【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
8-1……職員室への呼び出し
関西大会があってから、
もちろん、吹奏楽部は翌日から大会前と同じように毎日練習している。
『一日休めば、三日差ができる』と言われることもある程だから、過酷なものだ……。
夏休みが終わり、今日から新学期が始まる。
始業式では、事前に聞いていたとおり、復帰する
専門は音楽だけど、担当するのは、産休中代わりに来ていた先生と同じ数学らしい。
そういえば、その先生の挨拶が終業式にあったんだけど、もう名前を忘れてしまった……。
それだけこの夏休みが、長く濃いものだったと言える。
因みに、正しくは『
また、吹奏楽部が関西代表として全国大会への出場が決まったことの発表もあった。
壇上での
会場の演奏で観客や審査員を魅了するだけでなく、言葉で生徒まで魅了してしまうのか……。
新学期。俺を待ちかまえていたのは、ちょっとした事件だった。
始業式が終わり、教室に戻ってきた。
「はーい。始業式お疲れ様でした。早速だけど、夏休みの宿題回収します。後ろから、前に送ってね。あ。因みに、終わっていない人は、終わっていないまま提出しないようにね」
終わっていないのか、数人が提出していない感じ。
先生の言うとおりにしているのか……。というか、何故終わっていない? 吹奏楽部員ならまだしも。
「はい、ありがとう。提出しなかった人も、早いうちに提出するように。良い?」
「はい……」
「分かりました……」
数人が返事をした。
「それじゃあ、2限目から通常授業だからね。えっと、数学だね……あ」
何か思い出したようだ。
「今日から、
思い出した。終業式で挨拶があったの、北新川先生だった。
「ちーちゃん先生。
誰かが先生に問い掛けた。
何方って。始業式で挨拶あっただろう。……あれ、
「ごめん。塚本先生だね。他の先生方がみんな旧姓で
「ちーちゃん先生も、塚本先生のこと、
「まあね。癖が抜けないって言うか……。って、こらそこ、ちーちゃん先生言うな!」
1限目のHRが終わる。
「塚本先生って、吹奏楽部が全国大会で金賞取ったときの副部長らしいね」
休み時間は、やはり
しかし、なんか違う。
「えっ? 部長って聞いたけど」
同じく。
「副部長は、塚本 秀一って人だぞ。どう見ても男の名前じゃないか」
「旧姓が
「じゃあ、副部長は旦那さんか?」
旦那さんだな……。
会ったことがあるから知っている。
別にそのことについて優越感に浸るわけではないけれど、他の人が知らないことを知っているのは、なんか不思議な感じだな。
「部長と副部長ってことは、部活での交流で結ばれたのかな?」
「いいなぁ。サッカー部じゃあ女子部員いないし、部内恋愛とか夢だわ。羨ましい……」
えっと、幼なじみって聞いた記憶あるんだけど……。
まあいいか。俺の出る幕ではないし。
しかし、部内恋愛か。
文芸同好会の場合、部員が実質俺一人だから部内恋愛とか関係ないんだよな。
「それじゃあ授業始めるよ」
時間になり、
「起立。気を付け。礼」
日直が号令を掛ける。
「「「お願いします」」」
「着席」
挨拶が終わると、先生が黒板に名前を書く。
「はい。始業式でもお話しましたが、今日からこのクラスの数学を担当することになりました、
先生自らが名前を間違えてるじゃないか。
「えっと。何か質問のある人は?」
「どこのクラスの担任ですか?」
早速、誰か質問した。
因みに、北新川先生は1-1の担任だった。
「クラス担任は持ってないよ。1年生の副担任だね。他に質問は?」
「それじゃあ、みんなに自己紹介してもらおうか」
そう聞いて何人かが身構える(様に見えた)。
席替えが行われているので、出席番号順には並んでいない。
誰がトップバッターになるか分からないのだ。
「それじゃあ、……
左前から順になった。
「はい。清水
「はい、ありがとう。次、
先頭の清水くんの自己紹介が終わると、次の人が指名された。
「柳津
柳津さんバスケ部なのか。同じクラスだけど、今まで知らなかった……。
「はい。ありがとう。次は金山くん」
俺の番だ。
「金山 はるかです。文芸同好会の部長です。よろしくお願いします」
自己紹介しなくても、知ってるだろうけど……。
この期に及んで知らないと言われたら、むしろ悲しい。
「はい、ありがとう。あ、金山くん昼休みに職員室の私の所に来てね」
突然何てことを言い出すんだよ!
俺と先生の関係を知っている人は、この教室にはいない。
普通に捉えれば『職員室への呼び出し』じゃないか……。
教室がざわめく。
「静かに! 次の人……」
自己紹介が続く。
しかし、教室はまだ騒がしい。どうするんだよ、先生……。
「はい。清水
あ、一人居るじゃないか。
俺と先生の関係を知っているクラスメイトが。
授業が終わった。
「何したの?」
怪訝そうな声。
「何も悪いことはしてないよ。まあ、呼び出された理由は、なんとなく見当がついてる」
「なにそれ? というか、金山くんいつの間に
まずい。今のにクラスの何人かが反応した。
下手なことを言ったら囲まれてしまいそうだ……。
「この間の花火大会で一緒になったんだよ。どうやら、実家が加納先輩と同じマンションらしい」
「じゃあ、天ヶ瀬ダムの方なんだ」
「行き過ぎ。平等院の近くだってさ」
詳しい場所までは知らないけど。
「じゃあ、金山くん花火大会、加納先輩と一緒に行ったの?」
「さ、誘われたから……。そもそも、
塚本さんの運転で、
「でも、私は先に降りたからその先のことまでは知らない」
「あの後の話か? 塚本さんが道を間違えたから、ちょっと遠回りになったけど、家まで送ってもらっただけだよ」
「塚本さんって方向音痴なのかな?」
「じゃないか?
「そうなの。……あ、授業始まるから戻るね」
チャイムが鳴り、
助かった……。
三限、四限と授業が終わり、昼休みになった。
さて、早いとこ職員室に行ってしまおう……。
一人廊下に出て、階段を降りてゆく。
げ!
『職員室』
「失礼します。1-2の金山です。
昼休みの職員室なので、ほとんどの先生がいる。
俺の声を聞いて、何人か顔を上げる。
「金山くん?」
「金山か?」
「おや、金山くん……」
「あ、金山くんだ」
「金山くん……」
先生方、反応しすぎです……。
隣は西尾先生、
「
「はい。これあげる」
早速紙袋を渡された。
えっと……。
2015年と2017年の全国大会のCDに、『金山駅』のキーホルダー?
「なんですか、これ?」
渡された物に驚き、思わず呟く。
「あ、それ私の……」
これに
先生を見ると、慌てて顔を下ろした。
なんで反応したんだろう?
「これ、みどりちゃんから、金山くんに渡して欲しいって預かってきた物だよ?」
……金山駅のキーホルダーは別として、CDは先輩方の為だろう。花火大会の時に、それらしい話をしていたのを覚えている。
「えっと、全国出場決まったら、過去の大会の演奏を聞かせて欲しいって、
その通り。
えっ? なぜ直接
それをこの人に言ったら、『
「ありがとうございます。先輩に渡しておきますね」
「お願いね」
「俺を呼び出したのは、このためでしょうか?」
「そうだよ。金山くんから何かある?」
「俺からは何も。それでは失礼します」
さて、用が済んだから戻ろう……。
「あ、金山くん!」
背を向けたところで背中に声が掛かる。
西尾先生だ。
「何でしょう?」
振り向くと、先生が机上にある冊子を叩いている。
「これ、持ってってくれる?」
なんか重そうだな……。
「放課後に配るから、教室に置いておいてくれるかな?」
「はい。分かりました」
野暮用を頼まれてしまった……。
冊子の上に紙袋を乗せ、それを抱えて職員室を出る。
「あ、
職員室の外に
俺の後を付けてきたようだが、流石に室内に入って来なかったか……。
「金山くん。それ何?」
抱えている冊子のことだろう。
「西尾先生に頼まれた。教室に持ってけって」
「半分持とうか?」
「頼む」
「塚本先生は何の用だったの?」
早速聞かれた。
「
花火大会のこと、川島さんのこと、
掻い摘まんで説明する。
「なるほど。塚本先生が、その川島さんって人から借りてきたのね」
「そういうこと。放課後の防音室利用の時に渡す予定だよ」
今日は二番目の予約に
「そう……」
いつもお読みいただきありがとうございます。
この先、掲載頻度を落とさせていただきます。
ストックが尽きてしまったので、少なくとも今月中は、週一回の更新とさせていただきます。
よろしくお願いいたします。