【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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〈2024年4月30日追記〉

TwitterがXに変わってしまったので、(今さらですが)直します……。



7-5……こんな所で躓く訳にはいかない

 

8月24日火曜日。

 

いよいよ関西大会の日が来た。

 

身支度を整え、家を出る。

 

時刻は5時半過ぎ。まだ校門は開いていない。

 

しかし、既に何人か集まっている。

 

「おはようございます」

 

「あ、金山(かなやま)くん。おはよう」

 

「おはよう。早いね~」

 

「皆さんも早いですよ。まだ鍵開いて無いじゃないですか」

 

鍵は滝野(たきの)先生が開けることになっているらしい。

 

「お。噂をすれば」

 

滝野先生の車が坂を上ってくる。

 

「お前ら早すぎ……」

 

滝野先生が車から降りてきた。

 

しかし、運転しているのは先生ではなかった。

 

「ありがとう。帰りは電話するから」

 

窓越しに運転手にそう告げると、車はそのまま走り去った。

 

運転していたの、なかなか美人だったな……。

 

「先生、今の人誰ですか?」

 

「彼女さん?」

 

たちまち先生が部員たちに囲まれてしまった。

 

「妹だよ。一応言っとくと、みんなの先輩だな」

 

ああ。あの人が かの妹さん か。

 

結局、写真を見に行けてない。先に実物を見ることになるとは……。

 

「熱中症には気を付けろよ。早いのは構わんが」

 

そう。コンクールメンバーは、正装として冬服を着ている。

 

俺みたいな手伝いや、チームほたか は演奏に参加しないので夏服だけど。

 

「流石に暑いね」

 

「寒かったら怖いわ」

 

先生が門の鍵を開けると、大名行列の(ごと)く、部員たちが続く。

 

追い越したところで、校舎の鍵が開いていないからだ。

 

「いよいよ関西だね」

 

「緊張する……」

 

「頑張ろう」

 

「絶対全国行こう!」

 

そんな声が聞こえてくる。

 

いよいよ関西大会だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合時間5分前。

 

まだ、来ていない人がいるようだ。

 

今日は、遅刻魔の橋本(はしもと)先生が既に来ているんだけど。

 

橋本先生より遅いって、どういう事だ?

 

「クシュン……。誰か噂でも……?」

 

え。橋本先生くしゃみした。俺のせいなの?

 

おや。ラインが来た。

 

誰だ……園田(そのだ)先生?

 

えっと。……何これ?

 

どういうことだろう……?

 

メッセージの内容を見て、首を(かし)げる。

 

何で園田先生が……。

 

と思った次の瞬間。

 

 

 

「た、(たき)先生と松本(まつもと)先生が事故に巻き込まれたって!」

 

開明(かいめい)先輩が走ってくる。

 

今の言葉に、高坂(こうさか)さんの方を振り向くと、明らかに血の気が引いていくのが見えた。

 

「お、大袈裟に言ってるだけだって……」

 

多屋(たや)先輩が、後を追いかけるように走ってきた。

 

息を切らしていて、次の言葉が続かない。

 

手にはスマホ。電話でもあったのだろうか?

 

「……高速道路が事故で通行止めになって、巻き込まれて動けなくなってるだけだって。ほら、これ見て」

 

多屋先輩が差し出すスマホの画面を見る。

 

これはXか。動画が流れている。

 

誰かが撮影したその動画からは、高速道路の本線? に多数の車が身動きが出来ない状態で停車していて、その先のトンネルから大量の黒煙が噴出している様子が分かる。

 

その動画の撮影者の前に、見覚えのある車と、その脇に立つ、よく知っている人物の後ろ姿が写っている。

 

「これ、滝先生と松本先生だよね?」

 

「あ、本当だ」

 

「滝先生じゃん」

 

「えっ? これどの辺?」

 

「投稿時間は?」

 

多屋先輩のスマホだけではなく、各々Xをやっている部員たちが自身のスマホを操作し始めている。

 

「橋の上だよね」

 

「見覚えある?」

 

「地理弱いんだよ、私」

 

「あっ! 滝野先生居るじゃんか」

 

そうだ。社会科教師が居るじゃないか。

 

その声を聞いた先生が、近くの部員のスマホを覗き込む。

 

「あ、これ近江大鳥(おうみおおどり)橋だ。新名神(しんめいしん)大津ジャンクション手前。このトンネルは、金勝山(こんぜやま)トンネルだな」

 

一目瞭然(いちもくりょうぜん)ですか。流石社会科教師。

 

大津なら割と近い。そこまで来ていたのか……。

 

って、そんなことを考えている場合ではない。

 

「あった。高速道路情報。新名神甲南(こうなん)インター、大津ジャンクション間、火災通行止め。復旧まで相当時分かかる見込み、だって」

 

相当時分って……。

 

これでは演奏に間に合わない……。

 

「でも、そうしたら私たちどうなるの?」

 

「指揮者いないんじゃ、演奏できないよ……」

 

ここにいる高坂さん、坂部(さかべ)さん、橋本さんは三人とも学校の先生ではない。

 

滝野先生もいるが、社会科教師に指揮をやれなんて無茶振りにもほどがある。第一、その指揮で演奏したことがない。

 

辺りに漂う空気が重くなった。

 

統括の加納(かのう)先輩でさえ、不安げな表情で、どうしたらいいか分からず立ち尽くしている。

 

俺に何か出来ることは……。

 

『今から大会本部に行ってきます』

 

さっき、園田先生から届いたラインのメッセージが浮かぶ。

 

……そうか! そういうことなんだ!

 

あ、またラインが来た。

 

どれどれ……。よし!

 

「加納先輩、ちょっと良いですか?」

 

「どうしたの?」

 

「耳貸してください」

 

そっと、安心してもらえるような口調で(ささや)く。

 

「園田先生が大会本部に掛け合い、指揮者交代の許可を取ったって、連絡ありました」

 

「マジで!」

 

不安げな表情が一気に明るくなった。

 

「でも何で園田先生が大会本部に?」

 

あ、もう和歌山に居ることを知らないな。

 

「どうやら、和歌山の学校の先生のところに、昨日中に行っていたみたいです。もう会場に着いている感じです」

 

『指揮者交代許可取った。私がやる。会場で待ってるから、みんなは気を付けて来て』

 

メッセージにはこう書いてあった。

 

先輩が周りの部員たちの方を向く。

 

「みんな! 今日の指揮は園田先生が行うって!」

 

呼び掛けると、重かった空気が一気に吹き飛んでいった。

 

「本当に!」

 

「これで演奏出来るね」

 

「でも、園田先生の指揮で練習したの、数回だけだよね。実質ぶっつけ本番になるか……」

 

しかし、ネガティブな声も聞こえてくる。

 

「大丈夫! 私たちが目指してるのは全国だよ。こんな所で(つまづ)く訳にはいかないの」

 

去年のこともあるのだろう。

 

「滝先生や、府大会で頑張ってくれた松本先生のためにも」

 

「行こう! 全国へ」

 

 

 

 

 

 

「はい。じゃあ、バスに乗るぞ。忘れ物無いように」

 

十八番である唱和のあと、滝野先生の指示でバスへ乗る。

 

今日は俺もバスに乗るが、一応統括側なので、みんなが乗るのを、堀田先輩 加納先輩と一緒に待つ。

 

「いやあ。金山くんマジファインプレーだよ。今回も助けられちゃったね」

 

待っていたら橋本先生に声掛けられる。

 

いつも通りハイテンションだ。疲れないのかな?

 

「これで、橋本先生が遅刻さえしなければ、俺も助かります」

 

「なかなか手厳しいこと言うね……。いや、でま今日は遅刻してないよ!」

 

「さ、橋本先生たちは別動でしょう? 遅れないようにしてくださいね」

 

橋本さん、高坂さん、坂部さんは3人で車でついてくることになっている。

 

「全員乗りましたね」

 

「うん。私たちも乗るよ」

 

「それでは、また後で」

 

バスは2台あるので、それぞれバスに乗り込む。

 

俺と滝野先生が1号車、堀田先輩と加納先輩は2号車だ。

 

全員乗り終えたので、2号車を先頭に、バスが発車する。

 

 

 

 

和歌山までおよそ2時間。

 

これ以上何も起きなければ良いが……。

 

 

 

 

 

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