【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
表彰式が終わり、先生方の講評が終わると、午後の部の結果が出るまで自由行動となった。
遠くなければ外出も許可されている。
「和歌山城でも行ってみようか?」
「そうだね。近くだよね」
ここの近くにある和歌山城を見学に行こうとする部員もいれば、
「次、
「その次は
「急がないと席埋まっちゃうよ!」
他校の演奏を聞きに行こうとする部員もいる。
俺は、って?
さっきの喫茶店にまた行こうと思っている。
「金山くーん!」
誰かが俺のことを呼んでいる。この声は……。
「アカネ先輩?」
振り返ると、『
「
「外に良い喫茶店を見付たので、そこに行こうかなって」
「喫茶店か。俺たちも一緒に行っていいかな?」
俺たち? 2人共来るのか。
「構いませんけれど。えっと、演奏聞かなくて良いんですか?」
外出する人もいるが、ほとんどの人が演奏を聞きに行こうとしている。
「もうね、耳にタコができるぐらいに他校の演奏聞いてきたし」
「
CD……。そういえば、大会の演奏をその場で収録・編集してCD販売しているんだっけ。
後で何回でも聞けるのなら大丈夫だろう。か?
まあ、俺が気にしても仕方ないか。
「じゃあ、行きましょう」
さっきも使った喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ……」
コンセントが使えるのはカウンター席だが、3人なのでテーブル席を選ぶ。
「ホットコーヒー三つお願いします」
入る前に決めていたので、やって来た店員に注文を告げる。
「いい雰囲気のお店だね」
「だね」
昔ながらの喫茶店、という作りだけど、Wi-Fiやコンセントが使える。だからか、老若男女問わず利用されている感じだ。
スーツ姿の人も居て、俺たちは制服だけど特に目立たない。
では、改めて……。
「えっと。お二人ともお疲れ様でした」
「「ありがとう」」
お。二人の声が重なった。
「演奏素晴らしかったです」
「「最高の演奏だったよね?」」
「はい。感動しました」
この二人って……。
「えっと……。お二人ってどういう関係ですか……?」
今の会話、兄妹または姉弟と言われても納得しそうな程に、息がぴったりだった。
しかし、加納先輩から今年の吹奏楽部に、兄妹で在籍している人はいないって聞いている。
「えっ?」
「あら?」
俺の問いに、二人は顔を見合わせた。
「言ってなかったかな?」
アカネ先輩、そんな可愛い顔して言われても……。記憶にございません。
「聞いてないと思います……」
「えっと。血縁や戸籍上の話をしたら、赤の他人だね」
他人って……。
「学校は違ったけど、小学校の頃からの付き合いだね」
「そう。音楽教室で知り合ったのよ」
「それでね……あ。あの子……」
話の途中、佳介先輩が何かに気づいたようで、声を上げた。
視線の先を見ると、それは窓の外。文化会館の前の人混み。
「マキノ商業だ……」
そこには生徒たちが集まっている。
マキノ商業といえば、時間超過で失格になった学校だ。
「俺は伝え聞いただけなんですが、お二人は演奏、見てたんですか?」
「見てたよ。椅子の足で躓いてた」
「佳介くん、楽器が倒れた時に、痛いって声上げてたね」
えっ?
「あ、アカネさん。それ言うの……」
佳介先輩は、恥ずかしそうに頬を掻いている。
自分も痛い筈なのに、自分よりも楽器のことを真っ先に心配する。吹奏楽部あるあるらしい……。
届いたコーヒーから上がる湯気が、俺と先輩方の間に漂う。
「あちっ!」
佳介先輩は猫舌らしく、届いたばかりの熱いコーヒーは苦手のようだ。
「……」
対し、アカネ先輩は普通に飲んでいる。
再びマキノ商業の方を見ると、泣きながら何度も頭を下げる人と、その人の頭を撫でている人の姿が目に入った。
「もしかしたら、あの二人が僕たちだったかもしれない」
「あり得ない話じゃないからね……」
二人とも、窓の外を見ている。
「同情は出来ない。でも」
「目を背けてはいけない」
「あの子たちの分も、私たちは全国に行って、頑張るのよね」
「もちろん」
格好良い……。
恐らく、二人とも今までの大会で同じ様な経験をしてきたのだろう。
「改めて。お二人の関係は……?」
少し重たくなってしまった空気を元に戻したいのと、結局聞けていない話を聞くために、再びこの話を振る。
「付き合ってるよ」
「恋人同士って奴ね」
やっぱりそうだったか……。
「部内で付き合ってる人って多いよ」
「こっそり付き合ってる子もいるからね」
「トロンボーンの
あの二人か。似合ってるな。
「
「えっ?
確か、
恐らく、この二人はそのことを知らないのだろう。
さて、コーヒーが冷めないうちにいただいてしまおう……。