れたって」

 

ただでさえ急に現れて視線が集中しているのに、そこから衝撃発言が飛び出すものだから、室内は騒然となる。

 

「先生は?」

 

「あ、滝先生!」

 

渦中(かちゅう)の人物となっている滝先生が、他の先生方と共に現れた。

 

 

 

 

 

「お待たせしました。あ。えっと……、すでに噂になっているようですから、先に皆さんにお断りしておきます」

 

先生は、室内の様子から察したようだ。

 

壇上に上がり、淡々と話し始めると、室内が静かになる。

 

横には、松本(まつもと)先生、園田(そのだ)先生、滝野先生が並ぶ。

 

「私の父が脳出血で入院しました」

 

脳出血……。

 

場合によっては亡くなることもある。

 

「容態は安定していますし、すぐに命に関わるようなことはないと聞いています。今は兄が付き添っているのですが、見舞いに行きたいと思います」

 

それならよかった。

 

お見舞いか。確か浜松(はままつ)だっけ。

 

病院もそっちの方だろうか。

 

「私も、滝 (とおる)先生にはお世話になった。だから、私も一緒にお見舞いに行かせてもらう」

 

松本先生も行くらしい。

 

お世話になった……。そういえば、昔この学校に勤務していたって、聞いたことがある。

 

「なので、明日は私と松本先生が不在となります。練習は園田先生に代理をお願いしてあります。明後日が本番という大事な時期で申し訳ありません。当日、私と松本先生は直接、会場へ向かいます。部長、統括よろしくお願いします」

 

「分かりました」

 

「それでは、今日の練習を始める前に、当日の打ち合わせを行います。部長、どうぞ」

 

滝先生の合図で、加納先輩が登壇する。

 

「あれ? そういえば橋本(はしもと)先生は?」

 

 

 

 

 

 

 

今年の関西大会は、和歌山市で開催されるため、会場まで車で2時間ほど掛かる。

 

しかも、北宇治の演奏は前半の部、しかも2番目に行われるため、楽器の積み込みを、前日つまり明日中に済ませることになっている。

 

学生は夏休み中だけど、普通に平日だから、道路が渋滞する事を考慮し、集合は6時で、6時半に出発予定だ。

 

「前にも話した通り、今回は会場が遠いので、朝早く出発します。電車やバスでは間に合わない人は、親御さんの送迎などの手配をしてもらってありますが、まだ決まっていない人は居ませんか?」

 

「大丈夫です」

 

「送ってもらいます」

 

数人から返事があった。困っている人は居ないようだ。

 

「はい。ありがとうございます。それでは、明日の練習が終わったら、楽器の積み込みを行います。楽器運搬係はお願いします」

 

「了解」

 

「承知しました」

 

野間(のま)先輩他、男子部員が返事をする。

 

俺も手伝うことになっている。……あれ?

 

「部長、積み込みは何時からですか?」

 

俺はこの後の練習に参加しないから、時間を聞いておかないと手伝えない。

 

「えっと、18時前には来てくれると助かる」

 

「了解です」

 

17時ぐらいに来て待っていれば良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。それでは今日の練習を始めます。滝先生お願いします」

 

打ち合わせが終わったので、俺と滝野先生は音楽室を出る。

 

「お疲れ様」

 

「先生こそお疲れ様です。完全なる便利屋扱いですね」

 

「まあな。でも、可愛い後輩たちが全国大会へ向けて頑張ってるんだから、出来る限りの協力はするさ」

 

可愛い後輩か……。本当にそう思ってるんだろうか。

 

「そういうお前だって便利屋みたいな感じだろ? イベントの時だけ吹部の一員なんだから。合宿の時もそうだっただろう」

 

「イベントの時だけじゃありません。立派な吹奏楽部の一員です」

 

「なるほど。でも、程々に頑張れよ。若いからって無理すると、後で大変だからな」

 

はい。滝先生みたいにならないよう、気を付けます。

 

 

 

 

お。

 

橋本さんが走ってきた。

 

大遅刻ではないか。打ち合わせは終わってしまったよ……。

 

床に穴が開くんじゃないかってぐらい、ドタバタ走っていくのを、2人で苦笑いしながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関西大会前日。

 

昼過ぎに学校へ向かう。

 

()だるような暑さの中、バテずに頑張っている野球部やサッカー部を横目に、歩いて行く。

 

音楽室の方からは、楽器の音色と、園田(そのだ)先生の声が聞こえてくる。

 

最後の練習……10回通しだろう。

 

昇降口で靴を履き替える。

 

やはり、昨日同様勉強するために登校している生徒は多いようだ。

 

『職員室』

 

「失礼します。1-2の金山(かなやま)です。図書館閉架書庫室の鍵を借りに来ました」

 

居る先生の数は少ない。

 

「お、金山くん。元気かな?」

 

西尾(にしお)先生に声掛けられる。

 

「元気ですよ。先生、だいぶ焼けましたね」

 

「まあね。宿題は順調かな?」

 

「順調も何も、終わってますよ。夏休み入る前に」

 

そう答えても、先生はさして驚かない。

 

「それでこそ金山くんだよ。次の試験はクラス一位決定かな?」

 

「期待しないでくださいよ。頑張りますけどね」

 

「これから部活?」

 

「はい。それと、吹奏楽部の手伝いです」

 

「そっか、明日いよいよ関西大会だね。あ、熱中症には気をつけて」

 

鍵を借りて部室へ向かう。

 

職員室は冷房が()いていて良かったが、廊下は風が抜けないから蒸し暑い。

 

西尾先生と話している間涼めたけれど、その余韻もあっという間に消え去った。

 

早く部室に行こう。そして冷房を付けよう……。

 

 

 

 

「失礼します……」

 

鍵を開けて部室に入る。

 

案の定、室内も蒸し暑い。

 

さて、冷房を……。

 

「お疲れ様」

 

「あ、園田先生」

 

俺が入るのに続いて園田先生もやって来た。

 

「先生、吹奏楽部は良いんですか?」

 

「今は休憩中。ところで金山くん。明日はバスで行くのよね?」

 

「えっ。はい。今日、この後楽器運搬係の手伝いをして、明日はみんなとバスで向かいます」

 

「私は今日の夜までに出発するから、明日よろしくね」

 

夜までに?

 

「そんなに早く出るなんて。何かあるんですか?」

 

確か、当初の予定では、(たき)先生と松本(まつもと)先生もバスに乗ることになっていたから、先生は前日入りというわけではなさそう……。

 

「和歌山の学校の先生に、ちょっと相談したいことがあるからって、呼ばれてるのよ」

 

先生の私用だった

 

和歌山か。園田先生もなんだかんだ顔が広いんだな。

 

 

 

「ん? ということは、明日の朝は、先生方誰も来ないって事ですか?」

 

滝野(たきの)先生が一緒に行く予定だから、大丈夫よ」

 

滝野先生が? 本当に便利屋扱いされている。

 

いくら文芸同好会唯一の部員である俺が、吹奏楽部と関わり合いが多いからって、顧問2人を同時に吹奏楽部に引っ張らなくても良いだろう……。

 

「それじゃあ、この後楽器運搬係のお手伝い、よろしくね」

 

先生が出て行く。

 

それだけを言いに来たのか……。

 

 

 

 

 

 

明日が本番ということもあり、今日は防音室の貸し出しがない。

 

しかし、関西大会が終われば、文化祭・全国大会・定期演奏会・クリスマスコンサート・卒部式・卒業式と、イベントが続く。

 

明日の結果がどうであれ、吹奏楽部は一年中忙しい。

 

だから、明後日以降も防音室の予約はいっぱいだ。

 

かくいう俺も、文芸同好会として活動している体を示すため、面倒だけど文化祭の冊子を作らないといけない。

そろそろ着手しないと間に合わないんだけど、これがまた面倒だ。

 

部員が実質的に俺一人だから、印刷・製本を全部一人でやらなきゃいけない。

 

印刷・製本は業者に依頼した方が良いか……。でも、お金がかかるしなぁ……。

 

あ、もちろん『いっそ作らない』という選択肢は行使できません。

 

 

 

 

 

 

さてと。

 

そろそろいい頃合いだ。

 

楽器運搬係の手伝いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽室へ行くと、少し早かったようで演奏の最中だった。

 

流石に演奏中の音楽室に入るわけにはいかないので、外で待つ。

 

開いている窓からグラウンドの方を眺めると、陸上部と思われる人たちが走っているのが見えた。お、西尾先生も走っているのか。

 

(たくみ)の姿も見える。

 

(たくみ)は走るのは遅いし、持久力も高くない。

 

しかし、槍投げ・円盤投げの成績は群を抜いているらしい。

 

陸上競技には、地区大会・府大会・関西大会の順で大会があり、関西大会に出るのはなかなか難しいらしいが、(たくみ)は関西大会に出場して、好成績を納めたようだ。

 

 

 

 

 

「あ。はるか」

 

グラウンドを眺めている間に練習が終わっていたようだ。

 

部員たちが音楽室から出てくる。

 

「お疲れ様です。堀田(ほりた)先輩」

 

「もうすぐ始めるから、中で待ってて」

 

「分かりました」

 

音楽室に入ると、冷房が()いているはずなのに、物凄く蒸し暑い。

 

「あ、金山くん!」

 

早速、野間(のま)先輩が気付き、俺の元へ歩いてきた。

 

「お手伝いありがとうございます。明日はパーカッションの搬入順路がいつもと違うので、積み込む順番も違います。指示は出しますから注意してくださいね」

 

「はい。了解しました」

 

会場が違うと、そういうこともあるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、楽器運搬係に混じって楽器の積み込みを手伝った。

 

いよいよ明日が関西大会本番だ。

 

明日も朝早いし、家に帰って早く寝よう……。

 

 

 

 

何もトラブルが起きなければ良いんだけど……。

 

 

 

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