【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~   作:小林司

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お待たせいたしております。

今回も少し長いお話です。




8-2……顧問の先生が変わっても、根本的な部分は何も変わらず

 

放課後。部室へ向かう。

 

この時間、既に部活が始まっている部の掛け声などで、校内は騒がしくなる……のが、夏休み前までの話。

 

今はその頃と比較すると、幾分静かになった。

 

ほとんどの部で、三年生が引退しているからだろう。

 

まあ、幸い(?)なことに、我が部には三年生は在籍していないので、今までと変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『図書館閉架書庫室』

 

扉に手を掛ける……あれ?

 

鍵が掛かっている。

 

いつもなら園田(そのだ)先生が来ていて、鍵が開いているはず。

 

先生は帰ったのだろうか?

 

色々考えたところで、鍵がなければ部屋に入れないので、引き返して職員室へ向かう。

 

 

 

 

『職員室』

 

「失礼します。図書館閉架書庫室の鍵を借りに来ました」

 

部活が始まっているからか、知っている先生はいない。

勿論、園田先生や滝野(たきの)先生も不在だ。

 

女子生徒が一人、先生と何か話しながら書類のやりとりをしているくらい。

 

だから室内は静か。

 

鍵を借りる。

 

「失礼しました」

 

職員室を出て、再び部室へ。

 

 

 

 

 

 

 

鍵を差して回す。

 

あれ? 手応えがない。開いている。

 

園田先生と入れ違ってしまったか。前にもあったな……。

 

「失礼します……」

 

声を掛けながら、ゆっくり扉を開く。

 

「あ、金山(かなやま)来たな」

 

「金山くん?」

 

しかし、園田先生は居なかった。

 

「えっと……。どういう事でしょうか?」

 

なんと、室内に居たのは園田先生ではなく、黄前(おうまえ)先生と滝野先生だった。

 

「どういう事って言われてもね……先輩」

 

「俺に振るな。そのままを言えば良いだろう。あ、今先輩言ったな」

 

「あ、失礼しました。……別に気にすること無いのに」

 

「何か言ったか?」

 

「……!」

 

黄前(おうまえ)先生が慌てて口を押さえる。

 

そうだ。この二人は吹奏楽部の先輩後輩だっけ。

 

『金山相談所』発足の時には、名前しか知らないような話しで上手くかわされたが、蓋を開けてみれば同僚だった。あのときは見事に騙された……。

 

 

 

 

 

「えっとね。関西大会で金賞受賞して、全国大会出場が決まったよね?」

 

「はい」

 

黄前(おうまえ)先生の話には、『吹奏楽部』という言葉が出てこなかった。しかし、言われなくても分かる。

 

つまり、俺たちの中ではそれ程までに、このことは共通認識になっているらしい……。

 

「その指揮が園田先生だったの。知ってる?」

 

「もちろん知ってますよ。だって、あの時会場に居ましたから」

 

先生方に、今日の功労者と言われて赤面してしまったし、素晴らしい演奏を聞かせてもらった。

 

忘れられるわけがない。

 

「知ってたの。……言う必要なかったのか」

 

黄前(おうまえ)、声出てるぞ」

 

「……! えっと、それで、府大会前に(たき)先生が過労で倒れたこともあって、吹奏楽部顧問の負担軽減のため、副顧問を増やすことになったの」

 

なるほど。それで、関西の実績が評価され、園田先生を引っ張っていったと。

 

「園田先生が吹奏楽部の副顧問になったんですね。まあ、去年まで顧問だったわけですし」

 

「うん。私も元副顧問なんだけどね……」

 

「そりゃあ、2年連続府大会銀賞と、全国大会出場経験者じゃあ、どっちを選ぶかは分かってるだろ」

 

「滝野先輩、それ言わなくても良いでしょう!」

 

あ、黄前(おうまえ)先生怒った。

 

しかも、先輩呼び。

 

「そう怒るなよ。普通に考えて、経験年数が違うだろう」

 

「それもそうですね……」

 

経験年数か。

 

確か、園田先生は西尾(にしお)先生が中学の頃にお世話になったって言ってたから、軽く10年は教員やってるわけだ。

 

対し、黄前先生は10年前の全国大会金賞メンバーだから、産休も計算すると、教員としての経験は数年程度か。

 

比較するまでもない。決まっているな……。

 

 

 

 

 

 

 

「ということは、我が文芸同好会の新しい顧問の先生が、黄前(おうまえ)先生なんですね」

 

「うん。私が顧問で、滝野先輩が副顧問。改めまして、文芸同好会の顧問になりました、黄前(おうまえ) 久美子です。よろしくね」

 

塚本(つかもと)、じゃなくて? まあいいか。ここで突っ込むのも不躾だろう。

 

「文芸同好会部長兼、吹奏楽部副々部長の金山 はるかです。よろしくお願いします」

 

互いに自己紹介を終え、滝野先生の方を見る。

 

「流れ的に俺か。えっと、文芸同好会副顧問の、滝野 純一(じゅんいち)です。改めて、よろしく」

 

 

 

 

 

 

顧問の先生が変わっても、根本的な部分は何も変わらず、部活の時間が流れて行く。

 

園田先生が黄前(おうまえ)先生に変わっただけ。

 

室内には、俺が叩くキーボードの音だけが響く。

 

先生方は机で読書をしている。

 

滝野先生は、この間読んでいたラノベの続刊。黄前(おうまえ)先生は、数学の参考書だ。

 

「そういえば、滝野先生知ってますか?」

 

「何を?」

 

「件の騒音クレーマー。遅い時間に音出しができなくなった」

 

「ああ。すぐの町内会だっけか」

 

「その言い出しっぺの住人が、引っ越したらしいんですね」

 

「そうなのか」

 

滝野先生も引っ越しの話は知らないか。

 

「えっと、その話初耳ですが……」

 

おいおい。黄前(おうまえ)先生は話自体初めてかよ。

 

「えっと、とりあえず話進めますよ。それで、吹奏楽部の全国大会出場決定という明るいニュースもあるし、そもそもそのクレーマー以外は、学校から聞こえてくる音について何とも思ってないらしくて、協定を破棄しにくるらしいですよ」

 

滝野先生は、いつの間にか本を閉じていた。

 

「それ、本当か?」

 

「はい。もちろん……」

 

「教頭の耳には入れといた方がいいな……。ちょっと行ってくる」

 

言うが早い。滝野先生は部室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと。それ、どういう話?」

 

あ、黄前(おうまえ)先生知らないんだった。

 

()い摘まんで説明すると、吹奏楽部の音や野球部の声がうるさいからって、早朝と夕方以降の音出し・声出しが禁止されてるんです」

 

「そんな事が……。それじゃあ練習時間もかなり限られてたよね?」

 

「はい。なので、この部屋にある防音室を、交代で使って練習してました」

 

「この部屋防音室があるの!」

 

「あるんです、カーテンの向こう側に。先生知らないんですか?」

 

驚いているし……。

 

「そもそもこの部屋に入ったこと無かったから」

 

そうなのか。まあ、特に用事がなければこんな所まで来ないか。

 

 

 

あ……。

 

仮に、協定が破棄された場合、防音室の貸し出しは終わるのだろうか。

 

入退室確認や予約管理など、余計な仕事が減るから楽になるけど、4ヶ月続いていたことが無くなるのは淋しい気もするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉がノックされ、開く。

 

「失礼します」

 

「防音室借りに来ました」

 

トロンボーンの野間(のま)先輩と白沢(しらさわ)先輩だ。

 

楽器片手にやって来たわけだから、黄前(おうまえ)先生が驚いている。

 

「先生、これがさっきお話しした『防音室の貸し出し』です」

 

「なるほど……」

 

「あ。始業式で挨拶があった先生だ」

 

先輩方が黄前(おうまえ)先生に気付く。

 

「名前は、えっと……」

 

黄前(おうまえ) 久美子です」

 

先生が答えると、同時に先輩方の頭に?が浮かぶ。

 

「白沢先輩、塚本先生です。黄前(おうまえ)は旧姓」

 

「ということは、……俺たちの大先輩じゃないですか! 全国金賞の」

 

やっぱり。そういう部分で有名なんだ。

 

「ご高名はかねがね……」

 

「えっと、白沢くんだっけ? 堅いよ。もっと楽にして良いからね」

 

「いや、でも黄前(おうまえ)大先輩ですよ? 楽にしろって方が難しいですって」

 

野間先輩まで……。

 

「先輩方、時間。どんどん減っていきますよ」

 

制限時間は20分。

 

「あ、そうだ急がないと。先生、また後で」

 

慌てて防音室に入って行く。

 

さて、防音室対応が終われば20分間は執筆に集中できる……。

 

 

 

 

と思ったら大間違いでした。

 

「今のは?」

 

黄前(おうまえ)先生からの質問責めが始まる。

 

「トロンボーン……なのは見れば分かりますよね」

 

「うん」

 

期待通りの即答。

 

まあ、楽器持ってたし。

 

「3年生の野間先輩と、2年生の白沢先輩です。野間先輩はパートリーダーですね」

 

「トロンボーンはあの二人だけ?」

 

「そんなわけないでしょう。他にも居ますよ」

 

確か、全員で7人いる。

 

今の先輩2人に加え、3年生もう1人と、1年生が4人。

 

「防音室が狭いから、一度に使える人数が限られるんです。後で実物見てきたら如何(いかが)ですか?」

 

「そんなに大きくないの?」

 

「そうですね……。車椅子対応の公衆電話ボックスって言えば分かり易いでしょうか」

 

「あー。だいたい分かった」

 

なら良かった。

 

 

 

 

 

執筆作業に集中する。

 

さて、文化祭用の冊子の物語も書き上げなければ。

 

製本のことは、この際後回しだ。とにかく完結しなければ話が進まない……。

 

 

 

 

 

 

ノックと共に扉が開く。

 

「失礼します。防音室借ります」

 

「失礼します」

 

ユーフォニアム玉野(たまの)先輩と堀田(ほりた)先輩が入ってきた。

 

もうそんな時間か。

 

「はるかお疲れ様。あ、黄前(おうまえ)先生だ。お久しぶりです!」

 

早速、堀田(ほりた)先輩が黄前(おうまえ)先生に気付く。

 

堀田(ほりた)さん! 元気だった?」

 

「元気です! ……先生はどうしてこの部屋に?」

 

「文芸同好会の顧問になったの。園田先生が吹奏楽部に移った代わりに」

 

「なるほど……」

 

堀田(ほりた)先輩、川島さんから預かったCD渡しますから、帰り際に声掛けてください」

 

今渡しても、これから練習だから荷物になるだけ。

 

だったら帰り際に渡した方が賢明だろう。

 

「川島さんからのCD? あ、あれはるかが持ってるの?」

 

「はい。昼休みに黄前(おうまえ)先生から預かりました」

 

先輩にCDを掲げて見せる。

 

「そうなの。先生、直接渡してくれても良かったんですよ?」

 

それ聞きますか……。

 

返ってくる答えはたぶん。

 

「だって、堀田(ほりた)さんのクラス授業持ってないし、放送で職員室に呼び出すのも、変な誤解を与えそうで怖かったから」

 

ほら、予想通りだ。

 

誤解、ねぇ……。

 

堀田(ほりた)先輩の顔を見る。あ、露骨(ろこつ)に目を逸らしたよ。

 

全く……。

 

まあ、だからこそ校内放送での呼び出しを避けた方が良いのは知っている。

 

 





ルビが煩くて申し訳ありません。

ルビを振っておかないと、『黄前先生』と『堀田先輩』を、もれなく読み間違えます……。

対策が、『ルビを振っておく』ことぐらいしか無いらしいので、本作で読み上げ機能を使用される方がいらっしゃるか不明ですが、使用される方のために振っております。

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