【本編完結】君へ捧げる物語~北宇治高校文芸同好会へようこそ~ 作:小林司
「お疲れ様でした」
「ありがとう。あ、
「お疲れ様。気を付けて帰ってね」
さて、また20分間集中できる。
今度は
「ユーフォニアムって何人居るの?」
世の中、そう上手くいかないものだ……。
「えっと、ユーフォは3人です。もう1人、2年生の
俺の立ち位置は何処だ?
質問ばかり受けていたら、執筆が進まないじゃないか。
勘弁してくれ……。
えっと、次の防音室は……あ。良かった。
ちょっとラインを送っておこう。
ノックされ、扉が開く。
「失礼します。
「よっ! 金山くん元気か?」
ファゴット
「はい。頼まれた奴ね」
アカネ先輩が、紙が入ったクリアファイルを差し出してきた。
「ありがとうございます」
どれどれ……。
「これです。助かります、先輩」
「良いのよ。あ、そのクリアファイルあげるから、出さなくて良いよ」
俺が紙を取り出してファイルだけ返そうとしたら、止められた。
「もらった物だからね」
どれどれ。『いじめ相談ダイヤル。一人で悩まないで相談してね』か。中学校とかで全員に配布された物だろう。
「タダでもらったクリアファイルは長持ちするのに、お金出して買ったクリアファイルはあっという間にボロボロになっちゃうんだよね……」
「
「アカネさんも?」
本当に仲良いな。この二人。
まあ、俺も同じような経験はある。
だから、普段使うクリアファイルは、基本百均。
さて、置いてけぼりにしてしまった先生には……。
「はい先生。これどうぞ」
アカネ先輩からもらった紙を渡す。
「あ、ありがとう。何これ?」
「吹奏楽部の部員名簿です。いちいち聞かれる度に答えていたら、俺の執筆が進みませんからね。アカネ先輩にお願いして出力してもらいました」
そう。ラインで先輩にお願いしたのは、部員名簿を持ってきてもらうこと。
もちろん、パートと、学年・名前があるだけの簡易的なやつだ。
先生は早速名簿を眺める。
「えっと、この二人は、ファゴットの水野さん……。2人とも水野さんなんだ……」
そう。水野 アカネ先輩と、水野 佳介先輩だ。
この2人の関係は、関西大会の時に教えてもらった。
「あれ、
アカネ先輩が、
「待って、
佳介先輩は、正体まで知っているらしい。
というか、この人も『全国金賞の時の
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
「お疲れ様です、
「では行ってきます!」
代わりにW水野先輩が入って行く。
佳介先輩はテンション高いな……。
玉野先輩は部室を出て行くが、
「先輩、これがCDです。15年と17年の」
預かったCDを差し出す。
「ありがとう。早速聞いてみるね。それじゃあ、また明日」
CDを受け取ると、
さて。
先輩にCDを渡したし、先生には名簿を渡したから、これで質問責めを受ける心配はないだろう……。
今度こそ、執筆に集中しよう。
残された時間は決して多くないのだから。
扉がノックされ、ゆっくり開く。
「失礼します。防音室借ります」
「お疲れ様です……」
「お疲れ」
トランペットの
「あ、
加納先輩は早速
この2人は、同じマンションということもあり、前から知り合いだったらしい。
「うん。
「はい。お願いします」
このやりとりを見た1年生2人が首を傾げ、顔を見合わせている。
「送っていくって、どういうこと?」
「さて? 俺に聞かれても」
そして、俺の方を見た。
俺に説明しろと? はぁ……。
「同じマンションだってさ」
「なるほど」
「知り合いなんだ」
分かってもらえたようだ。
「文芸同好会はどんな感じですか?」
「まだ1日目だよ。まだ部員の名前さえ覚えてないし」
「4人だけだから、すぐ覚えれますって」
あ、今5人に増えて……。
「先輩、5人です。
なんと、このことを梓が指摘した。
知ってるんだ……。
「1年生は、私
おお。頭に幽霊が付くとはいえ、文芸同好会の部員らしく、全員把握していらっしゃる。
「流石梓ちゃん。……懐かしいな。まだ金山くんたちが入学した頃だったね。トランペットの演奏に聞き惚れてる金山くんを見つけて声掛けたの」
ああ。入学翌日の朝だっけ。
「その後、お昼を一緒に食べたんだよね」
俺を
「その時、梓ちゃんの楽器経験が10年以上で、腕も確かだって知って、梓ちゃんが入部してくれれば全国間違いなしだって確信したんだっけ」
そういえば、俺と
「本当に全国に行けるなんて。やっぱり小牧さんは凄いんだね」
町方が感動している。
「私より上手い人がこの学校に居る?」
「居るわけないじゃん」
梓の挑発的な問いに、即答する町方。
「そんなに凄いの?」
「
加納先輩は得意気。
あ、そうだ文化祭……。
「お疲れ様です」
「お、部長。お先です!」
W水野先輩が出てきた。
「お疲れ様。って、佳介くんリード咥えたままじゃん。しかも喋ってたし……」
あ、確かにリード咥えたままだ。
「あー、癖です。もう音楽室戻っても音出せませんよね。いつものパート練習の部屋に移動するときの癖で……」
「アカネちゃんも、ストラップ付けたまま帰らないようにね。また注目されちゃうよ」
「気を付けます。ありがとうございます」
幾つか言葉を交わして、加納先輩が防音室へ入っていく。梓と町方も続いた。
「塚本先生って、やっぱり
佳介先輩テンション高い。
どの様に伝わっているか分からないけれど、
「そうだよ。全国大会で金賞受賞したときに、部長やってました」
「やっぱり。ご
前にも同じことを言った人がいたな……。
「塚本先生が、あの
ア、アカネ先輩?
先輩までもが『大先輩』だなんて……。
「なんで塚本先生が吹奏楽部の顧問にならなかったんですか?」
「ならなかった、じゃなくて、なれなかったと言うべきだね。その理由は私も知りたい……」
「
あ! そういえば、ここ一応『金山相談所』だ。
しかもその看板は『
でも、仮に
「まさか。金山くんがいるから大丈夫だよ」
駄目か。
「私が口を出す立場ではないからね」
まあ、確かに『生徒同士の相談』という意味での相談所だから、教師が出しゃばるのは良くないのだろう。
「もちろん。自分達だけじゃあ解決出来ない悩み事や問題があったら、何時でも言ってね。ちゃんと相談に乗るから」
頼もしい。流石大先輩だ。
って、俺までアカネ先輩のが移っちゃったじゃん……。
「そういえば、俺たちのクラスに編入生が来ましたよ」
「編入生?」
「家の都合で名古屋……の辺りから引っ越してきたって聞きました」
「岐阜って言ってなかった?
佳介先輩の言ったことに、アカネ先輩が異を唱える。
「そんな名前だっけ……。何処って言ってたかな……」
考え込んでいる。
「思い出した。『名古屋の近く、岐阜県……
「「そんな町、無いから!」」
すかさず、
「お疲れ様でした」
あのあと、結局編入生の出所は分からぬまま、W水野先輩は帰った。
執筆に集中していたら、町方が先頭で防音室から出てきた。
「お疲れ様」
「ありがとうございました」
続いて加納先輩と梓も出てくる。
あっという間の20分だったな……。
「お待たせしました」
加納先輩が寄ってきて、
「それじゃあ、加納さんと一緒に帰るね。……金山くんは残るの?」
なんとなく、
「じゃあ、俺も今日は帰ります」
パソコンを閉じ、一緒に部室を出た。
『職員室』
「失礼します」
あれ? 誰も居ない……。
「どうしたの? 立ち尽くして」
「金山くん?」
俺に続いて
「いや、誰も居ないので……」
「そりゃあ、こんな時間だし? 今日の鍵当番、私だからね」
「えっ? 先生が?」
復帰早々鍵当番か。大変だな……。というか、やり方知ってるのか?
「あ、今知ってるのか? って思ったでしょ?」
「バレました?」
「確かに復帰初日だけど、夏休み中に何回か出てきて、教頭から聞いているから、1人でも大丈夫。じゃあ、見回り行ってくるからね」
「お願いしますね」
「いってらっしゃい!」
「金山くん」
不意に、加納先輩が声掛けてきた。
「何でしょう?」
「実力テストって明日だっけ?」
テスト? 確か……。
「俺たち1年生は明後日です。3年生も同じなんですかね?」
俺に聞かれても分からないんだけど。あ。
そうだ、ここは職員室。
壁に行事予定表があるじゃないか。
「えっと……3年生も明後日ですね。そう書いてありますよ」
「そうだっけ。忘れてたよ」
「大丈夫ですか? 先輩、受験生でしょう」
全国大会を控えている吹奏楽部の部長であるのと同時に、受験生でもある。
「お待たせ。終わったから帰ろうか」
昇降口は施錠されているので、靴を取りに行ったら、職員用の玄関から出る。
普段、生徒の出入り・通行が禁止されている所だ。
そこを堂々と通れるのは、この時間だからこそ。
とはいえ、それで優越感に浸れるかと言えば、そうではない。
こんな時間まで残っていることが、本来ならば異常なんだよね。
まあ、それで怒られたことはないから、大丈夫なんだろう……。
「乗って。加納さんは助手席に、金山くんは後ろね」
「お願いします」
「それじゃあ失礼します」
車に乗るような距離じゃないんだけど、校門の施錠もするため、校門は一緒に出てもらいたいらしい。
「それでは失礼します」
「じゃあね」
「また明日」
先生が施錠する為に車を止めたところで、俺も車を降りる。
車を見送り、玄関をくぐる。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん。遅かったね」
「ゆうき……。今日はバスタオル巻いてるのな」
「私は学習してますよぉ」
いや、それが当たり前なんだ。ドヤ顔やめぃ!