【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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7-9……演奏聞かなくて良いんですか?

 

表彰式が終わり、先生方の講評が終わると、午後の部の結果が出るまで自由行動となった。

 

遠くなければ外出も許可されている。

 

「和歌山城でも行ってみようか?」

 

「そうだね。近くだよね」

 

ここの近くにある和歌山城を見学に行こうとする部員もいれば、

 

「次、立華(りっか)だよね」

 

「その次は明静工科(みょうじょうこうか)だっけ?」

 

「急がないと席埋まっちゃうよ!」

 

他校の演奏を聞きに行こうとする部員もいる。

 

 

俺は、って?

 

さっきの喫茶店にまた行こうと思っている。

 

「金山くーん!」

 

誰かが俺のことを呼んでいる。この声は……。

 

「アカネ先輩?」

 

振り返ると、『(ダブル)水野』の水野 アカネ先輩と、佳介(けいすけ)先輩がいた。

 

何処(どこ)か行くの?」

 

「外に良い喫茶店を見付たので、そこに行こうかなって」

 

「喫茶店か。俺たちも一緒に行っていいかな?」

 

俺たち? 2人共来るのか。

 

「構いませんけれど。えっと、演奏聞かなくて良いんですか?」

 

外出する人もいるが、ほとんどの人が演奏を聞きに行こうとしている。

 

「もうね、耳にタコができるぐらいに他校の演奏聞いてきたし」

 

立華(りっか)明静工科(みょうじょうこうか)も府大会の演奏CDで何回も聞いてるからね。今日のもCD買って聞くから、息抜きさせてよ」

 

CD……。そういえば、大会の演奏をその場で収録・編集してCD販売しているんだっけ。

 

後で何回でも聞けるのなら大丈夫だろう。か?

 

まあ、俺が気にしても仕方ないか。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきも使った喫茶店に入る。

 

「いらっしゃいませ……」

 

コンセントが使えるのはカウンター席だが、3人なのでテーブル席を選ぶ。

 

「ホットコーヒー三つお願いします」

 

入る前に決めていたので、やって来た店員に注文を告げる。

 

「いい雰囲気のお店だね」

 

「だね」

 

昔ながらの喫茶店、という作りだけど、Wi-Fiやコンセントが使える。だからか、老若男女問わず利用されている感じだ。

 

スーツ姿の人も居て、俺たちは制服だけど特に目立たない。

 

では、改めて……。

 

「えっと。お二人ともお疲れ様でした」

 

「「ありがとう」」

 

お。二人の声が重なった。

 

「演奏素晴らしかったです」

 

「「最高の演奏だったよね?」」

 

「はい。感動しました」

 

この二人って……。

 

「えっと……。お二人ってどういう関係ですか……?」

 

今の会話、兄妹または姉弟と言われても納得しそうな程に、息がぴったりだった。

 

しかし、加納先輩から今年の吹奏楽部に、兄妹で在籍している人はいないって聞いている。

 

「えっ?」

 

「あら?」

 

俺の問いに、二人は顔を見合わせた。

 

「言ってなかったかな?」

 

アカネ先輩、そんな可愛い顔して言われても……。記憶にございません。

 

「聞いてないと思います……」

 

「えっと。血縁や戸籍上の話をしたら、赤の他人だね」

 

他人って……。

 

「学校は違ったけど、小学校の頃からの付き合いだね」

 

「そう。音楽教室で知り合ったのよ」

 

「それでね……あ。あの子……」

 

話の途中、佳介先輩が何かに気づいたようで、声を上げた。

 

視線の先を見ると、それは窓の外。文化会館の前の人混み。

 

「マキノ商業だ……」

 

そこには生徒たちが集まっている。

 

マキノ商業といえば、時間超過で失格になった学校だ。

 

「俺は伝え聞いただけなんですが、お二人は演奏、見てたんですか?」

 

「見てたよ。椅子の足で躓いてた」

 

「佳介くん、楽器が倒れた時に、痛いって声上げてたね」

 

えっ?

 

「あ、アカネさん。それ言うの……」

 

佳介先輩は、恥ずかしそうに頬を掻いている。

 

自分も痛い筈なのに、自分よりも楽器のことを真っ先に心配する。吹奏楽部あるあるらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

届いたコーヒーから上がる湯気が、俺と先輩方の間に漂う。

 

「あちっ!」

 

佳介先輩は猫舌らしく、届いたばかりの熱いコーヒーは苦手のようだ。

 

「……」

 

対し、アカネ先輩は普通に飲んでいる。

 

再びマキノ商業の方を見ると、泣きながら何度も頭を下げる人と、その人の頭を撫でている人の姿が目に入った。

 

「もしかしたら、あの二人が僕たちだったかもしれない」

 

「あり得ない話じゃないからね……」

 

二人とも、窓の外を見ている。

 

「同情は出来ない。でも」

 

「目を背けてはいけない」

 

「あの子たちの分も、私たちは全国に行って、頑張るのよね」

 

「もちろん」

 

格好良い……。

 

恐らく、二人とも今までの大会で同じ様な経験をしてきたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて。お二人の関係は……?」

 

少し重たくなってしまった空気を元に戻したいのと、結局聞けていない話を聞くために、再びこの話を振る。

 

「付き合ってるよ」

 

「恋人同士って奴ね」

 

やっぱりそうだったか……。

 

「部内で付き合ってる人って多いよ」

 

「こっそり付き合ってる子もいるからね」

 

「トロンボーンの野間(のま)先輩と長浦(ながうら)先輩とか?」

 

あの二人か。似合ってるな。

 

町風(まちか)ちゃんも誰かと付き合ってるって噂よ」

 

「えっ? 住吉(すみよし)さんが?」

 

住吉 町風(すみよし まちか)か。そういえば、昼休みとか放課後の部活前に、一緒に居ることが多い男子が居るな。

 

確か、植大 優斗(うえだい ゆうと)。硬式野球部だ。

 

恐らく、この二人はそのことを知らないのだろう。

 

 

 

さて、コーヒーが冷めないうちにいただいてしまおう……。

 

 

 

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